夏の終わり。
昼下がりの浜辺。
秋に似合う曲と共に。
コマ送りで彼女の姿が映しだされる。
振り向いてはにかむように微笑む。
『夏の熱を残しながら秋色に染まる君に恋をする』
有名なナレーターのBGMと共に差し出される手を嬉しそうにとる彼女。
『ERiE デビュー』
「何よ、これ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
あたしの目に飛び込んできたCM。
のんびりお昼食べてる場合じゃないってばぁ!!!!
ビデオ、ビデオ、録画録画っっ。
お昼ご飯を食べながらテレビを見ている。
お行儀が悪いと家では怒られるが、今いる所はすぐ上の姉の事務所兼家で。
あまり怒られない。
ずっと居座ると怒られるけど。
ついでに隣の家に行きたくても上の姉二人に止められてすこし悲しい。
と言うかつまらない。
進展したという二人を取材したいのは自分だ。
ネタにするからねって脅せば姉は解放してくれるかも知れない。
けど、逆に家に強制送還されかねない可能性も否定しきれないから余計な事は言わずに我慢しておく。
で、のんびり休日の今日お昼の番組を見ながらお昼ご飯を食べている。
自分で作っているのが寂しいけど。
たまには隣の楽しい食事にまざりたいけど。
で。
何度も今流れているこのCMは一体なんだろう。
見つけて叫んで、思わず録画した自分が偉いと思わず思う。
昨日までは見た事なかったから、今日から初めて流れるCMなのだろう。
今少しだけ外に出ている姉に見せたい。
その思いだけで、何度も流れるCMをチェックする。
基本的にCMは15秒と30秒。
そのCMにも2パターンある事に気が付いた。
女性一人のパターンと最後にワンカットだけ出てくる+男性パターン。
Eri Kitaharaの新化粧ブランドERiE。
のCM。
新化粧ブランドの話は前から雑誌等で見ていた。
新色も発表されていた。
CMはその新色の宣伝ではなくERiEその物の宣伝。
一応新色イメージのCM。
『夏の熱を残しながら秋色の君に恋をする』が彼女だけで。
『夏の熱を残しながら秋色に染まる君に恋をする』が+彼のワンカット。
連写機能を使ってとられたその映像は、その瞬間をしっかりととらえている。
「何見てんのよ」
「お、お、お帰りお姉ちゃん」
「何よ。変な娘ね」
「見てよ、見てよ、見てよ!!!!」
とCMを再生する。
曲がかかりコピーが流れる。
人気のない海辺。
時間的に言えば昼間で、遠くでは犬を散歩している人も映り込んでいる。
そして夏の終わりにふさわしいワンピースを身に着けた彼女(どう見てもEri Kitaharaの新作ワンピ)が振り向いて微笑む様がしっかりと映し出されている。
「う、うそ!!!」
「うそじゃないってばぁ、お姉ちゃん、しかもこれすごいんだよっっ」
興奮気味に言えば、最後のワンカットが登場する。
彼が彼女の手を取る所。
「ちょっと、唯香。これっっ」
「これって、言わなくたって分かるでしょう?麗香お姉ちゃんっ」
ワンピースを着ている彼女は茶色の癖っ毛で。
ワンカットだけ登場する彼はいつものいでたち。
見ただけですぐに分かる。
彼の顔は見えていないが、おそらく彼女の表情からしてとんでもない顔(変な顔ではない。彼女は頬を染めている!!!)しているはずだ!!!
「あんな香さんの顔、見た事ないわよ」
姉は驚いた顔で何度も何度も再生している。
「ねぇ、これ冴羽さん知ってるの?」
「…知らないわよっ」
聞いても取りつく島もない。
何となく隣の状況が目に見えたような気がして、ますます取材意欲が沸いてくる。
当てられるだけかも知れないけど。
「いつの間に海行ったのかしら?」
「お姉ちゃんチェックしてるの?」
姉の職業柄と姉の撩に対する行動を考えて唯香は問い掛ける。
「まさか、でも何となく分かりそうな気がするのよ。基本的に単純だから」
どちらがとは言わないで姉はCMを見続ける。
姉のその画面の凝視の仕方は自分が小説を書く時の相手を観察する様子に似ているような気がする。
最も、元刑事で現在は探偵の職業そのものといってしまえばそれまでなのだが。
「唯香、行くわよ」
ディスクをとり出し玲香は唯香に言う。
「何処に?」
「決まってるじゃない隣よ。これ見せて、事の真相聞くのよ!!!」
そう叫んだ麗香に唯香はため息をつく。
ごめんね、冴羽さん、香さん。
姉と一緒に今から襲来します。
でも、取材させてね。
………取りあえず、反省は帰ってからしよう。
姉に引きずられてきたっていう愁傷な面を見せてこっそり取材敢行よ!!!
なんて思う自分は案外しっかりしてるのかも。
と周りの人間が聞けば案外どころじゃないだろうと突っ込みを入れられそうな気もするが、ともかく、唯香は麗香と共に隣のマンションへと向かう。
当分の間は出入り禁止になる事覚悟の上で。