・カイオウ×ラオウの掌編です。
・ただのエロです。
愛のない露骨な性行為描写があります。
・真・劇場版ベースっぽいです。
・時期設定はトキの死後間もなくです。
故国に着いて早三日。その空気は幼きラオウの記憶とは違っていた。
修羅と呼ばれる三人の王、その第一位が治める都市は、かつて西欧に見られた城塞都市に似る。中心に聳える豪壮な城、飾るは優美な尖塔、整然と通る街路に花咲く木々。水をはじめ資源に事欠かぬ土地柄から、飢餓は過去のものとなり、自国に当たり前の廃墟は影も形もない。
しかしこの一見栄華を誇る城下に、人々の笑顔はなかった。闘士として名を上げた者が修羅と呼ばれ権力をほしいままにする一方、一般臣民の扱いは塵芥に等しく、強制労働と重税に喘ぎ続ける。城下は声なき怨嗟の声に満ち、不気味に静まりかえっていた。
この極端な階級制を礎とする国で頂点に立つ暴虐の元凶こそ、実兄カイオウ……噂を聞き海を渡ったラオウであったが、実相を探ろうにも骨が折れた。
しかし、転機はすぐに訪れた。いくつ目かの食事を出す店を出て、路地を歩いていた時だ。全身黒装束で固めた小柄な男が、すいと寄ってくると書状を差し出した。封蝋の上に覚えのある刻印を認め、開く。そこにはまぎれもない歓迎の言葉が、端正に記されていた。
案内された地下には別世界が広がっていた。
豪奢な卓に開かれ巡る、賭札、賽子。酒肴、煙草、焚きあげられる香の霞。酔いにまかせた男の哄笑、女の艶笑。薄暗い室内を行き交う者の全てが、宝石や羽根で飾った仮面をつけている。
修羅の中でも選ばれた者の社交場という事か。水一滴を奪い合う国に生きるラオウの目にこの光景は、あまりに奇異に映った。
甘い匂いが鼻に纏わりつく嫌悪に自然眉を寄せながら、紫煙に満ちた部屋を抜ける。重厚な扉を越えた奥の間には、日々鏡に見る中に大きく傷痕をつけた顔が、獣皮を敷いた長椅子の上に待ち受けていた。
「久しいな、ラオウ」
まるで数日来というほどの気安さで、兄は対面の席を勧めた。
「そう構えずともよかろう。まあ飲め」
傍らの盆から玉石を琢いた杯を取り差し出す兄を遮って、ラオウは重い口を開いた。今回の長旅はこれこそ目的といってよい。
「兄者。知らせねばならない事がある」
「トキ……だな?」
先回りされラオウは目を見開いた。カイオウはその気配を見て、ふんと鼻で笑うと言い捨てた。
「ついに死んだか。おのが身体を削ってまで生かした奴に先に死なれては、お前も甲斐のないことだ。同情するぞ」
弟トキと寄り添って生き、別れ、そして拳で語り合った時間は、ラオウの人生を織り成す第一の糸であり錘であった。だがカイオウにとってのトキの存在は全く違うようだ。
膝に乗せ、強く握り合わせたラオウの手の上に、兄の冷めた視線が注ぐ。
「隣国の政情も知らず、王の務まるものか。お前らの事など、北斗の寺院にあるころからつつぬけだ」
「では、なぜここまで呼んだ」
ラオウは自然低くなった声で聞いた。そもそも兄に会おうなどという考えは、弟を亡くした拍子に差し込んだ心弱さかもしれなかった。今、悼む気の微塵もない兄と、自己への腹立たしさが渾然一体となって臓腑を締め上げる。
「顔を見たくなったまで。しかし、久々というのに、なんだその仏頂面は。薄情も極まれりだな」
互いの間に充ちた険悪な空気を、吸ってむしろ渇きの癒えるように、カイオウは心地よさ気に目を細める。奥にある瞳は一時も笑まさず、白刃の鋭さで燭火を弾く。
