注釈
ラスプーチン:グレゴリー・ラスプーチン。ニコライ皇帝一家に取り入ったロシア正教会の僧侶。皇帝一家が殺害されたロシア革命の発端。
イヴァン・ブランスギは彼が嫌いだった。 気がついたら彼は王宮にいて我が物顔でいたからだ。 カリスマ性があるのは認めよう。 だが、ろくな人間ではないだろう。 イヴァンは彼がニコライやアレクサンドラのそばにいるのを見る度そう思っていた。 「イヴァンどうしたの?また難しそうな顔してる」 少女が話しかける。 イヴァンの腰ぐらいからヒョコっと顔を出して彼を覗き込んでいる。 「アナスタシア、別に僕は難しい顔なんてしてないよ」 いつもの笑顔で彼は答えた。 イヴァンはいつも微笑んでいる。 だから彼が少女が言うような難しい顔しているのを見る事はないのだ。 いや、しているが誰も気がついてないのが本当だ。 「そうなの?でも何か不満そう。アレクセイも言ってたし」 アナスタシアの言葉にイヴァンは傍目にもわかる苦笑いを浮かべる。 「君達だけだよ。僕のそういうのわかるの」 「ありがとう、で、何が不満なの?」 「ん?んー」 イヴァンは答えずその場から離れる。 「皇妃様その件でしたら良い案がございます」 イヴァンはその方にチラッと視線を向けてまた元に戻す。 「お母様とラスプーチンだわ。何があったのかしら」 「別に対した事ないんじゃない?」 ラスプーチンに好意的なアナスタシアの言動に対しイヴァンの言葉はそっけない。 ラスプーチン。 ロシア皇帝夫妻の相談役のロシア正教会の僧侶だ。 だが本当の所はどうだか疑う。 気づきたら宮殿にいて、皇帝夫妻に取り入っていた。 病弱なアレクセイの病状を回復させたという感謝はあるが、イヴァンはラスプーチンが嫌いだった。 「イヴァン、ラスプーチンの事嫌いよね?」 「はっきり聞くね」 「だって彼がいる時はいつも不満そうだもの。イヴァンが嫌いだという事はみんな嫌いなのかな?」 そう言ってアナスタシアは俯く。 アナスタシアはイヴァンの性質を知っているのだ。 それを皇宮で知るものはそうはいない。 「嫌いじゃないよ。アレクセイの事は感謝してるし。それは、ニコライもそうでしょう?」 「…イヴァンは知ってるんだね」 「何が?」 彼女の言葉にイヴァンは知らない振りして問いかける。 イヴァンとアナスタシアが思っていることが同じかは分からないけど。 「何でもないよ。ねぇ、イヴァンまた話聞かせて。あたしイヴァンの話聞くの好き。アレクセイもマリア姉様も待ってるわ」 無邪気を装ってイヴァンを気遣うアナスタシアにイヴァンは苦笑し 「僕の話聞いても面白くないよ」 と交わす。 何となく気分が悪くなったイヴァンはこの場から立ち去りたかった。 がそんなことをアナスタシアが許してくれるはずもなく、手を引く。 「面白いわよ、色んな国の話聞きたい」 「分かった、じゃあ、君たちの部屋に行こう」 強引なアナスタシアに諦めてイヴァンは子供達が待つ部屋へと向かう。 この王宮でで権勢を振るおうとするラスプーチンを目にいれて。 ラスプーチンの最大の問題は、イヴァンの正体を知らない事だ。 それがまだイヴァンを安心させていた。
注釈
ラスプーチン:グレゴリー・ラスプーチン。ニコライ皇帝一家に取り入ったロシア正教会の僧侶。皇帝一家が殺害されたロシア革命の発端。