「蘭ちゃんにはこの赤のがえぇねぇ」
静華おばちゃんが蘭ちゃんに赤い浴衣をあわせながら言う。
蘭ちゃんによく似合う赤。
あれは、静華おばちゃんが今年買ってきた浴衣だ。
「おばちゃん、ごめんな。貸してもうて」
「何言うとんの和葉ちゃんはこのお祭りだけはそのオレンジ地の浴衣着るって毎年言うとるやないの……」
そう言っておばちゃんは笑う。
そう、今日みんなで行くお祭りは寝屋川市内でやるお祭りで、アタシはとある理由からこのお祭りだけは毎年オレンジ色の浴衣を着て行く。
「なんか、娘が三人おるっていうのもえぇね」
「そうやねぇ」
おかんとおばちゃんはアタシと青子ちゃんの着付けをしながら言う。
ちなみに青子ちゃんの浴衣は朝顔の絵が入っている青い浴衣。
ちなみに蘭ちゃんは自分で浴衣を着ることが出来る。
ホントうらやましぃわ。
蘭ちゃんって何でも出来て……。
アタシは料理は苦手だし、浴衣の着付けも出来ない。
青子ちゃんや蘭ちゃんみたいに可愛くない……。
ふぅ、なんか気がめいってきたなぁ………。
「和葉ーーーーーーーーー!!、まだ支度できへんのか?」
外から平次が浴衣に着替えているアタシ達を呼ぶ。
「平次、ちょっとまっときぃ。工藤君も、黒羽君ももうちょっとまっとってや」
静華おばちゃんが外で待っているであろう三人に言いに行く。
「そんなに待たせてへんやんか…」
「平ちゃんはせっかちやからねぇ」
「ホンマに……。あの性格は誰に似たんやろ」
「静華、あんたと違うの?」
「嫌やわぁ、うちはあんなん性格と違うで」
おかんと、静華おばちゃんの会話を傍で聞いてると、やっぱり、平次は静華おばちゃんに似てると思う……。
思い立ったらすぐに行動にだすところとか………。
さすがに平蔵おじちゃんはそないなことないけど……。
着付けが終わりアタシ達は外に向かう。
「なんや、遅かったやないか………」
外に出てきたアタシ達を平次達はぼーっと見ている。
なんか、変なところでもあんのかなぁ…。
「ホな、きぃつけていってきいや。着崩れせんようにな。後、遅くなるんやったら連絡するんやで」
おかんとおばちゃんに言われアタシ達はお祭りの会場に向かったのでした。
〜平次×和葉〜
「なんや、また、その浴衣か?」
そう平次は言う。
「アカンの平次?」
「…おかんが飽きもせず毎年こうてくるやんか…新しいの着てやらんと……」
そう、アタシが持っている浴衣は何故か毎年、静華おばちゃんが買ってきてくれる浴衣で……静華おばちゃんに理由を聞けば
『ホンマは女の子が欲しかったやねん。せやけどうちにおるんは平次だけやろ。せやから和葉ちゃんにこうてきとんの。和葉ちゃんはあかん?』
って言うしおかんに至っては
『えぇねん、和葉。素直にもろうとき。せっかく静華がわざわざあんたの為にこうてきとんのやから』
って言う。
後から聞けば、オカンはオカンで平次にいろんなものを上げているらしい。
「新しいのは友達にお披露目用や…。その前に蘭ちゃんが着とるからあんまり意味ないねんけどな。ま、ともかくこのお祭りだけはこの浴衣って決めとんの」
「何でや?」
「……何でいわれたかて……。平次はこの浴衣はもう見とうない、そう思うとんの?」
「アホ、そないなこと誰も言うとらんやろ」
「ならえぇやんかこの浴衣着たって……」
だって、この浴衣は平次が初めて「似合うやん」と言った浴衣なのだ。
今から4年前。
そう中学三年の夏休み。
受験シーズンを控えた、部活を引退したあの夏。
あるとき静華おばちゃんがいつもの通り買ったばかりの浴衣を持ってやって来た。
「和葉ちゃん、ちょっと着てみて」
そう言って静華おばちゃんは浴衣を取りだす。
オレンジ色のべース地にヒマワリの花が咲いている浴衣だった。
「おばちゃん、毎年毎年、浴衣こうて来なくても……」
「何言うとんの和葉ちゃんはうちの娘みたいなものなんやから……」
「せやかて……」
「和葉、えぇんのや。せっかく静華がくれる言うてはんのやからありがたくもらっとき」
お母さんまでもらえという。
毎年の光景。
もらってばっかりじゃ悪いなぁと思っているのだが、静華おばちゃんは
「そんなん気にせんでえぇんよ。うちが好きでやっとんのやから」
と言う。
どうもなぁ、アタシとしてはもらってばっかりじゃ悪くってお礼をしたいところなのだが……それは既にお礼はされていたのだ。
「和葉は気にせんでえぇんのよ。静華のところにはちゃんとお礼をしとんのやから」
「お礼って?」
「平次君にちゃんと毎年あげてんのよ」
アタシに浴衣の着付けをしながらとお母さんは言う。
二人に聞いて見れば、昔っからでアタシと平次にモノを上げているんだそうだ。
遠山家は息子がいないために平次を息子扱いし、服部家では娘がいないためにアタシを娘扱いする。
つまり、両家ではお互いを自分たちの娘息子のように扱っているのだ。
………もしかして仕組まれた恋愛?