カイオウは手を延ばし象牙の煙草盆をとると、銀細工を施された豪奢な道具から二、三口嗜んで、煙とともに問いを吹いた。
「どうだ、久々の故郷は? 見違えただろう」
「だが、腐臭がする」
「ふん。では、お前のいう覇業とやらは、腐らぬか」
カイオウはさらに機嫌よく、喉の奥でくつくつ笑いを転がした。
「いまだ掴みもせぬ現の先を語るほど、男を浅はかに見せる事もない。慎めよ」
「兄者は俺を……愚弄するつもりで呼んだか?」
「なにを言う。可愛い弟に、忠告してやったまで」
今にも席を立たんとしたラオウを上目使いに眺める兄カイオウは、長い鼈甲の軸を玩びながら、薄笑みを崩さない。
「ときに、ラオウ。顔を見て思い出した。あの女の自由を買え」
「あの女?」
「よもや忘れたとはいうまい。お前が送り返したレイナだ。 修羅の嫁ともならず、浜辺の村でのうのうと暮らしておる。俺の目こぼしと……まさか気づかぬでもあるまい」
「なぜ俺にそれを言う」
「情は捨てたか。それがよい」
カイオウはラオウへ向かい、さっと手を振った。
「では、帰れ。好きにさせてもらおう……何といったか、あれには兄がいたな。さて、どこで野たれ死んだものか」
侮蔑の口調に、ラオウは眦をきつと逆立て、拳を握って胸の前に構えた。
「俺のことはどう言われようと構わぬ。だが、亡き友への暴言は、兄者とて聞き捨てるわけにはゆかぬ。それにレイナはいわば俺の妹、なれば……」
カイオウは激したラオウの言葉を吹いた煙に紛らせ流し、せせら笑った。
「たわけ。この国の女は二種類。修羅の嫁か、奴隷のいずれかだ。聞けばたいそうな美形とか、足の腱を切って慰みものにでもしてくれよう… どうした、そんな顔をしても怖くないぞ」
ラオウは眉間を険しく寄せ、カイオウの目を見つめた。
「……買え、とは?」
苦く切り出した言葉に、釣り針にかかる魚を見るが如く、カイオウの眸は暗い歓喜に益々輝いた。
誘われて、先ほどと別の扉を抜けると、賭博場と繋がっているらしい部屋に出た。厚い布で仕切られた先から微かに音楽と人声が聞こえる。カイオウはその前で、懐から赤い貴石と真珠を連ねた首飾りを掴み出して見せた。
「この国にも金銭はないが、こんなものはある。ここで稼げ」
「どうやって」
「簡単だ。あの上で芸を見せろ」
「なに!」
ラオウの大声にも動じる事なく、カイオウは仕切りを開いて奥の暗がりを示した。そこは舞台袖となっており、奥には煌々と火が燈される舞台が見えた。一段高く設えられた円形の台上で、裸体を申し訳程度に宝石で飾った女が二人、妖艶に絡み合っている。
腕を下ろすとカイオウは、何事でもないように続けた。
「誰か気に入れば、代を置く。それを俺が収めてやろうというのだ」
「芸など持たぬ」
「ならば体を売れ。女どもの歓心は買える」
冷ややかな兄の目を、ラオウは石になれとばかり睨み据えた。しかしカイオウは、薄い唇を開くと淡々と、最期通告を突き付けた。
「ありがたく思え。これは外交ではなく個人的な取引。特別に売ってやろうというのだ。俺はこう見えて寛大だ、身内にはな」
渋々頷いたラオウの手を、いつの間にかカイオウの後ろに立っていた黒衣の男が引いた。黒い布で顔も体型も隠しており、片手には鞭を携えている。顔の上半分のみ覆う簡素な仮面を取り出すと、着けるよう促す。それは目の当たる位置に穴がなく、視界を遮るように作られていた。受けとり、しかし動けずにいると、横から耳に口を寄せカイオウが囁く。
「一人でできぬか? 手伝いが要るなら呼ぶぞ」
ラオウは音の鳴るほど喉を詰まらせ、しばらくあって、諦めを交え吐き捨てた。
