あれから一週間、オレの休まるときはなかった。
けっこーボロボロだ。
事件を追っかけている分にはまだいいのだが……。
それ以外のことに神経を使うというのは、結構厄介なことに気がついた。
学校(小学校)に行っている間および放課後は、少年探偵団の一員として引っ張り回される。
学校に行っているときの授業は教師が試行錯誤して行っている『飽きさせない授業』の為にいねむりも出来ない。
極め付けが、夜寝るときに必ず言われる蘭の爆弾発言。
『コナン君、一緒に寝よ』
そのせいで、まったく熟睡が出来ていない。
この一週間オレの睡眠平均時間は4時間を切っていた。
くっそーーーーーーーあの時キスなんかするんじゃなかったよ…。
後悔先に立たず。
この言葉が今まで何度オレの頭の中に上ったか…。
オレがキスしたせいで蘭の夢の中には一週間続けて…17歳のオレが出てくる。
それで、蘭は幸せになっている。
…………、そのせいじゃないかも知れないが。
オレの中ではまず、それが一つの要因だと思っている。
蘭の知らない要因。
でも、蘭の中で確信していることは、オレ(コナン)が隣で寝ていれば(布団一緒で)オレ(新一)の夢を見れる、そう定義づけられてしまったことだ…。
オレでさえ、蘭の夢見てねーのに。
そのせいでオレは隣に蘭が寝ているために興奮して眠れないというおおよそ小学一年生らしくない状況に落ちていった。
オレ…一応、健全な17歳の男子高校生なんだよーーーーー!!
と心の中で叫んでみても、しょせん、見かけは小学一年のガキ。
くーーーーーーーーー、早く元の姿に戻りたいぜ……。
まぁ、それはそれでいいかもしれないけれど…。
『工藤、どうや、また大阪きいへんか?』
「あのなぁ、服部。小学生がそう簡単に大阪に行けるかよ」
『工藤一人やのぉて、蘭ねーちゃんも一緒にや』
「は?」
突然掛かってきた服部の電話にオレは驚く。
いつも服部の行動は突然で、あれが探偵やって謎と解いているとはとてもじゃないけど思えない。
「な、なんで蘭も一緒になんだよ」
『いやぁ、和葉が蘭ねーちゃんに逢いたがってんねん。でな、今オレ大阪からでられへんのんや…』
「事件か?」
「ちゃう」
オレの言葉に服部はあっさりと否定し、服部らしい理由が展開される。
『オトンとオカンが東京行くたんびに事件に巻き込まれとるオレを見てな大阪からでるなぁ言われてんねん。こっそりでていこ思えばでていけるんやけど…後が怖いしなぁ』
と服部はつぶやく。
「ハハハハ、大変だな」
「ホンマやで。…大変といやぁ、工藤、蘭ねーちゃんと一緒に寝とるらしいのぉ」
…………。
突然の服部の言葉にオレは驚く。
な、何でこいつは知ってんだよ!!!!