なんて一瞬、勘繰ってしまい、尚且つそんな両親達にアタシは呆れかえってしまう。
とは思いながらも…ちっちゃいころから一緒にいた平次のことは気になる存在ではあったしそれはそれでいいかと思ってしまうのだったが………。
「えぇなぁ、和葉ちゃん。和葉ちゃんうちの娘にならへん?」
着付けが終わったアタシを見て静華おばちゃんは言う。
「ア、それえぇなぁ。じゃあ、平ちゃんはうちの息子な」
なんでそうなるん…………。
「おかん……腹減ったで」
突然、平次が上がってきた。
「平次、見てみぃ。和葉ちゃんかわいいで」
静華おばちゃんの言葉を受け平次はちょっとアタシを見る。
「えぇやんか…馬子にも衣装っちゅやっちゃな」
「……アホ。何言うとんのよ、あんたはもうちょっと似合うやんかとか言われへんの?」
平次のそっけない感想に静華おばちゃんは怒る。
「あんなぁ、そない言い方せんでもえぇやんか。ホンマのことなんやから」
「平次のアホ!!!平次の方がそない言い方せんでもえぇやろ」
平次の言葉にアタシの方が怒りだしてしまう。
確かに平次の言葉に期待はしていた。
と同時にどうせ「馬子にも衣装」とでも予想立てていたアタシがいる。
今から思えばそれは照れ隠しの言動だったと思えるのだけれど、その時のアタシは何も知らなかったから…平次の言動に怒るしかなかったのだ。
そんな状態のまま毎年平次と行っている寝屋川市のアタシ達の地域限定のお祭りに出かけた。
このお祭りはアタシ達の地域限定でありながら見事な花火の上がるお祭りとしてにぎわいがあった。
毎年のように平次は迎えに来る。
実際は静華おばちゃんが平次を追い立てるようにうちに連れてくるのだけど。
あの喧嘩した日以来あってないので何となく目線は合わせずらかったし、顔も見ずらかったのを今でも覚えている。
「和葉、着崩れせんように気ぃつけや」
毎回お祭りに行くたびに発せられるお母さんの言葉にアタシはあまり気乗りせずにうなずく。
ホントは行きたくなかった。
平次と喧嘩したし謝られてもいないし謝ってもいない………。
隣の家同士でしかも、部屋も隣同士で(本当に親の陰謀みたいだ……)の状況で顔を全く合わせない日はなかったけれど……。
それでもすぐにカーテンは引く、その窓辺から立ち去ると言う行動はとっていたので、完全に顔を合わせるのは久しぶりだった………。
「遅うなるようやったら電話せぇよ」
これも毎回静華おばちゃんのセリフ。
「ほな、行ってくるわ」
「行ってきます……」
平次とアタシは挨拶をしてお祭りを見に行く。
「和葉……」
「何……?」
「その浴衣なぁ……」
「何?」
「………におうとるよ……」
平次の突然の言葉に面食らう。
しかし、小声でうつむきながらだったので聞き間違いかと思い、思わず聞き返してしまう。
「平次、今何て言うたん?」
「えぇやろ。何言うたって」
そう言って平次は顔を赤くする。
「平次?どないしたん?」
「な、何でもないわアホ!!」
そう言って平次はますます顔を赤くした。
それをうちに帰って言ったら……。
その言った理由を種明かしをされた。
何と、このオレンジの浴衣は毎年、静華おばちゃんの浴衣買に無理やり付き合わされていた平次が今年に限って
「和葉はこれだ!」
そう言った平次が選んだものだった…。
そうして平次が似合う言った意味も分かったのだが……。
それでも似合うって言ってくれたのが凄く嬉しかったのだ。
「何一人でにやけてんねん」
「えぇやろ平次。昔の事思いだしてねんから」
「昔のことってなんや?」
「静華おばちゃんにこの浴衣を買ってもらったときの話」
「…あの時………おかんからなんか聞いたか?」
「何を……?」
「せやから……」
「聞いてへんよ。平次がこの浴衣を選んでくれたって言う話し以外は…」
「聞いとるやんか……しっかりと」
そう言って平次はそっぽを向く。
