「どういうことだ?これは」
おっちゃんが家の状況を見て唸る。
「お父さん…あのね…」
「まぁまぁ、おじさん」
「おっちゃん元気やったか?」
蘭が取りつく暇もないほど。
「なんでこいつらがいるんだ?」
おっちゃんの言葉に応えるのはいない。
「おじさん、ごはんどうするの?青子達、そろそろご飯にするんだけど」
「おっちゃん、今日鍋なんよ。てっちりやで。平次んとこのなおばちゃん仕込みなんやけどね」
「あとで…全部説明しますから」
「説明ってなぁ、今から説明しろっ新一!!!」
オレが説明しようにもどうしようにもならない状況に今あった。
「…とりあえず、おっちゃん、家の中に入って一緒にご飯食べていかんか?受験が終わったから今日は宴会やねん」
そう、今日は帝丹の受験があった。
受験を受ける服部達は2日前から泊まりに来ていた。
恐ろしいほどにぎやかになる。
あいつらが帝丹にくる理由は結局まだ聞いてない。
聞く必要…あるのか?
そう思う。
オレはあいつらがいればいいと思う。
蘭のために。
あの時怖くなった。
蘭が他人の目に好奇にさらされそうになったときを…。
あの時安心した。
快斗や、青子ちゃんがいてくれたことに。
だから…まだ何も聞かない。
何でいるのか。
聞いても教えてくれないだろうから。
ただいることに…安心できるから…。
時期じゃないんだろうな…多分。
「説明…しますから…今から……。服部、快斗。オレと蘭、ちょっと出るから。おじさん、外ではなします」
そう言ってオレは、蘭を連れおっちゃんとともに探偵事務所に戻る。
「新一、何であいつらがいることに説明をしろって言ってんのに探偵事務所まで戻ってくるんだ?」
おっちゃんは吸っていたたばこを無造作に灰皿に押し付けた後に聞く。
「ちょうどいい機会だと思ったからです」
「ちょうどいい機会だと?」
訝しがりながら聞くおっちゃんにオレは頷く。
お茶を律義にも入れてきた蘭を座るように促してからオレはおっちゃんに言った。
「お父さんには…話しておいたほうがいいと思って…」
そう言った蘭の言葉におっちゃんは身構える。
「な、なんだ??まさか妊娠……じゃ…」
「ちっ違うわよっ!!!そんなんじゃないわよっお父さんのバカっ」
何言いだすかと思ったら……。
まぁ、改まってって言われたら身構えられるよな。
「……あいつらと同居することです。この前のセンター試験の前に……ある人がオレと蘭を尋ねてきました。嵯峨野美江子と言う人なんですがご存知ですか?」
「…………嵯峨野美江子…だと?」
おっちゃんは苦虫を潰したような顔をする。
「何か…彼女と会ったんですか?」
「いや…噂でしか聞いたことねぇな。警察庁のすご腕の刑事だって言うのしかな」
それ以上、おっちゃんは彼女について何も言おうとしなかった。
「で、その嵯峨野美江子がお前らに何のようだと?」
「………警察庁が今度作る警察の組織に協力して欲しいと言われました。まだ、返事はしてません」
「それと…あいつらとの同居になにがあるんだ?」
「……多分…ですが…あいつらにも彼女は接触しています。多分、オレと蘭よりも前に…。…おそらくは…11月頃……には既に…」
オレの言葉に蘭は驚く。
「それ…ホント?」
「そんなこと…におわせてたからな…あいつら。多分、快斗も服部も彼女に会ってるよ。青子ちゃんや和葉ちゃんも一緒にね…」
だから…あの時オレとおんなじ学部に入るって言ってた。
だから、和葉ちゃんと青子ちゃんが蘭と同じ学部じゃないことに驚いた。
だから、4人で決めたって言ってた。
特殊捜査室にあいつらも誘われているのなら…全てつじつまが合う。
だから…快斗は何らかの事情があって…怪盗キッドをやらざるを得なくなった…。
「……あいつらと同居するメリットはあるのか?」
