ソウガ×ラオウの掌編です。
・ただのエロです。
・緩やかに「邂逅」の続きのような、違うような
・甘過ぎ注意
室に満ちる勇壮な弦楽、それさえ打ち消す酒気を帯びた無粋な声。北方への遠征から戻り、軍勢の意気は上がるばかりだ。
だが軍師ソウガには気掛かりがあった。このところずっとラオウの表情が冴えないのだ。
今もこうした席を嫌うレイナのほうが、まだましという仏頂面で、余人に目もくれず杯を嘗めている。
結局ソウガの見る限り、酒以外を口にすることもなく、ラオウは席を立った。
夜更、ソウガは拳王府最上階にある主の居室を訪れた。
態度を改めるよう具申するためだ。けして王自ら浮かれ騒げというつもりはない。だが凱旋の宴だ。せめて労いの一言くらいあっていい。
お世辞にも精鋭ばかりと言えず、品性に欠ける将もいて、正直ソウガ自身も頭を痛めている。だが軍略の盤上には置くだけの駒も要るのだ。そう説くたびラオウは黙って頷く、だがやはり割り切れぬのか……と思うと、気が重かった。
しかし、部屋はもぬけの空だった。そしてテラスまで探しに出たソウガはそこから、遠く広がる荒野の極に疾駆する人馬を見送るはめになったのだ。
ソウガは馬を引き、城を出た。幸い月の円に近い夜で、蹄跡を難無く辿ることができた。大地を苛むそれは、枯れた森の奥へまっすぐ続いている。
しばらく進むと、自然の造形にしては妙に整った円形の空間に、ラオウがこちらに背を向け立っていた。涸れた池か沼の跡なのだろう。深い擦り鉢型が、古代の闘技場を彷彿とさせるその底に、殷々と骨に響くほどの静寂が満ちている。
咳きひとつも憚られ、ソウガはじっと様子を窺った。
観客なく、喚声なく、見下ろすはただ、月影のみ。
立ち尽くす背に照らし明されるはただ、鬼の孤独。
と、突然、長身の向こうからぬっと黒い影が立ち上がり、あわや己の腹に呑みこもうとした。
それをラオウは半回転してかわすと、勢いに乗せ、流れるような突きを放った。相手……肩透かしを食った黒王号も、地に前脚を叩きつけて器用に態勢を戻すや、後脚二本で廻し蹴りを浴びせる。
二つの巨大な影はそうした一連の動作を、演舞のように、戯れるように、互いに攻守を替えて繰り返した。
だが何度目か、黒王の高いいななき声とともに、兵士など泥人形の如く粉砕する蹄が風を切って、主人の纏う紅布を捕らえ、鋭く切り裂いた。
しかしそれこそ眩惑の一手か……続く致命の一撃の先にラオウの姿はすでになく。身を沈め間合いを詰めて、鼻面に拳を叩き込もうと迫る。避けるどころか噛み付こうと、歯を剥いた愛馬が迫る……
と、ラオウは声をあげて笑い出した。
「黒王が一枚上手のようだ」
ソウガは手を打ち、わざと靴音を高く聞かせながら近づいた。
ふたつの影は同時にこちらを向くと臨戦態勢を解いた。余人から見れば命のやり取りに見える手合わせが、彼らにとってはほんの戯れなのだ。
ラオウはほとんど息も乱さず、まるで今まで黙って月でも眺めていたかのようだ。黒王の方は、もう少しで勝利を逃したといわんばかり、不満げに首を上げ下げしている。
「組手の相手までお前とは、驚いたぞ」
無鉄砲のきらいのある男に振り回される同士の情で、手を伸ばし、黒王の横首を撫でる。
「兵は増えたが、俺を恐れぬものは、こやつしかおらん。笑う暇があれば、まともな相手を連れて来い」
腕組みをして口を開いたラオウの言葉には含みがあった。連れて来ぬならば、自分から求めて出る、といったところか。聞いてソウガは、ラオウの気塞ぎの理由を理解した。正確にはそれが、自分の懸念を越える大きさに膨らんでいたことを。
「まあ待て。今回の戦は予定より長くかかった。兵を休ませるのも采配の内。俺の領分だ」
「そうだな」
返事は穏やかなものだったが、発した後、彼の表情は一枚皮でも被ったように乏しくなった。
ラオウは軍師としてのソウガに絶大な信頼を寄せている。師についたわけではなく、書物や話で聞いた中からの献策だが、自分の意見を尊重し、指示を違えることはなかった。だが近頃は、侵攻ルートから南を除外する度に、猛禽のごとく眼をぎらつかせ、長く黙り込むようになった。
