訳、分かんないんだけど。
目が覚めてからの状況はあたしの頭と顔を真っ白くさせるには充分で。
だからって、この状況どうしたら良いのよぉ〜〜〜。
突発的な状況に身体と頭が着いていかないよぉ。
ねぇ、いい加減、放してってばぁ!!!
このままハンマーで殴らせて、お願いだから。
ヒトリノ夜
「じゃまあ、2、3日でかけて来らぁ」そう言って撩は昨日の夜、出かけていった。
冴子さんからの依頼。
問い詰めて吐き出させた結果、相変わらず貸しに釣られてあのバカは出かけていった。
あたしが怒鳴りつけているにも関わらず。
冴子さんも冴子さんで
「お願ぁい、香さぁん。助けると思ってぇ」
なんて甘えた声で言ってくる。
冴子さんはあたしをなんだと思ってるんだ!!!
思わずため息をつきたくなる。
冴子さんにいいように使われまくってる撩は払われもしないもっこりの為にいそいそと出かけていった。
冴子さんとの潜入捜査。
つまり、冴子さんのボディーガード。
依頼料払ってくれるんだか分かんない依頼は相変わらずだ。
その冴子さんからの依頼は結構ヤバイ事が多い。
撩なら大丈夫だって思ってるけど……やっぱり心配で。
ついでになんであたしも一緒じゃダメなんだ!!
って思わず文句も言いたくなる。
こういう時、かなり落ち込むのは相変わらずだ。
いろんな嫉妬が混ざってホントいやになる。
撩は実際問題あたしをどう思ってるんだろう。
あの一件(奥多摩での)以来変わったようで変わらないあたし達。
考えてもしょうがない。
もう、夜も遅いから寝る。
自分の部屋じゃなくって、撩の部屋。
………この事は実は撩に内緒なんだけど。
絶対に秘密なんだけど。
って言うか知られたら何言われるかってドキドキするんだけど。
撩が絶対に帰ってこないって分かってる日、あたしは撩の部屋で眠ってる。
…いつだろう。
最初にそうしたのって…ダンサーの次原舞子さんからの依頼の時。
あの時、撩が夜這いする為に悩んでる最中の避難場所としてあたしと彼女は撩の部屋を選んだ。
そしたら、思いっきり安眠できた。
なんか、寝たらホントに眠った〜〜〜〜って感じがしたんだよね。
思えばあの日が最初。
その日からと言うもの、あたしは撩がいない時限定で、あの部屋で眠ってる。
一番安全な場所だからなのかな……。
やっぱり。
麗香さんも撩のベッド下に荷物隠してたし。
ってあれは撩が眠ってるからの安全性よね。
…寂しいからとかって言う意味じゃないわよ。
多分、絶対に。
……………あるかも。
撩がこう事件とか依頼で出かけてる時は自分の部屋でゆっくりと休む事が出来ない。
アニキの時が原因の………トラウマのせい。
だから、撩がいない時は不安で仕方ない。
のみに行ってる時もそうかな?
怪我したらどうしようとか…こっちは心配してるのに、あいつは全然お構いなしに夜明けまで飲み明かしてる。
あぁ、もう、ホントやんなる。
……眠ったほうが早く時間が過ぎるのは分かってる。
でも、やっぱり不安だから。
少しでも、不安を解消する為に………。
なんて子供すぎるかな。
いない時ぐらい、甘えても問題ないわよね。
バレないんだし。
あいつは知らないんだし。
だから、昨日に引き続き今日も撩のベッドに入る。
2,3日って言ってたから……まぁ、3、4日かなぁ。
冴子さんも肝心な所言わなかったりするから。
そのせいで余計な事も増えたりするから…。
今日は帰ってこないと。
よし!!お休みなさ〜い。
ふと気配に顔を上げると撩がいた。
…あぁ、帰ってきたんだなぁ。
…早かったんだなぁ……。
なんて願望、これって夢でしかない。
どうせ、あいつは冴子さんとのもっこり要求に忙しいはずだ。
『どこにいるかと思ったら…お前なぁ……男の部屋で眠ってるなよ…』
呆れたような、困ったような、嬉しそうな??
なんで嬉しそうなんだ?
そんな声が聞こえる。
夢だから?
都合よし?
「冴子さんの仕事終わったの?」
聞いてる事は仕事の話。
夢だから聞いてみよう!!って言う心理を思いっきり働かせてみたら聞けた。
『あぁ、即行で終わらせた』
「貸し返してもらったの?」
聞きたくない事も聞くのは夢のせい?
そんな事聞きたくないんだけど……。
『………ば〜か』
???
どういう意味だろう。
『今回は………まぁ、いいや』
何がいいんだろう??
まぁ、いいや、夢だし。
あいまいな所も夢なんだろうなぁ……。
「撩…」
『ん?』
優しい笑顔で撩はあたしの声に応える。
「いつでも、側にいて?側において?」
夢だし。
いつもは絶対言えない事を言ってみよう。
夢で素直になれたら、現実でも素直になれる?