「和葉が言うとったでぇ、蘭ねーちゃんが怖がりのコナン君と寝とるってなぁ」
蘭、何で言ったんだよぉ。
「まぁ、ともかく、大阪にきいや。待っとるからな」
そう言って服部は電話を切る。
「コナン君、今の電話、誰だったの?」
突然背後から蘭に声をかけられる。
「ラ、蘭ねーちゃんいつの間に」
「今よ。コナン君、今の電話誰だったの」
「へ、平次にーちゃんだよ。大阪に遊びに来ないかって言ってた」
ま、まさか今の会話聞いてなかったよなぁ…。
「ふーん。わたしも行っていい?」
「あ、平次にーちゃんが言ってたよ。和葉ねーちゃんが蘭ねーちゃんに逢いたがってるから蘭ねーちゃんと一緒に来いって」
「そっか。じゃあ、コナン君、一緒に大阪に行こうね。もう遅いからコナン君、寝よ」
そう言って蘭はオレの手を掴む。
「…………ねぇ、今日も蘭ねーちゃんと一緒に寝るの?」
「嫌?」
蘭は極上の笑みを浮かべてオレを見つめる。
「いや…じゃないけど」
嫌と…言えない…のが…なんか…。
はっきり「一人で寝るよ」って言えばおっちゃんのいびきはあるもののある程度の睡眠は確保できる……。
さすがにあのいびきもなれたけどな。
けど……。
なんか…情けない。
安眠できる独り寝か…熟睡は出来ないものの、蘭が隣にいるという幸せ……か…。
究極の選択でありながら、実は究極ではないと言う逆説的なものがそこにはあった。
くーーーーーー早く元に戻りてぇ。
「じゃあ、一緒に寝ようね。コナン君」
「う…うん」
あぁ、また負けた。
この蘭の笑顔に……。
まさか、オレの正体知っててやってるって事はねーよな。
んなはずねーよな。
新一の匂いがする。
……なんどか、抱き締められたことのある……。
でも、なんだか違う。
そう、まだ小さいころの…新一の匂い。
そっかぁ、コナン君がいるんだ。
なんどか疑ったコナン君。
「一緒に寝よ」
って言ったとき動揺したあの顔が一瞬、新一に見えた。
メガネ、かけてなかったし。
……でも無理やり違うんだって思い込ませた。
夜中目を覚まして隣に眠っているコナン君を見ると…やっぱり新一なのかな…。
って思う。
違うの?
それとも…新一なの?
まだ、わたしの中では揺れている。
新一だと思いたい。
でも、そうだと思いたくない時もある。
どうして言ってくれないんだろうって考えて。
何も言ってくれないコナン君は新一じゃないんだ……。
そう思い込んで…。
でも、やっぱりコナン君を見ていると…新一に思えてくる。
ホントのことは知ってもいいの?
知らないほうがいいの?
抱き締めて、教えてって言えば…教えてくれる?
コナン君……。
いい…匂いがする……。
生まれたての頃、母親に抱かれていたあの赤ん坊の頃の様な感触が、体全体に広がっている。
でも違う匂いだ。
そう……蘭の…匂いだ…。
そっかぁ、オレ、蘭の隣で寝てるんだよな。
…久しぶりに熟睡したような気がする。
何でだろうな。
うとうとし始めると隣で蘭の声がしてはっと飛び起きて……。
それの繰り返しだったからな……。
覚醒していく頭の中でオレは体が何かにまとわりつかれている感覚をおぼえた。
なんだろぉ。
まだ頭の中は眠気と闘っているため…はっきりとは分からない。
触れてみると……腕?
う…で………!!?
ってええええええええええええええええええええええ!!!!!!
オ、おい。
まさかこの腕って……蘭の腕!!!!
目を開けると息が掛かるくらいの至近距離に蘭の顔があった。
って事はオレ、蘭に抱かれてるのか??
間違いない、オレは完全に蘭の腕の中にいる。
普通は逆じゃねーのかぁ、オイ。
とは言ってもオレは小学生のガキ…。
逆のことは出来るはずもなく……。
……間近で見る蘭の顔はめちゃくちゃかわいかった。
ヤバイかも。
「ん、んー」
う………マジで可愛い。
「ん、…?あ、しんいち、おはよ」
目を開けて蘭はオレの顔を見て言う。
は……今…蘭…なんて言った???
新一って言わなかったか。
オレ、元に戻ってねぇよなぁ……。
さりげなく確認してみるが、まだ子供のまま。
って事は気付いてんのか、オイ。
と焦るオレとは裏腹に蘭はまた目を閉じる。
ってことは……寝言だ!!!
