147 シリウス・ブラックの額には黒い印が刻まれている。 青白い肌の上に無惨なマークはくっきりと浮かび、彼はそれ故に常に追っ手から隠れて生きなければならなかった。杖を手にした憲兵が訪れるたびに彼を戸棚に隠す。震える手で戸棚に鍵をかけ、無理矢理の笑顔を浮かべる。 そんな生活の夢をリーマス・ルーピンは見た。久し振りの、悪い夢だった。 眠っている間の事象はすべて等しく感知も記憶もしないのが彼の常であるが、その夢に限っては何故か昨日の出来事と同等に、鮮明にルーピンの記憶野に残っている。 夢の中のシリウスが徐々に精神を病んでいく様子、長時間鏡の中の自分の額を見ていた横顔、追っ手が去ったあとに隠し戸棚から彼を出そうとしてもぼんやりと一点を見つめて動こうとしなかった場面などを思い出し、ルーピンはほんの少し陰鬱な気分になった。 明るい朝食の席の、コーヒーから立ち上る湯気やスクランブルエッグの匂い、日の光、そんなものに接しても、夢の断片は完全には消え去らなかった。 染みも傷もない、すべらかな額をしたシリウスが快活に本日の朝食のメニューについてコメントを述べるのを聞いて、ようやくルーピンの気持ちは緩んだ。 眩しい日差しをシリウスの瞳は透過し、肌がうっすらと光を反射している。そのせいか朝の彼は内側から輝くように見えた。不健康な要素はどこにもない。 シリウスはばりばりと音をたててパンにバターを塗りながら、唐突に昨日の夢の内容を尋ねた。ルーピンは2秒ほど迷って、質問に答える。 君の額に素敵な模様が付いている、変わった夢だった。夢の中でも私達は2人で暮らしていたよ、と。 ルーピンは笑顔を浮かべていた。勿論彼は、友人に不愉快のお裾分けをするつもりが全くなかった。 シリウスはそうか、と返事をしてミルクをもう一杯注ぐために立ち上がった。そのついでに向かいの席のルーピンへと身体を傾け彼の額にキスをした。 驚いてルーピンは自分の額に手をやる。シリウスの唇の端に付いていたらしき細かいパン屑が指に触れた。 視線で問うとシリウスは、良くない夢だったんだろう?今ので消えた。と得意げに笑う。 ルーピンは釈然としない気持ちで息を吐いた。 それは結構な事だけど、今後私は君に対して、嘘はおろか、隠し事が一切できなくなるんだろうか? そういう質問をしようか止そうか、ルーピンは並んだトマトジュースとミルクのコップを見ながら考えるのだった。 朝のエスパー。 一切の事件が解決したのちの話です。 その年齢で内側から輝いて見えるのは シリウスの美貌が異常なのか 先生の目が腐っているのか。 これを書いたとき腹が減っていた。 焦げ気味のパンに バターがりがり塗って食べるの楽しいデスヨネ…。 2008.04.22 |