ラオウは一息置いてから、ここぞとばかりに咆えた。
「温い戦には心底倦んだ。お前もそうではないのか」
「お前の言う相手とは、サウザーだろう?……だめだ」
聖帝はもはや避けえない障害だ。ラオウが早く雌雄を決し、覇道を確たるものにしたい気も、理解はできる。しかし将星の暴虐と人心の背離が日々耳に届いてくる今、時間はいくらでも引き延ばしたいのが本音だ。
「時期尚早と、はじめに言ったのはお前だろう。それから何か変化はあるのか? 勝算は?」
畳み掛けるとラオウは口元をへの字に曲げ、黙った。
「わかりやすいな、お前は」
ソウガは苦笑を浮かべ、漆黒のたてがみを撫でつけながら続けた。
「聖帝軍と当たれば、おそらくお前とサウザー、一対一の勝負になるだろう」
「この俺に、敗北はない」
「俺だってお前が敗れるなどとは、露ほども思ってはいない。だがな……無傷で済む保証もない」
ソウガは頭一つ以上高くにある顔を、食い入るように見つめた。
何がこの男を駆り立てるのか。
確かに、目下の覇業は故郷平定への足掛かりに過ぎない。とはいえ、再会から僅か半年で拠点を、その後の半年でかたはしから数十の城市を手中にした。もはや拳王の、恐怖の名を知らぬ者はない。まず順調といえるはずだ。
だがラオウは満足を知らない。凱旋したその夜には次の戦の議を興す。傍に立つだけでラオウの抱く焦躁は皮膚を灸る幻として、痛みとして伝わる。
一体、何を急ぐのか。
死病の身でもあるまいに。
ソウガは不吉な雲を払うために、努めて強い声を出した。
「たとえば今、この城も軍もすべてなくしたとしても、お前とレイナ、三人あれば、一からやり直したところで時はかかるまい。だがな。全ては。お前がいてこそだ」
噛んで含むように告げながら、ソウガは己の心の変化を知った。故郷を発つ日には、この地に平安を取り戻すためなら命も惜しまぬ、そう堅く心を固めていた。しかし今、目的はより具体性を増し、そして色合いも変えた。ラオウと共にある外の未来を、ソウガはもはや望まなかった。言葉はそのまま請願であり、祈りだった。
「駄目……いや、頼む。待つんだ。サウザーの身辺は常に探らせている」
ラオウはソウガの顔を見ていた。白に近く月光に透かされる瞳の湛える光は金剛石の鋭さながら、やがて重々しく頷いた。
「気は済んだのだろう。帰るぞ、ラオウ」
「いや。まだだ……どうにも体が言うことを聞かぬ、鎮まらぬのだ、」
顔を背け、歯切れ悪く明かされ、ソウガは無意識に一歩後ずさった。衣擦れの音に顔を上げると表情を強張らせ、ラオウは続ける。
「だから、……あの時のように……」
ソウガは途切れがちな低い声の出所を見つめた。
薄い唇の、見た目にそぐわぬ柔らかさを知っている。思い返して体内に俄かに、己の心音が響きはじめる。風もなく静まりかえった外気に、そしてラオウにまで届くのではないかと、危惧するほどに。
「手を貸せ」
血流の鳴る煩さに、最後に命じられた声はほとんど消されていたが、それでもソウガは読み取って、うなづいた。
左手を取り甲を軽く叩く。燃え盛る火ほどの体温に心を決める。
己の甘さは大概だが、例外があっても罰はあたらぬだろう。この男は、他の誰にも甘やかされることなどないのだから。
外套を外し干からびた地面に敷く。下草すらなく堅い褥だがやむを得まい。ラオウに仰向けになるよう促すと、体を重ね腕で頭を固定し口を吸った。
頬や顎先に触れては離れる口づけを繰り返すと、ラオウははじめ、こそばゆいと不満を零したが、やがて自ら獣の仔のように合わせてきた。噛みつき合う口づけを、無心に与え、返す。
だが口先だけの刺激にはすぐ飽きる。ソウガは相手の名を呼んで両手で頬を固定すると、濡れた唇をこじ開け舌を入れた。隅々を舐めていくとラオウは忙しくなった息を鼻から聞かせ、こちらの背に手を回し引き寄せる。切羽詰まった仕草には日頃感じさせない人らしさがほの見えた。あれだけの立ち回りで汗ひとつかかぬ男が、と思うと可笑しく、ソウガはラオウの咥内をさらに深く貪った。
