116 「頭を撫でてもいいかな?そうか、ありがとう。さっき髪を洗ったばかりだからフカフカだね。…シャンプーの香りがする。犬にしか見えない姿のものから犬の臭いが全くしないのが不思議な感じだ。君のアニメーガスは完璧だから。 今のところ大丈夫そうだけど、どうかな?雲から出てくるだろうか。先月みたいにずっと隠れたままで、くだらない話を私が朝までして、それで終わるといいね。 さあ、今日は何の話をしよう?君は返事が出来ないから、また私が一方的に話せる話をしよう。ああ、違う違う。会話がしたいという意味じゃないから、元の姿に戻ってはいけない。月の光が急に差して、間違いでもあったら大変だから。いいね? じゃあ君の足の長さの話しをしようか。先日に君の足を抱えあげた時、その足が気持ち悪いくらい長いって事にやっと気付いたんだ。君の足ときたらまったく長すぎて国境付近まで続いているのかと思っ……痛い。痛いから。咬まなくてもいいだろう。酷いな。でもあの長さはもう蜘蛛とかそういう……分かった。済まない。もうこの話はしない。 では恋人としての君の話をしようか。おや、目が輝いたね。むかしホグワーツで少年だった頃の君の恋を私はずっと見ていた。誠実だったり気が強かったり綺麗だったり賢かったりする女の子達を君はどんどん消費していた。お菓子を食べるみたいに、本を読むみたいに、女の子の全部を所有して調査をして理解して、そして捨てていた。……どこに行く気かな。別に昔の君を責める話じゃないよ?私は当時恋愛というのはああいう、君のやっているような事こそがそうだと思い込んで、それで病気のこともあって自分には無理だと考えた。あんなに目まぐるしく食い合うようなゲームは自分の性分ではないなぁと。今でもそう思うけどね。しかしそんな君と私は一緒に暮らしている。もしかすると恋愛をしていると言えなくもない関係になって。 でもどうしてだろう、君は私を消費しない。犬がお気に入りの靴の片方を秘密の穴に埋めて、そ知らぬ顔をしているように私を扱っている。……君の恋愛は変わったように思う。むかしのあの探究心や飽きっぽさはどこへやってしまったんだい?大人になったからやめたのかな?私にはそれが不思議だ。今の君の恋愛への傾き方は、魂や身体や色々なものを削りかねない物凄いものだと思う。却って少年の頃よりも少年のようだ。その相手が私なのが申し訳ないくらいに。もしかすると君は…… ああ……残念……。 話はここまでのようだ。もうすぐ月が出る。続きは明日話そう。……いつも君は私の姿が変わる瞬間を見ないようにしてくれるね……ありがとう……私も、できれば君には見られたくない……と思って……あすに…なった…ら…あ……」 秋に旅行をしたとき、 その日は丁度満月だったので お月見をしようということになりました。 ところがその場所は都会の真ん中で、 でかい建物がにょきにょき生えていたので、 満月を見るために私達は夜道を歩きました。 辿り着いた大通りで、ぽかーんと口を開けて見た満月は 心なしか自分の住んでいる所で見るものとは 色や形が違って見えました。 そこで月がどうこう、シリルがどうこう言いながら 断片的にしていたお話を書きました。 今晩も満月です。 2005/12/16 BACK |