Time Passed Me By 君がいるからね

『どこの高校に行くんだろう』
 3年の2学期の丁度中間テストが終わったこの時期の主な関心事はそれに集約され始める。
 仲の良い友達、嫌いなやつ、そして…好きな人…の進路が気になる今日この頃。
 もちろん、それはオレ達帝丹中学校も例外ではない。
 そして、その中にもちろんオレも含まれる。
 文化祭も運動会も終わり、残る学校行事がホンのわずかである中、それは当然と言えるだろう。
「で、工藤くん、高校はどこに行こうと思っている訳?」
 第1回希望高校選択時。
 いわゆる三者面談である。
 だが、オレの場合は二者面談になっている。
 当然といえば当然だろう。
 三者になるはずの人物達は海外にいるからだ。
「…こーこーですか?まぁ、行けるところならどこでも」
「どこへでもってねぇ、君だったらどこにでも行けるわよ」
 オレの投げやりな態度にため息つきながら担任の松本小百合センセがオレの成績表を見ながら呟く。
 無理もない。
 自慢じゃないが、オレは帝丹中では3番以内から落ちたことないし、全国模試では10番以内に常に入ってる。
「君が行きたいって言えば超進学校にだって入れるし、君のサッカーの腕前だったらサッカー進学だって可能なのよ」
「はぁ…」
「気乗りしない返事ねぇ。どこか希望はないの?」
「強いて言えば……帝丹……かな?」
「帝丹高校?」
 ふとくちに出てきた帝丹校。
 それは…つい最近聞いて、頭に残っていた言葉だ。
「聖樹は、どこにいこうと思ってるの?」
「中津原かな?あそこの制服可愛いんだよね」
「わかるぅ。聖樹好きそうだよね、あそこの制服」
 給食の時間。
 蘭は仲のいい園子と高校はちがう坂崎聖樹(さかざきせいな)とご飯を食べている。
「聖樹、中津原って超エスカレーターの学校でしょう?途中から編入なんて出来るの?」
「うん、あたしも気になって調べたんだけどね。出来るみたいなんだよ」
「へぇ、で、蘭は?」
「わたし?まだ…考えてないなぁ。多分、杯戸か、帝丹かな。」
「じゃあ、だったら帝丹にしない?蘭ブレザー着てみたいって言ってたじゃない。杯戸はセーラーだよ。蘭、6年間セーラー着るのは止めようよ」
「って園子、まだ早いよ」
「何言ってるの早いか早くないかなんて関係ないでしょ」
 園子は蘭に向かってそう言う。
「で、新一はどこに行くんだ?」
「オレ?まだ考えてねぇなぁ…」
 オレに一緒に飯を食っている三井恭樹(みついたかな)が話しかける。
 出来れば、蘭と同じ高校に行きたい…かな。
 とは口が裂けても言えない。
「何言ってんだよ、いつも3番以内に入ってるやつが」
「そう言う恭樹はどこに行くんだよ」
「オレ?オレは聖樹と一緒の中津原」
 そう言って恭樹は人懐っこい笑顔を見せる。
「やだぁ、恭樹君、聖樹と一緒の高校にするの?」
 突然、園子がオレ達の会話に乱入してくる。
 蘭達とオレ達が食べている場所は隣同士なのだ。
「当たり前じゃん。オレは聖樹にラブなの」
「何言ってるのよ、恭樹のバカ」
「バカって言うことねーじゃねぇかよぉ!!」
「恭樹、落ち着け」
「朋朗の言う通りだよ」
 オレと井樫朋朗(いがしともあき)の制止に恭樹は落ち着く。
「で、新一君はどこに行くの?」
「ア、それあたしも気になる。蘭も気になるよね」
「え、わたし?わたしは…別に…」
 そう言って蘭はオレをちらっと見る。
 蘭は気にならないのか?
 オレは蘭がどこに行こうと思っているのかめちゃくちゃ気になってんのに…。