たかがそれだけの事で、互いの下腹に熱が篭った。長く戦陣にあったせいだろうが、それだけでもない。
「……いいな」
上着の留め具に指をかけ尋ねると、ラオウは頷き、自分の指で外した。奥から現れた逞しい胸、それを見ること自体は珍しくない。だが自分のためだけにという意識が芽生えてしまうと、ソウガの魂は震えた。
見渡す限りの地平上におそらく一人とて、見る者はない。しかし、疎らな枯木だけしか遮るものはない。
ラオウはそんなソウガの気後れをよそに上着から袖を抜いて傍らに置く。さらに躊躇なく下衣に取り掛かり、一糸纏わぬ姿になった。
十六夜ほどの月に照らされて浮かび上がる裸身は、人の手を超えた芸術、一つの奇跡としか思われない。崇高な存在を汚すような罪悪感と闘いながらも魅入っていると、ラオウは呟いた。
「すまぬ」
「何がだ?」
すぐに触れなかったことを勘違いしたようだ。
「無理強いするつもりはない」
「ずいぶん謙虚なんだな……」
起き上がろうとする動きを制し一度身体を離す。ラオウの足元まで退がると脚を開かせ、肩にかけるように持ち上げた。
無防備すぎるこの姿勢はさすがに拒まれるかと思ったが、ラオウはじっと動かない。誘った手前、覚悟を決めたのだろう。
すぐ目の下にある髪と同じ淡色の茂みから、雄が立ちあがって呼吸に合わせ揺れる。充血し濡れた頂きは、ふっくらしたなにかの果実を思わせた。
目を奪われていると、ラオウは薄く目を開け、
「……あまり」
見るな。と語尾は小さく消えた。
どうやらこの手の交わりははじめてのようだ、そうソウガは見てとりラオウの中心に半円を描いた唇を寄せた。
「な!……よせ!ソウガ……ッ」
ラオウは咄嗟に起き上がろうと手をついたが、その前に性器の先を口腔におさめてしまうと、ぴくりとも動かなくなった。本能的なおそれだろうか、こちらの歯に触れぬよう力むあまり内股や腹が細かく震えて見える。
少し落ち着かせようと、両手で太股を撫でて、
「大丈夫だ、噛んだりしない」
「……っ、……く、ぅ」
くわえたものを一度口から外し全体を舐ると、ラオウは出かかった返事を喉に詰まらせた。快を求めるように腹をのけ反らせ、逆に脚は閉じようとソウガの肩を締め付ける。顔を見遣ると先の声を恥じてか、両手で口元を覆っていた。指の上で見開いた目から恨めしげな視線がこちらを射る。
「すまん、嫌か?」
「……いや。悪くは、ない、続けろ」
ラオウは大きく肩で息をつき、喉から掠れた答えを搾り出した。
強過ぎたか。逸る心を抑え、ゆっくり舌を這わす。それでも堪えきれぬとばかり、ラオウの身体はソウガの下で乱れた。感じることをごまかしたいのか、下半身を動かさぬよう力を篭めれば篭めるほど、肩の震えと胸の上下が忙しくなる。
袋を指で愛撫しながら先端に唇を押し当て、溢れる体液を吸いとるとついに、ラオウは膝を跳ね上げて絶頂を迎えた。
口腔に充満する苦みと塩気に目眩がする。
「ソウガ……もう……」
離せ。
そう声をかけられてもソウガは口を開けず首を振った。体液を掌に取り出し、叢に埋もれた蘂の奧に塗り指で探る。と、ラオウは突き放すまではしないが、身じろいで、わずかに腹のあたりを強ばらせた。
相手は男だ。放ったことで満ち足りたのかと思い尋ねる。
「ここで止めるか? かまわんぞ」
「いや、まだだ……」
手の平では足りぬとばかり、腕を上げて視線を遮っているため表情はわからない。自分から誘った手前、拒みにくいのかとも考えた。が、ラオウの後孔はすでに熱く潤い、侵犯を待ばかりにソウガの指を咥えている。さらに愛撫を始めてからは性器も新たに角度を得て、頂きに先走りの露を光らせていた。
指で律動を真似ると、隠しそこねている口が開き、甘い息を吐いた。腕ごと左右に揺らすと、呻く声も揺れた。
「……う……、ア、」
「な……ラオウ。少し、顔を見せてくれ」
「……」
腕の障壁がゆっくりと解かれ、上気した目元が現れる。
「お前も、見せろ」
ラオウは苦しげな呼吸の合間に伝えると、手を伸ばしてソウガの顎先に触れた。堅い指先で骨格を辿るように、髭を撫で、耳元、それから唇へ。その間中、食い入るように見つめてくる視線がこそばゆく、
