「ハロルド、お前の部下から聞いたぞ!」
「あら、ディムロス、どうしたの?」
地上軍の拠点に戻ってきた私と兄貴を待ちかまえていたのは、仁王立ちした、ディムロスだった。
「イクシフォスラーのジャミング装置は完成しているそうじゃないか」
「あぁ、それね」
私の言葉にディムロスは大げにため息をつき、
「あぁ、それね、じゃないだろう!!!!ハロルド、今の地上軍の状況を分かってお前は言ってるのか?」
一気にまくし立てる。
あぁ、うるさい!!!
な〜んで、帰ってきて早々、ディムロスの怒鳴り声を聞かなきゃならないんだろう。
「まぁ、まぁ、ディムロスもそのくらいにして、装置が完成してると言わなかったのはハロルドなりの事情があったのだろう。その辺を察してくれないか?」
「…こいつの事情だと?カーレル、お前よくそんなことが言えるな」
はぁ、何ナノよぉ!!
作戦決行日は2日後って決まったのに、今更グチグチ言われてもしょうがないのに、どうしてこのバカは分かってくれないのかしらねぇ。
むー。
…!!良いこと考えた!!
「じゃあ、手伝って」
「ハァ?」
「だ〜か〜ら〜。大佐殿が作戦決行日を考えておられたお詫びとして特別に、イクシフォスラー試運転者に認めます!!!よろしくね、ディムロスっ」
私の言葉に、ディムロスはあっけにとられる。
そんなディムロスは放って置いて。
「ねぇ、兄貴、兄貴も実験を見る?」
「今度の作戦に不可欠な事だろう?司令部にいる兄さんが見なくては意味ないからね」
「うん」
これでようやく兄貴に新作が見せられるわ。
イクシフォスラーに乗せる超強力ジャミング装置はまだ兄貴に見せてなかったのよねぇ。
今度の作戦で成功すれば軍の状況は今よりもっとよくなるわ。
「兄貴、イクシフォスラーに乗せるジャミング装置はかなり強力よ!!!天上軍の索敵能力完璧に消せるんだから」
そうして、兄貴とディムロスと共にイクシフォスラーがある格納庫へとやってくる。
「博士、お帰りなさい。装置の取り付けは…」
「これと、これとこれを使って。で〜飛行&ジャミング装置実験はディムロス大佐殿がやってくれるから」
「それだ、ハロルド!!どうしてオレなんだっ。問題はないのか?」
「問題あるわけないじゃないっ。この私が作ってるのよ!!ぜ〜んぜん問題なしよ。それに、私の部下も乗るのほら、問題ない」
私の言葉にディムロスは納得のいかないっと言う顔で見る。
「だいたい、今回の作戦はあんたが中心となって動くんでしょ?そんな人間が、今回の作戦の要であるこのイクシフォスラーを使えなかったら、意味ないじゃない!!!それに、誰でも簡単に操縦出来るように設計してあるから、安心して」
「では、少々お待ちください」
そういっって私の部下は、イクシフォスラーの元へと向かう。
「良いのか?」
「何が?」
「部下の作業を見なくて」
「問題ないわ、私の部下だもの」
私の言葉にディムロスは言うだけ無駄だったとつぶやきため息を落とす。
全く、ディムロスってば、さっきからため息ついてばっかりね。
「博士、これを見て頂きたいのですが」
「博士、実はこれが」
「博士、見てください!!この実験結果を」
待ってるあいだ、ずっと部下の質問等がひっきりなしに入る。
「ココは、こーしてね。それはそのまま進めて。うーん、これはいけそうね」
で、とまどいもせず、それを全て的確に裁いていく、私の裁量。
なかなかの物があるわよね。
「相変わらず、忙しいようだね」
兄貴がそんなあたしの様子を見て感心する。
「いつもの事よ。忙しいなんて言ってられないわ」
「で、取り付けはいつ終わるんだ?」
「ディムロス。少しは落ち着いたらどうなのよっ。いらいらしっぱなしじゃ、上手く行く物も行かなくなるでしょ?」
「まぁ、ハロルド、ディムロスの気持ちも分かってやろうじゃないか」
兄貴がケンカになりそうな私とディムロスの間に入る。
むー。
まぁね、兄貴の言ってることも分からないわけでもないけれど。
「ちょっと、まて!その分かってやろうじゃないかって言うのはどういう意味だ!!!いつも、きちんと理解しろ!!!!」
「あら、ちゃんと理解してるでしょ?」
と言う終わらない時だった。
「博士、お話中スイマセン。取り付けの方完了しました。メイン電力とのリンクも終了しましたので、いつでも発進出来る状況です」
と部下がやってきた。
「じゃあ、一人ディムロスの補佐に入ってね。例の事やってもらうから」
「了解しました!!!」
そして、部下の一人がイクシフォスラーに向かった。