間違いない。
多分、小さいころのオレの夢を見て、そう言ったんだ。
大丈夫、気付かれてない。
「んーーーーふわぁ、ん、オハヨ、コナン君」
目が覚めたらしい蘭はオレの顔を見てそう言った。
大丈夫、蘭は寝言を言ったらしい。
「おはよぉ、蘭ねーちゃん」
そういうオレに蘭はニッコリと微笑む。
う……マジ可愛い。
ヤバイかも。
オレ…大丈夫かな。
突然、蘭がオレに顔を近づけて言う。
「コナン君、いい匂いだね。なんか日向の匂い……」
「え、あ、う…」
蘭の近づけてきた顔をまともに見られず…オレはうつむく。
うわぁ、うわぁ。
マジでヤベーよ、オレ。
このまま蘭の顔みてたら絶対……キス……しそう……。
理性と戦わなきゃならねぇ小一のガキって一体。
でも、一応健全な男子高校生ですし。
……ガキの体がもどかしい。
…一体、オレいつになったら元に戻れんだろ。
「さて、起きようか。大阪に行く日だもんね」
服部から電話が掛かってきた日から一週間後…オレはまだ蘭と一緒に寝ていた。
で、今日、大阪に向かう。
服部に実は逢いたくない。
蘭と一緒に寝てる事でからかわれるのは目に見えてるからだ。
「コナン君、急がないと、新幹線の時間間に合わないかも」
「うん、分かったよ。蘭ねーちゃん」
オレは蘭に言われて準備を始める。
大阪、オレはまだその時は知らなかった。
全てが大阪から始ることを…。
それは既に始っていたことを。
「ここらへんにおいしい、お好み焼き屋さんができたんや。そこに案内したろ思うてな」
「だからっていちいち大阪まで呼ぶなよ」
「えぇやんか、お好み焼き、東京で食うてもおいしくないやんか」
「あのなぁ」
大阪の町中で服部達にオレと蘭はおいしいお好み焼き屋さんに案内されている。
服部が大阪に呼びたかった理由はそれらしい。
何で、お好み焼き食べに大阪にまで来なきゃならねーんだよ。
「平次、見えたで。お好み焼き屋さん」
と和葉ちゃんが指を差す。
和葉ちゃんが指を差したお好み焼き屋さんは行列ができていた。
「アカンかったかぁ…。やっぱりこの時間やのうてもうちょっと遅く来たほうが良かったんか」
「うん」
「しゃあない、違うところ行くか」
「そうやね。じゃあ、どこ行こうか」
服部と和葉ちゃんで結論を出し和葉ちゃんは手帳をとりだし、違う場所を探し始めた。
その時だった。
全身が粟立つのがわかった。
全身が黒ずくめのスーツの男と。
黒のロングコートの男の二人組みが見えた。
間違いねぇ、あいつらだ。
ジンとウォッカ……。
あいつら二人がビルから出てくるのが遠目から観ても分かった。
「どないしたんや」
服部が突然、声を掛ける。
「あいつら、オレを小さくしたやつらだ」
オレは、声を殺し服部の問いに答える。
「な、なんやて……。オ、オイ。どこにいくんや」
「オレはあいつらをつける」
「な、何言うてんのや……」
めでおいながらオレは服部の問いに答える。
「今、今、今あいつらを捕まえないと、オレは…オレは」
オレは、元の姿に戻れねぇんだ。
あいつらだったら、APTX4869を携帯しているはずだ。
「せやけど………」
服部を安心させるかのようにオレは振り向き微笑みかける。
大丈夫だ、へまはしねぇよ。
蘭を…これ以上泣かせるような、へまだけはな。
「…だめ……」
あいつらの元に行こうとするオレは突然二の腕をつかまれる。
「…ダメ。行かないで」
そうしてオレは引き寄せられ、オレの腕を掴んだ主に抱き寄せられる。
「行かないで……。危ないから…行かないで」
「ら、蘭、ねーちゃん」
背中ごしに蘭の声が響く。
「向こうに行っちゃダメよ……お願いだから…、ね、コナン君」
一瞬、オレの正体に気付いたのかと思った。
「……あれは……大阪府警の……後つけとんのか?」
その瞬間。
「あいつら、オレを小さくしたやつらだ」
声を殺したコナン君の声が聞こえる。
オレを小さくしたやつら……。
服部君とコナン君の視線の先にはあのトロピカルランドで新一がおいかけていった二人組みの男がいた。
全身黒ずくめの男達。
じゃあ、やっぱりコナン君は新一なのね。
「オレはあいつらをつける」
コナン君(新一)の…悲痛な声が静かにわたしの耳に届いてくる。
「せやけど…」
服部君の引き止める声にコナン君は振り向き微笑む。
不敵な…微笑み。
あの、わたしを安心させるかのように何度も見せたあの微笑み。
メガネで少し表情は変わっているけど間違いない……。
コナン君は新一なんだ……。
なんで気がつかなかったんだろう。
どうして、気付かなかったんだろう。
違う…、気がつかなかったわけじゃない。
気付かなかったわけじゃない。
どこかで否定していたんだ。
コナン君=新一と言うことを。
コナン君と新一は別人。
どこかでそう思っていたことに。
でも…もう否定できない。
新一だよ、全部。
振り向き方も、その微笑みも。
コナン君があの二人を追いかける…その瞬間わたしは彼の腕を掴み抱き寄せた。
「ダメ、行かないで」
「蘭ねーちゃん…」
行かないで、新一。
行ったら…二度とあえなくなってしまうかも知れない……。
そんなの嫌。
コナン君でもいい…。
側にいてくれるなら、そのままでもいいから。
「向こうに…行っちゃダメよ。コナン君」
誤魔化せた?
