Happy Time 仲直りのためにの策略

「お願い、お父さんとお母さんを仲直りさせるために新一も夕飯に付きあって」
 といきなり帰ってきた蘭に言われる。
「ら、蘭いきなりどうしたんだよ」
「お母さんとお父さんの様子を見に行ってきたの。そしたら…お母さん、お父さんとけんかして弁護士事務所の方で寝泊まりしてるんだって!!!喧嘩しないでって言ってるのにどうして…お父さんとお母さんってけんかするの?」
 そう言って蘭は子供のように泣きだす。
 蘭は両親のことになると人が変わる。
 それはしょうがないと言っていいと思う。
 蘭が物心を付いたころから、喧嘩はひどくなり…小学生に入るころには、二人は別居していた。
 だから蘭が二人のけんかに異常に反応するのも…仕方ないと言える。
「蘭、あの二人は意地っ張りだからつい意地を張っちまうんだと。父さんと母さんが言ってたぜ」
「好きなのに?意地はっちゃうの?」
「オメェもそうだろ。オレだって意地はっちまうときがある。あの二人はそれが顕著なんだよ」
 オレは泣いている蘭を抱き寄せあやすように言葉を紡ぐ。
「一人じゃ寂しいだろうから」そう言って探偵事務所に戻った英理さん。
「一人じゃ寂しいんだろう」そう言って英理さんを迎え入れた小五郎のおっちゃん。
 二人とも自分のことは棚に上げて他人のことばかり言う。
「そうなのかな……そうだといいな」
「だろ?で、オレはどうしたらいいんだ?」
 落ち着いた蘭にオレは問い掛ける。
「そう、あのね、今日お鍋にしようかなって思ったの」
「鍋…」
「うん、家族4人でね」
 家族四人?
 家族4人って?
「新一とわたしとお父さんとお母さんの事だよ。新一、行こ」
 オイオイ、今日行くのかよぉ。
「当たり前でしょ。善は急げって言うじゃない」
 そう言って蘭は嫌がるオレを引っ張り毛利探偵事務所に向かったのだ。

「オイ、新一。野菜はまだ煮えていない!!」
「あら、このネギならもう食べられるわよ。煮えてないのはお肉の方だわ」
 鍋奉行が……二人いる家と言うのを…今日初めて知った。
 そう、おっちゃんもおばさんも…鍋奉行だった…。
「新一、入れてあげたよ」
 そう言ってすきやきの中身をお皿に盛ってオレに渡してくれたのは…蘭だった。
 ……入り婿の…気分を知ったよ…今…。
 座っているのはこたつ。
 オレの左隣におっちゃん、右隣には英理さん。
 そして蘭はオレの目の前だった。
「蘭、野菜はまだ煮えてないって言ったろ!!!」
「そうよ、お肉だってまだ煮えてないわ」
「え?それは、二人が入れたものはでしょ?わたしがいれたものはちゃんと大丈夫だもの。ね、新一」
「え?あ?あぁ、うん」
 不意に蘭に呼ばれたから返事がしどろもどろになってしまう。
 はぁ、せっかく今夜は久しぶりに蘭とゆっくりできると思ってたのによぉ…。
 このところオレは事件に呼びだされて蘭とゆっくりできていなかった。
 今日は事件も解決してゆっくり出来るって思ってたのに蘭のお願いに毛利探偵事務所までやって来たのはいいが…鍋奉行が二人もいる家だったとは……。
 鍋って言うのは間違いだったんじゃねーのか?
 コレで仲直りさせるのは難しい。
「ほら、新一食え!!!」
「新一君、よそったわよ」
 そう言っておっちゃんと英理さんにお皿に盛られたすき焼きを渡される。
「あのですねぇ…一応オレのお皿には蘭に入れてもらったのがあるんで……」
 オレは遠慮がちに言う。
 ……なんで…こんなことになってんだ?
「なんだ?新一、オレのよそった飯が食えねぇって言うんか?」
「新一君、この人のなんて食べなくていいのよ。私のは食べられるわよね」
 喧嘩…悪化してねぇか?
 どうにも出来ないオレにみかねたのか蘭が口を開く。
「お父さん、お母さん、新一が困ってるでしょ。もう、二人に新一によそってあげてなんて言ってないわよ。二人ともけんかしてないで仲良く食べてよね」
 そう一括して蘭はオレの隣に座る。
 そんな蘭に二人は呆気に取られている。
 もちろんオレも…。
 今知ったよ。
 毛利家の真の支配者は蘭だと言うことを。
 その後の食事は何事も滞りなかったということを付け足しておく。

