リュウガ×ラオウの掌編です。
・性行為を匂わす描写があります。
※非常にソフトなつもりですが、
感じ方には個人差もあると思います。
・慈母星の存在が重いです。
夕星
濁った空が暮れゆく。
赤々と燃えた核火の残像を繰り返す西天の低みに、星とは名ばかり、ただ土塊の日照を弾くと知ってはいても、群青を背景に一際清ら、もし香るならば百合また薔薇のごとくの白光を掲げて。
「いかがしました」
行軍の先頭、主が馬を止め見上げているところへ、リュウガは静かに尋ねた。ただ、答は返らずともかまわないと思っていた。主の言動は謎が多く、邪魔をするつもりもない。
予想通りのラオウの無言に、リュウガは視線を辿って言葉を継いだ。
「あの星がなにか?」
「なに、思い出しただけ。この世に最後、俺に相応しかった女」
独り言めいた応えを聞いて、白晰の面に憂いの雲がかかる。
「はかない妹でした」
「だが、強くもあった。お前も否定はせぬであろう」
ラオウは目を合わせることなく言い切ると、乗騎の腹に蹴りを入れた。リュウガも、後に控えた軍勢も粛々と従う。
刻々に青らむ空に、明星は一粒の宝石を思わせ輝きをいよいよ増している。
※※※※※
腰のあたりで直に触れる体温が、目が覚めるほどに高い。リュウガは瞼を上げて、隣に眠る主の顔をうかがい見た。
戦のあとの体を鎮めようと、主が時折求めるこの方法は、自然には背くかもしれないが合理的で後憂もない、と互いに認めているものだ。
だが今宵は少々逸脱した。嫌と示すのを宥めすかし、撫で、吸い、開く、を繰り返したからか、額の縦皺が常より深い。それでも薄い唇は、苦悶を乗り越えた先の恍惚に軟らかく浸ったままでいる。
少々強引な行為のわけは、嫉妬ではない。
綸言と諦めながらも、どうにか覆したかった。
あの星のごとく。
リュウガにとってそれはラオウを意味した。
人類の黄昏に灯る、かがり火。
天狼の宿命を負う自分さえ、じわじわと大気の毒に蝕まれつつある。だがこの偉人は、弱らぬどころかむしろ生き生きと力を増した。憤怒で振るう拳に、……いや、その拳を得るに到った魂を前にして、あの日の自分はただ、膝をつき頭を垂れるほかなかった。
リュウガは胸の疼痛に堪えながら、かの優姿を思い描く。
今この部屋の窓から見えないことに、安堵しながら。
人を越える覚悟の上に、
縁も情も切り捨てた上にも、
夕星は永劫に輝く。
終
- 作品名
- リュウガ×ラオウ:SS:夕星 [R12]
- 登録日時
- 2010/09/03 (Fri) 00:00
- 分類
- 文::危険(♂×♂)