日時:11月中旬 夕方5時 場所:大阪府寝屋川市
「和葉、結構くらなってもうたなぁ」
「平次のせいやろ」
「なんでオレのせいやねん」
「平次が部活にちょっとだけや言うて稽古に2時間もつきあう奴がどこにおんねん」
とアタシは平次に文句を言う。
ホントだったら、今日は平次に買い物に付き合ってもらうつもりだった。
それなのに、平次のやつ!!!
まぁ、後輩思いなのは分かる。
後輩が「先輩、部活ちょっとよってきませんか?」と誘ったから平次は剣道部にちょっとだけ顔をだした。
その間、アタシはその場で本を読んでいた。
あまりに平次が戻ってくるのが遅いから見に行ったら。
当の平次ときたら、後輩に檄を飛ばしている間に自分が熱くなってしまい…、胴着を着て剣道の指導してるんだもん。
参ったよ。
平次のアホ!!!
「せやからすまん言うとるやろ」
「ホンマに思うてんの?」
「機嫌直せや和葉」
と平次が謝ってくる。
ここまで平次が低姿勢なのは理由がアル。
今月に入ってアタシとの約束を全てどたキャンですっぽかしているだ。
アタシが機嫌悪くなるのも当然である。
「まぁ、えぇわ。平次、はよ帰ろ。おかんとおばちゃんがご馳走付くってまっとんのやから」
「そうやった」
アタシの機嫌が直ったと思ったのか平次はほっとしニッと笑う。
ホントは機嫌直ってないんだけど……、平次の笑顔見てたら許したくなってしまう。
ホンマ…アタシって平次に惚れとんのやなぁ……なんてな。
「平次?どないしたん」
不意に立ち止まった平次にアタシは声をかける。
平次の様子がおかしい。
なんやろ……。
平次が注視している方にアタシも目を向ける。
…誰かいる。
「和葉……」
平次がアタシを背にかばう。
後ろには…誰もいないよね。
そう思いながらアタシは後ろに気をくべる。
「そんなに、警戒しなくてもいいわよ」
物陰から出てきた女性を平次はじっとにらみつける。
「大阪府警本部長の息子さんと大阪府警刑事部長のお嬢さんね」
スタイルが良いカッコイイ女の人。
誰…?
「というより西の高校生探偵の服部平次君とその彼女の遠山和葉さんといったほうが良いかしら?」
「誰やねん…。オレに何の用や?」
平次の声が低い。
「あなただけじゃないわ、遠山和葉さんにも用があるのよ。江戸川コナン君…今はもう工藤新一君ね。彼についてあなた方にいっておきたいことがあるの」
この人…工藤君がコナン君やったこと知っとる…。
誰なん?
「………何もんや?警察のもんか?」
「わたしは内閣調査室管轄警察庁特別捜査室室長の嵯峨野美江子よ」
「?なんのようや?」
「あなた方にとくに服部平次君、あなたに協力してもらいたいの」
「協力ってなんや?」
平次の声が震えている。
突然現れたとんでもない人物にアタシと平次は動転している。
アタシは平次がそして自分が安心するように平次の手をつかむ。
ビクッと一瞬平次は驚いたがアタシの手をすぐに握り返してくれる。
「高校卒業して大学卒業したら警察に入れいうんか?」
「違うわ。やって欲しいことは工藤新一及び、毛利蘭の護衛よ。そのために特別捜査室に所属してもらうことになるんだけど…」
「なんで…工藤の護衛なんや?」
「あなたもわかってるんでしょ…。わたしが江戸川コナンの名前を出した時点で」
不意に平次の握る力が強くなる。
「それって……工藤君が追っていた組織がまだ………」