「じゃあ、私と新一は帰るわね」
 そう言って蘭は新一と一緒に毛利探偵事務所に来た道を二人で仲良さそうに帰っていった。
「何いつまでみているの?」
 仲良さそうに帰っていく二人をずっと見ている小五郎にやはりずっと見ている英理が声を掛ける。
「オメェだって人の事、言えねぇだろ」
「そうね…」
 英理は小五郎の言葉に寂しげに呟く。
「英理、どうしたんだ?」
 英理の不思議な様子に小五郎は問い掛ける。
「どうしたんだって……。何でもないわ。……じゃあ、わたし帰るから」
 英理は身を翻し弁護士事務所の方に行こうとする。
「帰るってどこにだ?」
「どこにって…弁護士事務所に決まってるでしょ?」
「英理っ!!」
 英理の言葉に小五郎は彼女の腕をつかむ。
「い、いきなり何するのよ!!」
 抗議した英理に小五郎はじっと目を見つめて言う。
「悪かった……」
「小五郎、いきなり…何を…」
「だから……帰って…こいよ…」
 そう言った小五郎の顔は赤くそんな小五郎に対し英理は顔を背ける。
「英理?」
「あなたがそうまで言うならいいわよ」
 そう答えた英理の顔もやはり赤くなっていた。

「新一、ゴメンね」
 家に着き一息ついてわたしは新一に向かって謝る。
「何が?」
 新一はわたしの言葉に不思議そうに応える。
「お父さんとお母さんの食事に無理やり付きあわせちゃったこと。新一、お父さんとお母さんの様子に困ってたじゃない…だから」
 食事の場の雰囲気はサイアクだった。
 お父さんとお母さんが先を争うように新一を構っていたこと。
 あまりのひどさに止めに入ったけど。
「大丈夫だよ。ただ、驚いただけ。あの二人っていつもあんな感じなのかなって…さ。それに…家族なんだから…当然だろ蘭」
「……うん……」
 新一の言葉になんか恥ずかしくなってうつむいてしまう。
 家族…その言葉が凄く嬉しい。
「照れんじゃねぇよ」
「だって………夢…みたいなんだもん。新一と結婚したこと……」
 そう、二週間前に新一と結婚式を挙げた。
 新婚旅行から帰ってきた途端、新一は事件に引っ張り出されたけれど。
「夢じゃねぇよ。オレの指と蘭のこの指にはまってる指輪もウソだって言うのか?」
 そう言って新一はわたしの左手の薬指に口付ける。
「し…新一…」
「ったく顔真っ赤にしてんじゃねぇよ」
 そう言いながら新一はわたしを抱き寄せる。
「だって……」
 慣れないよぉ。
 何度、こういう風な事になっても慣れないのよね。
 そんなわたしを見て新一は微笑んでいる。
 なんかこう余裕でいられる新一見てると腹たつわね。
 わたしは新一を軽くにらんで新一にもたれ掛かる。
 一つだけ…気になってること。
「お父さんとお母さん仲直りしたのかな?」
 そうお父さんとお母さんの事。
 結局、仲直りさせないで帰ってきちゃったから。
「大丈夫じゃねぇの?今ごろ仲良くやってるよ」
 新一はわたしを安心させるように静かに微笑む。
 そうだといいな。
 喧嘩してる二人をいつまでも見たくないもの。

 次の日、不安で行ってみるとお母さんが探偵事務所を掃除していた。
 喧嘩していたことを忘れたかのように。

*あとがき*
とある方とのチャット中に浮かんだ話。


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