「やからってオレのこと呼びだすなや」
と目の前の関西弁の探偵はオレに向かってぼやく。
「オレだってスキで呼びだしたわけじゃねぇよ」
そう言ってオレはポケットからとりだした宝石を眺める。
「オレが出した予告状に反応したオメェが悪い」
どうせ、違うもの。
むしゃくしゃしたから盗んだって言ったら目の前の探偵は怒るだろうな。
人一倍って言うか、東よりは正義感はあるやつだし。
親は官僚だしな。
いつかは盗ろうと思ってたやつだけど。
それが早まっただけだけど。
東京に来るまで待てば良かったのだけど。
大阪にあるうちに盗もうと思った。
「で、原因はなんや」
ポケットから取りだしたたばこを一本吸いながら西の名探偵服部平次は呟く。
「原因って?」
「決まっとるやろ。青子ねーちゃんと喧嘩した理由やっ」
とぼけて言った言葉に平ちゃんは怒鳴りだす。
そう、オレは青子とけんかした。
だから、気を紛らわすために、予定を早めて大阪に取りに来た。
「せやからってオレを巻き込むなやっ」
そう言って現場にやってきたのは平ちゃん。
「平ちゃんはこなけりゃ良いわけじゃん」
「そう言うわけにもいかんのや。この前の一件の責任とらなあかんねん。はよ、返しや。どうせちゃうんかったんやろ。ポケットの中に無造作につっこんだっちゅうことは」
「まあね」
オレはそう言ってポケットの中に入れた宝石を平ちゃんになげる。
「たぶん、和葉のうちにおるで。来るか?」
受け取った宝石を確認して平ちゃんはオレに向かってそう言った。
「快斗がいけないのっ」
そう言って青子ちゃんはアタシの家にやって来た。
今日は怪盗キッドの予告日。
ホントだったらアタシも平次の後くっついて予告場所に向かおうと思ってたんだけど、青子ちゃんがやってきたためにそれも駄目になった。
ま、平次がキッド様(つけたら平次、怒るね)を連れてくるだろうから、アタシは青子ちゃんを家に上げた。
青子ちゃんがうちに来た理由。
それは、快斗君とけんかしての家出だった。
「快斗がいけないのよ。青子困ってる人助けてあげたのにすっごい顔でその人のことにらんだのっ。その人道に迷った人でね、青子がねちょっとだけ道案内しようとしたらだよっ」
もしかして……それって。
ふっと浮かんだ言葉を青子ちゃんに言ってみる。
「その人…どんな人やったん?」
「男の人だよ」
やっぱりや。
「…もしかするとナンパやったかも」
「えぇーーーーーーーーーーっそうなのかなぁ?」
「そうやって。快斗君ヤキモチやいたんと違う?」
「そうなのかなぁ?でも、そんなんじゃないと思うよっ。青子ナンパされたことないし。けど、大概、青子が男の人に声をかけられてるときって快斗不機嫌なんだよね」
ヤキモチヤって。
それに心配もあんねん。
「だからね、青子家出してきたの。快斗ってばすぐに怒るんだもん。最初はね、蘭ちゃんとこに行ったんだけど…やっぱり新一君と蘭ちゃんの仲邪魔しちゃいけないかなって……思って。青子が行った日もね、久しぶりに新一君と逢う日だったんだって…だからすっごく悪いことしちゃった気分になっちゃったの」
そう言って青子ちゃんはうつむく。
「アタシも思うわ…。蘭ちゃんとこ行こうって思うねんけど…工藤くんっとずっと離れてたって知っとるし……。邪魔したらアカンなぁって思うてなかなか行けないんよ」
アタシの言葉に青子ちゃんは頷く。
「なんか、青子達、二人揃って蘭ちゃんと新一君の邪魔してるんだね」