「毛利さんはどこに行こうと思っているの?」
「わたしですか?とりあえず、帝丹高校にしようと思ってるんですけど」
「帝丹ねぇ、まぁ、毛利さんの成績だったら安全圏に近い合格圏かな」
 三者面談でわたしは担任の松本小百合先生に言われる。
「近所の学校でいいのか、蘭。行きたいところが他にあるんだったらそこでも良いんだぞ」
 そう言う面談に一緒に受けているお父さん。
「毛利さんだったら、米花南でもいいんじゃないの?ここだったらもう少し頑張ればいけるわよ」
 そして、成績表を見ながら先生は言う。
「先生、米花南は空手部ないんですよね…」
「そうね、高校行っても空手をやるつもり?」
「えぇ、まぁ」
 先生は少し考えて言う。
「帝丹の空手部はそんなでもないって話よ?空手で行くんだったら杯戸が良いんじゃないの?」
 先生の言葉にうつむく。
「でも…帝丹の方がいいかなぁって……」
 帝丹にしたい理由は一つだけある。
 それはつい最近聞いた言葉…。
「オレ…?わかんねぇよ。まだ決めてねぇし」
「新一だったら某K大付属の高校とか某T大付属の高校とか超進学校のK高校とか同じく超進学校のR高校とかあるだろ」
 新一の言葉を受けて、恭樹君が言う。
「進学校ばっかりじゃねぇか。オレそんな進学校に行かなくても平気なの」
「じゃあ、サッカー関連でT高校とかサッカー留学で静岡に行くって言うのもあるか。でも毛利がいない高校はいやだよな」
「あのなぁ、朋、なんでそんなことばっか言うんだよ。そう言うことは恭樹に言え。恭樹は聖樹が行くから中津原にするなんて言ってんだろ」
 朋朗君の言葉に新一はあきれ返りながら言う。
 新一はどこに行こうと思ってるんだろう。
 やっぱり超進学校か某大学の付属高校かな…。
 新一だったら大丈夫だよね。
 わたしは…ダメだけど…。
 出来れば、新一と同じ高校に行きたいなぁ。
「じゃあ、どうするんだよ。三者面談、明後日だろ。それまでに一応の行きたい高校は決めとけって言ってたじゃん」
「……そうだっけ?」
 新一はどうやら今朝のHRでの事を忘れていたらしい。
 今朝、起きたのギリギリだったし。
 いつもだったら朝、下で待っている新一がいないから気になって…見に行ったんだよね。
 そしたらまだ寝てたのよ。
 全く。
「新一、忘れたの?今朝、HRで先生が言ってたじゃない」
「あぁ、そう言えばそうか」
 わたしの言葉で新一は思いだしたらしい。
「で、どうするの?新一君」
「……近いから……帝丹かな…」
「えぇ、また新一君と一緒なわけ?わたし」
「おい、まだ行くとは言ってねぇだろ。とりあえず、三者面談の為にだっつうの」
「…分かった、わたしが蘭に帝丹にしない?って誘ったからでしょう。だから新一君も蘭と一緒の高校に通いたい!!なんて思ったんでしょう。全く、分かりやすいんだから、探偵目指してるやつがそれじゃダメよ。まぁ、蘭のことで分かりづらい新一君なんて新一君らしくないけどね。分かりやすいやつこそ工藤新一よ!!」
「バ、バーロっ何言ってんだよ、園子!!!」
 園子の言葉に新一は顔を真っ赤にして反論する。
「で、蘭はどうするの?帝丹にしない?」
「え…あ…そうだね。帝丹近いもんね」
 と園子の言葉に答えてしまう。
「え?じゃあ、蘭も新一君と一緒に高校に行きたいんだ?」
「そう言うつもりじゃないってばぁ。どっちみち帝丹か杯戸にしようって考えたんだから」
 そう言っても聖樹と園子は信じてくれない。
 はぁ、誤魔化してるって分かるのかなぁ?
 まぁ、確かに新一と一緒の高校には行きたいと思っているけど。