「で、平次、ホンマのところはどう思うてんの?似合う?にあわへんの?」
「アホ……言わんでも分かるやろ……」
そう言って平次は顔を赤くする。
「言ってくれへんとわからへんよ」
「あのなぁ………」
そう言ってアタシの方を向く平次にアタシは満面の笑みを浮かべて見つめる。
「に、似合うとるに…決まっとるやろ。オレが選んだんやから……」
アタシの目線を外しながら平次は小声で言ったのである。
しかも顔を真っ赤にして……。
そんな平次を見ていたらアタシまで顔が赤くなってしまった。
「和葉」
突然平次に呼ばれる。
「な、なんやの平次」
「手ぇ出してみぃ」
そう言った平次の言葉にアタシは素直に従い手を出す。
すると、突然平次に手をつながれてしまった。
「な、平次……」
「人がぎょうさんおるところで迷子になったら世話ないやろ」
そう言いながら平次はアタシを引っ張っていく。
平次の突然の行為にアタシは恥ずかしくなってうつむいてしまった。
「似合わんことせんといて……」
「かまへんやろ、別に…」
憎まれ口たたいてもその手は離してはもらえず完全に繋がれてしまった。
恥ずかしくって顔が上げられない。
顔を上げたら平次の背中が見えるし………。
とアタシが恥ずかしさ全開の時だった。
「やっぱ、お祭り行くの止めない?」
と突然工藤君が言ったのだ。
〜新一×蘭〜
「やっぱお祭り行くの止めない?」
オレはそう言った。
理由は簡単。
蘭の浴衣姿を見せたくない!!!
ただでさえナンパされるりつが高い蘭なのにお祭り会場に行ったら蘭を見る奴等が大勢いてオレがちょっと離れただけでもナンパしてくるやつがいると分かっているからだ。
玄関から出てきた蘭の姿を見たときそう思った。
蘭に一番似合う赤いゆかた地に色とりどりの花がちりばめられているそれは蘭の魅力をよりいっそう引き立てていた。
それでなくても蘭は可愛いのに。
ホントのことを言えば、服部や快斗にも見せたくなかった……。
誰にも見せたくない。
かなりの本音。
とは言うもののやっぱりそう言うわけには行かないのが現実であって……。
結局お祭りに行くことにはなったのだが……。
オレは蘭のナンパされ率の高さを忘れていたのだ。
はっきり言って普段でさえ高いのにだ!
だからオレは
「やっぱお祭り行くの止めない?」
そう口から出たのだ。
「何で、新一?」
「え……蘭の浴衣姿を……他人に見せたくない……」
「え………」
小声で言ったはずのおれの言葉に他の5人ははっきりと聞き取ったらしい。
蘭を見れば顔は真っ赤だし。
服部と快斗に至っては笑いだす寸前……。
「く、く、く、く、く、はーーーーーーーーーーハハハハハ!!!最高、新一」
「さすがは工藤や!」
「まだ見ぬナンパ男にやきもちを妬く名探偵工藤新一って所だな」
「快斗ぉそう言う言い方ひどいよ」
「いやぁ、やきもちを妬く工藤って言うのも見物やのぉ」
「平次、工藤君に失礼やで」
お前らなぁ………。
「………」
蘭を見ると顔を真っ赤にしてうつむいてる……。
「あのね、新一。わたしが浴衣姿を見せてる人って新一しかいないんだよ。他の人は勝手に見てるだけなんだからね」
そう言って蘭は手をつなぐ。
蘭が小声で言った言葉に顔が赤くなるのが分かる。
会場が近付いてくるに連れナンパ野郎の目線が気になる。
やっぱり見せたくねーよ……。
オレの我が侭かも知れねーけどよ。
〜快斗×青子〜
「快斗、青子の側にいるよね」
青子がオレのことを呼ぶ。
「あぁ、いるから」
「絶対青子から離れないでよ」
「ハイハイ」
青子の言葉にオレは返事する。
青子は今前が見えない。
理由はたくさん縁日で売っているものを持っているからだ。
綿飴から始って水風船のヨーヨー。風船にたこ焼き、揚げ句の果てには金魚まで。
すべて、青子の
「快斗、あれが欲しい」
にオレがやられた結果…である。
オレってもしかして青子に甘すぎ?
