イレギュレーター -- 0-2 --
いつものように、その人は、そこにいる。
中央庭園。
ISSAのビルの15階に位置し、人気も少なく穴場なココ。
ココを愛用する人は少なくないけど、そうそう多くもない。
つい最近、知り合ったその人もそこの愛用者だった。
光に輝く金色の髪を持ち紫暗の瞳を持つその人。
『玄奘三蔵』
ISSAにいる人間ならば知らない人はいないであろう人物。
かなりの性格難で1st確実だったはずがイレギュレーターに回された人。
お兄ちゃん達…、八戒や悟浄、そして学生時代からの友人である悟空と『セルフィッシュ』と言うイレギュレーターのグループを組んでいる人。
かなりの有名人。
わたしは、名前しか知らなかったけれど。
八戒や悟浄(ついでに悟空も)達から『玄奘三蔵』と言う人に関してかな〜りマイナスのイメージで聞かされてたから。
かな〜りやくざな人何だろうそう思ってた。
だから、別にどの人が『玄奘三蔵』だと言う事も興味なかった。
実際にあったこの人は…。
周りの言う『噂』って当てにならないなぁと本気で思った。
悟空達の言う話も同義。
少し怒りっぽいけど(いや、かなり怒りっぽいけど)ちゃんと周りの事に関して考えてる人なんだなと思った。
八戒達の事で『助けてくれる』って言ったし。
あのセリフ、良いわよねぇ。
お兄ちゃん達に内緒で遊びに行けるし、ISSAでのびのび〜と訓練出来るしぃ。
かなり、重要だよねぇ。この事って。
「、どこに行くの?」
声がかかる。
振り返るとそこにいたのは友人の戸塚綾弥 。
非能力者で天才的ハッカーでアンカーでは2nd。
「中央庭園、綾弥も行く?」
「うん、行く。みやとそこで待ち合わせなのよね」
雅…都築雅くんは綾弥のパートナーで綾弥の1st。
綾弥曰く、取っつきにくい人物。
最初あった時はかなり苦手だったって言ってた。
でも、今仲いいよねぇ。
「ふ〜ん、雅くんも騒がしいところ苦手だもんね」
三蔵みたいに中央庭園にいるところ見た事あるし。
三蔵はたばこ吸ってるけど、雅君は本読んでるんだよね。
「ねぇ、その『も』ってあんた、他に騒がしい所苦手な奴知ってるの?」
え?
「、あんた、『玄奘三蔵』と仲いいんだって?噂になってるわよ」
…な、何よぉ、その噂ぁっっっ。
「『玄奘三蔵』と言えば、1st確実と言われながら、その性格が故にイレギュレーターへと回された人物。玄奘三蔵率いるイレギュレーターグループ『セルフィッシュ』は仕事は確実だが、かなりのくせ者揃い。このごろ珍しくISSAのアンカー養成所に顔を出していて、目的は2nd捜しだとか」
綾弥は思い出すように三蔵のデータを並べていく。
…なんでそんな事知ってるのよ。
「、あんた、私を誰だと思ってるわけ?」
「天才ハッカー、戸塚綾弥。趣味、情報収集」
「ふ〜ん、分かってるじゃない」
綾弥は勝ち誇ったように笑う。
もう、綾弥には絶対に勝てないよぉ。
「あぁ、中央庭園に来るなんて物好き、みやの他にもいるとは思わなかったよ」
「確かにね」
「やっぱり、あんた、玄奘三蔵と仲いいんじゃない」
「そ、そう言う物じゃないって、それに、声、大きいからっ」
周りの視線、思わず気にしてしまう。
三蔵は、煩いの嫌いだから。
って言うか、あの場所邪魔されたくないから。
他の人に。
中央庭園に三蔵がいるって知れたら、三蔵ファンの女の子皆来ちゃう。
それだけは避けたいなぁ。
居心地、良いんだもん。
「、内緒、なんでしょ?あんたの兄貴達に、あんたがISSAにいること」
綾弥の言葉に頷く。
