大地の物語 3話:ハロルドの趣味

「古より伝わりし浄化の炎。落ちよ!エンシェントノヴァ。そして具現せよ、精霊の結晶フランブレイブ。灼熱と業火の意思よ、焼き尽くせっ!!!」

 晶紋術『エンシェントノヴァ』を唱え、かつ精霊を晶紋により具現させる。
 そして一気にモンスターが殲滅していく。

「………」
「終了っ!」

 ん〜気もちいぃっ。
 精霊を具現化させると結構気持ちいんだのよね。

「ハロルド、少しやり過ぎじゃないのか?」
「え?そぉ?でも、このくらいの方が気持ちいいのよ」

 私の言動そして、この場の惨状に兄貴はため息をつく。

「まぁ、気にしないっていつもの事、いつもの事っ」
「まさか、ここら一帯の惨状の原因はハロルド、お前じゃないだろうね」
「そ〜んな訳、無いでしょ。兄貴、ついてきたのって、まさか、文句言うため?」
「そんなわけ無いだろ」

 と兄貴はふぅっと息を吐いて、私に言った。

 物資保管所までの道のりはそう、遠くはない。
 けれど、雪が降っていてかつ、レンズの影響を受けた元、平和な野生動物たち、現、凶暴なモンスターが襲ってくる。

 その為に、結構やっかいな道のりだ。

「ハロルド、今の自分の状況を知っているのかい?」
「自分の状況?」

 突然の兄貴の言葉。
 自分の状況?って何?

「天上軍に命を狙われていると言う状況だ」
「あぁ、その事ね。まぁ、皆注意してくれてるから平気だし。だから、今日は兄貴がつきあってくれてるんでしょ?」
「いつも、お前の都合で一緒に行ける訳じゃない」
「そんな分かり切った事言わないでよ、兄貴。大丈夫、その時は私一人で行くから」
「ハロルド、ホントに分かってるのか?」

 私の言葉に余程心配なのか兄貴は声を上げる。

「もぉ、分かってるってぇ。だいたい、私になんて敵う奴なんていると思う?あ、兄貴は別ね。兄貴とは勝負したいとは思っても、勝ちたいとは、思ってないから。さ、データ採取、データ採取」

 そうそう、レンズも回収しないとねぇ。

 純度の高いレンズを作るにはやっぱり大量のレンズが必要だし。
 イクシフォスラーのあれ、どのくらい使ったんだっけ…。
 ラディスロウ、浮かせるのにはイクシフォスラーの倍ぐらいはかかるわよね。

 後それから…。

 レンズ。

 これには強大な力がある。
 エネルギーを増幅させる力は、この星に墜落した彗星のエネルギーによるものだ。
 透過させ、増幅させるのはベルクラントを見れば良く分かる。

 直径6センチのこのレンズでさえも充分なエネルギー源となる。

「ハロルド、さっきから何をしているんだい?」
「兄貴、レンズ回収するの手伝って」
「回収って、レンズなら、基地に戻ればたくさんあるだろう」
「あれだけじゃ足らないの。ラディスロウを浮かせなくちゃならないし、それにね、兄貴、今私が新兵器の開発をしているのは知ってるわよね」
「あぁ、でも、どういうのにするのか決まってないって…」
「えぇ、そうよ。でも、レンズを使うって事だけは決めたの」

 この一つでも力を持つレンズは何かと利用出来るし。

「レンズを?まさか、ベルクラントの様な物を作るつもりなのか。ハロルド」

 はぁ、兄貴って何でこうなんだろう。
 もうちょっと、柔軟な発想を持ってくれてもいいと思うんだけどなぁ。

「あのねぇ、そんな猿まねみたいな事はしないわよっ。それに、そんなの作ったって意味ないじゃない。持ち運べないのなんて。ベルクラントみたいなの作ってどこにつけるのよ。ラディスロウじゃ重くて動かないわよ。それに、材料が無いわよ。まだ考え中だっていったでしょ」
「だが、そうのんびりと構えてもいられないのは分かっているだろう?」

