「待ってや、かじゅは」
「はよせんとへいじ、おいてくで」
それはいつのころやったんやろか…。
かなりちっちゃいころやったような気がする。
その頃オレは和葉の後を「かじゅは、かじゅは」って言って追っかけとった。
いつの頃やったろう。
「かずはーーーーーおいてくでぇ」
「まってやへいじぃ」
と逆になったんは…。
「平次、平次はどこにも行かんよね」
「和葉……?」
和葉の言うた事にオレは驚く。
「平次、どこにも行かんと約束して。アタシ、平次がどっかに行ったら、蘭ちゃんみたいに待てられへんよ。平次がおらんと……アタシ」
いつかは言われると思うとった…。
何故だかわからんけど…。
工藤があんなんなってつらいのは傍から見ててもわかっとった。
どこかで他人のことやと…気楽に考えていた部分もある。
せやけど……。
「そばにおって。平次……」
和葉は話すことに夢中になったのかオレを押し倒すような格好になっている。
「和葉……少し落ち着き」
「何でや」
「ええから、この体勢考えろや」
「ごめん……」
オレの言葉で気がついたんか和葉は身体を起こす。
そして、オレからちょっとだけ離れる。
なんで、そこで離れんねん。
「和葉………」
離れたのが何や癪に触ったのでオレは和葉を抱き寄せる。
「…へ、へいじ……な……」
「和葉……一度しか言わんからよう聞けや」
……工藤もつらかったんやろな多分。
そばにおるうちに言ったほうがええ……。
今更やけどな。
「えぇな?」
「う、ウン」
深呼吸。
和葉が見つめとるから何や気恥ずかしい……。
「和葉、オレは探偵や、せやからどっか事件追っかけて行ってまう」
「そないなこと言われんでも分ってる」
「話聞けや………。せやけど……戻ってくるところは和葉のとこだけや。他にない」
「平次?それってどういうこと」
どういうことって聞くなや。
アホ。
分かっとるやろ。
「平次、アタシのこと好きなん?」
「な………」
何言ったんや和葉のやつ。
ちょー待て。
何でそこでオレが和葉のこと好きやって事になるんや??
ってオレ和葉のこと好きなんと違うか?
……一応オレはそう言う意味で言ったんやから、そうなるんや……。
お、今ごろ気付いたオレって……かなり鈍感なんと違う?
「平次……アタシは平次のこと好きなんよ」
は???
和葉がオレのこと好き?
それってホンマ何?
和葉?
と抱き締めようと思ったとき。
「なんてね。平次、本気にしたん?冗談や」
そう言って和葉は台所の方へ向かう。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?
何やそれは!
本気にした?
冗談やったんか?
この抱き締めようとした腕の立場はどうなんねん!!!
何や無性に腹たつわ……。
その時オレの携帯が鳴る。
「ハイ、服部」
「よう服部」
「工藤やないかぁ!!!!!」
電話の主は思いもかけず工藤やった。
「珍しいなぁ、工藤が電話してくるなんてなぁ」
「あのなぁ、用があるから電話してこいって言ったのはテメーだろ」
「そういやぁ、そうやったなぁ」
オレは工藤の言葉に笑って誤魔化す。
「で、用件はなんだよ」
「そうやそうや、今度の連休の時和葉と一緒にそっちに行くからどっかいいとこ捜してや」
「はあああああああああああああああ?!」
工藤の声が受話器から通して最大音量で聞こえる。
「工藤、もうちょっと加減せいや、鼓膜やぶれたらどないすんねん」
「あのなぁ、連休のたびにこっちきてんじゃねーよ」
「えぇやんかぁ、工藤に逢いたいんやし。な、ええとこ捜してや」
「どっかいいとこってどんなところだよ」
思わぬ突っ込みに何と言っていいか分からんようになってしもうた。
なんや、どっかいいとこってどこや?
何て言ったらえぇんや?
「和葉とおって楽しいところ」
和葉が近くにいないことをいいことに、オレは工藤にそう告げる。
こんなん和葉に聞かれたら何言われるか分かったもんやない。
「……服部、オメー和葉ちゃんのこと好きだってわかったんか?」
「な、な、な、な、」
工藤までもが言う。
何で周りが分かっとんのやろ?