「快斗、焼きトウモロコシ欲しい」
「青子、どのくらい食べるつもりだ!豚になるぞ」
「じゃあ買ってこないでよ。青子があれ欲しいって言ったら止めてくれたっていいじゃない」
青子の言葉にオレは詰まる。
まぁな、確かにそうなんだけどよぉ……。
嫌だっていったら青子怒るじゃねーか!!
なんて青子の満面の笑みの前には絶対勝てず、結局オレは買いに行ってしまう。
やっぱり、オレって青子に甘いか?
青子がいる場所に来ると…いない?
マジで?
何でなんだよぉ!
「青子、どこにいんだよ!」
青子を探すが姿なし。
マジで行方不明?
「あ、快ちゃん。そんなとこにおったんか」
「な、なんだよ。平ちゃん…」
平ちゃんが青子を探しているオレを呼び止める。
そんなところにいたってどういう意味だ??
「あんなぁ、この後花火やんねんけど。めっちゃいい穴場があるんや。そこに行くで」
「ちょーっと待て!!!オレは青子を探してんだよ!」
「ア、平気や。青子ちゃんやったら先に連れてったで!!!」
平ちゃんの言葉にオレは驚いた!!
「あのなぁ、青子がこの場からいなくなったら探すって思わなかったのかよ!!」
「せやから、オレがおるんやないか。気にせんと行くで!」
………新一が………平ちゃんをいやがる理由が……何となく分かったような気がする。
ともかく平ちゃんに連れられ花火が見れる穴場に向かう。
「あ、快斗!」
その場には青子と和葉ちゃんがいた。
「平ちゃん、新一達は?」
「あっち!」
と少しだけ離れたところに二人でいる。
はぁん、そう言うわけね。
邪魔されたくねーって言うわけか。
「何や、こっち来い言うたのに。オレちょっと呼んでくるわ…」
「ア、オレも行く」
平ちゃんと一緒に新一の所に行こうとしたときだ。
「ちょっと待って」
青子と和葉ちゃんの声がはもるように聞こえる。
「なんや」
「邪魔、せんとき」
「そうだよ、邪魔しちゃダメ」
「いいじゃん。ダメ?」
オレと平ちゃんの言葉に二人は
「ダメ!!!!」
と大きな声で言う。
「つまんないの」
「つまんないじゃないの。快斗、あっちいこ」
へ?
青子は面食らっているオレを放っておいて引っ張っていく。
「どこまで行く気だよぉ」
「あのね。和葉ちゃんがね教えてくれたの。こっち行くといいよって」
なるほどね、和葉ちゃんも二人っきりになりたいんだ。
「……快斗、青子と二人っきりにはなりたくないの?」
オレの様子を見て怒った様子で青子は言う。
「……なりたいです」
「だったら、蘭ちゃん達のこと気にしないの」
素直に言ったオレに青子は嬉しそうにうなずき言った。
その瞬間花火が上がり青子の顔に花火の色が染まる。
「わぁ、花火が上がったね」
「そうだな」
花火を見上げるオレに青子は言う。
「快斗…青子、快斗に謝らなくっちゃね」
「何が?」
「快斗に黙っていなくなっちゃったこと」
「めちゃくちゃ焦ったんだぞ!!」
「うん、だからごめんね。少しは心配させてみたらどうだってみんなが言ったの」
あいつらぁ。
ばつが悪そうに青子は言う。
「青子が悪いわけじゃねーだろ。そんなの気にするなって」
「うん……」
ふと青子はうつむく。
「快斗、あのね」
そして花火の音で消えそうなぐらいの声でオレに言う。
「……怖かったの。快斗が撃たれたとき」
「……青子……」
オレの腕を掴んで青子は言う。
「快斗が…いなくなっちゃうって思って……」
「でも、いなくなってないだろ。オレはお前の側にいるだろ」
そう言ったオレの言葉に青子は泣きだす。
張りつめていた緊張が途切れるかのように。
あの時から二人っきりで話すって言うことなかったしな……。
ずっと我慢していたんだろう。
そんな青子をオレは抱き締める
「泣くなよ、青子。もう終わったんだからオメーが不安になるようなことはねーよ」
「ホント?」
「あったりめーだろ!大勢の敵に囲まれて殺されるような場面にはもう二度とでくわさねーよ」
そう言ったおれの言葉に青子はうなずく。
泣きやんだ…のかな?
「快斗、今度は地元のお祭りに二人で行こうね」
青子は泣きやんだのかオレにそう言う。
「そう…だな」
あいつらに(とくに服部)邪魔されない地元のお祭りに行くっていうのはいい考えかも知れないな。
オレは青子の隣で花火を見ながらそんなことを思っていた。