綾弥はわたしの内情を知っている数少ない一人。
「玄奘三蔵がセルフィッシュに戻ったらばれちゃうんじゃない?」
「…内緒にしてくれるって…言ってくれたから、平気」
「ホントに?うわぁ、マジで信じられない。あの『玄奘三蔵』でしょ?私も詳しくは知らないのよねぇ。みやの方が知ってると思うけど」
「みやくん、1stだもんね」
「ま、非能力者だけどね」
非能力者。
アンカーの隊員といえば、この非能力者を指すことが多い。
能力者や特能者は実は少数しかいない。
だが、能力のせいで、目立っていることの方が多いのは事実だ。
「も特能者だったなんてね」
「…うん、一応陰陽師の家の跡取りだから」
「そっか、の方は、がアンカーに入ったこと知ってるの?」
「まぁね…、好きにやらせてくれるみたい。アンカーの権限って結構大きいから、それを使っての仕事?それができるのならって言われた」
頭ごなしには反対されなかった。
もちろん、最初は反対された。
けれど、最後にはしぶしぶといった様子を見せて許してくれた。
でも、それは建前で。
本音は違うところにあることは分かっていた。
わたしが、危険な仕事をすることは彼らにとって歓迎すべきことだったのだ。
最初から『』の家にいたわけじゃないわたしは、彼らにとっては邪魔な存在。
わたしが出てくる前は彼らが次期当主として権力をふるっていた。
だが突然跡取りとして連れてこられたわたしは彼らにとっては寝耳に水の話だっただろう。
その為、彼らはわたしが危険な仕事を請け負うことを表面ではいやな顔をしながらも心の中では歓迎していたのだ。
事故か何かでわたしがいなくなればいい。
そう考えているから。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、綾弥」
心配そうに聞いてくる綾弥に笑顔で答える。
「ららら〜ら、らら、らら〜らら〜ら」
中央庭園の方から不意に聞こえてくる歌声。
透明感のあるその歌声は心の中まで侵入してくる。
中央庭園の入り口にその歌声の持ち主はいた。
シンガー(音波を飛ばす)の能力を持つ彼女。
本来はイレギュレーターなのだけれど、彼女の1stが強引に彼女を2ndにしたため、彼女はアンカーに所属している。
「、綾弥も、どうしたの?」
わたしと綾弥の姿をみとめ、彼女は歌うのをやめる。
「それはこっちの台詞、何してるの?こんなところで」
「ちょっと時間が余っちゃったから暇つぶしかな?」
そう言って彼女は庭園の中の方を見る。
そこには、綾弥の1stの雅くんと彼女の1stがいた。
三蔵は、いないみたい。
「みやとあれは冷酷無慈悲な催眠術師殿じゃない」
「綾弥、そう言うふうにあいつのこと言わないでよっ。そんなんじゃないんだからっ」
「はいはい。で、どうしたの?」
「な、何が?綾弥」
「気になってるんでしょ?誰かがいないって」
……誰かがいないって誰よ。
「それより、聞いたんだけど。、玄奘三蔵の2ndになるって本当?綾弥は知ってた?」
「あぁ、わたしも聞いたわ。それ」
突然の綾弥と彼女の言葉。
って…何よ、それぇ!!!
わたしが、三蔵の2nd?
どこからそんな話が出てるのよぉっ。
「違うの?」
「違うわよっ。わたしは、三蔵の2ndになるなんて話知らないし、聞いてないしっ」
「三蔵…ねぇ」
そう言って彼女と綾弥は意地悪くほほえむ。
「な、何よぉ」
「三蔵って呼んでるんだぁ」
「だ、だって、本人がそう呼べってっ」
「ふ〜ん」
わ〜ん、二人にいじめられるぅ。
『………………』
…え?
