156 比較的、彼等は行為の最中にも会話を楽しむタイプだった。 勿論物価の上昇についてや生活必需品の購入予定など、まったく関係のない話題ではない(それはシリウスが難色を示した)。服を着ている時に話すよりは若干性的な事柄について、彼等はとぎれとぎれに語り合った。 あるとき、どちらが原因なのかは例によってはっきりとしないけれど、片方がひどく冴えたユーモアを発揮したため、彼等は笑いの発作に取りつかれた。口付けては笑い、声を上げては笑い。 何を見ても聞いてもすべてがおかしいという、誰しも経験する特有の状態は、しばらく彼等の上から去らなかった。そのうえ無謀にも2人は行為を中断せずに、却って情熱的にそして陽気に互いに触れた。彼等の認識としては、快感も笑いも、どちらも人間にとっては心地良い作用のはずで、少なくとも悪いものではないというものだった。その認識自体は間違ってはおらず、彼等はすぐに自分達にとって快感と笑いが難なく両立できるものであるという事を知る。何しろ彼等は、相手が笑っている姿をとりわけ愛していた。幸せそうに笑っていて、裸で、大層リラックスした状態で、自分の間近にいる。これ以上楽しいことが他にそう沢山あるとも思えないのだった。彼等はともかく笑い、互いに達し、達したことがまたおかしくて地獄の拷問もかくやという勢いで笑った。性行為と幸福について考えすらした。 しかし。 その後速やかに彼等は恐ろしい疲労に襲われて驚愕しなければならなかった。普通のそれを控えめな学徒とするなら、常に体に打撃を与てくる現在の特別な疲労は屈強な戦士だった。滅多やたらに打ちのめされて、2人は無力に横たわっているしかなかった。 彼等が悟ったのは、快感と笑いは両立が可能であるが、なにやら同種のエネルギーを著しく使用するらしく消耗が半端ないという新事実だった。この歳になってもまだ学習することがあるとはこの道は奥が深いとシリウスは掠れた声で囁き、そして済まないが自分の寝室には戻れそうにないと詫びた。もちろん朝までここで眠ってくれていいとルーピンは返事をする。それ以前に手足が動かないから全裸で眠るしかないと途切れ途切れに語った。彼はそこに若干のユーモアを感じているようで、体力さえ残っていれば笑いたげな、そんな様子をしている。 シリウスはまだ笑い足りないのか、と口調だけは呆れた風にしかし優しい目でため息をついた。子供の頃から笑い上戸で、今も笑い上戸、おそらくは老いても笑い上戸なリーマス・J・ルーピン。笑い袋の生まれ変わり。と節をつけて彼は詠った。いかにも今回のことはお前に責任があると言わんばかりに、今後は最中のジョークを禁ずる、とも言った。 私のことはともかく、君はむかし、そんなに笑う人ではなかった筈なんだけどなあ。 と目を閉じてルーピンは考える。もうすでに夢の断片がまぶたの奥の方に見えていた。 しかしそれもきっと自分のせいにされてしまうだろうことが予想されたので、私が悪いということでいいよ。とルーピンは口の中で呟いた。瞼の奥の夢の世界が、瞬く間に部屋と体のすべてを侵食して彼の意識はさらわれてしまった。頭の先まで飲み込まれてしまう前に、かろうじて「おやすみ」と彼は友人に挨拶をした。静かな声だった。 弾丸よりも早い友人の眠りをよく理解しているシリウスは、彼の意識がもうすでにないことを知っていたが、それでも一応「おやすみリーマス」と返事をした。彼の寝顔を見て、手に口づけようとシリウスは考えた。しかし笑いと快楽のもたらした疲労はシリウスを一人とり残すことなく、ルーピンに追いつく勢いで深い眠りへ一気に突き落とした。 部屋は唐突に静かになり、大騒ぎをしていた大人達は今や、ただ眠っていた。この上なく全裸だったが妙に幸福そうだった。 最終的にはシリウスも結構な笑い上戸になると思います。 そして真面目な式典の最中に2人して笑いをこらえる だめカポー、だめ大人に……。 2013.07.10 |