「アタシらだけやないで、平次かてそうやもん。平次なんて、アホやからいっつも工藤工藤って言うてんねんで。快斗君もそうなんと違う?」
「そうよっ快斗ってば、予告状出すたんびに『今日は新一来るかな』って言ってるのよ。青子がね、邪魔しちゃだめって言ってるのにっ」
「ホンマ…こうなったら、一回蘭ちゃんと工藤君にちゃんと謝らんとアカンね」
「そうだね」
青子ちゃんは大きく頷く。
「せやけど、その前に快斗君に謝らんとアカンよ」
「謝らないと駄目?」
「当たり前やろ?そうや、アタシ平次に電話するわっ」
そう言ってアタシは平次に電話をした。
寝屋川駅構内
「元気な君が好き 赤いリボンをキリリと あぁ奇跡を 起こしそうな 不思議な力だね(着メロ:笑顔のゲンキ(song by smap)」
ポケットの中に入ってる携帯がなる。
勝手に入れられた着メロ。
「誰から?」
「和葉や」
快ちゃんの言葉に応えながら画面を確認しオレは携帯に出る。
「なんや和葉っ」
『なっ何って…平次、今どこにおんの?』
「今か?今ちょうど寝屋川の駅についたところや。後10分ぐらいでうちつくわ」
駐輪所のバイクのメットフォルダーの中から二つメットを取りだし、一つを快ちゃんに投げる。
『ホンマ?それならえぇわ。なぁ、平次、キッド様連れてきてくれた?』
なっなんやねん、キッド様って。
『キッド様言うたら快斗君のことに決まっとるやないの。平次、連れてきてくれたんやろ?アタシ、はよキッド様に逢いたいねんもん』
思わず携帯の電源に指が伸びる。
『平次?怒っとる。冗談やって』
冗談にも程があるわっ。
「ほな、今から帰るからな青子ねーちゃんによろしく言うといて」
『了解』
そう言って携帯をきる。
「和葉ちゃんなんだって」
「…快ちゃんには関係あらへんことや。はよ帰るで」
ホンマ和葉のミーハーにも困ったもんや。
あいつ『怪盗キッド』のファンやったもんなぁ。
表では「泥棒なんて」っていうとるくせに、キッドの記事を全部ファイリングしとるんやで。
ホンマに参るわ。
家に着き快ちゃんを部屋に上げる。
「平次っ帰ってきたん?」
そう言って和葉はベランダを越えてオレの部屋にやって来た。
その後ろから青子ねーちゃんもやって来る。
ただ快ちゃんとは目線を合わせない。
部屋には異様な雰囲気がただよう。
ホンマえぇ加減にして欲しいわ。
仲直りはよせぇっちゅうんや。
迷惑やっちゅうねんっ。
「平ちゃん、迷惑だって思ってるだろ」
快ちゃんにいきなり言われてもうた。
「そんなことあらへんよ。なぁ、和葉」
「なっ……うん迷惑やとは思うてへんよ」
オレの方をにらみながら和葉は快ちゃんに言う。
「あ…あのさぁ和葉ちゃん、平次君。青子ちょっと快斗に話しがあるから二人っきりにさせてくれないかなぁ」
その言葉にオレと和葉は頷いた。
「…大丈夫なんかなぁ」
居間の方にやって来て和葉は呟く。
手にしたお盆にはお茶が入れてある湯飲みが乗せてある。
「平気やろ。かなり気にしとる見たいやしな。あいつが今回大阪来た理由何やと思う?」
「快斗君が狙うとる宝石があるからと違うん?」
「ちゃう」
オレの言葉に和葉は首をかしげる。
まあ、普通分からんわな。
むしゃくしゃしたからさっさと盗もうと思うたなんて無茶苦茶すぎるっちゅうねん。
「ヤキモチ…なんやって」
「ヤキモチやと?」
それでむしゃくしゃしたって言うんか?
