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北斗関連暫定置場。 ※※801・R18表現 注意※※

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ラオウ&エバ:SS:楽園

「レイ外伝 蒼黒の餓狼」準拠……?

ちょこっと読んでの妄想掌編。

ラオウ と エバ で。

全年齢向け。



続き



楽園


たなびく香煙と幾重にも掛け渡したる天幕の奥、桃源郷の女主人は独り座して待っていた。来客を告げる鉦が鳴れば、ぱつと立ち上がり、紗を掻き分けて歩み出す。赤々と敷いた絨毯を白い足が一度踏む度、焚きしめた麝香が羽を得ては舞い上がる。

「遠路遙々、お越しに感謝いたします」
天女もかくや枝に着く小鳥もかくやの身ごなしで、膝をついて嫣に笑む女主人を前に、正午、ひとり宮城を訪なった客……覇王を名乗る雲衝の大男は眼光鋭くまず女の顔、そして裸に等しい身体をひととおり見て、また顔へと眼を戻した。
白銀に輝く軽羅一枚のみ纏い、極上の乳房の形を惜しげもなく見せながら女主人は、男の視線をたずねて声をかけた。
「何を御覧になりますか」
「女を。そして世の無常を」
「まあ、お手厳しいこと」
ころころと転がす美声は高くもなく低くもなく澄んで玻璃のごと硬質、あからさまに交える媚びさえ円らかに、嫌味のひとつもない。




男は女のすすめる籐の椅子を断り、巨躯を展べた紗綾の上に座らせ腕を組んだ。窓明りを看て、蔓文を透かした飾り格子の前、並べた楽器の一つに目を止める。それはこの末世になおさら珍しい、西国からもたらされた馬頭の琴であった。

「琴を弾くか」
「ほんの手遊びではございますが」
「ではそれを馳走になろう」

瑪瑙香炉の蓋を閉じ、女主人は立って窓についた房飾りを引いた。待ちかねたように春風が吹き込み、夜を思わす艶なる香香を吹き払う。天井から部屋の真中に長い紐で設えた鞦韆がふらふら音もなく揺れた。
その磨き抜かれた紫檀の座に、女主人は琴を抱いて腰をかける。橄欖樹に寄る馬一頭を象眼したとねりこの平らな腹が、碧の眸が送り髪肌を縷々と下る素光を白々と弾く。


拙い手つきで奏き出すとともに、真珠を砕いて塗った唇から、こちらは流麗、鍛えた喉が呪文のごとく玄なる調べを紡ぎ出す。ぎらと照る太陽に連なる砂の丘、果ては瓶中に醇れゆく葡萄酒を思わす、異国の歌。


「人前で弾くは初めてにございました」
「何事にも初めはあろうな」
女が弓を下げると、眠るように瞑目していた男は上げも下げもせず答え、続いて、生まれてこの方ずっとそうであったかのような強面で問うた。
「そなた、そうして国がため春をひさいで哀しくはないか」
「妾はなにも売り買いはしておりませぬ」
女は伏せた千の睫毛の影に隠れ、微笑みながら続ける。
「この身もこの心もとうに捨てまして、
 拾うも愛でるも、すべて、みな様次第にございます」
「そうか。……拾うには捨てるが早道という喩えには覚えもあるが」
「さいごに残りし魂は、二千の妹のいのちと替えました」
「なるほど」
男はひとり頷き、羽織った長い赤布の裾を捌いて立ち上がった。
「男でなく、女にとってこその楽園か」
言い置いて部屋を出る。
女主人も裸足のまま、履き物をさがしもせずに後に従う。




真昼にはれて目が馴染むや、溌々の声が耳に届いた。
回廊に囲まれた中央、
伸びやかに茂った無花果の
葉葉の落とす影も涼しい下に、
空と水の陶片を交互に並べ固めた泉があり、
真四角の中に半分、清水を湛えている。
水の辺には大男を乗せるために生まれた如くの大馬が、
金で織った腹帯に、これも金で塗った鞍を乗せ、
四足に嵌めた歴戦の鉄の底で柔草を踏みしめ立っていた。
その前に羚羊の脚した女になりきらぬ齢の女が、
背伸びして、鼻先に何かちらちらかざし戯れている。


男は見るなり、結んだ唇の両端をわずか針の先ほど弛めてたずねた。
「あれにもあてごうたか」
「あの娘は馬や驢が好きで、好きで……勝手を」
銅古美色につや良く色づいた腕に差し出すは、中空を覆う五裂の葉。馬は鬣を振って拒んでいたのだが、こちらに気づくと救いを求めて男に向いた。
男はただ、重々しく一度、頷き、すると馬はそれを合図に堅い葉を舌ですくいとり、噛まず一息で呑み込んだ。
少女は歓声をあげ太首に飛びつき撫でまわす。

「まあ、いけない。あれ、食べては毒」
女主人が転び出そうになるのを制して男は笑った。
入城以来はじめての笑みであった。
「気にするな。並の馬ではない」
「けれど、長路を越えて戻らるるに、障りのあっては」
「あの娘は一度たりと俺達の星は見ぬ。砕きもせぬだろう」
「されど、星もさだめも巡るもの。
いつどんな因果であなたさまを困らすとも、しれませぬよ」
男の慢心に、控えめとはいえなぜか釘刺す女を、また笑う。
「星は、さだめではない、掴み取るものだ」

女は男の瞳に燃える大火を側目に観ながら尋ねた。
「では妾も妾の星を」
「掴むがよかろう。とはいえ、いささかでも俺の邪魔立て、叛意見えれば容赦せぬ。覇道は男のものゆえに。よく覚えておけ」
男は女の瞳に落ちゆく夕星を観ながら言い切った。





「石のような女であった」
居城に戻って第一声、男は腹心とその妹を前に重く告げた。そしてそれきり、色街アスガルズル侵攻の評議は、沙汰已みとなった。
《石は万の脚で踏みつけようが、泣き言ひとつ云わぬもの》
拳王の、己のことばを後に釈した辯である。



終

作品名
ラオウ&エバ:SS:楽園
登録日時
2009/07/10 (Fri) 00:00
分類
文::安全
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