ホントの所は、見てもらいたい事。
だから知らせないで黙って向かう。
背後にいる事気付かれてないだろうけど。
黙って向かう事多分、気付いてるだろうけど。
「香」
背後からの声に香は身を凍らせる。
いつの間にか香の背後には撩の姿。
香は撩に悟られないようにさりげなく振り向いた。
「な、何?撩」
緊張で香の声は上ずる。
吹き抜けの通路。
行く先は玄関。
内心、気付かれない事を祈るように香は撩からの返事を待つ。
「お前、どこに行くんだ?」
撩の声もさりげない。
香の内心の焦りに気付いているのかいないのか。
気付いていてそれを香に悟らせないようにしているのか。
香にはどちらだか検討がつかない。
だとしても、今ここで撩にバレるわけにはいかなかった。
「ちょ、ちょっと買い物に………」
そう言ってごまかされる相手ではないのは充分承知している。
なんたって自分と相手は長年共に生活している間で自分の性格はおそらく相手は手に取るように分かっていると香は理解している。
だとしても、ごまかされて欲しいのが本音で。
「ふ〜〜〜ん、買い物、ねぇ」
どことなく皮肉げな言い回しに香は微動だに出来なくなる。
もしかして行き先バレてる???
目が泳ぎそうになるのを必至にこらえて香は言葉をつなごうと口を開ける。
「そう、買い物」
「どーでもいいけどお前、財布は?」
撩の何気ないその言葉に香は止まる。
今の香の格好は、買い物行く様子はまるでない。
バックは持たずに手ぶらと言えば手ぶらで………。
片手で背後に持っているものは振り向きざま急いでスカートのベルトに引っかけた。
「え、あぁ、お財布〜〜〜〜〜」
撩の言葉に動けなくなってしまった香はその場でどうしていいか分からず戸惑う。
「ぷっ」
「へ?」
戸惑う香をよそに、撩は思わず吹き出していた。
「撩?」
「お前、ホント分かり安すぎだって」
「な、何がよぉ」
確実にバレていると分かってはいるもののまだ誤魔化せるか?
との期待を込めて反論してみる。
「分かりやすすぎって何がなのよ」
「射撃場いくんだろ」
まだ笑いが止まらない撩の言葉に香は肩を落とす。
「……分かってたのなら、何で聞くのよ」
「そりゃ、お前が知られたくなさそうだからさぁ〜〜」
「ちょ、ちょっとあんた!!!」
怒りだした香の横をすり抜けて玄関の方へ撩は向かう。
「撩!!あんた人の事からかっといて、どこに行くのよっ」
「ほら香、お前行きたいんだろ?」
「………え……」
香の方を向いて撩は苦笑交じりに言う。
「おれがいるから別にいいぜ」
「いいの?」
「おれがいない間にされるんだったら、いる時の方が良いだろ?たまには見てやるよ。お前の射撃」
「撩、ありがとう!!!」
撩の言葉に香は満面の笑みを見せた。
「たまには片手で撃ってみるか?」
両手で構えた香に撩は告げる。
「か、片手で?」
片手で撃つ。
それは銃を扱うものならば難しい事だと誰もが理解できる。
両手の射撃訓練は狙いを安定させる他に銃身の重みを両手で分散させる事にある。
狙いを定めるのなら片手よりも両手の方がより安定するのだ。
「動いている時、いつも両手撃ちにしてるわけいかないだろう?」
「わ、分かった」
撩の言葉に香は神妙にうなずき、構える。
「腕が下がらないように気をつけて」
「うん」
そしてトリガーを引く。
耳に届くにはさほど大きくない音がだが部屋には大音量で反響する。
「ま、まずまずって所だな」
的には当たったが中心とは言えない遠い位置。
「その減らず口がたたけなくなるようにして見せるわよ」
「期待してるぜ」
撩の軽口に香はいきり立つ。
「ほらほら、怒ってっと的に当たらなくなるぞ」
「わーかってるわよ!!!」