「あります。まず、蘭を寂しい思いさせないですむ。それから危険な目にも……。マスコミからも蘭を守ることが出来ます」
「…良いのか?それで」
オレを射ぬくように見るおっちゃんの視線を跳ね返すように見返す。
「いいんだな…。蘭…オメェはそれでいいのか?」
おっちゃんは蘭にも問い掛ける。
「うん…いいの。わたしは、新一の側にいられればそれでいいんだから…。何があっても大丈夫だから、お父さんは心配しないで」
そう言った蘭の言葉におっちゃんは呆れながらため息をついた。
「どうしたの?お父さん」
「………オメェ、事件があったときはどうするんだ?」
「……多分、服部も行くって言うと思う…後、快斗も…。目暮警部からなんか言われたときは…おっちゃん、フォローしてくれねぇか?」
「あのなぁ…」
呆れながらもおっちゃんは蘭を見てオレを見る。
「……蘭を守るためなんだろ?……なら…好きなようにしろっ。いいか、新一これだけは約束しろ。絶対にもう蘭を泣かすようなマネだけはするんじゃねぇぞ。もう…あんな蘭は見たくねぇからなっ」
そう言っておっちゃんはたばこに火をつけた。
「ご心配…かけます……」
そう言ってオレと蘭は探偵事務所を後にした。
服部達が大阪に帰り、快斗達が学校に行ったのを見計らってオレと蘭は出掛ける。
三年はもう自由登校になってるから…行く必要がない…。
今日の目的は警察庁…。
「……新一…何がおこるのかな?」
「…さあな」
不安そうにしている蘭の手を握りながらオレは警察庁へ向かった。
1階の入り口のところでオレは嵯峨野室長の名前を出す。
そして少しだけ待たされた後、女の人が現れた。
「工藤新一さんと毛利蘭さんですね。お待ちしておりました、嵯峨野室長がお待ちになってます」
オレと蘭は彼女の後を付いて警察庁内を移動する。
かなり、グルグルとまわった後、一室にの前に来る。
「ココで、お待ち下さい」
そう言って彼女は部屋の中に入っていく。
「…かなり、警察庁内をグルグルとまわったね」
「そうだな…何でだろう」
オレの言葉に蘭は首をかしげる。
別に意味のないことなのかもしれない。
特にあまり考えたくはなかった。
「どうぞ、中にお入り下さい」
オレ達を案内してくれた人に促されオレと蘭は部屋に入った。
部屋の内部は普通の応接室の様だった。
「内閣調査室管轄警察庁特別捜査室へようこそ。どうぞ、自由に座って」
そう言って嵯峨野美江子は現れた。
オレは蘭を促しながら座る。
「ココに来てくれたって事は、特捜室に入ってくれるって事って理解しても良いのかしら?」
彼女の言葉にオレは頷く。
「……それは良かったわ。では、あなたの所在に付いて言うわ。あなたは4月付けで内閣調査室所属の人間となるわ。まぁ、警察組織の中には組み込まれないけれど、かなり特殊な警官という扱いにはなるわね。もちろん、それは表には出せないわ。あなたの権限を使いたいときはわたしの名前を出すこと。内閣調査室室長の嵯峨野美江子の名前をね。そうすればすべてあなたに権限が移動されるわ。お得だと思わない?」
…どっかで読んだことのあるようなお約束の展開だな。
それよりも、気になってること…。
「服部や…快斗とは会ったのか?」
オレの言葉に彼女は答えない。
「どうして聞きたいの?」
「そうだとしたら全てつじつまがあいますからね」
「……その質問に答える義務はないっていったらどうする?」
そう言って彼女は涼やかに微笑む。
「……だと思いましたよ。でも、勝手に思ってるのは自由ですよね…」
何も答えてくれそうにない微笑み。
参ったな…。
「あの…一つ聞いていいですか?」
蘭がおずおずと言葉を紡ぐ。
「何?蘭さん」
「どうして…わたしが一緒にいること何も言わないんですか?」
蘭?
