「はい…わかりました」
そう言ってオレは携帯を切る。
ふぅ。
毎度のごとく目暮警部からの事件へのお誘い。
別にそれは構わない。
不謹慎とは言え、絶対的な自信を持つ犯人の論理を崩していくのは楽しいし、わくわくさえする。
だからオレは探偵をやめるつもりは全くない。
オレは謎を解くのがスキだから。
だが……それは…オレが一人ならばと言う前提がつく。
探偵やめる気ないなら一人になればいいんじゃないか?
て思う奴もいるだろう…。
でもオレは嫌だから…。
休日の今日オレはサーファーな友人に穴場を聞き尚且つ、色々考えて蘭を連れてきた。
そう、蘭と二人きり。
いつもだったら邪魔する服部&快斗はいない。
快斗は青子ちゃんと買い物で、服部は和葉ちゃんと家でごろごろとしているはずだ。
「……蘭……」
さっきの電話に何も言わない蘭にオレは恐る恐る声を描ける。
「何?」
「あ、あのさ…ごめん」
いつもの言葉を恐る恐る蘭に告げる。
「…わかってるよ……」
とオレに顔を向けずに窓の外に顔を向けている。
…やばい…。
かなり怒っている。
今月に入って何度目だ?
蘭とのデート中に呼び出しを食らったのは……。
考えたくもない…。
車が信号で止まった時だった。
突然、車のドアが開いた…。
オレはあけた記憶がない。
開けるとすれば…助手席に乗っている蘭……。
「蘭…何してんだよ」
「降りる」
そう言って蘭は車から降りる。
「な、何でだよ」
「だって新一事件解決に行くんでしょ?せっかくここまで来たのに帰るなんてもったいないもの…。新一、行かないでって言ったら、行かないでくれる?そんなの無理でしょ。わかってる。だからよ」
そう言って蘭は車のドアをしめる。
蘭のシャンプーの香が残る車内でオレは呆然と蘭の姿を目でおう。
次の瞬間けたたましくクラクションが後ろの車から鳴らされる。
信号に目をやると…青に変わっていた。
仕方なくオレは車を走らせ…交差点を超えた辺りで車を一時停止させる。
が…蘭の姿は…すでに遠くまで行っていた。
まずい。
このまま蘭を放っておいたらどうなるかわかったもんじゃねぇ。
誰とも知れん奴が蘭の事をナンパするともかぎらねぇし。
仕方ねぇ。
オレは携帯に勝手に入れられた短縮2の番号を押した。
ワンコールなるかならないかで相手は電話口に出る。
『工藤!!!なんや?どないしたんや?』
「服部、今から言うところにいって事件解決してくれ」
『せやから言うたやろ。何のためにおれらがいるかわからへんやんか……』
オレの言葉に服部はすべてを悟る。
『事件のことはオレにまかせとき、パパーッと解決したる。せやから工藤は蘭ねーちゃんと遊んできいや。目暮警部にはオレからよー言うたるから』
「……服部……」
『な、工藤。土産楽しみにしとるからな』
「いいやつだな。服部」
『今ごろ気付いたんか?』
「ハハハハ。頼んだぜ」
『言われんでも、わかっとる』
服部に事件の解決をまかせ、オレは携帯を切る。
こういうときは助かる。
服部や快斗がいてくれること。
多分、服部のことだから事件現場に快斗も呼びだすんだろうなぁ。
ワリィな、二人とも。
ともかくオレは蘭を探すために蘭が向かった方向に車を走らせる。
どこに、いるんだよ、蘭。
あてもなく車を走らせるわけにも行かないので、取りあえずオレは蘭と向かうはずだった海へ向かう。
でも…蘭…方向音痴…なんだよなぁ。
それに早く捜さねーとやべーし。
いつそこら辺にいるサーファーにナンパされてるかもわからねぇ。
海岸沿いの道路までやって来ると蘭が一人で歩いていた。
海から吹く風に蘭は気持ち良さそうに歩いていた。
そんな蘭にオレはしばし見とれてしまっていた。
が、そんな蘭に見とれていたのはオレだけじゃなかった。
サーフィンを終えたばかりのサーファーや、その海に遊びに来ていたナンパ野郎までが蘭を見ていたのだ。
何でオレ、あの時目暮警部に
「すいません、オレ今都内じゃないんです」
って言わなかったんだろう。
何でオレ、
「服部がいるから服部に行かせます」
って言わなかったんだろう。
蘭に視線を向けている男達をみてオレは後悔し始める。
「ねぇ、君一人だったら遊ばない?」
突然、蘭が二人組みの男に声をかけられる。
「え…ごめんなさい。そんな気全然ないですから」
何なんだ?
