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タイトルドナルド.A.マッケンジーの北欧本が駄目なわけ
記事No1513
投稿日: 2016/11/26(Sat) 12:02
投稿者ぶんきょうく
某所ではお世話になっております。
表題の件ですが、「著者が参照している別の著者の著書の内容がトンデモなので駄目」
という結論に至りましたのでご報告に上がりました。

発端は某Wikipediaの「ヒューキとビル」を執筆した後、なんとなく記事名でググってみたら
「ヴュルギルには蜜酒が湧いている」やら「マーニはヒューキとビルの親父にブチ殺された」という内容の
サイトや書籍に行き当たり

「ドナルド.A.マッケンジー味(み)を感じる…」(図書館で借りて読んだだけで手元にはありません)

と、思ったのが最初でした。
で、ちょっと調べて宇宙科学探究倶楽部(学○)の出版物と、天文台の子供向けサイトが参照している本が同じもの
(「ビュ」ルギルを「ヴュ」ルギルと誤記しているのが同じ)であることは推測出来ました。

しかし類似のネタがどこかにないか探す過程で、某神様コレなんとかというDB的な何か(お察し下さい)も一応見たところ
ヒューキとビルの親父ヴィズフィン(ル)がイーヴァルディ(シヴのヅラやフレイの船やグングニルを作った侏儒の父)で、
ヴェルンドの親父でもある、みたいなことを書いてあり、やっぱりマーニは殺されているしで、なかのひととやらが
山ほど上げている参考文献の神様事典的な書籍のどれかの編者が独自に作った話とばかりとも思えなくなりまして、
とりあえず納得行かないビュルギルと蜜酒で検索すれば何か引っ掛かるのでは、と「mead」と「Byrgir」調べてみたところ
とんでもネタの元がどうやらドナルド.A.マッケーンジー氏が参考文献に上げている著書の著者ヴィクトル・リュードベリ氏で
あるっぽいという結論に至りました。

D.A.M氏の参考文献であるリュートベリ氏の"Teutonic Mythology" (Viktor Rydberg と表題で検索すると英語訳(著作権が切れているので)が読めます)は
少々難解なのでお薦めしませんが、mead Byrgirで検索すると出て来る"Our Fathers' Godsaga: Retold for the Young"(Viktor Rydberg氏の子供向けの
北欧神話再話本の英語訳)の試し読みでビュルギルから蜜酒が湧いてて、ヒューキとビルがおじいちゃん(マーニ)に攫われる話が読めます。

ミーミルの泉はビュルギル(泉)と繋がってたんだよ!!
ΩΩΩ<ナ、ナンダ(ry

月の神(マーニ)は娘をイーヴァルディに簒奪されていたんだよ!!
ΩΩΩ<ナ、ナン(ry

ヒューキとビルはマーニの娘の子供だったんだよ!!
ΩΩΩ<(ry

イーヴァルディはヴェルンドの親父だったんだよ!!
Ω(ry

と、突っ込みが追いつきません。
『ゲルマン神話』に採用されている「フリッグはノート(夜)とニョルズの娘でヴァン神族」のネタ元もこの人の模様…。
シヴのヅラがヴェルンド作とは知らなかったぜ…とか(おまけに品定めで負けてるし)。

どうやら私が今まで感じていた「ドナルド.A.マッケンジー味」の正体は「ヴィクトル・リュードベリ味」だったようです。
ちなみに"Our Fathers' Godsaga: Retold for the Young"は2002年出版と比較的最近出版された再翻訳(原著はスウェーデン語)らしいですが、
Amazon.comのレビューでは割と絶賛されていて(´・ω・`)という感じです。

こんな本子供や初心者に薦めちゃ駄目だろう、というのが正直な感想です。

とはいえ、D.A.M.氏自身がもともとジャーナリストである点や、執筆された20世紀初めごろは、流行していたにしても北欧神話をまとめた本が
ほとんど無かったこと、V.R.の『ゲルマン神話(の研究)』が出版当時非常に注目された(そうです)点などに鑑みれば、
D.A.M.氏自身にはあまり罪は無いのかもしれません。

ちなみにV.R.氏の『ゲルマン神話』も、world millの着想などは評価されているものの、「学識的視点を欠き牽強付会すぎる」
ということで、ほとんどコンセンサスを得られていないとか(この辺りは英Wikipedia参照)。

以上ご報告まで。

タイトルRe: ドナルド.A.マッケンジーの北欧本が駄目なわけ
記事No1514
投稿日: 2016/11/26(Sat) 18:24
投稿者岡沢 秋
> 某所ではお世話になっております。
あーどうも、最初びくっとしましたがあそこの人ですよね(笑