わたしが気付いたこと。
多分、新一は気付いたかも知れない。
わたしが、コナン君は新一だと分かったこと……。
その刹那。
一瞬光を感じた後に小さな爆発音が聞こえる。
「な、なんや!!!」
「なんなん今の音」
そして、ものすごい衝撃が体中を走り始める。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「伏せるんや!!!!」
その次の瞬間あたりをつんざくほどの爆発音が当たりに鳴り響いた。
「移動するで、ここにおったら危険や」
服部の言葉にオレ達は移動する。
あいつらは…あのジンとウォッカはどうなったんだ……。
「K薬品会社大阪支社、何者かに爆破され、全壊」
次の日の新聞の見出し。
炎上理由および爆破理由は不明。
「昨日の、爆破事故すごかったんやね…」
「そうだね…」
爆破事故があったあとオレ達はその場に来た救急車やレスキュー隊員、そして大阪府警の人達に追い立てられるようにその場から移動することになった。
そして、そのまま服部の家に帰ってきたのだ。
「何で、オレの部屋に全員泊まるんや?」
と言う服部の疑問を無視して、そのまま服部の部屋に泊まる。
そして、翌朝見た新聞の見出しがその場の状況を物語っていた。
幸いだったのは、あのK薬品会社の大阪支社があったところはいわゆるビジネス街で、昨日は土曜日だったためにあまり人への被害は出なかったと言うことだ。
……。
K薬品の大阪支社から…でてきたと思われるジンとウォッカ。
つまり、K薬品は…あの黒ずくめの男達がいる組織に繋がっているのか?
そうでもしないとあいつらが爆破することはない。
「工藤、大阪府警に行ってみいひんか?」
「服部?」
朝食も終わった後、和葉ちゃんと蘭が着替えに別の部屋に行ったころ服部がオレに話しかける。
「どういうことだ?」
「知りあいがな…昨日のあの二人の後をつけとったんや」
と服部は淡々と言う。
聞き間違いじゃなかったんだ。
「あれは大阪府警の…つけとんのか?」
と言った服部の言葉は…。
「服部…、オレはオメーを巻き込むつもりはねぇ…」
「何いっとんのや、工藤」
「服部、聞け。これ以上、オレのことに関わると、オメーまであぶねーんだぞ。それ分かっていってんのか?」
「工藤……」
そう言って、服部はオレの頭をなで回す。
何で、なでるんだよ!!
