言われたことは、二つ。
一つは、八戒から。
一つは、宿の女将さんから。
女将さんから言われたことは、
「星降る丘って呼ばれてるところがあるんだよ」
って事。
一言、礼言って、連れ立っていく。
渋々ついてくるのが、見えるけれども、早足で進む自分に遅れないように着いてくる辺り、イヤイヤじゃないんだなと言うことが分かる。
星降る丘まで、もう少し…。
Fool on the Planet〜光を捜そう〜(玄奘三蔵生誕記念)
一つ、二つ。
満天の夜空から、星が降ってくる。
ここは、星々の底だと言ったのは誰だったっけ…。
意味もなく手を伸ばしたら、呆れた顔を見せる。
笑ったらため息ついて、タバコの煙を吐き出す。
マルボロの明かりだけが妙に目立つ。
「星、綺麗だね」
「どうでも、いい」
どうでもいいって、…なんで、そう言う言い方するかなぁ…。
まぁ、それが三蔵だし、しょうがないって言えば、しょうがないのかも知れないけど。
「『星降る丘』って言うんだって。宿の女将さんが言ってた。たくさん、星が降るんだって」
「……そうか」
ようやく、まともに返事を返してくれる。
時々、素直なんだよねぇ、三蔵って。
吐く息が、白く見えて、手が冷たくなってきた。
「寒いね」
って思わず言ったら
「それは、オレのセリフだ!!!」
と、怒られる。
…確かにその通りです。
「だから、オレは出かけたくなかったんだ…」
と、三蔵は寒そうにしている。
コート、着てるくせして…。
ってわたしも、着てた。
……着てても、寒いものは、寒いんだよね。
「だいたい、何でこんな寒いのに、出かけなくちゃならん」
不満そうにしている三蔵。
寒いから…って言うのはとりあえず、無視して。
…もしかして、忘れてる?
そんなことないよね。
「大人しく、部屋にいるんですよ。用事があっても、出かけないでね。どうしても、出かけなきゃならない場合は…、いつもより…そうですねぇ、怒鳴らない、と言うか、怒らない、と言いますか。まぁ、いつもよりは、穏やか。ですね」
…って言ってたし。
大丈夫…。
…って言うか、連れ出したことに怒ってたりして…。
あぁ、それあり得る。
まぁ、わたしからって事で。
「…ほら、今日、三蔵の誕生日でしょ?だから、寒いけど、連れ出してみました」
「……誰から聞いた」
一段と低い声で、三蔵は威嚇するようにわたしに聞く。
ついでににらみもきかせて。
「……えっとぉ、八戒?なんか、悟空の様子がちょっと気になって…、八戒に聞いてみたの。三蔵に聞こうと思ったんだよ?でも、三蔵…なんかいなくって」
悟空が、いつもより、大人しかったんだ。
聞いても、教えてくれなさそうで。
八戒に聞いたら、悟空なりの三蔵へのプレゼントって言ってた。
その時、知ったんだ。
今日が三蔵の誕生日だって事に。
…って八戒、なんで、知ってるんだろう?
やはりあの例の分厚い、『システム手帳』に書かれてるのかなぁ…なんて思ってみたり。
「チッ」
「何で、舌打ちするかなあ?せっかくの誕生日だよ?」
「聞かなかったのか、オレがこの日、どういう風に過ごしてるのか」
「聞いた。部屋で大人しくしてるんだよね」
「…知ってるなら、放っておけ」
「駄目よ。せっかくの誕生日だもん」
「別に、オレが生まれた日じゃネェ」
三蔵が冷たく言い放つ。
『川流れの-----』
そんな字がついた少年がいることを聞いたことがあった。
光明三蔵の愛弟子。
息子のようにかわいがっている。
沛(の生まれ故郷)の街に光明様がいらっしゃった時に、三蔵も連れてきたらしく、その時に
「いつか、江流にあったら仲良くしてあげてくださいね」
ってニッコリ、光明様に微笑まれたのを思いだした。
生まれてすぐに川に流された赤子『江流』…。
それが、三蔵だ。
それを聞いたのは、三蔵が長安の慶雲院に着院してからの事だ。
噂として、耳に入ってきたから…事実かどうかは、わからなかったけれど。
「それでも、三蔵が生まれた日でしょう?」
「…何?…言ってやがる。この日は、師匠がオレを拾い上げてくださった日。別に、オレが生まれた日じゃねぇ」
「…だから、なんでわかんないかなぁっっ。そのままだったら、三蔵は死んでたかも知れない。でも、その日に、光明様が、三蔵を、三蔵の存在を見つけてくれたから、三蔵はココにいるんでしょう?そして『江流』って名前を付けてくれたんでしょう?だったら、その日は『江流』の誕生日じゃないっ」
「……」
三蔵は、黙り込む。
三蔵は、ちゃんとわかってるんだ。