何?…また、なの?…。
不意に頭の中に直接響くような感覚。
このところ、こんなのが多い。
いつから…だっけ?
頭の中に直接響く感覚が起きるようになったのって。
覚えてないや。
「、どうしたの?」
彼女がわたしの顔を不思議そうにのぞき込む。
「急にぼうっとして、あんた具合でも悪い?」
綾弥も心配してくる。
「何でもないよ、元気だし、どうもしてないよ?」
ホントなんだったんだろう?
『……………』
まただっ。
不意に感じる何か。
その方に目を向けると、雅くん達の方にの金色に輝く何かを見つける。
それが、三蔵の髪だと分かるのに時間はいらなかった。
「それは、こっちの台詞。何してるの?こんなところで」
よく通る声が聞こえてくる。
不快に感じないのは声の持ち主のふんわりとした様子が思い出されるからか。
周りの二人に気づかれないように手で顔をかくし、紫煙を吐き出した。
そして、目の前の催眠術師が意地の悪そうな笑みを浮かべているのが気になった。
「何だ」
「いや、別に。お前でも、そんな表情するんだな。不機嫌が服を着て歩いているって言うお前が、そんな穏やかな表情するとは、思いもしなかったぜ」
「どういう意味だ」
内心の動揺を悟られないように催眠術士に問いかける。
目の前の男は何故か『探偵』と名乗っており、いいかたは悪いが、人の裏を見つけるのが得意な人間だ。
「どういう意味って…その真意がくみ取れない、お前じゃないだろう?玄奘三蔵」
「雅」
威嚇するように雅が吐き出そうとする言葉を制する。
だが、そんな俺の行動も雅と奴にはお見通しだったらしい。
「はっきり言ってやろうか。の声が聞こえただけで、お前の表情が変ったことがおもしろいって。気むずかし屋の権化みたいなお前が、彼女の声を聞いただけでそうなるとは思いもしなかったよ」
そう言って雅と奴は興味深そうに俺を見やる。
「フン、勝手に言ってろ」
下僕どもの前でならいざ知らず、この場で、八つ当たり的に銃が撃てないのはストレスがたまる。
「雅、お前、を知っているのか?」
「…、ね。まぁ、お前の事だから、に自分の事三蔵って呼べって命令していることぐらいは想像はつくが…。彼女とは友人だよ。もっとも、彼女は特能者だから非能力者である俺や綾弥と何の接点もないけれど、昔からの友人だ。それから、『催眠術師』、君の2ndである『シンガー』の彼女も知り合い」
そう言って雅はにっこりとほほえむ。
「って事は戸塚綾弥だったのか。ISSAのコンピューターにハッキングした奴はっ。雅、自分の2ndに言っておけ。あのプロテクトシステム構築するのにどれだけ時間かけたと思ってるってなっっ。侵入されたせいで、もう一回やり直しだ。」
「悪いと思っているよ、綾弥も。まぁ、一応、彼女はプロのハッカーだからね」
と、シレッとした顔で言う雅に『催眠術師』もあきれ顔だった。
『……………』
誰とも交信するはずのないテレパスが反応する。
俺にテレパスがあると分かったのは、テレパス保持者独特の信号を出しているという検査結果からだった。
自分に能力があるとは思いも寄らなかったし、そんな物は必要ないと思っていた。
第一、自分は一応という言葉はつくが法力僧だ。
必要ないし、第一、発信することしか出来ないテレパスは必要ないだろう。
だが、その力がどこからかテレパスを受信しそして発信している。
誰だ。
『たった一人だけ、いたんだよ。お前のテレパスに反応した奴が』
そう言った観音の言葉を思い出す。
そいつが、たった一人だけいた、人間。
おそらく、観音は誰だか知っているのだろう。
それに踊らされるのも癪だ。
『…聞こえてっ!!…』
声が聞こえた。
頭の中に通る声。
声が聞こえたのは2度目。
1度目は……。
不意に視線を遠くに送る。
そこにいたのは深栗色の髪が窓から差し込む日差しを浴びていただった。
『たった一人だけいたんだよ。お前のテレパスに反応した奴。適当に送って見ろよ。誰かが反応返してくるだろうよ。そしたら見つかるんじゃねぇの?』
観音の言葉が頭を回る。
不意に、少しの期待を抱いたのは気のせいか。
「どうしたの?」
何となく話しづらい三蔵に対してのきっかけが欲しくて、機嫌が悪そうな事が気になって、問いかけてみる。
中央庭園にはわたしと三蔵しかいない。
さっきまでの喧噪は雅と綾弥、そして催眠術師とその2ndが中央庭園から出ていったことで消えた。
今の中央庭園は人気がないのか静かだ。
「どうもしてねぇよ」
となんとなく不機嫌に答える。
何でだろう。
何かあったのかな?