「修羅とはつまらぬな」
「そうだな。全く、つまらぬよ」
カイオウはただ冷酷に答えた。
その場で衣類を剥がれ、首と手首に拘束具を施され、ラオウは屈辱に震えた。革紐で出来ているらしい枷は、その気になればいつでも引き千切ることができそうだった。いや、借りに鋼鉄製であっても紙を裂くよりも易い。だが、友との誓いは何物でも断てぬ靭さでラオウを縛った。カイオウは殺すといえば殺す。世にも無惨な手で嬲り尽くすだろう。
「そう固くなるな。よくある出し物で、客もろくに見ん。それにお前を知る者など、この国にいない」
「だが、瓜二つの俺にこんな真似をさせて、兄者はなんとも思わぬのか」
「ああ。さぞや、面白かろうな。俺は特等席で観賞させて貰う」
靴音が遠ざかると、首輪に着けられた鎖がぐいと引かれる。ラオウは視界を塞がれた不安な歩を重く、あのいかがわしい広間の方角へ進めるしかなかった。
件の台に上らされたあと、鎖を下へ引きながら何度も脚を蹴られ、漸く合図と悟って膝立ちになる。
ろくに見もせず通り抜けた賭博場だが、軽く意識を集中するだけで、中にいる人数は把握できる。およそ五十。だがその事が逆にラオウを苛立たせた。自分がどこを向き、どれだけの数がこちらを見ているかは判らない。よくある見世物とカイオウは言ったが、果たして信じられるのか。
思考に没入していると、手の甲に激しく鞭が当てられた。
「おい、どうした。早く立たせろ」
あの黒衣の男のものか、耳慣れぬ声で命じられて、ラオウは求められる見世物の質に思いを致しきつく眉を寄せた。確かに、腕を身体の前で束ねてはいるが、容易に指が届く位置に性器がある。だが、……我が耳を疑っていると、
「つまらん意地を張るな」
突然すぐ前で、カイオウの不快げな声がしたかと思うと、頭の中央を強く指突された。身を竦めたが既に遅く、閉ざされた視界をも揺らすような激しい眩暈がラオウを襲った。
「何をした!」
突かれた箇所から違和感が広がる。地獄の底から湧くような、重苦しい気が首、肩から腰、さらに四肢の先まで伝わって、それとともに、手首の縛めに擦れた小さな傷が脈打つように痛み出し、ラオウは唇を歪めた。
「く、……秘孔か? 知らぬ……」
鋭くなったのは痛覚だけではなかった。身体の下で床に触れる膝に圧迫感が襲った。かかっているのは己の体重だけのはずが、肌に触れる地下の空気、それさえ重い。触覚、嗅覚、……ふさがれた視覚をのぞき、すべての神経を皮膚から掘り起こされていくようだ。
影響はラオウの本来慎ましい下半身にまで及んだ。普段なら感じることもないだろう外気との摩擦が、それだけで悩ましく肌を刺激する。
「……なんだ、これは」
「耐えることはない。声をあげてもいいのだぞ」
「ふざけるな、……ンッ!」
「可愛いものだ。客もほら、喜んでおる」
己とよく似た声が煽る通り、若い女のくすくすと笑う声が耳に届いた。生涯にはじめてというほどの羞恥を覚え、ラオウは唇を噛んだ。その痛みもまた増幅され神経に突き刺さる。
「どうした。手がお留守だぞ。見せ物なら見せ物らしくしろ」
「覚えておれ、必ず、……」
「そうだ、その顔だ。怒れ。せいぜい己の無力を噛み締めるがよい」
カイオウの足音は今度は離れては行かなかった。あの蛇の如く冷えた目が、近くからあてられている……その確信は、何十何百に見られる羞恥よりもラオウには堪えた。実の兄に売られる我が身を認めることは。