そう反論してみても、的に当たってくれない。
「お前の課題は集中力だな」
「な、何よ」
「文句言ってないで、的に集中」
その言葉にも反論しそうになったが香は思いとどまる。
めったにと言うよりもあり得ないくらいに自分の射撃を見てくれない撩が珍しく香の射撃を見てくれている。
このチャンスは早々めぐってこないだろう。
ただでさえ、自分が銃を持つ事にいい顔をしない男だ。
ここで文句行っていなくなられても困る。
香は小さく息を吐いて銃を構える。
「銃を撃つのに大切なのは集中力と冷静さ。それさえ忘れなければそうそう問題は起こらない」
と先ほどの自分の音よりも大きい音が響く。
隣で撩が愛銃で見本と言うばかりに的に狙う。
見事なワンホールショット。
発射音は確実にシリンダー分鳴らされているというのに、的に開いているのは一つの穴だけ。
「見ほれた?」
空薬莢を捨てながらからかうように言った撩に香はにらみ付けた後に的に向かい、撩の射撃スピードとは遅れた音で一発ずつ慎重に撃込んでいた。
「………ホントは……」
片づけをしている最中に撩はつぶやく。
「撩?何?」
聞きつけたのか香が撩の顔を見上げて聞く。
もう香の所は片づけが終わっている。
「………何でもない」
「そう言ってごまかさないで」
撩の言葉が終わる前に香が遮る。
その声に撩はため息をついて香に諭すように言う。
「ホントは、お前に射撃の訓練なんかさせたくないんだからな」
「………」
その撩の言葉に分かってるとは言いたかったけど、納得いかない。
香は俯いてそう反論する。
「言ったよな、おれは。お前に銃で人を殺させるような事もさせないって」
「うん」
「………下手な奴が下手に撃ったら下手したら相手は死ぬ」
「………うん」
「だからって、この世界にいるんだから銃を使わない訳にはいかない。だからおれはお前の射撃訓練に関しては文句言わないようにしてる。腕が上がれば好きな所に当てられるようになる。致命傷の所も、そうでない所も」
「……撩」
撩の名前を呼んで香は顔を上げる。
香の目に飛び込んできた撩の表情は笑顔でいてもどこか泣きそうで、香は胸が締めつけられた。
「そんな顔スンなよ」
逆に撩は今にも泣き出しそうな香の頭に手を置いてポンポンと軽くはたく。
「そんな顔ってどんな顔よ」
「さぁてね」
そう言って撩は片づけを再会させる。
「撩」
「んー」
「あのね」
何が言いたいのか、何を言いたいのか分からないまま香は撩の名前を呼んで逆に焦り始める。
「あぁ、おれがいる時だったら見てやるよ」
「え?」
「あんだよ」
「え」
「美樹ちゃんとこ世話なるのも悪いだろ?」
「……うん」
うなずいて香は不意に思い出す。
「ねぇ、撩」
「あ〜、お前ねぇ、人の掃除邪魔するんだったら手伝えよ」
「嫌よ、何であたしがあんたの空薬莢掃除しなきゃならないのよ。あたしはもう終わりました。じゃなくって、掃除しながらでいいから聞いてよ。ついでに言って」
「は?何を」
「あの時、あんたがとちったあのセリフ。ちゃんと聞かせてよ」
「お、おま」
「いいじゃない、さっきあの時いった事言ったんだし。あれも結構嬉しかったんだよね、あたし」
「それで充分じゃねぇか」
「嫌よ。とちったあのセリフ言った方はすっきりしてるかも知れないけどねぇ、あたしとしたら納得いかないんですけど」
「………香、おまぁ、性格悪くなってっぞ」
「聞かせてくれるんだったら何とでも」
上機嫌に部屋に戻る香に撩は復習を誓う。
「後で覚えてろよ!!!!」
その遠吠えにも似た撩の叫びに香は楽しげに階段を上っていく。
余裕な香の態度も撩が部屋に戻るまでの間の事で。
その後香はしっかりと撩に態度で示させられたのだった。