> 表題の件ですが、「著者が参照している別の著者の著書の内容がトンデモなので駄目」
> という結論に至りましたのでご報告に上がりました。

なるほど…! あんまりにもオリジナル設定大杉なんで、これは神話本じゃなくて二次創作みたいなもんだ。と思ってたんですが、いちおう元があったんですね。。。元のほうも創作物っぽい雰囲気ですが。。



> ミーミルの泉はビュルギル(泉)と繋がってたんだよ!!
> ΩΩΩ<ナ、ナンダ(ry
>
> 月の神(マーニ)は娘をイーヴァルディに簒奪されていたんだよ!!
> ΩΩΩ<ナ、ナン(ry
>
> ヒューキとビルはマーニの娘の子供だったんだよ!!
> ΩΩΩ<(ry
>
> イーヴァルディはヴェルンドの親父だったんだよ!!
> Ω(ry

どうしてそうなったwww そりゃツッコミ追いつかないわww

北欧神話は断片的なテキストしか残ってないせいか、間を空想で埋める系の謎解釈が多い気がします。

> とはいえ、D.A.M.氏自身がもともとジャーナリストである点や、執筆された20世紀初めごろは、流行していたにしても北欧神話をまとめた本が
> ほとんど無かったこと、V.R.の『ゲルマン神話(の研究)』が出版当時非常に注目された(そうです)点などに鑑みれば、
> D.A.M.氏自身にはあまり罪は無いのかもしれません。

うーん、でも1927年に出たグレンベックの本(邦題:北欧神話と伝説)なんかは、今読んでも学ぶところの多い良い仕事してるんで、時代の問題でもなさそうな。

> ちなみにV.R.氏の『ゲルマン神話』も、world millの着想などは評価されているものの、「学識的視点を欠き牽強付会すぎる」
> ということで、ほとんどコンセンサスを得られていないとか(この辺りは英Wikipedia参照)。
>
> 以上ご報告まで。

ありがとうございます。
なんとなく雰囲気わかりました。たぶん「アーサー王はスキタイ人だった!」説の人と同じような扱いですかね。(一部熱狂的な信者はいるけど学者は冷めてる的な)

タイトルRe^2: ドナルド.A.マッケンジーの北欧本が駄目なわけ
記事No1517
投稿日: 2016/11/28(Mon) 15:38
投稿者ぶんきょうく
> > 某所ではお世話になっております。
> あーどうも、最初びくっとしましたがあそこの人ですよね(笑

ですですw

> なるほど…! あんまりにもオリジナル設定大杉なんで、これは神話本じゃなくて二次創作みたいなもんだ。と思ってたんですが、いちおう元があったんですね。。。元のほうも創作物っぽい雰囲気ですが。。

名前しか出て来ないようなキャラクターが大活躍したり縁づいたりする無理矢理感が何ともいえません_(:3ゝ∠)_

> 北欧神話は断片的なテキストしか残ってないせいか、間を空想で埋める系の謎解釈が多い気がします。

仮に根拠があるならソースが欲しいところです。


> うーん、でも1927年に出たグレンベックの本(邦題:北欧神話と伝説)なんかは、今読んでも学ぶところの多い良い仕事してるんで、時代の問題でもなさそうな。

グレンベックは本職じゃないですか(´・ω・`)
マッケンジーとは15年も間が空いてますし。

グレンベックというと山室静氏が北欧神話の本を書きたいけど
まとめるのが大変なのでグレンベックの本を先ず翻訳したという
エピを思い出します。

> ありがとうございます。
> なんとなく雰囲気わかりました。たぶん「アーサー王はスキタイ人だった!」説の人と同じような扱いですかね。(一部熱狂的な信者はいるけど学者は冷めてる的な)

むしろ、一部の着想は評価されているが他は時代が下るにつれて
廃れて取り上げられなくなったというイメージでしょうか(´・ω・`)
子供向け再話本なんかソーフス・ブッゲが絶賛したらしく「マジカ!!」
とか思いましたが_(:3ゝ∠)_

なので、あまり入門的な位置にはいて欲しくないなぁという感じです。

タイトルRe: ドナルド.A.マッケンジーの北欧本が駄目なわけ
記事No1529
投稿日: 2017/01/07(Sat) 14:21
投稿者通りすがり   <kaykamioka@msn.com>
つい最近から趣味で北欧神話を和訳しているのですが……
Bellows, Henry Adams氏の翻訳は大丈夫なのでしょうか?