兄との慕わしい記憶を殺すため、ラオウは何度も首を振った。逃れ出ることが叶わぬならせめて早く、この悪夢の時を終えてしまいたかった。
せめて無反応を装おうとする肌の上を、さらさらと指ではない、何か羽のようなものが撫ではじめた。胸の突起を擽るのを避けようと、枷を軋ませてもがくと、
「うるさい」
胸をぴしゃりと平手で叩かれ、それから左胸の先端を、何か冷たい器具で締め付けられたかと思うと、刹那、意識が途切れるほどの衝撃が襲った。
「!!」
焼鏝とも感じた熱さは、痛み……おそらく針のようなもので刺し通されている。ズキズキと上半身いっぱいに広がる痛みの拍動につれ、下げられた金具がチリチリ音を立てた。
「家畜らしくなった。似合うぞ」
悦をあらわに兄の嘲りが飛ぶ。
「せっかくだ……」
右側にも同じ事が、作業よろしく行われた。痛みには慣れているはずだ、だが戦場で己に拳を届かす者など、とうの昔に限られている。ラオウは久々に血を流す感覚に、歯を食いしばり耐えた。
剥き出しの下半身をも、何かが撫ではじめる。半ば以上勃起している急所を触れられるたび、そこへも同じ暴力を振るわれるかと、身が竦む。しかし、与えられるのはいつまでも優しく甘いだけの愛撫で、ラオウの男性はやがて先走りの雫を宿した。
「勝手に達するのは許さぬぞ。よしというまで堪えろ」
足元の側から、あくまで冷淡なカイオウの声が指示する。開いた膝の奥までも見られているに違いなかった。ラオウは先の会談の際に見覚えたカイオウの冷厳な視線を思い起こし、己のふがいなさに息を詰まらせた。
人前で不様に気をやる姿はみせまいと、腹で深い呼吸を繰り返し、静めようと気を張る。だが決して老成したとはいいがたい身で、走り出した欲を抑えることは易くない。まして無理矢理研がれた感覚を延々と、肉を貫く傷と性器への愛撫に冒されては。
自らの反応に戸惑いながらラオウはついに口を割った。胸にこもった熱い息が喘ぎとなって次々に抜ける。
「……ふ!……あ、」
「なんだ、もうしまいか? 早いな……仕方ない、根本を押さえろ」
輪にした太い二本の指がラオウのすっかり反った性器を掴まえる。そこはすでに、先端から溢れる快楽の証でじっとり濡れていて、触れられた刹那、体が跳ねるほどの快さが背筋を尽きぬけ、ラオウをひるませた。
「う、ふう……」
手は構わず、ラオウの性器を擦り出した。だが最も感じやすい先端の割れ目と裏筋は、わざと避けていく。もどかしい摩擦の連続に、自らの手で思う様に擦り上げたい衝動が突き上げる。
声を堪える辛さに、仮面に隠されたラオウの両眼はいつしか涙で濡れ、雫が伝い落ちはじめた。それを目敏く指にとらえられ、頬から顎まで塗り広げられる。
「善すぎて泣いたか? ふん。とんだ……」
低い声で囁くように耳に吹き込むと、男はラオウの涙を舌で舐め、音の立つほどきつく濡れた頬を吸った。途端、下腹に熱い蛇が暴れ回るような違和感に、膝がガクガクと動いた。ついに恥ずかしい甘い声が喉をついて出る。
「く…ンン……」
「こんなところが善いのか」
こちらに聞こえるようにひとりごち、さらに首や、胸の鈍痛の源までを舐める。頬から首筋まで、舌になぞられて思考が千々に乱れる。拒む意志さえあやしくなっていく。
「淫乱だな」
決め付けられ、ラオウは無意識に首を頷かせた。完璧に鍛えあげたと自負していた肉体の意外な脆さに、付け込んだ相手を恨む以上に、嫌気が差していた。
その素直な心情の吐露に、相手は気をよくしたようだ。
「そうか、いいだろう、……いけ」
