ミラノ・マルペンサ国際空港
「、オレ達の国にようこそっっ」
フェリシアーノとロヴィーノはそう言ってあたしを出迎えてくれた。
もちろん、ハグ付で。
そしてリナーテ国際空港。
「それでは、二人とも、をよろしくお願いします。一週間後、必ずウィーンにまで連れてきてくださいね」
「Va bene。分かってるよ〜、心配しなくても大丈夫だって」
「じゃあ、1週間後、ウィーンで」
そう言って菊ちゃんは、アリタリア航空の飛行機にのってベルギーの首都ブリュッセルへと向かう。
あたし達は見送り。
そう、あたしはとうとう(というか実は再び)イタリアにやってきてしまったのです!!!
事の発端は菊ちゃんがベルギーに打ち合わせに行く事になっていて(元々の予定)であたしはお留守番のはずだったんだけど、このくるん兄弟の予定がちょうどあいたらしく、あたしはくるん兄弟と一緒に菊ちゃんがベルギーにいる間、視察という名の観光をするわけになったわけ。
お洋服のお礼も兼ねての旅行ってちょっとなんか違う様な気がしないでもないんだけどさ。
で、現在はミラノのくるん兄弟のおうちでまったり中。
観光大国イタリアなので、兄弟はいろんな所におうちがあるんだそうです(ちなみに、菊ちゃんは京都に持ってる。アルやにーにはいろんな所(国内だけじゃなくて)に持ってそうだ)。
視察という名の観光は明日からなので今日はもう寝たいなと思ってたんだけど……(ついたのもそこまで早くはないし)。
「ねぇねぇ、ちゃん、あしたドコに行きたい?」
「さっきから全然飲んでねーじゃん。これ食えよ」
えっと……、二人が寝かせてくれません………。
ワイン片手に持ってますよ、この二人。
一応予定はここに来る車の中で言ったはずなんだけどな。
ついでに、お腹いっぱい(機内食とか食べてた)なんだけどなぁ。
って言いながら、ワインとピザ(っていうとロヴィーノが怒った)を1枚だけもらうことにした。
うん、だから………眠いんだけど……。
「最初はミラノだよね。次は?」
「……うーん……、……もう一回……ローマに行きたい……かなぁ………」
うん、二度目のイタリア。
初めて来たのは実は去年の話。
学校の研修旅行ってヤツ。
ローマを巡ってフィレンツェに行って(行く予定だった)ピサをすっ飛ばしてヴェネチアに行って、最後はミラノ。
うん、楽しかったんだけどね。
でも行けなかったところも、見れなかったところもあるわけで。
本当はあたし南イタリアに行きたかったんだ。
ナポリとかポンペイの遺跡見てみたかったり、アマルフィとか青の洞窟とか。
うーん、でも………いいかなぁ。
「じゃあ、明日はミラノ市内を観光してローマにちょっと寄って…それから、ナポリでいいかなぁ?」
「………いいの………?」
「もちろん」
満面の笑顔のフェリシアーノと嬉しそうなロヴィーノ。
はぁ、この二人見てるだけで和む。
って言うか、眠いんだけど…どうしよう。
「、眠い?」
「………うん………眠い……」
「そっか、時差って事すっかり忘れてた。ちょっと早いかも知んねーけど、寝た方が良いかもな」
なんか…ロヴィーノの顔がすっごく近くにあるような気がするんだけど……きのせいかな?
おでこ付けられてる?
「………ともかく、……そうさせてもらいまふ…」
ロヴィーノの言葉に頷いて立ち上がる。
頭半分、ぼーっとしてるなぁ。
「ちゃん、途中で倒れちゃったら大変だから、連れてってあげるねv」
ね?
ってっっっ!!!!
一気に覚醒したよ!!
なんでフェリシアーノに抱えられてるの?
「ちょっと待って〜〜、大丈夫だから!!一人で行けるから!!倒れないから!!そこまでふらふらじゃないから〜〜〜」
「残念」
にっこり笑顔がなんか怖いんだけど、何が残念なのよ!!
あぁ、もうホントに顔が近いんだけど!!
「フェリシアーノ!!」
「お休みちゃん」
ってほっぺたにキスされた〜!
嫌って訳じゃないけど、ドキッてするんだよ!!
心臓に悪いよ〜〜。
今更ながらに思った。
このイタリア旅行、無事、終えるかなぁ〜。
この二人と一緒なんてちょっともー、どうしようっっ。
きっと、心臓止まるかも〜〜。
******
ミラノで一番の見所と言えば、やっぱりこの中央にあるドゥオーモだろう。屋根を装飾する無数の尖塔。
もちろん、石造り。
あたしが初めて見たとき思った事は、地震だらけの日本じゃ絶対無理!!!でした。
中に入ると明かりはステンドグラスからのみの為、薄暗い。
荘厳な雰囲気に圧倒されて何も言えなくなる。
こう、神聖な場所ってどうしてそう言う雰囲気になるんだろう。
やっぱり神様が降りてくるからかな?
