『Trick or Treat!!』
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。
今宵はハロウィン。
闇が目覚める夜。
『Trick or Treat!!』
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。
それは子供の合い言葉。
『Trick or Treat!!』
甘い物が欲しい。
とろけるような甘いもの。
ここは魔界。
闇の祭が始まる日、『白衣の悪魔』は一人たたずむ。
天の御使いより白き衣を身にまとう、白き悪魔。
「つまんなそうじゃねぇか」
声をかけたのは『魔王の息子』。
この魔界を統治している魔王の息子と呼ばれるにふさわしい風格。
深い深い闇よりも深い海の色を持つ瞳は誰もが魅了される。
彼に寄り添っているのは幼なじみの美しき『妖姫』。
一目見ただけではあやかしの姫とは思えないあどけなさ。
けれど…やはりあやかしの姫。
誰もが魅了される。
「つまんないね、何しに来たわけ?」
「あのね、あなたに、この人がプレゼントしたいんだって」
「プレゼント?」
『妖姫』の言葉に白衣の悪魔は問い尋ねる。
「オメェがほしがってた物の在処、だよ」
『魔王の息子』がひらひらと見せる羊皮紙を『白衣の悪魔』は奪い取り、眼をざっと通す。
「さすがじゃねぇか」
「当たり前だろ?世にあるもの全て調べられるんだぜ?ソレくらい簡単に決まってんだろ?」
「だよな、ありがと。礼、言っとくわ。じゃ」
そう言って『白衣の悪魔』は空に飛び立つ。
『Trick or Treat!!』
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。
「ちょー待てや」
深いクッションのあるソファに座り『魔王の息子』に話しかけるのは『西国の王子』。『魔王の息子』と同じ鋭い眼光を持つ。
「ほんならあの人はその子に逢いにいったん?」
『西国の王子』を押さえるのは彼の幼なじみの『姫』。
『西国の王子』が手を焼くほどのおてんばだけれど、目を離す事はやはり無理。
「そう言う事になるね」
「勝手に逢いに行ってもえぇんか?」
「魔界の住人が人に接触する事は禁忌じゃないけど?」
「せやけど、空のもんが黙っとらへんのとちゃうか」
『西国の王子』が言う空のもんとは『天の御使い』。
天の御使いと魔界の住人は仲が良くない。
「別に問題ないだろ?何か悪さするわけじゃないし。ソレよりもあいつは神よりも白い、そう、白衣を身にまとってる。下手したら御使いの方が堕ちるよ」
「そうやな」
『西国の王子』と『魔王の息子』との間で話がまとまった時。
「でも連れてきたそうだったよね」
「連れてきたそうって言うより、連れてきそうな気がするわ」
『妖姫』と『姫』との間で交わされる会話に『西国の王子』と『魔王の息子』は顔を蒼くする。
「せやけど、魔界に連れてきても平気なん?」
「大丈夫だよ。彼ならきっと守ってくれる。彼なら、守れるよ」
「そうやね…」
『Trick or Treat!!』
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。
今宵はハロウィン。
だけれど、祝福を送る月は満月じゃない。
気をつけて、魔界の人。
今宵は新月、朔の夜。
魔力が一番弱まる夜。
今宵はハロウィン。
『Trick or Treat!!』
窓を開けて空を見上げると、星の光しか見えなかった。
今の時間ならば、月は中天にあるはずなのに。
自分の部屋の窓を開けて空を見つめいた青子はふぅっと息を吐いた。
あの夜も今日みたいに月がなかったっけ…。
1月ほど前の新月の夜を青子は思い出す。
あの日、夜遅くに、帰る途中、天から人が降ってきた。
シルクハットにモノクルをかけ白いマントと白いスーツに身をまとった人。
快斗と名乗ったあの人。
周りの友人からは『キッド』と呼ばれてるけれど、青子には『快斗』って呼んで欲しいって言った人。
普通、人が空から降ってくるはずないんだけれど、青子は素直にソレを信じてしまった。
どうしてだか分からないんだけれど。
本当だったら信じないのに。
どうしてだか、快斗の存在は素直に受け入れていた。
空から降ってきた事も、そのまるで小説にでてくるような怪盗みたいな格好をしている事も、全て。
だから、青子は信じている。
『一ヶ月後のハロウィンの夜に逢おう』と言う言葉を。
でも…。
ホント?