命じられるまでもなかった。もはや、一度達かぬことには、埋め込まれた疼く種を除くことはできそうにもなかった。従うしか道はない。
とはいえ、不様に降参してみせるまでには、ラオウの矜持は失われていなかった。首を振り、目隠しの下で相手を睨みつつ、口許を歪め冷笑をかたち作った。
「ほう……逆らうか」
相手は苛立ちを声に出すと、性器を伝う先走りを指でなぞり、弾いた。
「可愛いがってやる……どこまでその強がりが持つか、楽しみだ」
台上に仰向けに転がされ、手枷についた錠が次々に外される。両腕を頭の上に持ち上げると抵抗の隙を与えず、人の体温が身体に乗り上げた。うっすら目的を悟り、気の毒に、と失笑を零しかけた一瞬の後、気配の変化に気づいてラオウは息を飲んだ。
側にある気配は、一つ。太陽の壮烈に冥府の瘴気を掛けたかの如く、重く、巨大な気。
「どうした、顔色が悪いぞ」
数十年来に聞いたといえ、違えるはずもない声。
そして己を上回る巨大な掌の堅さと厚み。ラオウは持ち主を知った。幼き頃この手に手をとられ、野を駆けた。誰の手か。確認するまでもない。
回想に浸る時間は許されず、相手はラオウの膝裏に手をかけると胸に着くまで腰を折らせ、尻を真上に向けさせた。そして薄い血色に染まった排泄口に、乾いた指を突き入れた。
「……よせ、兄者っ……つう!!」
入ってすぐの粘膜を縦に横に押し拡げ、探られる。乾いた太い指が動くその毎にひりつく痛みが生まれる。ほんの指先の体積が何とも大きく奇怪に感じられ、ラオウの額を冷たい汗が流れた。
「痛むか? では、これではどうだ?」
揶揄する声に感情を逆撫でされながらも、持ち上げた袋をやわやわと揉まれれば、収まったはずの性感はまた、じわじわ高まりはじめる。
雄芯に集まる熱を自覚し、ラオウは歯を噛み鳴らした。台から浮くほど背を撓らせ、首も直角に近くなるまで反らし、それでも弄る手から逃れることは叶わない。そうする間にも指は無遠慮に奥へ奥へずらされて、腹の内側、快楽に直結するしこりに届いた。侵入される悪心とも異なる感覚により、背筋に走りはじめた震えを、ラオウは喉を引き絞って耐えた。
「ふ、拳王などと意気がったところで、この程度か。だらし無い。もうはち切れそうだぞ」
「は……ぁ、う、……」
鍛える術のない内側から与えられる刺激、爪により脆い腺を掻き鳴らされるたび、自然に膝が撥ねた。気が狂いそうな痛み、そして瞬く間にそれを凌駕した熱い疼きが骨盤の内を埋め尽くす。それは脈動となって鼠蹊部に、そして先に傷められた胸の尖りにもきりきりと伝わった。
「本当に痛むのか? ならばそう嬉しそうに腰を振るな」
「そんな、 と……誰が、する、もの、か」
否定と同時にペニスをなぞられ、すでに十分な角度を持っていることを教えられる。愛撫には遠く、ゆるく支えるだけの冷たい指。触れる己の浅ましい熱が恨めしい。
「そうだな。痛み、とはこういうものだ」
含み笑いのあと、カイオウは挿れた爪先を寸分違わずラオウの前立腺に当て、そのまま指を上方に引き上げた。自身の下半身の重みが、指先の僅かな面積にかかっていく。圧迫痛は、直ちに激痛に変じた。
「ぐ! あッ、ア……だめだ!!!」
白目を剥き、首を振るほか、できることはなかった。酷い耳鳴りが、頭蓋の中でめりめりと皹が入るような音に変じ、それきり、周囲の音も何事か罵る声も遠ざかった。感覚が皮膚を滑り、身に起きる何事も意識に留めることができない。
「……! ………!!」
気を失う一歩前で、指が引き抜かれた。
