「青子に逢いてぇなぁ」
キッドになって仕事に行く前にふとつぶやく。
青子にばれた。
というか青子にはなした。
オレは怪盗キッドは黒羽快斗だと言うことを……。
それから二日……。
学校の休みと重なって、オレは青子に逢えないでいる。
青子との関係をただの幼なじみじゃなくしてから、2日も逢ってないということは今までなかった。
逢いたいと思えば、余計に逢いたくなるのは道理。
つい、青子の家の近くを飛んでしまう。
あっ、青子がいる。
まだ、夜は冷えるというのに青子は窓を開け、空を眺めていた。
今日…青子は一人……だよな。
中森警部はオレのせいで、美術館の警備をしている。
…オレのせいで青子が寂しい思いをしている。
「こんなんじゃ、言わねぇ方が良かったかな…」
あんな青子の寂しそうな様子を思いだし、ふと口からついてでる。
「何がだよ」
「別に、お前に言うことじゃねーよ」
とオレの目の前で呆れた顔をしてため息ついた名探偵に言う。
「だったら、呟くなよ。……オメー後悔してんだろ」
新一の言葉にオレは一瞬、動揺する。
「何が…だよ」
それでも、オレはいつものポーカーフェイスを崩さずに新一に言う。
「青子ちゃんに、自分は黒羽快斗だって言ったことだよ」
「後悔してないなんて言ったら……嘘になるかな…」
オレは、空にかかる月を眺めながら呟く。
青子は、怪盗キッドを嫌っていた。
嫌っている…怪盗キッド…の正体が、大切な幼なじみで恋人の…黒羽快斗…と知った青子の態度はがらりと変わってしまうだろう…。
それを承知でオレは青子に告げた。
嫌われても構わない。
これ以上、青子に嘘をつき続けることがつらかった。
でも、青子はいつもと変わらない態度であの時は接してくれた。
次に逢ったときもいつもと変わらない態度で青子は接してくれるのだろうか…。
あの場限りの…態度…だったのだろうか。
それを考えていたら青子に逢いにいけなくなっていた。
逢いたい…。
そう思っているのにどこかで拒否反応が起こるのだ。
「……なぁ、新一。オメー自分はコナンだって蘭ちゃんに言った後、どうした?」
「どうしたって?」
「蘭ちゃんの側にいたかって言うことだよ…」
オレの問いに新一はため息をついて答える。
「オレは…蘭の側にずっといたよ」
「マジ?」
「あたりめーだろ。今まで側に居れなかった分、側にいるのは…」
「……」
「だいいち、蘭が側から離れなかったし」
「……クスクスクス……」
小さな笑い声が、聞こえてくる。
この声って……。
「蘭、でておいで」
そう、新一が言うと蘭ちゃんが建物の影からひょこっと現れ新一の元へ来る。
「蘭ちゃん、どうして…?危ないよ」
「大丈夫だよ、新一が居るから」
とオレの言葉に蘭ちゃんは笑って答える。
「勝手に来られるよりも、連れてきたほうが良いと思って、連れてきたんだよ…」
と新一は優しい目で蘭ちゃんを見つめる。
心底…新一は蘭ちゃんが大切なんだと気がつく。
オレは…どうなんだろう。
オレは…怪盗キッド……は、青子がどのくらい大切なのだろう。
オレは…黒羽快斗……は、青子がどのくらい大切なのだろう。
「快斗君にね、青子ちゃんから伝言があるの」
ふと、蘭ちゃんは言う。
「伝言?何」
聞きたくない……。
そう思った。
伝言。
嫌われるのは確定的なのだろうか……。
「快斗のバカ!大っ嫌い…だと」
新一の言葉に頭の中が真っ白になる。
……仕方ねーか……。
「もう、新一ったら。快斗君、青子ちゃんからの伝言ちゃんと伝えるから耳貸して?」
そう言って蘭ちゃんはオレに近寄って耳元でささやく。
「快斗、青子はキッドも快斗も大好きだよ。青子は快斗に逢いたいから、早く青子の所に来て。青子はずっと、待ってるから。……って」
そう言って蘭ちゃんはオレから離れる。
「ホントに?」
「うん」
蘭ちゃんの笑顔は青子に似ていて、抱き締めたくなる。
「快斗!!!!!!!!!!!!蘭に触るな!!!」
「触ってねーよ!!ったく、そのやきもち妬きの性格直せよ!!」
「うるせぇ、オメーに言われる筋合いねーよ」
「へいへい。じゃあな」
蘭ちゃんの青子からの伝言で目が覚めた。
青子が大切だ。
青子が何のためにオレを…怪盗キッドを、だましていた黒羽快斗を許してくれたのかわからなくなるじゃねーか…。
オレは青子が大切だ。
怪盗キッドであろうとも、黒羽快斗であろうとも、どちらでも中森青子という一人の人物が何よりも大切なんだ……。
「青子さん、窓を開けていたら風邪をひきますよ」
ベランダからそとを見ていた青子にオレは声をかける。
「……」
びっくりした表情で青子はオレを見つめる。
どこかに何か緊張感を持ちながら。
「どうかした?」
不安になって聞いたオレに青子は答える。
「な、なんか青子緊張してる!!!」
「どうして」
な、なんで青子は緊張してるんだ?