「あのなぁ………。ったく、和葉ちゃんと一緒に入れて楽しいところだろ?そう言うところに行きたいんだろ?セッティングしといてやるよ」
「ホンマか?」
「……まぁな」
「安心しとき蘭ねーちゃんには言わんとくから」
「ぜってーーーーーー蘭には言うなよ!」
「へいへい、ほなな」
そう言ってオレは携帯を切る。
工藤の弱み握ってると楽やのぉ。
工藤に頼みごと出来るんやから。
次の連休を利用してオレと和葉は東京に向かった。
場所はもちろん工藤が指定したトロピカルランド。
ホンマは工藤の家から行きたかったんやけど、現地で落ち合うことになった。
トロピカルランドの入り口にはもう工藤と蘭ねーちゃんが待っておった。
「おせーぞ服部」
「すまんすまん」
怒っている工藤に謝りをいれオレ達はトロピカルランドに入る。
「ココでね、今ミステリーランドっていう今シーズン限定のアトラクションが出来たの。それに行こうって言う話しになったんだよ」
と蘭ねーちゃんが和葉に話しとる。
「蘭、ホントにいいのか?」
「何が?」
「ミステリーランドってお化け屋敷がメインだぜ」
「え………」
工藤の言葉に蘭ねーちゃんと和葉が止まる。
「うそ、新一、わたしそんなの聞いてないよ」
「ホンマに?平次どないするの?」
「行ったってええやんか。和葉行くで!」
そう言ってオレは和葉の手を引いて歩いていく。
「おい、服部」
「何や工藤」
突然工藤が呼び止める。
「ミステリーランドがどこにあるのかわかってんのか?」
………分からん。
「く、く、ハーーーーッハハハハハハハ。服部、面白すぎ!」
「新一笑っちゃ悪いよ」
急に工藤と蘭ねーちゃんは笑いだした。
なんやねん。
「ホンマ平次はアホやなぁ。場所分からんで行くやつなんておらんよ」
と和葉までアホ扱いする。
そないな言い方せんでもええやんか。
「ともかく行こうか。蘭、オレがいるから平気だって」
不安がってる蘭ねーちゃんの手を引っ張って工藤は先を歩く。
工藤に会うたんびに思うんねんけど何であんなにうまく蘭ねーちゃんと行くんやろうか?
見習いたいとは思うねんけど……あの歯の浮くようなセリフはどうにかしてくれへんやろうか………。
ミステリーランドの最大の目玉は迷路兼お化け屋敷のミステリーメイズ。
「ホントにここに入るの?」
「そうだよ、じゃ。服部オレ達先に行くから」
そう言って工藤は蘭ねーちゃんの手を引いて入っていく。
「和葉、オレらもいこうか…」
「そうやね……」
基本は迷路何やけどかなりお化け屋敷的要素が強い。
「平次ぃ……アタシらココから出られんの?」
和葉が不安そうにオレに聞いてくる。
「一応チェックポイントごとに地図がもらえるらしいから、何とか大丈夫やろ」
「何とかぁ、平次のせいでますます不安になってきたやないの」
和葉を安心させるように言った言葉が逆効果になってもうたらしい。
「せやったら和葉一人で行きや」
「何でそう言うふうになるん?そう言う言い方せんでもええやんか、平次のアホ!」
そう行って和葉はさっさと行きよる。
「ちょっとまてや和葉。迷ったらどないすんねん。地図もっとんのはオレやど」
その声を無視して和葉はどんどん先に行く。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
和葉の叫び声。
「なんやねん」
和葉の方に行くと……ゾンビらしき物体が和葉の前にぶら下がってあった。
「和葉、こっちきいや……そっちは行き止まりやから」
オレの言葉に和葉はおとなしく従う。
「平次ぃ、ホンマに出られるよね」
「当たり前やろ。オレを誰だと思うとんのや」
「アホの平次」
「あのなぁ……」
和葉の言葉に体全体の力が抜けていくのがよぉ分かる。
「うそや、頼りにしとるよ、平次」
そう行って和葉はオレの腕を取った。
「やっぱり平次がおると安心する」
「当たり前やろ。今までずっとそばにおったんやから…」
「そうやね」
これからもそばにおる何てオレは言えんのやろうか…。
迷路も中盤に差し掛ったころのことやった。
「平次、こっち面白そうや」
そう言ってオレの腕から和葉が離れる。
それが問題やった。
気がつくと、和葉の姿がみえん。
和葉?