閉ざされた目の前で火花が瞬く。きつく撥ねる鼓動と呼吸を、撹乱された神経は激痛として訴える。それでもラオウは空気を貪り、己を取り戻そうと努めた。
すぐに、強張った脚で尻を支えて自ら陰部を突き出していることに意識が向かった、その刹那、指と比べものにならない直径が、体温が押し当てられた。
動揺はない。それでも信じたくはなかった。
目隠しの奥、眼を開いて告げた。
「こんなことは、獣でもしない。やめろ、兄者」
しかし言葉は届くことなく、挿入が始まった。ここまで弄られたために腫れ、むしろ硬く結んでいる入口に、膨れた毒牙が一寸ほど潜り込んで行き止まる。するとカイオウはラオウの脚をカエルのように開かせ圧しかかり、二度三度と欲望を送り出した。
「力を抜け。痛みが増すだけだ」
「……無理、……だ、」
体重を乗せ十回も突き回されたころ、ついに切れたか、ブツリと響くような衝撃とともに熱い塊が胎へ滑り込んだ。
「ヒ……! ……あっ…く」
絞り切ったラオウの声が、狭い箇所を空気の通る音に成り替わる。
「ン……、ク……あ!」
引き抜かれ突かれるたび、痛みと快感がいっしょくたに押し寄せ、喉から喘ぎを引きずり出す。ラオウ自身、身を竦ませるほどに媚を帯びた、声。
体裁の悪さが故に、必死の力で首を背けると、髪を掴まれ上半身を抱きとられた。
このままあっさり明け渡すわけにはいかない。耳が相手の頬に当たった刹那、ラオウは反撃を試みた。首を伸ばし相手の肌へ歯を立てる。ガリ、と音がして口中に血の味が広がった。
次の瞬間、ラオウは報復を思って身構えた。だがカイオウは突き放すどころか回した腕に力を籠め、ラオウの涕涙で濡れた顔を自らの胸に押しつけた。鼻と口をみっしりと塞がれ息ができない。肺が痛み出す。藻掻くものの、頭上にまとめられた腕はぴくりとも動かない。その状態でまた繰り返し蹂躙される。潜り込んだカイオウの男性がぐっと膨らんだかと思うと、内部に熱いものが浴びせられた。
愉悦に酔った笑い声が響くなか、酸素とともに力が失われ、やがてラオウの意識は血臭と熱の中に溶けた。狂おしい射精欲を蕊に残したまま。
熱雲のような朦朧に囚われたラオウは、それから長い間、一方的に犯された。穿たれ、抜かれ、注がれる苦しみに……もう一度も耐えられぬと思う一方、いつまでも続けられたい。後孔を裂いた傷はかろうじて痛みを残すが、それも交互に襲う寒気と浮熱に混ざり、……血を抜かれるような虚脱を経てラオウは甘美な快楽にたどりついた。
張り詰め疼く性器も、濡れた音を立てる粘膜も、すべて自分のもの。開かれた体があげる歓喜の声を否定しようと、目隠しの奥でひたすら瞼を閉ざす。
これは断じて交歓などではない。
暴力。そして、ふたつをひとつに合わせる行為。
ふたたび髪に指が差し込まれ、今度は柔らかく梳いてくる手つきの、思いもよらぬ優しさ。無言の愛撫の先にあるはずの懐かしい名を想うと共に、ラオウの頬に温かい水滴が伝った。幾筋かのそれが汗と混じり合った頬に、舌が這い回る。蜜のような甘さが染みて苦痛が遠のくと、ラオウは完全に意識を手放した。
寸前に聞こえた、耳の後ろで低く響いた名。それは意外にも母のものではなかった。
髪を撫でられる感触にラオウは目覚めた。男の体臭と紫煙、頭脳に重い熱。仮面は外されていたが、目が痛みよく開くことができない。ただぼんやりと、まだあの舞台にいること、緞帳の降りていることがわかった。そして自分がまだ素裸であることも。
