その日の午前中ずっと、リーマス・ルーピンは物置の中の不要な金網や銅線と格闘していた。正確に言うなら金網や銅線や石灰やその他の肥料、前の住人の物らしき衣類。シャベルに長靴にレインコート、それら全てを相手にしていた。1つの物を取り片付けると、その下やその奥から新たなる敵が現れるのだ。彼はもういい加減その作業に疲れ、そして物置の整頓自体が無駄な努力である旨を理解し始めていた。
 彼は泡立て器や麺棒や、いかにもマグルの発明品らしい重い調理器具の入った箱を苦労して棚の上に上げる。収納したとき、その振動で部屋の隅に放置してあった麻袋がガサっと音をたてて横に倒れた。かなり大きな物で、中から色々な物がこぼれ出ている。ルーピンは達観したような顔でそれに歩み寄った。
 見覚えのないものなので、矢張り前の住人の物なのかもしれないと彼は考える。くすんだ色彩の物置の中で、しかしその袋の中身は際だって色彩豊かだった。緑や赤、若草色、ブルー。マフラーや手袋。革張の手帳。色とりどりのピクルスの瓶詰め。珍しい形のパスタの瓶詰め。キャンディーの瓶詰め。美しい焼き付けをされたガラスのペン。揃いのデザインのインク壺。カフスボタン。貝をはめ込んで漆を塗ったらしいブックスタンド。
 断言できないが、この品の持ち主は大変に趣味の良い人だったのではないかと予想するのは容易だった。シリウスに見せればきっと目を細めてこれらを褒めるに違いなかった。
 彼は麻の袋を立て直す。すると袋の中にはまだまだ真新しい品物がぎっしりと詰まっており、その一番上にはスノウグローブが載っていた。ガラスの球体の中で雪が降っている。降り込められている建物、その形はルーピンにも見覚えがあるものだった。塔多い特徴的なシルエット、それは母校ホグワーツだったので。


「これは君のだろう?」
 それを見せられたシリウスは「そうそう、忘れていたんだ」というような事を言って軽く感謝をする。それで会話は終了するとルーピンは思っていた。しかし顔に煤を付けたまま麻袋を右手に握った状態のルーピンを見て、シリウスはその時ちょうど拭っていた皿を足下に落とした。もちろん皿は粉々に砕け散る。その異様な反応に、どうやら自分は見付けてはいけない物を見付けてしまったらしいとルーピンは悟る。
「何か知らないけどごめん。戻してくるよ。忘れてくれ」
 速やかに廻れ右をした彼は、しかしシリウスに呼び止められた。
 振り返ると、どうにも目の泳いでいる彼が「その……」と何かを言いかけている。こういう状態の彼がしどろもどろで何かを言う場合、自分にとってはあまり目出たくない告白をされることが多かったルーピンは少し目を閉じる。
「何かな?」
「それは……」
「うん」
「……なんというか」
「いや、君が言いたくないことを無理に聞こうとは私は思わないよ?」
「見付かったのも何かの縁だし……」
 シリウスという男を知らなければ、それらは全て盗品である等の予想をしたかも知れない。しかしルーピンはシリウスという人間をよく知っているし、第一麻袋の中にはレシートも一緒に入っていた。半年ほど前の物もあれば先月の物もある、目の回りそうな金額のレシートが。
「見付かりたくなかったというのは取り敢えず分かった」
 彼は「違……」と言いかけた。そして目を閉じて「懊悩」というタイトルの彫刻のように静止した後、とうとう言った。

「お前に渡そうと思っていた。誕生日のプレゼントだ」

「誕生日?」
 ルーピンはこの十数年ろくに思い出したことのない数字を記憶の片隅から引っ張り出してみるが今日の日付とはまるきり遠く、到底合致するものではなかった。
「…………君の?」
「…お前に物をやるんだからお前のに決まっているだろう!」
「でも私の誕生日は今月じゃない。言わせてもらうなら来月ですらない」
「そんな事はわかっている!」











この作品は2005年に友人Cさんが
ぽーんと送ってくれたものです。
(私がちょっと加筆しているのですが、2年以上前のことで、
どこが私の加筆部分なのか見てもさっぱり分かりません)
ところでその後友人Cさんは続きを書いてくれない訳ですが
犬にビーフジャーキーをちらりと見せてそのあと隠すみたいな、
そんな酷い真似をするのはよくないと思います!(笑)
友人Cさん宛に「続きを書いてあげて!」メールをどしどしお願いします…
と言いたいところですよムキャー。

結局シリウスは何がしたかったのよう!

2008.03.10