「そう言えば、あの日大丈夫だった?」
これ以上聞きづらくって、話題を変えてみる。
って言ってもますます、答えづらいだろうなぁっていう質問なんだろうけど。
「…聞いてどうする」
うっ、ますます機嫌わるい。
「お兄ちゃん…八戒や、悟浄が三蔵や悟空に変に詰め寄ってなければいいなって思ったんだけど………もし、……ごめんね?」
一応、謝っておく。
「かなり、過保護すぎるんじゃねぇのか?」
「…やっぱり、そう思う?」
「あれを見てれば誰でもそう思うだろうがな」
まぁ、そうだよね…。
あれをみて過保護じゃないって言う人がいたら見てみたいし。
兄のような存在の二人…八戒と悟浄は、一緒に住んでたら絶対わたしの行く先全部に付いてきたと思う。
…原因は分かってるから、何とも言えないんだけど…。
「、三蔵待った?」
おなかいっぱいご飯を食べて来た悟空が中央庭園にやってきた。
「少しは静かにしろ」
「ってぇ、何すんだよっ」
「テメェがぎゃーぎゃー騒ぎながら入ってくるからだ」
「ちぇー何だよ。そうだ、ケータイの電源切った?」
「…うん、切ってる」
悟空に言われて少し心の中で確認する。
ISSAにいるときはケータイの電源は切っておくことにしている。
八戒や悟浄からいつ何時かかってくるか分からないから。
友達との連絡取りづらいけど、八戒や悟浄にばれて、とんでもないことになるよりは、ましね。
「悟空」
三蔵が短く悟空を呼ぶ。
「何、三蔵?」
「静かにしてろ、俺は眠いんだ」
そう言って、三蔵は目をつぶる。
このところの日課。
何をするでもなく、三蔵はこの中央庭園に来ては、こうやって眠ってる。
実際、本当に眠っているか、どうかまでは分からない。
けど、そうしていることが多い。
後は、新聞か本を読んでいるか(本だって一般的な娯楽小説ではなく、仏教書(三蔵って法力僧なんだよね。そっち系かなとは思ってたけど。本業は、同業者なのかな?))。
悟空の話だと、いつもこの場所にいるらしくって、いったい何のために『ISSA』に来てるんだろうって首を傾げてしまう。
2nd探すためだって悟空は言ってるけど、ホント、この人『2nd』探す気あるのかなぁ?
なんか見てるとそう思えてくる。
暇な時はわたしもここに来るけど…いつも、いるんだよ〜!!
綾弥達の言ってたこと(わたしが三蔵の2nd)って言われてもおかしくないよねぇ。
『…………』
うーまただ。
頭、痛いし〜よけいなこと考えたくないよぉ。
『「」』
「何?三蔵」
「何だ」
は?
お互いがお互いの顔を見る。
「何って何?三蔵、わたしのこと呼んだ?」
「それは、俺の台詞だ」
は?
どういう事??????????