触れつづける指を掴み、 骨も砕けよとばかり握りしめる。だが寄り添った指の主は、動ずることなく淡々と告げた。
「これだけは、よいものを受け継いだ。屑星のさだめにも釣り合おう」
半身を起こして相手の左胸にくっきり残る己の歯形を認め、そして自身の唇に残った鉄の味に、ラオウは眉間の皺を深めた。
「兄者……」
一語紡ぐ毎に喉が血を吹くように痛む。身じろぎすれば、交わりの徴すら拭われていないようで、乾いた粘液の不快が際立った。怠い躯に鞭打って、手枷でできた跡を確かめ、やがて身繕いの手を探そうと辺りを見回したラオウの肩を、やおらカイオウの腕が引き寄せると、耳元に囁いた。
「ラオウ、俺のものになれ」
「なに!?」
振りほどく間もなく、喉笛に二指が潜り、ラオウの動きを牽制する。容易に頚椎を砕くことのできる位置だった。
「さすれば女は見逃してやろう」
「……いいや、かまわぬ。レイナとて、拳王軍の先鋒を担った将。己の身は己で護ろう」
「哀れなものだ。我が身可愛さに、捨てるか」
「いや。ともに覇業を誓った同志に、捨てるだの拾うだのと。かえっての侮辱。そう気づいたまで」
カイオウは、ラオウの口許を厳しく引き締めた顔を薄ら笑いを浮かべて見つめ、やがて破顔した。
「愚かも極まれりだ、ラオウ。あの女はもう、この国にはおらぬ」
「………」
聞いて怒りを露にしたラオウに向き直り、カイオウは右手を伸ばした。
「ふん。だが、本当に、いいのか……これよりは、お前の体に聞こう」
髪から頬に移って撫で続ける。
「……まんざらでもなかったのだろう? 覇道? なに、かの小国など俺が一息に平らげよう。そのあとで、欲しければくれてやる」
もう片手の指が首筋から胸を滑り、倫に背いた快楽の余熱をひたひたと落とした。
ラオウは子供のころから抱いていた兄への思慕と畏れに、胸を満たす無力感に抗って、割れる声を張りあげた。
「覇道は捨てぬ! それに、弟が待っている。兄として、俺は戻らぬ訳にはゆかぬ」
「弟……ふ。ケンシロウか。そう、お前のこの色に汚れた顔を、見せてやりたいものだ」
カイオウはせせら笑った。顎を撫でる指は優しいままに。
「覚えておけ。いや、判っているのだろう? お前はおれのものだ。何処へ行こうがな」
語るカイオウの薄い色の瞳は、凍土の太陽を思わせる。
カイオウはそれきり、ラオウを視界に入れなかった。
あまりにもあっさりと。カイオウはラオウを解放した。
さらに一日のあと、船の側まで正装で見送りに来たことは意外だったが、形式的な礼を交わしたのみ。そこには、あの夜の熱のひと欠片さえ残されてはいなかった。
ラオウは船縁に立ち、暗い空と海の狭間に遠ざかりゆく故国を見つめた。岸からとうに立ち去った兄の背が、まだ見えるかのように。
いったいどうすれば、あの頼もしい笑み、強さと優しさを備えた兄を戻すことができるのか。言われる通り身を任せることで、叶うのだろうか。
諦めるしかない。
世に覇者は一人、世に覇道は一筋。
ならば闘うしか、あるまい。ラオウは白くなるほどに拳を固く握りしめた。虚無が胸に押し寄せる。
しかし、諦めきれぬ。
進めば弟にも、同じ絶望を突きつけることになる。訣けた先を繋ぐ道は、ない。
あれも思いやりの変容であるならば、
ラオウには解らなかった。
手先が冷える。腕を組むと、薄雲の帳にふたがれた天と海の境界をただ、睨み続けた。
終
- 作品名
- カイオウ×ラオウ:SS: 永訣 [R18]
- 登録日時
- 2012/03/11 (Sun) 00:00
- 分類
- 文::危険(♂×♂)