「そんなだから、お前は無粋だと、いうんだ」
ソウガは上体を伸ばし、開いた薄い唇に唇を重ねた。
舌を絡ませると、上に残っていたラオウの匂いが甦り、ふたたび嗅覚を刺激する。開いたままの目が、何か言いたげに細められた意味は、おそらく同じだっただろう。
慣れない様子で奧へ隠れたがる舌を、前に導き出しては吸い、根本を先で擽る。少し続けると、ラオウは急に自ら動き出し、ソウガの舌を求めて舐ったかと思うと、混じり合った二人分の唾液を飲み下す。青臭い匂いはすぐに溶け去った。
どれほどの時、そうしていただろうか。
「ソウガ。すまぬ……」
離れると下に敷かせた体を居心地悪げに身じろがせ、ラオウはまた殊勝な声を出した。
「さっきから、どうしたんだ?」
「このようなものを、口に……。許せ」
「そんな事で気にしたのか。お前」
「…………」
「ラオウ、お前、いいかげんにしてくれ」
お前の何を。俺が拒むものか。
怒鳴りつけたい気持をなんとか堪え、ソウガは前を開くと、扱くまでもなく天を向いている分身を取り出した。ラオウの窪みへ当てると一息に貫く。
白濁のぬめりと温もりのお陰か、ラオウの秘洞は解れていてあっけなく全長を受け入れた。手前は狭く中は深い、女と全く違う感触が性器を覆う。
割り入って腹側を突き上げると、ちょうど背に回してこようとしていた腕がびくりと引き攣って落ち、それからソウガの腹辺りの服を掴んで前に引き付けた。素直に従い、しっとりと汗ばんでいる胸へ体を預け、唇をまた触れ合わせる。ラオウは眉間に寄せた皺の下、双眸を固く閉ざし、喉から細い音を漏らした。
「辛くないか?」
瞼を閉じたまま、頷き返すのを見て安堵する。実をいえば自分のほうが辛かった。少しでも動かせば暴発しそうだ。求められての情事ということに、ソウガの心はこれ以上ないほど動かされていた。
拡げられまいと抗う入口の動きとは別に、ラオウの内部は別の生き物のようにソウガを舐り、締め上げ、劣情を煽った。
「もう……」
激しい遂精欲に襲われ、続きは声にならず、ソウガはまたしても薄く開いて見つめていた眼に視線を合わせた。答のかわりに、額に浮かぶ苦悶が綻び、腕が腰に回される。
本能の命じるままに腰を進め、奧を穿つ。しかし絶頂に身を委ねる寸前に理性が勝った。負担をかけることはできない。いや、したくない。なんとか自身を引き抜くと、腹の上で精を放つ。ラオウはその雫にさえ感じたらしく、全身を細かく引き攣らせた。
ラオウはまた顔を隠し、脱力している。胸に二つある僅かな尖りが、ふっくらとこれも花か実のように色づいているのが判った。汚れた腹を拭ってやりながら、振り払われることなく早い鼓動を感じ、少しく報われた気になった。
「どうだ、さすがに満足か」
「いや…………」
返し掛けた語をうやむやに飲んで言い直す。
「これと……話は別だ、この程度でほだされると思うな」
冷めない声で吐かれる強がりが苦笑を誘う。
「欲張りだな。ほら」
ソウガは上着の隠しを探ると、宴席から失敬してきた林檎を一つ、手の平に乗せた。そもそも部屋を訪れる口実だったものだ。
「食って少し休め」
「いらぬ……黒王にやれ」
どれだけ拒まれようが、口に押し込むつもりでいたソウガだが、眠気を表すラオウの目許を見て気を変えた。
「戻ったらお前も何か食べろよ。この先持たんぞ」
「そうだな……まだ、道は遠い」
念を押すと頷いて、ラオウは腕を枕に眠り入った。
見上げれば月がいつしか真上まで来ていた。この平穏ならざる地上にかかわることなく照る寂光に、薄雲が優しく掠めて流れる。
今この時が、少しでも長く続けば。
いつになく感傷的な己を顧み、ソウガは首を振った。
鬼の言い草ではない。
だが、そう独りごちて復た、秋の月を見上げる。
少し先では黒白の馬が、枯葉の溜まりに首を並べて遊んでいた。
終
- 作品名
- ソウガ×ラオウ:SS:白月 [R18]
- 登録日時
- 2010/06/15 (Tue) 00:00
- 分類
- 文::危険(♂×♂)