「えぇ、そんなこと言わなくてもいいじゃん」
「困ります」
遠いから、蘭と男達の会話が聞こえない。
だが、だいたいのことは想像がつく。
「そんなつれないこと言わないでさぁ」
突然、蘭の腕を男が掴む。
蘭にさわんじゃねーよ!!!!
「は、離して下さい」
蘭がその腕を振り払おうとするがどうしてもうまくいかない。
オレは車を走らせ、蘭がいる隣につける。
そして、車から降り、蘭に声をかける。
「蘭、何してるんだ?」
「し、新一?」
驚いた様子で蘭はオレの顔を見る。
でもすぐに顔を伏せる。
「何でいるの?」
「何でって…蘭、決まってんだろ。蘭にとっておきのもの見せるって約束したろ」
「新一、事件は?」
オレの言葉に蘭は顔を上げ不思議そうに聞く。
「服部達にまかせてきた。服部が言うにはこういうときのためにいるんだろだと」
そうだからオレは服部や快斗達と一緒にいる。
「いいの?」
「何?嫌」
「そういうわけじゃないけど…」
そう言って蘭は言葉を濁す。
「だったら早く車に乗れよ。もう3時だぜ。ホテルのチェックインさっさと済ませて遊ぼうぜ」
蘭はオレの言葉にうなずき車に乗り込む。
後に残っている呆然とした男達二人にオレは一瞥を与え、且つ鼻で笑い車に乗り込み予約しているホテルへと向かう。
「ホントにいいの?事件放っておいて」
「平気だって言ったろ。服部と快斗が現場に行ってるって」
「でも、…目暮警部とか驚くよ」
「……そうだな……。まぁ、目暮警部には服部が行くこともあるって言ってあるから別に平気だよ」
「そうなの?だったらいいけど……お父さんが知ったら怒るよ。遊びでやってるのかって」
おれの言葉を受け、蘭はうつむきそういう。
「…遊びって訳じゃないさ…。服部や快斗そしてオレの三人で決めたことなんだよ。蘭や和葉ちゃん、青子ちゃんを泣かさないようにするにはどうしたらいいのかってな。このこと佐藤刑事や高木刑事は知ってるよ。目暮警部は服部や快斗が行くのを知ってることぐらい」
そう、三人で決めたことをまずはオレの実情を詳しく知っている佐藤刑事と高木刑事に話した。
そしておっちゃんにも。
おっちゃんの本音はあんな目にあったオレに事件には首を突っ込んで欲しくないって言うことだからな。
って言うよりも事件に首を突っ込んだオレを泣きながら待つ蘭を見たくないって言うのがあるんだと思う。
そして、最後に目暮警部に話した。
詳しいことは知らない目暮警部は最初、事件があったらオレ以外の人間が行く…つまり服部か快斗…と言うことにあまり納得が行ってなかった。
けど、佐藤刑事と高木刑事の説得のおかげで目暮警部は納得してくれたのだ。
「そうだったの…」
蘭はオレの方をみてそう言ったきり黙ってしまった。
ホテルに着くと支配人がやって来た。
「工藤新一様でいらっしゃいますね?お父様の工藤優作様にそっくりでいらっしゃいますね。お待ちしておりました。今、お部屋の方にご案内させていただきます」
オレと蘭の前を歩く支配人に蘭は驚きオレに話しかける。
「ちょっとぉ、どういうこと?」
「昔、父さんがここら辺に来るときはいつも常宿にしていたホテルだよ。あの人はこのホテルの支配人。父さんが懇意にしていたホテルだから来たんだよ」
