トキ×ラオウの掌編です。
・ただのエロです。
・性行為描写だけがあります。
※わりとソフトなつもりですが、
感じ方には個人差もあると思います。
・トキが優しくないし聖人でもないです。
残月
挿れた指で馴らしてくる手順を事務的に感じることがあった。行為自体も丁寧だが性急で、こちらのペースなどあまり考えないようでもあった。彼にとっては患者を診る感覚に近いのだと気づいてからは、さほど気にならなくなったが。
ただ、身のうちに炎を抱える相手の身体ばかりは、気にならぬわけがない。血の気のない顔、奄々たる吐息、蝋のような色の額に浮かんだ汗も一連の運動によるものとはまるで見えない。二人分の熱の籠もる夜具の中でさえ寒気を覚えてか、彼は終始肩を震わせていた。
「……トキ」
「辛い? 兄さん」
「待て…… うぬはどうなのだ…」
馬乗りに乗られた相手に手を伸ばし尋ねる。骨の目立つ首元にしとどに流れる滴を拭い、その尋常でない量にあらためて驚かされた。
「どうって……すごくイイよ? 兄さんは?」
ほんの数十センチ下で濡れた性器を合わせているとはとても思えぬ朗らかさで、白い髪を揺らして弟が笑う。
「ならば、よいが。体に障らぬか」
「今さら」
喘ぐように息を稼いで、また笑う。
「知らないか? 死期の迫った生物のとる最も自然な行動を……いや、欲求というべきか」
ラオウは黙ってトキが言葉を継ぐのを待った。明言してやるにはあまりに哀しい覚悟ゆえに。
「子孫を遺す行為ですよ」
交尾の後にオスを喰らうメスの顔で、余命鮮ない弟は強かに笑んだ。
ラオウに言わせれば、幼きころからトキは決して優しいだけの男ではなかった。
たとえば、姿と名を知れば満足するラオウや別の兄弟に比べ、トキは中を開いて診ねば気の済まぬ質だった。鳥の卵を巣から下ろすというので食うのかと思って手伝えば、トキは半ばまで育った血まみれの雛を見た。戦慄しながらも物怖じしない眼差しがいま、膿み崩れた患部を眉ひとつ動かさず縫い合わす冷静に通じるのだろうか。
そしてまた、兄の自分を軽々しく抱く、この暴挙に。
拒んだとて、失うものは何一つなかった。だからこそ、兄である己の不始末とラオウは認めざるを得ない。人並みの恋情や愛欲に堕すなどありえぬという自負に任せ……兄弟以上にはけしてなれぬとわかる頃には、すでに人並みの痴戯に首まで嵌り込んでいた。
「たわけが。その相手がおれでどうする」
「相手が、イヤですか?」
「…そうでは、ないが。…っ、ぬ」
いつの間にか侵入した深さはそのままに角度を変えて穿ち直され、ラオウは息を呑んで、上に乗った男の腕から腕を外し敷布を掴んだ。今にも折れそうに白い、細い腕。打ち込んだ楔だけは別の人間のものであるかのように熱く猛り、生命を湛えるというのに。
「私が遺すのは」
トキは透徹した目で見下ろしながらラオウの顎の輪郭を指二本でなぞった。
止めて口にしないもの、それは遺らぬはずのないものでもあった。肉に打ち込む肉の芽以上に、残酷に、魂までも支配しようという企み。
「小賢しい、まるで女の手管よ」
「そうだろうか。女々しいだろうか…… いや、あなたがそう言うなら…そうなのだろう」
女相手と同様、一顧だにせずいろと突き付ける。これまでと同じように。
「これだ、うぬの相手は回りくどくて敵わぬ」
「野暮でしたね、…こんなにさせておいて」
トキはラオウの、すでに力を得て反り、粘る蜜を零す中心を両の手の平に握りこむと自身の名のように柔らかく笑んだ。それから、意外なほどの激しさで擦りあげはじめる。
「く!ああ! そんな、ふ…、」
こちらの好みは弁えた上で丁寧、だが執拗、他にもっとやりようがあるのではないか。ラオウがそう、よくよく覚えのある煩悶に身を焦がすあいだにもトキは体を一度引き、奥から少し戻ったところにある的へ切っ先を突き当てはじめた。間髪入れぬ攻めに込み上げるものにラオウは思わず声を荒げた。
「よせ、トキ……、ッ、まだ」
搾り取るように促す指と、内壁からの濃厚な刺激に揺さぶられ、がくりと首を反らしラオウは呆気なく果てた。節の目立つ指の隙間から吹き上げた白濁が腹の上に散る。一呼吸おいてトキもズルリと引いた抜き身をその上に置いて精を放った。骨張った、燃えるように熱い指が二人分のぬるい液を混ぜ、塗りこめるように動かす。
薄く見開いた視界の中、トキは相変わらずの薄笑みで伏せた顔を凝らせていた。髪も顔も指も白いその姿は、どうかすれば空に溶け消えゆくかと思われた。
我に返るとすでに同衾相手の姿は見えず、ただ白々と淡い月だけが残されていた。ラオウは窓辺に寄ると影を浴びて立ち、己れの前に、これからの生涯にわたり横たわる荒れ野をしばし眺めた。それから、冷めた肌、目の奥、口の中に砕けた虫の遺骸を混ぜた砂が忍び入るのを感じながら床につき。今度は朝まで覚めることはなかった。
終
- 作品名
- トキ×ラオウ:SS:残月 [R18]
- 登録日時
- 2009/05/26 (Tue) 00:00
- 分類
- 文::危険(♂×♂)
未承認 - 2009/06/15 (Mon) 14:24 Edit
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