「工藤、えぇか。知り合いの刑事があいつらを追っとるって事は、もうオトンもあの工藤をちっこくした組織が何やっとんのか知っとるんやろな…。工藤、少しは、協力させよ…。一人やと何もできひんと違うか?サポートぐらいはしたってえぇやろ」
「服部……わかった」
「よっしゃ、行くで、大阪府警本部に」
そうして、オレと服部は今、大阪府警本部にいる。
「どうやって調べるんだ?」
「オトンに直接聞く」
「は?」
「爆破犯を見た言うてな」
「服部、自分が何言ってるのか分かってるのか?もし、ここに組織の人間がいたらどうするつもりだ!!!」
オレの小声での抗議に服部は無視し本部長室へと向かっていく。
「ん?平ちゃんやないかい。どないしたんのや?」
「おぁ、大滝ハン。オヤジどないしとる?」
「本部長やったら遠山のおやっさんと話し込んどるわ。今はまだ本部長室に入らんほうがえぇで。ふあぁぁぁ。ん、すまんな。こんな大あくび見せてもうて」
「何や、大滝ハン寝不足なんか?」
「まぁなぁ。ちょっと違う事件追てたら昨日の爆破事件やろ、休む間もあらへんで…。ん?話が終わった見たいやで、遠山のおやっサンが出てきたから」
本部長室から男性が一人出てくる。
「和葉のおとんや」
と服部がオレに耳打ちしたときだ。
「平次、なしてこないなとこにおんのや」
「え、あぁ、オ、オトンに逢いにきたんやで…。べ、別に事件に首突っ込もう思うて着たわけやないんやでハハハハ」
服部はカナリ焦っていた。
……そうか、そうだよな。
好きなやつの父親の前って言うのは何気に緊張するもんだ。
オレだって……今は……平気だけどよ。
「さよか、ならえぇねんけどな」
そう言って和葉ちゃんの父親は刑事部屋に向かう。
「ふぅ、和葉のオトンは苦手や…」
そう言いながら服部は本部長室の扉をノックする。
「誰や?」
「オヤジ、オレや」
「入ってもえぇで」
その言葉にオレと服部は本部長室に入った。
広い、本部長室で、服部警視監が一人デスクの上に散らばっている書類に目を落としていた。
「何しにきたんや、平次」
「昨日の、K薬品の爆破事故の事や」
顔をあげたその表情は鋭く刑事の顔だった。
「あの場に…おったらしいなぁ…平次」
「まぁ、オレだけやないけどな。和葉や、このボウズと蘭ねーちゃんも一緒やった」
「で、何が言いたいんや…。平次」
「黒ずくめの男」
服部の言葉に本部長は目を見開く。
「オヤジ、心当たりあるんやな」
「平次……この件にお前は関係あらへんやろ」
間違いない。
服部警視監は組織を知っている。
「服部本部長、オレには爆破事件の犯人と思われる人物に心当たりがあります」
「く、工藤」
服部がおれの顔を驚いて見る。
十中八九、大阪府警は…組織をおっている。
はっきりさせておいたほうがいい。
「……平次、この子は何もんや」
警視監の言葉に服部はオレを見る。
オレは…黙ってその服部にうなずいた。
こうなったら仕方がない。
彼は…オレの正体を知っている奴の父親だ。
しかも大阪府警のトップ。
もしかすると先の警視総監になる可能性だってある。
大丈夫だ。
念を押すように服部はオレに短く聞き返す。
「いいんやな」
「あぁ」
オレの短い返事に服部は警視監に言った。
「こいつは、多分信じられんかもしれへんけど……工藤新一や」
「な…なんやと」
服部の言葉に警視監は信じられない風にオレを見る。
無理も…ないだろうな。
小学一年かそこらの子供としか見えない江戸川コナンをあの高校生探偵と謳われた工藤新一だってどう見ろっていうんだ。
「ホンマ…なんか?工藤新一は、現在行方不明やって聞いとるんやで」
「本部長……、説明します。オレは、ある組織にクスリを飲まされこの体になっています。オレは一応その組織を黒の組織と呼びやつらを追ってきました…」
オレの口から語られる、真実に服部と警視監は顔を強ばらせていく。
「……平次、家に戻るで。あぁ、ワシや、遠山はおるか?……おぉ、ワシや。例の件、動き出すで。話したいことがあるねんワシも帰るから遠山も帰れ。オォ、そうやほなな」
そう言って警視監は内線を切る。
動き出した。
全てが…。
オレが元の工藤新一に戻るために。
全てが…動き始めていた。
夜……。
俺達はやっぱり服部の部屋に寝ていた。
オレの隣には蘭その隣に和葉ちゃん、服部は、オレのもう反対側。
はぁ、何で服部がオレの隣なんだよ。
服部本部長と遠山刑事部長に全てを話した。
もちろん服部も同席してだ。
大阪府警はやはり黒の組織をおいかけていた。
大阪近隣で起きた不可解な殺人事件、および先日の爆破事故にからんだK薬品の不穏な動き…。
そして、前から起きていた要人の殺人事件等…そこから…大阪府警は黒の組織の全容に近付いていた。
…だが、もう大阪府警だけの問題でなくなっていくだろう。
これで良かったのか?