どこにおんのや。
『別れと巡り合いの迷路。あなた方が入ったこの迷路はもう一度巡り合うために別れることになります。さぁ、もう一度巡り合うためにガンバリマショー』
と周りの雰囲気に場違いなほど存在している看板に力が抜ける。
なんやねんのこの看板は。
「和葉ー、どこにおんねん」
かなり凶悪なほどお化け屋敷の迷路。
関西方面で名のある遊園地のお化け屋敷は平気やった。
和葉も平気やったしな。
関西方面のお化け屋敷は和葉と制覇したと言っても過言やない。
せやけど、ココのお化け屋敷は強烈すぎるわ。
生暖かい風に無機質な壁。
時折聞こえてくるラップ音に突然落ちてくるゾンビらしき物体。
なおかつココを凶悪なお化け屋敷にしとるんは、迷路やっちゅう理由や。
あかんなぁ、入り口近くの和葉の様子見とるだけにかなりあかん。
どっかで泣いてんのと違うか?
「和葉、和葉、どこにおんのや?オレの声聞こえたら返事せいよ」
と呼びかけてみたは全然応答がない。
「…いじぃ」
和葉の声がした。
「和葉!どこにおんねん?おるんやったら返事せい」
「平次ぃ、ここや」
和葉の声がするほうに行くとそこは和葉を見失のうた場所。
「和葉」
「平次ぃーーーーー」
オレの声を聞いて和葉は安心したのかオレの方に向かってくる。
「平次ぃ、どこいっとったの?」
「すまん、お前のこと見失のうてしまったんや」
「何でなん?」
「な、何でなんって。お前が離れるのが悪いんやろ」
「アタシは離れてへんよ。平次が離したのが悪いんやろ!!」
和葉はさも自分が悪くないと言うふうに言いよる。
なんや、かなり怒っとるみたいや。
「すまん、和葉オレが悪かった」
「な、何で謝んの?アタシが悪いって言ったやないの……」
「ええから、和葉行くで……」
オレは和葉の腕を取り先へと進む。
「平次……怒っとらんよ…アタシ」
「何でオレが和葉のこと怒っとるっと思ったん?」
「平次、アタシが怒ってるといつも先に謝るやんか……」
だいたいそうや。
和葉が怒っとるときはオレが先に折れる。
その方が早いからやない…。
何となく和葉が怒ってる顔は見とうないって言うか……。
和葉には笑った顔がいいって言うか………。
そんな感じや。
「……なーんとなくや。そないなこと気にすんなや」
「…平次、どこにも行かんとアタシのそばにおってね」
オレの顔にホッとしたのかそう言って和葉はオレにしがみついてくる。
和葉はオレと違うって気がついたんは…いつのころやろう。
始めは中学の時やったな……。
そうや、高校の受験勉強の時や…。
オレのうちで勉強しとった時、一時間だけ眠らせーって言って勝手に寝おったんや…。
何故かあんときは落ち込んだ記憶がある。
ともかく、オレと和葉はやっとの思いで迷路を脱出した。
「遅かったじゃねーか服部。オレ達の後ですぐに入ったんだろ?」
出口で待っとった工藤が言う。
「和葉ちゃん、怖くなかった?わたしすっごく怖かったんだ」
「ホンマ?きいてや蘭ちゃん平次のアホ迷路ん中でアタシのことおいてったんよ!」
「あんなぁ、言ったやろお前のこと見失のうたって。最後には見つけたやんか!!」
あかん…、また言いあいしとる。
「と、とりあえず、どうしようかこの後?」
蘭ねーちゃんがオレと和葉の言い合いを止めるように言うてくる。
「……観覧車のりたい、平次、えぇよね」
「かまわへんよ。工藤とかはどないすんのや?」
のオレの言葉を受けて、工藤は蘭ねーちゃんに聞く。
「…蘭、どうする?観覧車乗りたい?」
「ウン乗りたい」
「じゃ、決まりだな」
観覧車に乗ることに決定しそれぞれ観覧車に乗り込んだ。
「平次ぃ、きれいやね」
「そうかぁ?あんまそうはおもわへんけどな」
観覧車の窓から見える景色に和葉は単純に感動する。
「平次はきれいやとかおもわへんの?」
「あんまりーーーおもわへんなぁ」
そう、オレは景色なんかよりももっと大切なほうに気がとられとった。
そう、告白や!!!
やっぱり、ココは告白せなあかんとこと違う?