存在ぐらいは信じてるわよ。
神様は居るんだって、でも助けてくれるなんて思っていないけどね。
なんて言ったら…多分怒られるだろうなぁと、両隣にいる兄弟を盗み見た。
ガッレリーアを通り抜け(中にあるお店を冷やかしながら)スカラ座広場に出てスカラ座を眺める。
オペラは残念ながら夜から、今はワーグナーの「ラインの黄金」をやってるんだって。
ラインの黄金とはニーベルングの指輪の4部作の最初のヤツ。
北欧神話がベースだった様な気がするなぁ。
神話関連はちょっと興味あるんだよね。
北欧神話の本場って言ったらノルウェーだから後でノルウェーさん(名前しらない)にお逢いしたら聞いてみたい。
ケルト神話も聞いてみたい、ケルトはイギリスでいいのかな?
イギリスさん(名前聞いたこと忘れてる)にもあったら聞いてみたい。
ギリシャ神話も忘れちゃ行けないし、エジプト神話もそうだねぇ。
ローマ神話はまぁいっか。
スカラ座から少し離れて、CORDUSIOから地下鉄でCadornaで降りる。
ミラノで一番来たかった本命。
サンタ・マリア・デレ・グラーツィエ教会に向かう。
レオナルド・ダヴィンチの描いた『最後の晩餐』がある教会。
………時間の関係で見れなかった絵。
見たかったのに……見たかったんだよ!!
って言うか、予約しないと見れないんじゃないのかな?
それに観光客多いよ、絶対。
あそこにいるの日本人だ。
他にもいるなぁ。
「げっムキムキだらけじゃねえかよ!!」
「あ、ホントだ。またルーイの所の人いっぱい来てるね〜」
ルーイって確かルートヴィヒさんの事だよね。
って事はドイツ!!
ドイツの人ってイタリア観光ホントに好きなんだ、へー。
って言うか、観光客多いね。
「ヴェー、でも中は居ないと思うよ」
へ?何で
「だって、今日『lunedi』だしね」
??ルネディ?
「日本語だと月曜日って事。ココね、月曜は見学お休みなんだよ」
って見れないじゃん!!!
うそ、嘘、うそ〜〜、せっかくココまで来たのに!!
見れないってあり?
「何慌ててんだよ。オレ達なんだか忘れたのかよ」
へ?
フェリシアーノとロヴィーノがにやりと笑う。
えっと、何か忘れてるかな?
「オレ達、イタリアなんだけど」
「許可取らなくても見れるよ」
ま、マジですか〜〜。
国と居るとそんなお得な事があるの?
いや、うそ、マジで?
「いいの?」
「良いに決まってんだろ?じゃなきゃ、せっかく案内してる意味ねーし」
うわぁ〜〜〜。
「じゃ、ちょっと待ってて、俺ちょっと言ってくるねぇ〜」
とフェリシアーノが教会の方に向かう。
「ねぇ、ロヴィーノホントにいいの?」
「問題ねぇよ。菊に聞いてみろよ?大抵の所は入れるはずだから」
う、そんなこと聞いたら、あんなところとか、こんなところとか、一般人立ち入り禁止な所とか入ってみたくなるじゃないか!!
そんな誘惑するのやめて欲しい。
「なに嬉しそうな顔してんだよ」
「う、だって。いろんな所行ってみたいんだもん」
「じゃあ、この旅行中、いろんな所連れっててやるからな」
「うん」
楽しみだね。
「お待たせ。了解もらってきたよ〜〜」
そう言ってフェリシアーノはあたしの手を取りその場所まで向かう。
後からはロヴィーノがため息ついてやってくる。
教会の横にある建物。
そこが入り口なんだけれども、あたし達は別の入り口から入る。
つまり教会側から。
一般の観光客にはやっぱり見つかるとやばいもんね。
教会の人がフェリシアーノとロヴィーノに恭しく一礼をする。
『Il nostro Paese Italia. Per favore, qualcosa di piu di guardare e lentamente.』
静かに言葉を発する。
『Grazie. Il nostro popolo.』
それに返事するフェリシアーノ。
なんて言ってるのかイタリアとグラッチェしか分からないよ。
「さぁ、行こう」
教会の人が通る通路を通り、最後の晩餐が飾られている建物へと入る。
「ちゃん、目を瞑ってて。入り方が普通とは違うからちゃんと正面に見れるようにしてあげるから」
フェリシアーノに言われたとおりに瞑る。
扉を開けた気配がして、その中へと入る。
空気が違う気がする。
「油絵で描いてあるからきちんと保管しないとダメになっちゃうんだ。普通に入るときには何重もの扉の先にあるんだよ」
声が響く。
「いいよ。目開けても」
その言葉にゆっくりと目を開けると、あたしが見たかった絵がそこにあった。
レオナルド・ダヴィンチ作『最後の晩餐』1498年作。
彼がパトロンだったスフォルツァ公の要望で描いた絵。
その昔、その絵は入り口から入ると遠近法によってあたかも彼らと共に食事をしている気分になれるという壁画だった。
キリストの最後の日に12人弟子達との最後の食事風景。
左から4番目の人が裏切り者、(イスカリオテの)ユダ。
そして修復によって魚料理が並べられていたというのが分かったって言うのは有名な話だ。
「………」
なんて言っていいのかも分からない。
ただ、その存在に圧倒されてしまった。
レオナルド・ダヴィンチは天才だ。
後世の人間を圧倒させる筆致を持つのだから。
………なんてあたしが言えるような人間じゃないけどね。
あたし達3人しか居ない空間。
その空間に存在する空気を二人に話しかけることで壊したくはなくって、ただ、じっと絵を見て、両隣にいる二人『イタリア』を感じ取るだけに留めた。