Runaway from the night 新一サイド〜君の元に帰るために〜

 目が覚めるとまずオレは自分の身体の様子を確認する。
 手の大きさ、足の長さ、身体、目線の高さ………。
 そして落胆する。
 黒ずくめの男……ジンとウォッカ……にAPTX4869を飲まされたのは全くの夢ではないということを改めて認識させられる。
 それも毎回眠りから目が覚めるとだ。
 夢で……夢であって欲しい。
 何度そう思ったことだろう。
 蘭の側にいるのに蘭の側にいない。
 蘭の側にいるのは、17歳のオレ…工藤新一…ではなく、7歳のオレ…江戸川コナン…なのだ。
 改めて認識させられ落胆する。
 今も……そうだ。
 小学1年生の子供として、早めに寝かされたオレは大概、夜中に一度目を覚ます。
 時計を見ると、12時をまわっていた。
 隣に眠っている小五郎のおっちゃんは今にもいびきをかきそうな雰囲気を醸し出していた。
 変な時間に目を覚ました。
 おっちゃんがいびきかき始めたら眠れなくなる。
 それでなくても夜は嫌いなのに……。
「眠れねぇー」
 夜、特有のネガティブな感情がオレの中を支配し始める。
 気分を換えるためにオレは寝床を抜け出し、風呂場でシャワーを浴びることにした。
 少し熱いぐらいのシャワーのお湯はオレのネガティブな感情を洗い流す。
 と、同時に涙が出ていることに気付く。
「泣いたのなんて…久しぶりだな…」
 自嘲気味に笑う。
 戻らない身体への苛立ちか……風呂場に向かう前に聞いた蘭の泣き声のせいか……。
 どちらが原因なのかオレの中ではっきりしなかった。
「……君」
 シャワーの音に混ざって小さな声が聞こえる。
「コナン君」
 淡い意識の中で、その声はオレの頭をスッキリさせるには十分だった。
 が、何故呼んでいるかオレには謎だった。
「ら、蘭ねーちゃん、ど、どうしたの?」
「コナン君こそどうしたの?こんな夜中にシャワーなんて浴びて。怖い夢でも見たの」
 蘭の優しい声に目まいがしそうになる。
「ち、違うよ、ちょっと目が覚めちゃったから……。蘭ねーちゃんこそどうしたの?」
 蘭に泣いていたのが悟られないように話題を振る。
「ちょっと……怖い夢を見たの。………新一がね、もう戻ってこない……って言う夢」
「蘭……」
 蘭の声に胸が締めつけられる。
「なんでこんな夢見ちゃうんだろう。……新一に逢いたいって思うときは必ず見ちゃうんだよね……。なんか、いやだね、正夢だったら」
 蘭、オレはここにいる。
 叫びだしたい欲求にかられる。
「蘭…ねーちゃん。逆夢かも知れないよ。きっと新一兄ちゃんに逢えるんだよ」
 精一杯、子供振りして蘭を慰める。
 これは、オレの願望。
 戻りたい、オレの願望。
 元の姿に戻って蘭に逢いたい。
「そうだね、コナン君。逆夢かも知れないね」
 ラン、オレハ、ココニイル………。
 オレは、お前の側にいるから。
 心の中で叫んでも蘭には届かない。
 風呂から上がり、部屋に戻ろうとすると、蘭が待ちかまえていた。
「ど、どうしたの?蘭ねーちゃん」
「コナン君、一緒に寝よ」
「へ?!」
 一瞬、頭の中が真っ白になる。
 今、蘭のやつなんて言った??????
「だから、一緒に寝よ」
 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???
 らん、おめー何考えてんだよぉ!!!!!
「ダメなんて、言わせないわよコナン君。結構大人ぶってる割には怖がりなんだねぇ」
 そう言って蘭は満面に浮かべた笑顔をオレに向けて言う。
 ウッ……この顔一番よえーんだよぉ。
 って、蘭、オレを勝手に怖がりにすんなよぉ。
 怖がりなのは、おめーだろう。
 と心では思っても表では、
「え、っででも………」
 子供ぶるオレって一体………。
 だぁーともかく、頼むよ蘭。
 眠れなくなるだろう。
 それでなくても眠れねーっていうのによぉ。
 蘭は返事に困っているオレにクスッとほほ笑み、オレの後ろに回り込み抱き上げる。
「ら、蘭ねーちゃんはなしてよぉ」
「だーめ。今日は一緒に寝るの。そうすれば、怖い夢なんて見なくてすむもんね」
 と、蘭は否応もなしにオレを抱きかかえる。
 ム、ムネがーあたる。
 って、場合じゃねーよ。
 頼むよ、蘭ー。
「暴れないの」
 暴れるオレをさらに抱きしめるから余計に始末が悪い。
 悲しいかな、体格差で蘭には勝てず仕方なしにオレは蘭の隣で眠ることにした。

 気がつくとあたりは明るくなってきていた。
 眠れないと思っていたが……いつの間にか眠ってしまったらしい。
 眠りは浅かったらしいが……。
 身体を起こし、隣で寝ている蘭をのぞき見ると、蘭は静かに寝息を立てて寝ている。
「……蘭……」
 静かに名前を呼んでみる。
 愛しい人の名前……。
 たった一人、守りたい人の名前。
「……新一……」
 ……蘭がオレの名前を呼ぶ……。
 今にも泣きだしそうな蘭のつぶやきにオレの胸は締めつけられる。
 ………抱きしめたい。
 コナンになってから何度そう思っただろう。
 でも抱きしめることの出来ないもどかしさ。
 つくづく小さいからだが嫌になる。
 ふと、あることが頭をよぎる。
 このぐらいは許されるのではないか………。
 蘭の、口唇にオレは口付けをした。
 静かな、口付けというのだろうか。
「……蘭……(愛してる…)…」
 …勝手だろうか……。
 …勝手だな…、オレは。
 寝ている蘭にキスをして。
 一番守りたい君の側にオレはいない……。
 一番悲しませたくないのに……。
「……新一……」
 蘭の声で我に返る。
 何でキスしたんだろう。
 バカ…みたいだな。

 いつの間に眠ってしまったのだろうか…蘭のうれしそうな鼻歌で目が覚める。
 ……やけにうれしそうだな。
 何か良い夢でもみたのか?
「コナン君、起きた?」
 蘭がオレの様子を見に来る。
「おはよぉ…蘭ねぇちゃん」
 明け方自分がした行為を思い出し、まともに蘭の顔が見れない。
 表にはなるべく出さず、寝ぼけた振りをして目線を外しながら蘭に聞く。
「蘭ねぇちゃん何か機嫌いいね」
「わかる?あのね、コナン君」
 異常に蘭のテンションが高い。
 何で蘭のやつこんなにテンションが高いんだ?
 思い当たる節はない……。
 まさかキスしたことが原因じゃねーよな。
「あのね、コナン君にだけ教えてあげちゃう。夢にね、新一が出てきたの。でね…でね、キャハ」
 キャハ?
 な、なんだこのテンションは?
「…あのね……………してくれたの」
 蘭の突然の耳打ちに驚く。
 ジョーダンだろう。
 蘭がそんなこと言うって事はオレの正体ばれてるのか?
 冗談……だよな。
「そうだ、コナン君。これは新一に秘密ね」
 秘密っておい。
 くーーーーーーーー元に戻りてぇ。

『新一ね、キスしてくれたの』

*あとがき*
新一サイドというか、コナンサイド。
…こっそり泣かせましたが…、表に出てない部分って言うことで。


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