冗談や…って言いおった和葉の調子に昨日は落ち込んだりもしたが、そう言う場合やないんや。
多分……。
「平次、人の話聞いとる?」
「は?なんか言っとたんか?」
「もうえぇよ、考え事してる平次に話しかけたアタシがアホやったんやから…」
「あのなぁ…、そない言い方せんでもええやろ。オレなぁ、お前に話したいことがあるねんから。和葉、よう聞けや」
オレは、告白する決意をした。
和葉はオレのことどない思うとんのやろ…。
いまいち不安になる。
まぁ、ええか。
「平次、なんやの話したいことって」
そう言って和葉がオレの顔をのぞき込む。
あ、かん……。
顔見たらいわれへんやんか…。
「オレな……お前のこと……す、す、す、す、す、す、す、す、す、……」
「す?スモモ」
「あほ、何でスモモやねん。ちゃうわ」
「せやったら…酢だこ」
あかん、完ぺきにあかん。
漫才に入りそうや…。
「す、す、す…他にスーなんてつくやつあったっけ???あ!すあまや」
「アホ!何でお前がボケとんねん」
「平次がす、す、す、す、す、す、す、す、ってスーばっか言っとるからやないの。言いたいことあるんやったらはよ言いや」
「何、言いたいんか分かっとるんか?」
「分からんよ…分かるわけないやんか。平次もアタシがホンマは何思って何言いたいか分かってないやんか」
「あのなぁ!!!」
ガコン
立ち上がって言いあいしているオレらの観覧車が嫌な音を鳴らす。
「な、なんやの平次…」
和葉の声を聞きながら周りを見回してみる。
「あかん……和葉、観覧車が止まってるみたいや」
「うっそーーー」
「嘘やない。和葉が暴れたからやど」
「何でアタシのせいにするん?平次やってあばれたやんか」
「そうや、オレが悪いんや」
そう言ってオレは和葉の隣に座る。
「な、なんでこっちにすわんの?」
「えぇ、やんか…和葉嫌なん?」
「……誰も…嫌とは言ってへんやんか……」
オレが和葉の腕を掴んどるから動くにも動けへんとは思うが……、嫌とは言ってへんって……どういう意味や?
「なぁ、平次」
「なんや」
「何で平次おこっとんの?」
和葉が突然言う。
怒っとる?
オレは怒っとるつもりはない。
「怒ってへん」
「怒っとるよ」
和葉には言っても分からん。
オレはいらいらしとんのや…。
和葉に何も言えん自分に対して…。
「…平次、……アタシがこのまえあれは冗談って言ったやつなぁ、ホンマは冗談やないから……なんやホンマの事言ったら急に怖なって…あ、」
冗談やないって好きやって言うことか???
ホンマのこと言うことはそう言うことやろ?
ん?
あ、観覧車が動き出しとる。
「やーっと観覧車動きだしたんやな」
動き出した観覧車にほっとする。
「平次、話したいことってなんやの?」
和葉が不意に話しを振って来る。
そうや、言わんとあかんのや。
「和葉、あのな……」
「何、平次……」
和葉が満面に笑顔をたたえてオレをみよるから何も言えへん状況になってもうた。
今は、まだ言わんでもえーのんかもしれへんし……。
「平次、はよ言って…アタシだって言ったんやから…」
「…あのな…和葉…オレな…お前のこと……す、す、す、す、好き…や………」
あかん、顔が赤こうなるわ。
告白なんてするもんやない。
「ホンマ…平次…?」
「嘘言ってどないすんねん……アホ」
「平次ぃ……」
急に和葉が泣きだす。
な、何で泣き出すんや?
もしかして嫌なんか?
「すまん…嫌やったんか?」
「アホ、嫌やったらこのまえ言ったことは冗談やなんて言わへんよ。アタシかて平次のこと好きやったんやから……」
和葉はそう言って余計に泣き出す。
「泣くなや和葉……」
「そないなこと言うたかてしゃあないやんか……悲しくて泣いとるんと違うやから」
そう言う和葉がいやに可愛く思ってオレは和葉のことを抱き寄せた。
「へ、平次……」
「ずっとそばにおるから……和葉もそばにいるんやで…」
「おるよ平次。平次が嫌って言ったってアタシは最初っからそのつもりやねんから」
と、和葉はオレの顔を見ながら言った。
あかん……完ぺきにあかん。
オレって和葉のこと好きやったんやなぁ……。
こいつだけは守らなあかんと思ったこともあるし絶対死なせたらあかんと思ったこともある。
その為にはオレがそばにおって守らなあかんのやな。
和葉を抱き締めながらそう思うとった。