「帝丹かぁ、工藤くんだったら超進学校に行けるからって学校中の先生方が期待してるんだけど」
「センセ、期待されても困るよ」
「そう言わないでよ。工藤君の将来を思っていってるのよ」
 そう言ってセンセはため息をつく。
「まぁ、まだ進路決定の時期じゃないから良いけれど、もう少し、考えましょ」
「うん」
 期待…されても困る。
 オレは…ただ、探偵になりたいんだ。
 サッカーやってるのは好きなのもあるけれど、探偵やるための体力作りって言うのもある。
 まぁ、それを蘭に言ったら呆れてたけど。
 もし、高校生になったとき探偵として活躍したら高校なんて行ってる暇ねぇしな。
 そう言う問題じゃないか……。
「工藤先輩、サッカーやっていきませんか?」
 サッカー部の後輩に声を掛けられる。
「厳しくしても良いならな?」
「げっ。マジっすか?」
「オレに声を掛けたって事はそう言うことだろ」
「分かりましたよ、おねがいします」
 サッカー、久しぶりにでもやるか。

「じゃあ、毛利さんは帝丹校でいいのね」
「ハイ」
「じゃあ、成績は今まで通りで大丈夫だけれど、気をつけてね、何があるか分からないんだから」
「分かりました」
 三者面談が終わりお父さんは先に帰っていく。
 飲みに誘われてるって言ってたっけ。
 校舎内を歩いているとと空手部の後輩が近寄ってきた。
「毛利先輩、練習観ていってくれませんか?先輩がいないとどうも上手い具合に行かないんです」
「良いわよ。久しぶりに顔を出すのも悪くないものね」
 そうしてわたしは後輩とともに体育館に向かう。
「ほら、逆サイド上がれってんだろ!」
 校庭の方から聞きなれた声が聞こえる。
 新一だった。
 サッカー部の副部長(人はそれを影の部長と言う)だった新一は後輩にサッカーのうまさから慕われていて後輩の指導にあたっていたという。
「工藤先輩、張り切ってますね」
「そうだね。久しぶりだからじゃないのかな」
 後輩の言葉にわたしは軽くかわして体育館に入った。

「毛利先輩、空手部の方に顔を出してるみたいですよ」
 体育館の方に飛んでいったボールを取りに行った後輩がオレにそう告げる。
「そうか…。って無駄口たたくな、紅白戦の最中だぞ」
「ヘーイ」
 蘭、空手部に顔出してるんだ。
 強く、なったよな。
 あいつも。
 なんか、あんまり嬉しくない。
 正直言うと。
 あそこまで強くなるとオレが守る必要なんてないんじゃないかって思えてくる。
 でも、怖がりだから……。
 オレがいなきゃ、ダメなんだよな。
 …やっぱ、高校は蘭と一緒のところがいい。
 そんなことで決めるなって言われそうだけど、オレは蘭と一緒にいたい。
 高校を違うところに選ぶんだったらオレはとっくに両親と一緒に海外に行っている。
 オレが日本に残っているのは蘭がいるから。
 蘭の側に居たいから…。
 改めて気付いた。

「毛利先輩、先輩ってどうして空手やってるんですか??」
 休憩中に後輩が聞いてくる。
「どうしてって…何となくよ」
「理由になってないですよ」
「でも、何となくとしか言えないかな」
 わたしは新一がサッカーをやってるところが好きだ。
 探偵になるためにサッカーやってるんだなんて言ってるけど、サッカーをしている新一は格好良かった。
 体力作りのためだよって言われたときはカナリ驚いたけど。
「そんなに探偵になりたいんだ」
 なんて言ったら
「まぁな、人が作った謎なんて絶対に解けるんだからさ、オレが探偵になって迷宮入りの事件が減ったら良いとおもわねぇ?」
 ってニッコリ笑って言う。
 そう言う新一が心配で…そんな新一の側に居たくてわたしは空手を始めた。
 そうすれば側に居るわたしを新一が心配しなくても事件をおっていけると思ったから。
 新一はよくわたしの事を心配する。
 そんなに心配しなくても良いよって言うのに心配してくれる。
 ただの幼なじみなのに…。
 期待、しても良いのかな。
 って思えてくる。
『近いから…帝丹かな』
 そう言った新一の言葉に自分が喜んでいるのを知っている。
 新一が行く高校が帝丹なら一緒にいけるんだ…。
 って…。