当方は手元に資料が無く、ウェブで公開されている資料や本をベースにしているのですが(調べている最中にここのサイトを見つけました)

何分前提の知識が無く、少々不安になりました。

タイトルRe^2: ドナルド.A.マッケンジーの北欧本が駄目なわけ
記事No1530
投稿日: 2017/01/07(Sat) 17:54
投稿者ぶんきょうく
> つい最近から趣味で北欧神話を和訳しているのですが……
> Bellows, Henry Adams氏の翻訳は大丈夫なのでしょうか?
>
> 当方は手元に資料が無く、ウェブで公開されている資料や本をベースにしているのですが(調べている最中にここのサイトを見つけました)
>
> 何分前提の知識が無く、少々不安になりました。

私宛でしょうか(でなかったらごめんなさいです)
Henry Adams Bellows1923年の古エッダの英訳が信頼に足るかというお話でしたら

「翻訳も人によって解釈が違うので、どれが正しくどれが間違っている」

ということは出来ません。

当該英訳は、ぱっと見ではありますが翻訳に際して創意工夫を盛り込んでいるわけでもなく、
解説も邦語訳には無い情報があるので、参照するのは問題ないかと思いますが。

但しオンラインに依存した翻訳は危険かなとも思います(wikipediaも結構間違いが有ったりするので)。

固有名詞の音写(カナ表記)も底本によって綴りが違ったり、英語化されて原型から離れている、ということはよくありますし、
翻訳するに当たってある程度基準になる資料はお手元に置かれた方がよいと思います。

個人的には谷口幸男『エッダ 古代北欧歌謡集』(新潮社)を推します。
(ゲームの資料的に出版された出版物は参考文献のページ以外参考にはなりません)

タイトルさんくすこ
記事No1531
投稿日: 2017/01/07(Sat) 19:56
投稿者岡沢
(マッケンジーとかは原文にない文脈を勝手に付け足してるので、アダムスみたいな人とは全然レベル違うと思います…

(ただご存知だと思いますが古エッダは写本ごとに差異があり、「どれを底本に使うか」「欠損部分をどう修復するか」「ある単語をどう解釈すするか」で人によってだいぶ差異が出ます。ぶんきょうくさんが書かれてるとおり。

どれが正しいかを論じるのは、文書研究家じゃないからわかんないですがー…

シーグルズル・ノルダルのエッダと谷口訳のエッダを読み比べるのもオススメしたいです。「底本によって差異が出る」の意味が判ると思います。

タイトルRe: さんくすこ
記事No1533
投稿日: 2017/01/08(Sun) 02:52
投稿者通りすがり   <kaykamioka@msn.com>
> (マッケンジーとかは原文にない文脈を勝手に付け足してるので、アダムスみたいな人とは全然レベル違うと思います…
要するにマッケンジーさんが問題があると思われているだけの話しだったのですね
勘違い失礼しました

>
> (ただご存知だと思いますが古エッダは写本ごとに差異があり、「どれを底本に使うか」「欠損部分をどう修復するか」「ある単語をどう解釈すするか」で人によってだいぶ差異が出ます。ぶんきょうくさんが書かれてるとおり。
>
> どれが正しいかを論じるのは、文書研究家じゃないからわかんないですがー…
>
> シーグルズル・ノルダルのエッダと谷口訳のエッダを読み比べるのもオススメしたいです。「底本によって差異が出る」の意味が判ると思います。

シーグルズル・ノルダルを存じ上げなかったので調べておきます。
皆様、ありががとうございました。

タイトルRe^3: ドナルド.A.マッケンジーの北欧本が駄目なわけ
記事No1532
投稿日: 2017/01/08(Sun) 02:50
投稿者通りすがり   <kaykamioka@msn.com>
> 私宛でしょうか(でなかったらごめんなさいです)
> Henry Adams Bellows1923年の古エッダの英訳が信頼に足るかというお話でしたら
>
> 「翻訳も人によって解釈が違うので、どれが正しくどれが間違っている」
>
> ということは出来ません。
>
> 当該英訳は、ぱっと見ではありますが翻訳に際して創意工夫を盛り込んでいるわけでもなく、
> 解説も邦語訳には無い情報があるので、参照するのは問題ないかと思いますが。

これを聞いて安心しました、Henry氏の著作本はオープンソースで確認できるものでして……

>
> 但しオンラインに依存した翻訳は危険かなとも思います(wikipediaも結構間違いが有ったりするので)。
自分はこの間違いを認知できないのが不安です

> 固有名詞の音写(カナ表記)も底本によって綴りが違ったり、英語化されて原型から離れている、ということはよくありますし、
> 翻訳するに当たってある程度基準になる資料はお手元に置かれた方がよいと思います。
分かりました

> 個人的には谷口幸男『エッダ 古代北欧歌謡集』(新潮社)を推します。
> (ゲームの資料的に出版された出版物は参考文献のページ以外参考にはなりません)
谷口氏のエッダとアイスランド・サガなら手元にあります