アホやで。
「青子ちゃんがねナンパされてて、青子ちゃんはナンパやっておもわへんで迷ってる人やって思うて道案内しようって思うてたんやって」
「そこを快ちゃんに見られた言うんか?」
そう言うと和葉は頷いた。
単なるヤキモチとちゃうんやな。
ナンパでついてこう思うてんの見たらそら怒るわな。
「やっぱり快斗君心配やったんかな?」
「当たり前やろ。自分の彼女が知らん男にたとえ道案内や言うてもついてこう思うてんねんやから」
お茶を飲みながらオレは和葉の問いに答える。
「……ふーん…。なぁ平次、平次も心配するん?アタシがナンパにでも逢うてたら」
そう言って和葉はオレの顔をのぞき込む。
な、何言うねんっ。
いきなり。
「平次?どうなん…」
「アホ…心配に決まっとるやろ。そんなん言わせんなや」
「ホンマ素直やないんやから」
そう言って和葉はオレにもたれ掛かった。
「ほな、おれらは居間におるから」
そう言って平次君と和葉ちゃんは部屋から出ていく。
平次君の部屋には青子と快斗のみ。
目の前にいる快斗は手持ちぶさたのようで、そこら辺にあった平次君の雑誌をぺらぺらとめくってる。
「快斗」
快斗を呼ぶ青子の声は小さい。
緊張して大きな声が出ない。
深呼吸してもう一度呼ぶ。
「快斗」
「何?青子」
青子の声が聞こえたのか快斗は青子の方を向く。
「……あのね……快斗…青子…快斗に謝らないとって思って…あのね…」
そう言いながら青子はうつむいてしまう。
まともに快斗の顔が見れないよ。
快斗、怒ってるよね。
ごめんねって言って許してくれる?
ふと快斗が青子の隣に座る。
「青子、オレの方向いて」
「何よぉ」
快斗の声に向いた青子に快斗はニッコリと微笑む。
「オレこそ謝る。怒って悪かった」
「快斗が悪いわけじゃないよ。青子が……分からなかっただけだもん。快斗、心配してくれたんだよね」
そう言って快斗にもたれ掛かった青子に快斗は優しく抱き締めてくれる。
久しぶりに快斗に抱き締められる感触。
青子、ほっとしてる。
「やっぱり青子、快斗のことスキだよ」
「オレも青子のことスキだぜ」
ふと呟いた言葉を快斗が聞いていたのか快斗も言ってくれる。
「ホント?」
「あのなぁ、そこで疑うなよ」
そう言って快斗は笑う。
ねぇ、快斗もう少しこうしてて良い?
っていう青子のお願い聞いてくれるかな。
「……平次、遅いとおもわへん」
和葉が呟く。
あれから30分。
オレの部屋からなんの物音もせん。
「オレの部屋やで」
「アタシ…靴…どないしよ」
しゃれにならん会話がオレと和葉の間でかわされる。
「と、ともかく行くで平次っ」
「そ、そやな」
忍び足でオレと和葉は居間を抜け出しオレの部屋へ向かう。
ホンマ良かったわ。
オレの両親と和葉の両親がおらんで。
部屋の前に来ると物音一つしない。
「静か…やな」
「うん……」
音が…するのもあれやけど、せんのも反対に不気味や。
「快、開けるで」
そう言ってオレは思いきって扉を開けた。
そこにいたのは、子供みたいに寄り添って眠ってる快ちゃんと青子ねーちゃんやった。
「仲直りしたんやね」
「ホンマやわ。…和葉、どないする?泊まるか?」
「一人で部屋帰って寝ろっていうん?」
「そやな、ほなねよか?」
「うん」
そう言って和葉はオレのベッドに潜り込む。
「何でお前が先に入んねん」
オレもそう言って和葉の隣に寝る。
「気にせんと、はよ寝よ。明日はみんなで遊ぶ計画立てんのやろ?」
小声で和葉はオレにいう。
「そうやった。工藤とねーちゃん驚くやろな」
「そうやね。ほな、平次、お休み」
そう言って和葉はオレにひっついて眠った。
……オレらも快ちゃんらの事言われへんな。
朝見たらガキみたいにオレらもひっついて眠ってんのやからな。