「特に問題はないからよ。あなたが一緒にいることに。それにわたしとしてはあなたにも特捜室に所属して欲しいの」
「蘭に危険なことさせるつもりか?」
「誰もそんなこといってないでしょう。蘭さん、あなたの役目は工藤新一の側にいること。それだけよ」
嵯峨野室長の言葉にオレと蘭は驚く。
「意味が分からないみたいね。つまりね、蘭さん、あなたがいれば工藤新一は無茶なことはしないって事よ。こちらとしても、工藤新一が無茶なことすることは本意ではないの。もし、前みたいに、小さくなったらこっちとしても困るのよ」
なんかムカツク。
本当のこといわれてるだけに…。
「ともかくそんなところよ。これからよろしくね。お二人さん」
そう言って嵯峨野室長はニッコリと微笑んだ。
「そうだ、これはお願い事なんだけど、黒羽快斗と中森青子のこともよろしくね」
付け加えるように言った言葉にオレと蘭は驚く。
「どういうことですか?青子ちゃんと快斗君の事って…」
「工藤君…あなたなら分かるわよね。黒羽快斗の経歴そして、彼の頭脳の事も…」
そっか…。
「彼のことそして、彼女の事諦めてない組織はまだまだあるわ。それを忘れないで」
そのことを聞いてオレと蘭は警察庁を後にした。
家に帰って来てわたしは新一に聞く。
快斗君の事そして青子ちゃんのこと新一は知ってる感じだった。
「新一…どういうことさっきのこと…」
静かに問い掛けると新一は寂しそうに言う。
「…快斗と青子ちゃんのIQの事だよ。オレもちょっとだけ聞いたことがある…。…IQ400の天才少年とIQ300の天才少女の話」
「…それが快斗君と青子ちゃん?」
わたしの言葉に新一は小さく頷く。
「どっかの小学生がIQ400を出して大騒ぎになったって言う話し。しかもその身近な女の子もIQ300っていう高い値出したんだって。小学生の平均ってどのくらいだと思う?」
わたしは分からなくって首をかしげる。
「80〜90だよ。多くて100かな……オレいくつだと思う?」
「分かんないよ…そんなこと」
「…269だよ…一時期290だったけど…269に落ち着いたのかな」
「……そんなこと…初めて聞いた…」
そう言った言葉に新一は寂しそうに微笑む。
「言いたくなかったんだ…。父さんから内緒にしてろって言われてたし…。日本で…って言うかどこでもそうだろうけど、知能指数が他人より高かったら何度も検査させられて実験対象になってしまうから気をつけろって。それでなくてもオレは父さんからいろんなこと聞いて何でも知ってたから…それでも年相応のことしか教えてくれなかったけど」
新一の寂しそうな…それでも何かもどかしそうな…こんな表情始めてみたような気がする。
そう言えば、おじさま言ってた。
「新一は人よりちょっとだけ理解が早いから誤解されちゃうこと多い」
って…。
だから側にいてあげて欲しいって…。
小さいころ言われたっけ…。
それ言われたときは嬉しかったな…。
新一のこと大好きだったから、側にいていいって認められたって感じで。
「3回検査をしたんだ。間違いだと思われてね。適当に答えているはずが全て正解。所が二人は気づいたんだ。なんか怪しいって…。これはなんかあるって…だから最後の検査の時二人は手抜きした。どのくらい手抜きしていいか分からなかったけど…とりあえず、7問ぐらいを平均に答えた。そしたら小学生の平均値まで下がったんだ。それが快斗と青子ちゃん。快斗のIQ聞いたときそう思ったんだ。それで、オレは聞いた。何度も検査させられたことないかって。その時言ったんだよ。青子ちゃんと一緒に何度も検査させられたって…………」
初めて知った。
青子ちゃんと快斗君にそんなことがあったなんて。
「それから…手抜きして…それでも…出来なくって……。今でも…そのIQ保ってんだろうな…。だから狙われる可能性あるって言ってるんだな」
「大丈夫…だよね」
不安になって新一に聞く。
何かあったときみんな大丈夫でいられるか不安になって…。
新一に聞いてしまう。
「あったりめぇだろ。オレがいるんだからさ、何も心配する必要ねぇんだよ」
不安がっているわたしを安心させるように新一はわたしを抱き寄せる。
新一の心音が耳に心地よく響いていく。
「大丈夫なんだからよ」
新一は言う。
わたしはその言葉に頷く。
「新一が大丈夫って言うんだから、大丈夫だよね」
「大丈夫に…してみせるさ」
そう言って新一はニッコリと微笑んだ。
不安なんて消し去ってしまうような微笑みで…。