「青子、キッド…のことこんなに近くで見るのなかったから……すっごくなんか緊張してるの」
そう言って、青子はもじもじする。
「緊張する必要ねーじゃん」
「あるの!!……それに、青子…キッドの…快斗の側に居たかったのに、青子の側に居て欲しかったのに全然居てくれないで……。だから……青子の側から居なくなっちゃうと思ったら……」
「居なくならねーよ」
「ホントに?」
「ったりめーだろ。オレが一番大切な人は青子以外にないんだから、オメーの側に居ないでどうすんだよ」
「だって、だって……」
オレの言葉にまだ、何か言いたそうな青子をオレは抱き寄せる。
「……キッド……」
「側に居ること…許して下さいますか?怪盗キッドである黒羽快斗を…」
オレの言葉に青子は怒る。
「言ったでしょ、快斗。青子はずっと側にいるって!!青子以外に誰が快斗のこと許すのよ!バカ」
「バカはねーだろ。バカは…」
青子の言葉につい微笑んでしまう。
「あのね、青子、怪盗キッドにお願いがあるの」
オレの顔を見上げながら青子は言う。
「お願いですか?青子さんの願いなら何でも聞きますよ」
「ホント?」
「ハイ」
オレがうなずくと青子はにっこり笑って言う。
「あのね、…お仕事するとき…必ず、青子に逢いにきて欲しいの。でね、終わった後も青子に逢いにきて欲しいの」
どういう意味だ?
「あのね……心配なの……キッド……快斗のことが…。だから必ず青子に逢いにきて欲しいの」
つらそうにオレを青子は見つめる。
『いつも…心配なの。彼がつらい目にあってないかって』
そう言った名探偵の彼女のことが思いだされる。
青子も同じ気持ちなんだと今知った。
「……青子、言わないほうが良かったか?怪盗キッドは黒羽快斗だって」
「何でそんなこと言うの?言われないほうが余計に嫌だよ。快斗がつらい目にあってるの知らないでいることなんて嫌だよ…」
そう言って青子はうつむく。
「ごめん…、青子。……青子、仕事行く前と終わったときは必ず青子の所に来るよ」
「ホントに?」
青子の言葉にオレは微笑んでうなずく。
「じゃあ、約束ね。でもう一コあるんだけど、いい?」
もう一コのお願いってなんだ?
「あのね、青子、夜のお散歩したいんだけど」
青子はねだるような顔をしてオレを見つめる。
だぁーーーーーーーーーーーー!!
そんな顔で見つめるなよぉ……。
「駄目?キッド」
「青子さんの…お願いですから……かなえさせていただきます……」
そういったオレに青子は満面の笑みを浮かべる。
う"っ可愛すぎる。
「青子、このままどこかに連れ去ってもいい?」
「か、快斗。いきなり何言いだすのよ!!お散歩って言ってるでしょ。もう、快斗のバカ!!!」
オイオイ、バカはねーだろバカは…。
「ハイ、お散歩ですね。では、参りましょう。とっておきのところに青子さんをご招待致しますよ」
そう言ってオレは青子を抱きかかえ、夜の空へと飛び出したのだった。