本当に。
いいんだ…。
これで、全てが解決に向かう。
そして、オレの名前を警察機関に出す。
オレが解決する。
オレだけでは無理かもな。
分かってる。
だから服部本部長に全てを話した。
これで…蘭を守れるのか?
オレの中には疑念が渦巻く。
オレが今までやって来たのは全て蘭を守るため。
起き上がり、オレは蘭を見つめる。
静かに眠ってるな…。
服部も、和葉ちゃんも眠っているらしい。
…相変わらず、オレは熟睡が出来ねーみたいだな。
蘭が隣に寝ていると思うだけで顔が赤くなるのがわかる。
「んー…」
静かな蘭の吐息。
オレと服部が大阪府警から帰ってきたとき少しだけ…、ほんの少しだけ淋しそうな表情を見せた。
多分、誰も気付いていないだろう。
蘭さえも…。
蘭を悲しませるわけには行かない。
……オレは…いつまで蘭の側にいられるのだろう。
多分、そのうち蘭の側を離れなくてはならないときが来る。
守りたい…。
全てを掛けて…。
そばにいられるのなら…。
オレの命を懸けてでも蘭を守りたい。
こんな体じゃ何も出来ない。
蘭…オレに、蘭を守らせてくれ。
こんな体が恨めしい。
何も出来ない体が悔しすぎる。
「ん…んーしんいち……」
蘭のオレを呼ぶ声。
「蘭…守るよ…。オレの全てをかけて…」
蘭の耳元でそう呟き、蘭の口唇に静かにキスをした。
……まずい…またやっちまった。
癖になったか?
「く、工藤……」
「あ?」
背後で声が聞こえる。
振り向くと服部が驚いてオレの方を見ていた。
「あ、あ、あ、…あのさ……」
「……何も言わんでえぇ……」
そう言って服部はオレの頭をなで回す。
「……つらいんやな……」
「ば、バーロォ。そんなんじゃねーよ」
「アホ。素直になりや。せやけど……工藤、ばれたらどないすんのや」
そう言って服部はニヤッと笑った(暗がりで見えないが)。
「は、服部?」
「安心せぇ。言わんといてやるから。のぉ、工藤。蘭ねーちゃんにばれたらどないなるんや?確かぁ、空手で都大会優勝してるんやったよなぁ」
……まずい奴に知られたかもしれねぇ……。
「服部、ぜってーに言うなよな」
「分かっとるよ。安心せぇ。のぉ、工藤」
この微笑みがいやだ。
「オレは寝るからな!!!」
そう言ってオレは服部に背を向け寝る。
蘭の顔がオレの方を向いているがそれは…仕方ない。
オレは、黙って目をつぶった。
「ば、バーロぉそんなんじゃねーよ」
「アホ、素直になりや」
服部君とコナン君の会話が聞こえてくる。
小声だけれども…服部君ははっきりとコナン君に向かって工藤と言う。
あぁ、間違いないんだ。
コナン君は新一なんだ…。
寝息が聞こえる。
規則正しい寝息。
コナン君…新一も服部君も眠ったらしい。
目を開け、コナン君(新一)を見つめる。
新一…だね。
やっぱり。
あどけない…寝顔は新一の小さいころ…、そう丁度、小学校に上がったばかりの…コナン君と同じ年のころの新一と同じ寝顔。
やっぱり…スキ。
そう思った。
どんなに姿が変わっても、どんなになっても、わたしはあなたが好きよ。
新一。
「スキよ、新一」
眠っている新一の口唇にわたしはキスをする。
待ってるから…いつか必ず言ってね。
約束の印だからね。
……目が覚めた。
口唇の柔らかい感触、いい匂いのする髪。
蘭にキスされた…夢。
夢だよな。
隣を見ると蘭は静かに寝息を立てて眠っている。
そうだよ、夢だよ。
蘭がコナンにキスするわけねーじゃん。
そう、夢だよな……。
んーどっちなんだろ。