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タイトル報告書出さな杉
記事No1383
投稿日: 2015/11/22(Sun) 02:16
投稿者MT
報告書があまり出されないという問題に関して、海外での発掘の経験はなく、また海外での発掘の報告書を読んだことはないですが、個人的にこういう理由もあるんじゃないか?と思うあたりを述べさせていただきます。

出版の費用もそうですが、個人的には基本整理に時間や金がかかるのも大きいと思います。遺物で言えば、遺跡から取り上げた遺物は土器の一片に至るまで全て、「どの調査でどの遺構の堆積土第何層から出土した」っていうのを書き込むのはご存知ですか?ポスカで極小の文字で手書きするんですね(※1)。ネーミングと言います。そうしないと遺物は行方不明か所属不明になってしまいます。そのあたりや、遺物の確実な検証のためには全て、洗う→ネーミング→接合や復元 という手順を踏まねばならず(※2)、その人員や賃金、時間も相当なものになると思われます。もちろん、調査の規模が大きければ大きいほど… で、洗ったり接合したりしてみないと何とも言えないことも多いんですよ。

図面関係は、現地で取ったデータはそのまま掲載できるような形にするのは難しいでしょう。トータルステーション+タブレットでリアルタイムに調整しながらならある程度は可能でしょうけど、電気がないようなところで調査するならセクションポイント作って水糸張ったり、グリッド設定して水糸張ったり、平板測量したりして方眼用紙に鉛筆書きでしょうから、たとえ同人出版でもそれをそのままコピーしたやつを張るわけにもいかないでしょうしね… もちろん、平面図と断面図で同じ個所の長さが違ったりするわけにもいかないですから、そうした部分の調整とか確認も必要です。線のつなぎ方が間違ってて凹凸が逆になってたよ!とか、同じ壁面の北と西で土層の数が違ったよ!とか、笑えないけどよくあります。一度出版したら正誤表を配ったりも難しいですしね…(それで刷ったのに差し止めになった報告書なんかもあるみたいです)

こういう整理や分析や、プログラムで言うところのデバッグみたいな作業が、リンク先資料で「最後の1年はまるまる報告書に費やすべき」っていう部分の中身(の一部)になるのかと思われます。こういう部分に十分な計画をしてる人が少ないってことでしょうか…

もちろん考古学全体の閉鎖感というか、なかなか自由な発言・発想が難しく、論や構想の発表の機会が少ないという傾向はあると思います。報告するからには論に穴を作るわけにはいかない、考古学界の中で恥をさらすわけにはいかない、というのも。これもリンク先資料の中でたびたび書かれてますね。
また、考古学会は一般向けの情報発信やライト層へのPRがとことん下手というか、基本的に意識してないんだとも感じます。なんていうか、こじらせたオタクかつ偉い人の集まりって感じが…下の方から見上げる限りは… 一般向けニュースやライトな発表方法がなかなか出てこないのも学会の格式やらが邪魔してる気がしないでもないです。何らかの確実に問題と言える事態が生じ、文科省で有識者による検討委員会が立ち上げられて、ネット上での公開に関する基準やら標準やらが設定される時が来るまで実現しないのではないかとも思えてしまいます…

というわけで、「出版自体の金がないというだけではないのではないか」という点と、「現地で取った記録はそのまま使えるわけじゃない」という点、ざっと思うところを述べさせていただきました。
深夜の勢いで書いてますのでかなりの駄文なうえ長文、失礼いたしました。


※1 日本国内でのやり方で、海外の物については違いがあるのかもしれません。また手法については、マイクロチップなどを使用することもありますが、まだ主流ではないと思われますし、これもこれで機械導入などのコストがかかると思われます。

※2 植物遺体や骨などの場合、さらに保存処理が追加になることもありますね。

タイトルRe: 報告書出さな杉
記事No1384
投稿日: 2015/11/22(Sun) 11:56
投稿者岡沢 秋
参照先http://55096962.at.webry.info/
ふむふむ…なるほど。参考になります。

いやあ、報告書は、不完全でも途中で出しといたほうがいいと思うんですよね。忘れるし…後々になると作業が膨大になっちゃうし。掘ったあとの報告までが一つの作業でしょう。プログラマがプログラミングしたあと何もドキュメント残してなかったら死ねのレベルですし。仕様書のないプログラムは使えない。

>洗う→ネーミング→接合や復元

「洗う」まではやったことがありますね、大学の頃に他学部の手伝いで…ネーミングも見てました。
大変な作業なのは分かりますが、にしても報告書が出てない遺跡がこんなにあるのはどうなってるんだという感じでした。手間がかかるだけなんだと思っていたので、まさか「出版する金がない」などという理由にもならないような理由が隠れてるとは思わず(笑)

時間と人手はすぐなんとかならないけど、お金の問題だったらサクっと解決できるやろーと思った次第です。


ゼロとイチとの間にはものすごい差がある。
多少間違ってても不完全でもいいんで、とにかく何かの形は残したほうがいいと思う。

考古学世界のお堅い感じは、私は外部者なので何も言えませんが(´・ω・`) ハイ。