アタシは最後まで言葉がつげない。
それ以上言ったら……。
「その通りよ、遠山さん」
アタシ達の間に沈黙が流れる。
少したったあと平次が言葉を紡ぐ。
「工藤には…知っとるんか?組織が……」
「さぁ、気付いているかもしれないでしょうけどね。で、どうするの?」
「どうするって………」
嵯峨野美江子の言葉に平次は躊躇する。
「別に警官になれと言っているわけじゃないわ。ただ特別捜査室に所属して欲しいだけなの。あなたのその素晴らしい行動力と推理力を高く買っているのよ。普段は普通の高校生…大学に入るのだから大学生ね。として行動していて構わないのよ。そう、いつものあなたの生活を営んでいてくれて構わないわ。ただ、わたし達からの依頼を受けてくれればいいだけ」
その言葉に平次はうつむく。
「返事はすぐには要求しないわ。あなたが決めた時点で警察庁の方に来てくれれば良いから。わたしの名前を出せば案内してくれるわよ。それじゃね」
そう言って彼女は消えていった…。
「平次…」
立ち尽くしている平次にアタシは声をかける。
「どないするん?」
「……快ちゃんは……しっとんのかな?」
「………何も言うてへんかったね。」
「どっちにしろ…工藤には言われへんな…。…明日あたりでも…快ちゃんに連絡してみるわ…」
そう平次はアタシに向かって微笑む。
「和葉……オレのせいやな…。オマエに…こんな目に合わせてまうんやから…」
「えぇよ、平次。アタシは、平次の側におる。気にせんといて…平次…」
「すまんな…」
日時11月中旬 夕方5時 場所東京都江古田
「快斗っ早く帰ろっ」
「わーったよ。今日の映画は面白かったな」
「うん、新一君のお父さんの原作の映画なんだよね」
青子は嬉しそうにそう言う。
今日は青子と映画を見に行った。
映画は新一の父親である工藤優作原作の、闇の男爵シリーズで書き下ろし。
新一にこの映画を見に行くと言ったら。
「……覚悟した方が良いぜ」
と言われた。
平ちゃんに感想を聞いたら、
「爆笑したわ」
と言われた…。
そして見たら顔面蒼白になりそうになった…。
この話…オレが青子に正体をばらしたときの話が元になってるような気がしてならなかった。
でもまぁ、おもしろかったから良いかなと…思う。
「蘭ちゃんから聞いたんだけどね、あの話って蘭ちゃんと新一君がモデルなんだって。木野君が新一君でアンアンが蘭ちゃん。可愛いよね、アンアンって」
と青子が映画の感想を言う。
「第2弾もあるらしいんだって。凄いよね、新一君のお父さんって」
「そりゃ、工藤優作って言ったら世界的に有名な推理小説家だからな」
新一がどうもネタにされてるらしいけどな。
青子が楽しそうに映画の感想を言っているとき…不意に視線を感じる。
気のせいか?
違うな。
明らかにオレに向けられているものだ…。
何者だとしてもココは逃げるしかない。
青子がいる。
「青子」
「何?快斗」
声を落とし青子の名前を呼んだオレに、青子は調子を合わせる。
「1.2.3…って数えたら走るからな」
そう言って青子の手を握る。
オレの様子を察知したのか青子は小さくうなづく。
「1…2…3っ」
掛け声と同時にオレと青子は走り曲がり角で待ち伏せる。
もちろん、青子を背にして。
「誰か、捜してるんですか?」
極めて冷静な口調でオレ達をおってきた人物に声を書ける。
「…っ。驚かさないでよ、黒羽快斗君」
…っ?