「新一、どうしてここにいるの?」
「どうしてって……オメェのこと待ってたに決まってるだろ」
 時間は午後6時。
 久しぶりに自分が所属していた部活に顔を出していたらこんな時間になってしまった。
 季節は秋。
 夏だったらまだ明るい時間帯だけれど、今ごろの季節は暗くなってしまっている。
「オメェが部活に顔出してるって後輩から聞いたからさ、一人だとあぶねぇだろ」
「何?心配してくれてたの?心配してくれなくても平気よ。わたしには空手があるんだから」
「よく言うぜ、怖がりのくせしてよ。あっ」
「何?」
 突然の言葉を止め、辺りを見回した事に驚く。
「今、なんか通らなかったか?」
「え……ゆうれい?やだぁ」
「だったら…どうする?」
 そう言ってのぞき込んだオレに蘭はむくれる。
「だ、騙したわね。わたしがっ、幽霊とか雷とか嫌いだって知ってるくせにっ!!」
「ほら、やっぱり怖がりだ。ほら、蘭帰るぞ」
 そう言ってオレは蘭を促す。
「なぁ……」
 いつもだったらある会話が、今日に限ってない。
 それもそのはず、蘭とオレの三者面談は今日あったからだ。
 オレは蘭の行きたい高校が気になって仕方なかった。
 どこに行くんだろう。
 一昨日は帝丹校に行くって言ってた。
 でも、ホントのところは知らない。
 あれは園子につられて言ったかも知れないからだ。

「蘭…やっぱ杯戸校とか帝丹校にするのか?」
「何が?」
 急に振られた言葉にわたしは驚く。
 一瞬何のことだかわからなったけれど次の瞬間、悟る。
 三者面談で話した進路の事だ。
「そうだね、二つとも女子の空手部があるから……。まだ悩んでる、帝丹校にするか杯戸校にするか。多分……。って新一はどうするの?やっぱり進学校?」
「違うよ」
 即答した新一の言葉に驚く。
「どうして?新一だったら進学校でもいけるって先生が言ってたよ。期待してるとも言ってたよ、どうして?」
 そして本当は思っていることと別のことを言ってしまう。 
「オレが、成績が良いのは父さんとの約束なんだよ。日本に残るんだったら常に成績はトップクラスに居ることってな。別に進学校じゃなくたって勉強はできるわけだろ」
「そうだけど…じゃあ…どこ行こうと…思ってるの?」
 聞きたくない。
 期待してることと違っていたら、落胆することは目に見えてるから。
 期待している分、裏切られたら…怖いから。
「帝丹…だよ」
「えっ?」
「帝丹高校。近くて便利だろ。遅くまで寝てられるし」
 思い掛けない言葉に驚く。
 ホントなの?
「蘭はどうするんだ?」
「わたしも帝丹校にしようと思ってたの。近いし、ほら、お父さんがあれでしょうだから心配なんだよね」
 声が弾んでしまう。
 嬉しい。
 新一と同じ高校にいけるかもしれないんだ。
「蘭、勉強しような」
「新一は大丈夫でしょ。いつもだいたいトップにいるんだから」
「教えてやるってんの」
「良いよぉ」
「何でだよ。一緒の高校に行けなくってもしらねぇぞ」
「ひっどーい。そう言う言い方しなくても良いでしょ」
「ハイハイ。蘭」
「何?」
「一緒の高校行こうな」
「うん」

*あとがき*
坂崎聖樹と三井恭樹と井樫朋朗。この三人はオリジナル小説に出てくる幼なじみ。今は非公開。


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