 それはね、分かってるわよ。

 わたしは兄貴の言葉にうなずく。

 戦況は日増しに厳しくなっていく。
 元々、負け戦をひっくり返そうとしてるんだから。
 一発ドカーンとなんて武器、欲しくもなるわ。

「ねぇ、…この戦いはミクトランを倒さないとならないのよね」
「その通りだ。天上王と名乗り天上軍を率いているのはミクトランだからね」
「…じゃあ、兄貴。もしミクトランを討つってなった時、どういう作戦をとる?」

 私の言葉に兄貴は少しだけ考え込む。
 天才軍師と呼ばれている兄貴なら、そこまで考えているだろうと思っての事だ。

「やはり、ミクトランを討つチームと、天上軍を誘導、かく乱するチームにわけた方が一番いいだろう。少数精鋭でミクトランのいる所に乗り込み、大群で天上軍をかく乱する。それがもっとも適切だろうな」

 となると、武器はやっぱり剣よね。
 そして、レンズ。

 うん。いけるわっ。

「ハロルド?」

 突然、にやついたわたしに兄貴は訝しがる。

「兄貴、今、いい事考えたわ」
「いい事?」
「そう、とっておきの武器っよ。これさえあれば怖いものなしかも知れないっ」
「なんだい、それは」

 兄貴が興味深げに聞いてくる。

「意思疎通」
「は?」

 私の言葉に兄貴は首を傾げ、聞き返す。

「ねぇ、兄貴、武器と意思疎通が出来たらいいと思わない?まるで、自分と一心同体な武器!!!」
「可能なのかい?」
「えぇ、レンズを使えばね。帰ったら理論だてして、それから試作機作んなきゃ。幹部達に提出するのはその後の方がいいかな。そうそう、先に兄貴に見せた方がいいわよね。さぁ、ちゃっちゃと物資保管所に行って必要な物、そろえないとっっ」

 グフフフ。これは使えるわ。完璧な案だわっ。

「ハロルド、その為に、保管所に行く訳じゃないだろう」

 私の浮かれ具合に水を差すように兄貴は言う。

「分かってるわよぉ」

 分かってるの。

 何のために、物資保管所に行くのかは。
 イクシフォスラーにジャミング装置を取り付ける部品を取りに行くわけでぇ。

「ジャミング装置は完成していないのだろう?まずはそっちを」

 ?兄貴には言ってなかったかしら?

「完成してるわよ」
「は?」

 言ってなかったみたいね。
 完成してるって。

「取り付けが上手く行かないだけ。その為の材料を取りに行くだけだもの。取り付けが完了したら、いつでも飛び出せるわよ。時間が欲しいって言ったのは、取り付けが終わった後、一度きちんと作動するか確認したかったの。ま、私が作ったのだから間違いなんて無いでしょうけどね」
「全くお前という奴は」

 そう言いながら兄貴はため息をつく。

 やっぱり、兄貴には悪い事しちゃったかなぁ。
 完成してるって言えば、兄貴は私について来なくて平気だったのにね。

「ごめん。ホントは兄貴についてきてもらわなくても平気だったのよ」
「そう言うわけにも行かない事、分かっているだろう」

 今の、私を取り巻く状況を兄貴は指しながら言う。

「うん、…ごめん」
「ハロルド、謝る必要なんてないだろう。お前は妹で、私は兄。兄が妹を守るのは当然だろう?」
「双子でも?」
「あぁ」

 私の言葉に兄貴はニッコリと微笑む。

「ありがと。だから、兄貴って好きっ。荷物持ってくれるしねぇ。さぁて、何持ってこようかなぁ」

 武器の試作品作るのに必要な物は何かなぁっっ。

「ハ…ハロルド?」
「何?」
「兄さんは…、荷物持ち?」
「うん、他に、何かある?」

 兄貴はあたしの言葉に肩を落とす。

「いや、いいんだ、お前がそれでいいのなら」

 と呟いた。

*あとがき*
長い。
今回の話は短めに進めようと思ったらどんどん長くなってきた。
って言うか、すでに長い!!!
説明多すぎ?
ハロルドに激甘な兄さんが書きたいんだけどなぁ。
茨道進んでいくよっ。


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