オレの名前を知ってる。
「そして、その後ろの彼女は中森警部のお嬢さんの中森青子さんね」
青子の事も知ってる…。
「誰だよ………あんた」
「警戒しなくても良いわよ。黒羽快斗君。言え、2代目怪盗キッドと言った方がいいかしら?」
「………っ」
誰だ……っ。
こいつは、この女は、何者なんだっ。
『冷静になれ』
不意に父さんの声が聞こえる。
ギュッとオレの服を青子が握っているのに気付く。
そうだ…青子がいたんだ。
…青子を守らなくちゃならない…。
冷静に、常にポーカーフェイスで。
青子のおかげで父さんの声が聞こえたのかもしれねぇな。
後で青子に感謝しねえとな。
「で…どなたですか?こちらはあなたのことを存じあげないのですが」
「あら、冷静ね。もっと取り乱すと思っていたけど。わたしがあなたの正体を知っていることに」
「そうですね、あなたが特殊なひとだと分かりましたから。あなたのような美しい女性が香水をつけていないことが不思議ですから…。それに、あなたが危険な人物であるなら俺達はとっくに囲まれているでしょう。そんな気配…感じてませんから」
常に、冷静であれ、いついかなるときもポーカーフェイスで。
冷静になったからこそ気付いた彼女の事を。
彼女のようなしっかりと化粧をしている人なら…香水をつけるだろう…。
服もブランド物だから…香水ぐらいはつけるだろうって言う勝手な見解だけどな。
「参ったわ。さすがね、わたしは内閣調査室管轄警察庁特別捜査室室長、嵯峨野美江子よ」
と彼女は言った。
内調の人間か……。
参ったな。
「何か、用ですか?」
「えぇ、あなたに協力して欲しいことがあってね」
「協力とは?」
オレの言葉に彼女は微笑んでいる表情を崩さずにオレにつげる。
「工藤新一及び、毛利蘭の護衛。中森青子も兼ねる」
「……どういう…事?」
オレが言葉を発するよりも先に青子の方が驚いた。
内調の人間って分かった瞬間に気付いてはいたが…ホントにそうだとは思いもよらなかった。
「つまり、組織の残党か何かがまだまだ残っていて…。新一や、蘭ちゃん。そしてキッドの側にいる…青子……オマエもな…危険だって事だ青子」
青子は不安そうにオレを見つめる。
「だからね…そのために捜査室の方に入って欲しいの。別に、警官になれと言っている分けじゃないわ。ただの協力よ。そうそう、西の名探偵の服部平次君だったかしら?彼にも協力をあおったのよ…」
彼女はそう言って微笑みかける…。
「答えはまだ必要ないわ、ゆっくり考えて欲しいの……。あなたの普段の生活を脅かす事はしないわ。私達があなた達にすることは少しの依頼よ。あなたのその怪盗キッドとしての能力を買ってるの。じゃあ、決まったら警察庁に来て、わたしの名前出せば中に入れるから」
そう言って彼女は俺達の目の前から立ち去っていった。
ゆっくり考えて欲しいか……。
答えなんて…一つしかねぇじゃねぇか……。
選択肢なんて…あってないようなもんだな…。
「快斗…大丈夫?」
うつむいたオレに青子は心配そうにオレを見る。
その青子の顔を見た瞬間オレは青子を抱き締めていた。
「か…快斗……。大丈夫…だよ…。快斗の側に青子はいるから…。だから…不安にならなくてもいいんだから……。ね、快斗」
抱き締めたオレに少しだけ戸惑った後、青子はオレに向かってそういう。
まるで子供のように青子にしがみついたオレに青子は黙って背中をなでてくれる。
「平ちゃんの所に…電話するよ。平ちゃんはどうするか…聞いてみる」
「快斗は…どうしたいの?」
「青子を…守りたい。でも……キッドになるのは抵抗がある」
抵抗…そうだろうか?
ちがう…。
オレを黙認してくれた中森警部や服部本部長に…許してくれた新一に……側にいてくれる青子に申し訳がたたないからだ…。
「……快斗の…好きなようにして…。お父さんになんか言われたときは青子に言って。青子が何とかしてあげる」
「青子…っ」
青子の名前を呼びオレは青子を抱き締める腕の力を強める。
なんて奴だよ…。
こいつは…。
「青子…絶対に…守るから…」
「快斗……青子に…快斗の事…守らせてね」
「へ?」
驚いて青子の顔を見つめたおれに青子はニッコリと微笑む。
「帰ろっ。快斗」
「あぁ」
オレは青子の言葉にうなづいた。
「どうなるか…な。この先」
ふと…言葉に出しては見ても、オレにはこの先どうなるか全く分からなかった。