撩と冴子と槇村と

 彼の声を聞いていたら懐かしいあの人を思い出す。
 怪盗と殺し屋のコンビ。
 10年も昔の話……、そんなときの怪盗の話を思い出した。

彼女の記憶の奥のそこ 〜RAINBOW RAINBOW〜

 とある美術館。
「警部補!!中森警部補!!!!全員揃いました。!!!!!」
「来たか!!!!」
 中森警部補と呼ばれた刑事は走り込んできた部下の言葉に頷く。
「お前達、よく聞け!!!!」
 拡声機に向かって中森警部補は声を張り上げた。
 とある美術館では『いつもの光景』が広がっていた。
 世間を騒がしている怪盗キッドからの予告状。
 それがとある美術館に送られたのだ。
 指揮をとっているのは警視庁捜査二課の人間ではなく所轄である港署の盗犯係に所属している中森銀三警部補。
 彼は、怪盗キッドの最初の事件が港署の管轄内で起こった時からずっと怪盗キッドを追い続けていた。
 今のところ全戦全敗。
 だが、彼の執念から怪盗キッドに関する案件は港署で執り行うよう警視庁及び警察庁から特別に許可が下りていたのだ。
「と言う訳だ、全員心して掛かれ!!!」
 中森警部の号令に一同は声を上げる。
 世界中の警察を手玉に取る怪盗キッド。
 もちろん日本の警察も例外ではない。
 その悔しさに警察は躍起になっているのだ。
「…ふぅ、これがオレの港署での最後の事件になるのかな?」
 ふと呟く刑事。
 よれよれのコートに猫背とレンズの厚い眼鏡が特徴の刑事。
「槇村。お前の警視庁行きにこれで弾みが付けばいいんだがな」
「そうですね。いつもですが、中森警部補の執念には恐れ入ります」
「何を言う。お前の方こそ聞き込みの執念はすごいじゃないか」
「中森警部補に鍛えてもらったおかげですよ」
 そう言って槇村は周囲を見渡し、一瞬眉をしかめる。
「どうした?」
「気のせいでしょう、何かが光ったような気がしたんですが………」
 と視線を美術館の外に広がる森に目を向ける。
 その方にも警察官が張り込んでいる。
 何かがあると確信するには弱かった。
「こういう時のお前さんの勘は当たるからな、そっちの方に確認取ってみよう」
「申し訳ありません」
「何、奴!を捕まえるためだ。何でもやってやる!!!」
 中森警部補は槇村の言葉に力強く応えた。
「気のせいか?銃口かとおもったんだがな……」
 何もなかったとの報告に安堵しながらも槇村は小さく呟いた。

「間違いなく、見たな」
 銃口をあげて男は呟いた。
「気付かれたか?」
「さてね。ったく男からの依頼は受けねぇ主義なんだ。依頼料は弾んでくれるんだろうな」
 いったん銃をしまった男は隣の見つけてくれと言わんばかりの格好をしている男に声をかける。
「当然だ。わたしはビジネスをなれ合いで済ますつもりはないよ。アメリカ時代の知り合いだと言って依頼料を誤魔化すつもりは全くない。その所は信じて欲しいものだな撩」
 全身を白で包んだ男は銃を持った男…撩…に向かって言う。
「相変わらず、ビジネスライクなこって」
「なれ合いは、自分を甘くする。そうミック・エンジェルから学ばなかったかな?」
「けっ、男から勉強してどうすんだよ」
「相変わらずだな君は。さて、始めようか。じゃあ、手はず通りに。シティーハンター」
「了解、怪盗キッド」
 そう言って怪盗キッドは撩の側から闇に紛れて建物内に向かう。
 目立つ白を来ているのに男の気配はまるでない。
 自らの存在そのものを消している。
 怪盗キッドのマジシャンの度量と言うものを撩は改めて知らされたような気がした。

あとがき

突発ノートを閉鎖(笑)するので書いたログをこっそりアップ。
というわけで、「撩と冴子と槇村と」という何となく3角関係時代の話を書きたくてタイトルを作った。
以下は突発時代のまえがきとあとがき

今回は、まだ逢った事の無い二人の話。
すれ違ってもしかするとCH91のリカ王妃の話に続く感じかな?
ついでにRAINBOW RAINBOWにリンクしたりします。
……撩サイドが短い。まぁ、そんなものさ。
一応、伏線〜。ミックの名前出しちゃった。
出すつもりなかったんだけど。盗一さんの名前は全く出さずに。
一応中森警部は8年前の時点で警部補と言う事になってます。 って言うか、しました。
警部にしようかと思ったんだけど………警部補の方がいいかな?って思って。
私的槇村兄設定。兄は、出だしは所轄、その後本庁に栄転で新人の冴子と組む。
って感じです。
冴子はキャリアで警部補スタート。な感じ?

初出:2006/07/16
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