あなたの存在も全てウソのような、夢だったような気がする。
そう思った瞬間だった。
「こんばんわ、お嬢さん」
テノールの声が響き渡る。
「快斗っっ」
青子の目の前にあらわれたのは白き衣に身をまとった彼。
空中に浮いて、にっこりと微笑んでいた。
「な、なんでいきなりっっ」
「いきなりってハロウィンの夜に逢おうって言ったじゃん」
「言われたけど…」
突然、あらわれたからびっくりして…。
しかも、快斗の事考えてたから、きっと多分、青子の顔、赤くなってる。
『Trick or Treat!!』
「へ?何?」
「今夜はハロウィン、いたずらされたくなかったら、おもてなしして欲しいな」
いたずらっ子のように快斗は微笑む。
「かっ快斗は子供じゃないでしょう?ソレって、子供が言うものだよ」
「とは言っても、オレ子供だよ?『キッド』だし」
「分かったわよぉ。快斗、良いよ、部屋の中入っても」
快斗の子供みたいな無邪気な笑顔に負けて、部屋の中に招き入れた。
『Trick or Treat!!』
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。
お返しに甘い物をあげよう。
とろけるように甘いもの。
部屋に入るなり快斗は倒れ込んだ。
「どうしたの?快斗」
「…すっげー疲れた。ハロウィンだから、大丈夫だって…思ってたけど、やっぱ新月はだめだ…った」
「新月の夜は力が弱まっちゃうんだよね。大丈夫?」
「まあなんとかね」
白き衣に身を包んだ彼は魔界の住人、そう悪魔なんだって。
聞いた時はびっくりしたけれど、快斗だからそうなのかなって何故か納得した。
悪魔の魔力の源は『月』。
満月の夜が一番、力が強い。
今日はあいにく新月の夜。
魔力の源が見えない夜は力が弱まる。
初めて快斗に出会った夜も新月だった。
だから、快斗は降ってきたんだって。
「快斗、なんか持ってくるからちょっと待ってて」
そう言って立ち上がろうとした青子の腕を快斗はつかむ。
「な…何?」
「青子…このままオレの側にいて?」
そう言って快斗は青子の事を抱き寄せた。
「快斗?どうしたの」
「オレ、すっげー、青子に逢いたかった、青子はどう?オレに逢いたかった」
青子の耳に静かに快斗の声が響いてくる。
「青子も、快斗に逢いたかったよ」
そう、青子も逢いたかった。
初めて見た時に、この人のこと好きだって思ったから。
「じゃあ、連れ去って良い?」
「へ?」
快斗の言葉の意味が分からなくって聞き返す。
「どういう意味?ソレって」
「青子の事、ここからオレのすんでいる魔界に連れて行って良い?」
「オレ、青子と一緒にいたいから。青子の側にいたいから」
快斗の言葉を理解した瞬間、青子はどうして良いか分からなくなる。
「青子は、どうしたい?やだって言われても連れ去るつもりだけど」
強引な口調で快斗は言う。
「それでも、やっぱり青子の好きなようにしたいよ」
青子はどうしたい?
青子は快斗の事好き。
側にいたい。
「青子は…側にいたい」
「じゃあ、魔界に連れてくよ」
快斗の言葉に青子はうなずいた。
『Trick or Treat!!』
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ。
お返しに甘い物をあげよう。
とろけるように甘いもの。
君の額に、君の瞼に、君の頬に、君の口唇に。
っていうか…失敗した。
最後がうまくいかなくって。
なんですかこりゃって感じになってしまった(~_~;)。
他の部分は結構気に入ってたり。
文体変えてみたり。