だから、否定してても、仕切れないって。
そして、光明様にたくさん、感謝の気持ちでいる。
だから、静かに部屋にいる。
悟空が大人しくしているように。
「三蔵。三蔵がね、この日、光明様に感謝してるように、わたしも、光明様に感謝してるんだよ」
「…どういう意味だ?」
「三蔵に会えたこと」
「オレに、逢えたことだと?」
三蔵の言葉に頷く。
光明様が、この日に、三蔵を拾い上げてくれなかったら、三蔵はこの場にいなかった。
そしたら、わたしは、三蔵に会わなかった。
三蔵を生んでくれた人、って言うのもちゃんといるんだと思う。
…って言うか、『思う』ってスゴい、あやふやなんだけど。
でも、それぐらい、顔が浮かばない。
三蔵もきっと浮かばないんだろう。
自分を生んでくれた人がどういう人なのか。
その人にも、『感謝』しないといけないのかも知れないけど。
その、実際の『親』の顔が浮かばないほど、三蔵の『親』は光明様なんだろうな…。
「フン、くだらネェな」
そう言って、三蔵は座り込んだ。
どこか、嬉しそうだ。
「…どうしたの?」
「」
「へ?」
呼ばれた名前に、返事したら、手を引かれて、わたしは三蔵の上に座らせられた。
「な、何よぉ」
「うるせぇよ。せっかくだから、付き合ってやる。大人しくしやがれ」
「わ、訳わかんないよぉ」
抱きしめられて、あぁ、暖かいなぁ…なんて思う。
やっぱり、三蔵に『あえて』よかったのかな。
少しだけ、思う。
澄んだ空気で見えるたくさんの星々の中から、光が趨る。
「流れ星……消えちゃった…」
「願い事でもあるのか?」
「ん〜、あるよ。でもとりあえず、秘密かな?三蔵はある?」
「別に、願い事なんざねぇな」
…意外だ。
絶対あると思ってたのに。
「何だ」
「いやあ、スゴい意外だなぁって思って。それってさぁ、現状に満足してるって事だよね」
「何?」
「だからぁ、みんなで旅してる事。に、すっご〜く、満足してるって事でしょう?。って事は、この状況が三蔵的にはお気に入りな訳だ」
「………どうしてそうなる」
「え?違うの?」
どういう事?
別に願い事なんてないってそう言うことだよねぇ。
「…まぁ、確かに、この状況は気に入ってるがな」
そう言って、わたしの髪を一筋掬い、指を滑らせる。
「…三蔵?」
「、一つ聞くが…、お前はどう思ってるんだ?」
「…な、何を?」
思わず、声がうわずる。
な、何聞かれるんだろう。
すっごい、緊張するんだけど。
「『この状況』がだ。お前は、気に入ってるのか?」
「……この、状況?」
「そうだ」
星明かりの中でも、金色の髪は神々しさを失わず、紫の瞳は綺麗に輝いている。
紫暗の瞳でまっすぐに射抜くように、三蔵はわたしを見つめる。
…なんて答えたらいいんだろう。
こういう状況に慣れていないわたしは、頭の中が沸騰しそうになる。
「…」
低い、三蔵の声。
「……気に入ってるかな……」
思わず、口から出る。
嫌じゃないのは間違いない。
…どちらかと言えば、そう気に入ってるのかも。
…所で、『この状況』って何を指してるんだろう…。
気にしないようにしよう。
「…まぁ、いいだろう」
膝の上にわたしを座らせたまま、三蔵は嬉しそうに言う。
楽しそうに、わたしの髪を指に滑らせる。
まぁ、いいか。
今日は、三蔵の誕生日だしね。
「三蔵、誕生日、おめでとう」
そう言ったわたしに、三蔵はわたしを抱きしめている腕の力を、少しだけ強めた。
あとがき
破格の扱い!!!
八戒の誕生日も、悟浄の誕生日も、特別には作らなかった。(ケン兄ドリーム&天ちゃんは元々の予定。八戒ドリームも元々の予定)。
やっぱり、私の中で、この人は特別らしい。
って事で、ゲストは三蔵様です。
乱入!!!!
長月:お誕生日、おめでとうございます。
三蔵:本当に祝ってるのか?
長月:もちろんです。だから、二人っきりにしたんじゃないですか。しかも、特別に『誕生日ドリーム』って銘打ってるんですよ。
三蔵:……。
長月:納得いかないわけ?
三蔵:当然だ。
長月:だって、しょうがないじゃん。本編で当分あとだもん、三ちゃんとがラブラブになるのは。
三蔵:おい、その『三ちゃん』って言うのはヤメロ。
長月:いいじゃん、三ちゃん。
三蔵:あぁ、別にいいがな。死にたいんなら。
長月:…それは、いや。……時間軸といたしましては、『場所と理由』と『再開と過去』の間ぐらいの話何ですよ。なんで、もう少し、お待ち下さい。
三蔵:チッ。
長月:(舌打ちされた…)。