「今日、この後暇?」
部屋の中で新たに購入した通販の健康グッズを使って調書を読んでる検事が事務官に声をかけた。
「…この後ですか?」
「そう、この後」
調書から目を放さないで彼は言う。
「何処に行くんですか?お忘れかも知れませんがわたしは一応、あなたの担当事務官です。
担当検事の行動予定ぐらい知っておくべきだと思うのですが」
「別に仕事じゃないし」
「へ?」
検事の言葉に事務官は言葉をなくす。
「東都センチュリーホテルの入り口で午後7時。今からならちょうどいいでしょ…って雨宮聞いてる?」
「………」
「舞子?」
突然顔を近づけてきた相手に雨宮は慌てる。
「名前、呼ばないでよ!!」
「別にいいじゃん」
「いいじゃんって今仕事中でしょう?プライベートと仕事はわけるべきです。久利生検事」
「相変わらず固いの」
「固いとか固くないとか関係ないしっ」
久利生の言葉に雨宮は憤りを隠せない。
目の前の男はどうしていつもこんな調子なんだろう。
彼が初めて赴任してきた時からのつきあいなのだから振り回されるのは慣れたつもりだが時々、とてつもなくどうしていいのか分からなくなりため息をつきたくなった。
「舞子?」
「分かったわよ!!!東都センチュリーホテルの入り口で午後7時に待ち合わせね!!終業時刻なんで帰らせていただきます」
荷物をまとめて雨宮はものすごい勢いで城西支部を飛び出る。
時計見ながら家に帰る時間と着替える時間と到着時間とその他もろもろの時間を計算する。
東都センチュリーホテルと言えば今話題のおしゃれなホテル。
相手が服装に無頓着な久利生公平だろうが構わない、おしゃれをしてびっくりさせてやる!!!
電車内で妙な気合いを入れた。
お気に入りのワンピで待ち合わせの東都センチュリーホテルの前に来てみれば…相変わらずの格好で久利生公平が立っていた。
ホテルで催されているパーティーの立て看板の隣にいつものジーパンにTシャツ……。
それなりに一応なつきあいのある雨宮と久利生。
ロマンティックなディナーをそれなりにでも期待していたのだが……。
あまりの期待外れの久利生公平にため息をついて久利生の元に向かった。
「…なんでいつもの格好なんですか?」
にらみ付けて半歩前を行く久利生に雨宮は声をかける。
「ん〜、ここに知り合いが来てるから」
と久利生はエレベーターのボタンを押す。
階数はこのホテルのイベントホールがある階。
そこでは著名人主催のパーティーが開かれている。
招かれてる客は豪華に着飾っている。
世界最大の宝石の展示が目的だとか。
「誰に会うのよ」
「ん〜」
疑問に思って問いかけた声に久利生は軽く流す。
その階にたどりつけばそこかしこに見た顔と見た服が。
制服に身をやつした警察官や知り合いの刑事がそこかしこにいる。
「何があるのよ」
「雨宮知らないの?」
「何?」
「…怪盗キッドだって」
「…来てるの?」
「くるんじゃない?」
そんな会話をしながらも久利生はあちこちに目をやる。
「あ、いた」
と久利生が目をやった先には二人の私服の刑事がいた。
刑事だと分かったのはパーティー招待客とは全く違うスーツ姿だったからだ。
ボブヘアの女性刑事とその女性より遥かに背が高い男性刑事。
「青島さん」
と久利生が呼ぶとその呼ばれた刑事は笑顔を満面に見せて近寄ってくる。
噂の湾岸署の刑事青島俊作だ。
その隣にいるのは行動を共にしている恩田すみれ刑事。
「久利生検事どうしたんですか?」
「あぁ、ちょっとこの前の事件の事で聞きたい事があって」
といつもの調子で言う久利生に青島はいつもの調子で
「あ、いいっすよ」
と気軽に答えた。
「青島君、中森警部にどやされるわよ」
「だって検事の頼みじゃあ仕方ないでしょ」
「久利生さん、仕事じゃないって聞いたんですけど」
「…いや、その前に聞きたい事もあったから」
と女性陣二人の問いかけに男性陣二人はしれっとして答え青島が事件を見つけ久利生が担当した事件について話し始めた。
「こうなったら、もう止まらないわよ。雨宮さん」
「そうですね、デートって期待したあたしがバカだったんですよね、恩田さん」
「あたしの事はすみれって呼んで」
「じゃあ、あたしも舞子で」
事件で盛り上がる久利生と青島を横に雨宮とすみれも盛り上がる。
「舞子」
雨宮とすみれが世間話で盛り上がっていた頃、唐突に久利生が雨宮を呼ぶ。
「ほら、もう終わったから」
「だからって、わざわざ名前呼ばないでよっっ!!!」
「じゃあ、オレの呼んでいいから」
「誰が呼ぶか!!!」
「じゃ、これで」
と青島とすみれに軽く会釈をして久利生は雨宮を連れてその場から離れる。
「……この後平気だよな」
「………誘ったのはそっちだと思うんですけど」
「……じゃ、飯くいいくか」
「………イタリアンで」
「リクエストするのかよ」
「当然!!!」
「はいはい、了解しました。おいしーイタリアンくわせてやっから」
「先に言っとくマスターの所却下ね」
と雨宮は先手をうって行きつけの店は却下する。
「うっっ………」
考えなくちゃならないのかとため息ついて久利生は雨宮を連れ立って東都センチュリーホテルから出ていった。