「ホント道楽息子なんだから」
「息子放っておいて海外を飛び回って遊んでるほうがよっぽど道楽だっつうの」
そう言うと蘭はため息を着いた。
「どうぞお部屋につきました。では後ゆるりとお過ごし下さいませ」
そう言って支配人は1階に戻っていく。
「どうぞ、蘭。中に入って」
オレの言葉に蘭は先に部屋に入る。
「うわぁー凄い綺麗」
このホテルの最上階のスイートルームの大きい窓からは一面に海が広がっているのが見える。
「だろ。一度来たことあるんだよ、オレもここに。父さんのホテルの缶詰め作業に着きあってな。その時この景色を蘭に見せたいと思ってたんだ」
そう言うオレに蘭は抱きつく。
「な、なんだよ」
「嬉しいの。新一がちゃんとわたしの事考えてくれているってわかって」
「あたりめぇだろ。いつでも蘭のこと考えてんだぜ」
そう言ったオレに蘭は意地悪そうに言う。
「事件の時も?」
「すいません、事件の時は事件に没頭」
素直に平謝り。
「わかってるよ。そうじゃなきゃ新一じゃないもんね」
そう行った蘭はオレを抱き締める力を少しだけ強める。
「嬉しかった。新一が事件よりわたしの方選んでくれて。でも、なんか不思議な気分だね。事件を優先しない新一なんて」
「一応…成長はしてるんだぜ」
「そうなの?」
「あのなぁ」
一応は成長してます。
昔だったら事件が完璧優先でした。
「そうだよね、わたしとのデートの時も優先してたものね」
「ハハハハ……ごめん」
「いいよ。わかってるから。事件おいかけない新一って新一らしくないものね…。あのね、新一、わたしね新一が…無事で…帰ってきてくれれば…それでいいの……」
不安…まだつきまとってるんだな。
無理もない。
オレもあの時の夢をよく見る。
体調が悪いときや、蘭と喧嘩したとき、蘭が腕の中にいないとき…。
そんなときよくあの悪夢の様な瞬間を夢見る。
そして全身汗だくで目が覚める。
その時することは体の確認。
「蘭…心配かけないよ。蘭のあの悲しい顔は二度と見たくない…。だから安心して欲しい。オレは蘭の側から離れたくないし、蘭に離れて欲しくない」
「大丈夫、わたし新一の側から離れるつもりないし、新一のこと離すつもりなんてないからね」
そう言って蘭はオレをまっすぐ見つめる。
いつからだろう。
オレはいつからこの蘭のまっすぐ見つめる瞳に捕らわれていたんだろう。
記憶にないぐらい昔なのか…。
多分、初めて蘭に逢ったときから…。
「新一…どうしたの?」
不思議そうに蘭はオレを見つめる。
「何でもないよ」
そう言ってオレは蘭の口唇をふさいだ。
「……新一……?」
「何?」
口唇を離した後オレの名前をよんだ蘭にオレは聞く。
「大好き」
…え……。
いきなり言われた言葉に顔中が真っ赤になる。
「な、何よぉ。照れないでよ」
「いきなり言うなよ」
「いつも言ってるじゃないのよ」
「いつもはいきなりじゃないだろ」
「もう、バカ」
何でバカなんだよぉ。
「新一はどうなの?」
蘭はオレをじっと見つめる。
「大好きだよ、蘭」
そう言ってオレはもう一度蘭の口唇をふさいだのだった。