現実で素直になる為の予行練習として素直になってみようかな…。
『香……』
「撩がいなくって、寂しかったんだ……」
そう言ったら何故か抱きしめられた。
やっぱりこれ夢だぁ……。
撩があたしを抱きしめてくれるなんてあり得ない……。
なんか悲しい。
『こう、いつも素直だったらいいのになぁ……』
困った声が聞こえる。
「素直って……寂しかったのは本当だから………」
それは本当。
連れていって欲しかったのにあたし一人きりで。
あたしはそんなに頼りないのかなって思って。
撩がいない事にやっぱり不安で…。
一人が不安じゃなくって。
いつ帰ってくるか分からなくって不安で……。
『悪かったな。一人にして…。香、………』
ゆっくりと髪を梳かれる仕草にホッとしてあたしはまた意識を深く沈み込ませた。
……苦しい。
うーーーーーーー。
うーーーーーーーーーーー。
なんだか、異常に苦しい。
か、か、金縛り???
金縛りって全身が動かないんだよね。
なんて思ったら急に目の前が明るい事に気が付いた。
朝??
に?
金縛り???
朝っぱらから幽霊?
もう、冗談やめてよねぇ〜〜。
あたし、幽霊嫌いなんだからぁ〜〜〜。
懸命に目を開ければやっぱり朝で。
良い夢、見た記憶はあるのに、息苦しい目覚めは最悪だ!!!!!
…………。
なんか、気配を隣で感じるのは何故?
ちょっと待って、ちょっと待って。
え?え?え?え?
ゆっくりと動かない身体は放っておいて首だけ動かせば、そこには。
ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
思わず叫びそうになるのをスンでのところで止める。
あ、な、な、な、な、な、な、な、な、な。
な、何でこの男が帰ってきてるのよぉ!!!!
あたしが動かないように自分の腕と足を巻き付かせて拘束している人物はもちろん、この部屋の本来の持ち主で。
ちょっと待ってよぉ!!!
2、3日帰ってこないって言ってたわよねぇ。
な、何で帰ってきてるの?
バレたよ、バレたぁ!!!
いない時に撩の部屋で眠ってるって事ぉ!!
ど、どうしよう!!!
って言うか、帰ってくるんだったら連絡の一つぐらいよこしなさいよねぇ!!
って…こいつがするわけないんだった。
このバカどこかの女と間違ってあたしに抱きついてるのか?
ホント頭に来るぅっっ。
ねぇ、何で?
何で、目が覚めた瞬間にこんな最悪な気分にならなきゃならないの?
夢でのこいつの優しさは何処へ行った!!!!
夢は、夢でしかないのか?
くーーーーーーーーーーーーーーーーっっ。
なんか、悔しいし、悲しい。
って言うか、それよりもこいつが起き出す前に、ここから抜け出さなくっちゃ。
もしかしてバレてないかも?
……他の女と思って抱きついてるなら好都合。
それはそれでムカツクけど。
バレないうちに、自分の部屋にもどらないと。
問題は、どうやって抜け出すか。
かなり……強い力で拘束されてるんですけど。
なんか、完璧に巻き付いてるんですけど。
離してくれる様子ないんですけどぉ。
泣きたい。
今何時だろう。
伝言板見に行きたいよぉ。
って言うか、ここから抜け出したい。
あぁ、夢での「素直になろう」って言う決意はとうに消え去ったわ。
こんな状況下で素直になったらどうなるか。
からかわれるのは間違いなし!!!
どうあがいてもからかわれて、バカにされるんだぁ。
あぁ、なんか落ち込んできたぁ……。
「お前、さっきから、なぁに百面相してんだよ」
隣から楽しそうな声が聞こえる。
…………………………。
腕が少しだけ緩んだからすぐに背中を向ける。
相変わらず抜け出せる様子なし。
「背中向けるののなしだぜ?香ちゃん」
からかい交じりの声が背後から聞こえる。
………………。
「昨夜の素直な香ちゃんは何処にいったのやら」
………昨夜??
「って、あんたいつ帰ってきたのよ!!!」
もう一度寝返りうって(抜け出せないから)身体ごと撩の方に向ける。
「夜中。お前は熟睡してたけどな。帰ってきたら部屋にお前の姿がない。マジで焦ったんだぜ?」
…………。
じゃあ、あれ、夢じゃない。
「……………………」
「そしたら、おれの部屋ですやすや眠ってるし…なぁ」
苦笑してる撩にあたしは引きつった笑いしか浮かべられない。
「そ、それ、は」
「寂しかったんだろ?」
う、夢じゃない〜〜〜。
うわぁぁぁぁ、あたし何言ったっけ???
「香、お前のさ希望通りにしてやるよ。寝ぼけてたとはいえ、素直に言ってくれたお礼」
「お、お礼って何よぉ〜〜〜」
楽しそうに笑う撩にあたしは叫ぶしかなかった。
で、結局。
撩はあたしを抱きしめたまま、そのまま二度寝に突入。
動けないまま、あたし自身も二度寝に近いふて寝をする事にした。
仕方ない、バレたのはもうしょうがない。
でも、どこか楽しいのは、進展しそうだから。
それでもいいやって思ってしまった。
それは間違いだって後からって言うか、その夜から思い知らされる事になるんだけど…。
その時のあたしは、撩が他の女の人じゃなくってちゃんとあたしだと認識した上で抱きしめてくれてるんだって言うのが分かってまぁ、幸せだったんだ。
『お前の望みと…おれの望みは一緒なんだよ……。だから、香、おれの側にいてくれ。おれが側にいる事、許して欲しいんだ。な』