「さて、説明するわね。今からディムロスにはイクシフォスラーの運転とジャミング装置の実験をしてもらうわ。操縦訓練もかねてね。詳しいことは補佐に入った私の部下に聞いて。で、ディムロスにやってもらうことは、まず、ジャミング装置をオンにしてからここから北北東の位置にある、レアルタの付近のスパイラルケイブに向かう。そしたら、ジャミング装置を切って一周まわってね。そして、装置をオンにしてスペランツァ、ヴァンジェロにも同じようにして向かう。後は私の部下が説明すると思うわ。私は、ココじゃなくって管制室の方にいるから」
あっけにとられているディムロスを放って兄貴と共に、ラディスロウ内に設置した管制室へと向かう。
「良いのかい?ディムロスに詳しい説明しなくて」
「したでしょ?あれ以上する必要なんてないわ。私の部下だっているんだしね」
管制室内に入ると、イクシフォスラーは発進の準備に入っていた。
「ディムロス、どう?通信はスパイラルケイブに入るまで出来ないからね。今のうちに状況は聞いておくわ」
『特に、問題ない。発進しても構わないか?』
「準備が出来てるなら良いわよ。ちゃんと間違えないようにね。」
私の言葉にディムロスはうなずき、イクシフォスラーのエンジンがかかる。
「いい結果期待してるわ」
『任せろ。ではディムロス=ティンバー、イクシフォスラー、出る!!』
格納庫からイクシフォスラーは発進し、レアルタ方面へと飛んでいく。
「イクシフォスラーのジャミング装置作動しました。この速度で行けば予測通り10分後にはスパイラルケイブと思われます」
管制室のオペレーターがそう告げる。
うん、予定通りって所ね。
『ハロルド、ついたぞ』
ちょうど10分後、ディムロスの通信が入る。
「お疲れ、こっちでも確認出来てるわ。次はスペランツァ、そしてヴァンジェロに向かってね。連絡はしなくても良いわよ。こっちで確認するから」
『あぁ、分かった』
「それから、私の部下に変わって」
わたしの言葉に通信が部下に変わる。
「博士、予定通りのエネルギー排出量です」
そして、変わるなり告げる。
「うーん。なら予定通り進めて。スペランツァ、ヴァンジェロで確認して。予測以下だったら中止。予測以上だったら、決行」
「了解しました!!!必ず、いい結果をお持ちします」
と言って通信を切る。
「イクシフォスラー、スペランツァへの進行を取り、装置の作動を確認しました」
そして、管制室のオペレーターがそう告げる。
グフフフフフ。
ディムロスには悪いけど、犠牲になってもらうわっ。
「ハロルド、何をするつもりだい?ジャミング装置の実験だけだったんじゃないのかい?」
「あら、兄貴。それだけで、こんなに時間掛けると思う?装置の実験だけだったらスパイラルケイブだけにするわよ。本当の目的は、イクシフォスラーの燃料テスト。あれに新型のエンジンを乗せたの。それでね、レンズの消費を確認するのよ。速度テストって所ね。これでいい感じだったらラディスロウ用に巨大化させるのよ」
一気に言い放った言葉に兄貴はため息をつく。
「どうして、そこでため息つくのよ」
「ディムロスが不憫だなって思っただけだよ。どうせ未知の速度体験って言って猛スピードで飛ばすつもりだろ?」
「そのくらいしなくちゃ意味ないわ。せっかくの速度テストだものね」
そう言うとますます兄貴はため息を落とした。
イクシフォスラーから降りたディムロスは私の姿を見つけた瞬間声を上げた。
「カーレルっ、ハロルドはどこに行った!!あいつに一言文句を言わなくては気が済まん!」
「すまない、ディムロス。ハロルドは今それどころじゃないんだよ」
「どういう意味だっカーレル」
「今、ハロルドは新作の試作品の製作に取りかかっている。邪魔したくはないからね」
私の言葉にディムロスは大きくため息をつく。
あの後、ハロルドは私にディムロスへの対応を頼みラディスロウ内の自室兼ラボへと入っていった。
物資保管所へ向かう途中に出た会話の中で生まれた『意思を持つ武器』をの試作品を製作するためだ。
あの子は、そう言うことに関しては得意だろうから試作品程度なら時間かからずにに作れるだろう。
実用化となるともっと詰めなくてはならないと思うが…。
ん?
「ハロルドの所に持っていくのかい?今、あの子は邪魔されたくないだろうからね。私が持っていくよ」
ハロルドに実験の結果を持っていこうとした工兵隊を目にとめそして書類を預かる。
今行われた実験の結果が細かく書かれている。
速度、燃料消費率、ジャミング成功率、レーダー索敵率等。
これらの実験の一つ(ジャミング装置の作動)しか聞いていない(聞かされていない)ディムロスが怒り出すのも無理はない
「邪魔されたくない…ね。カーレル、だいたいあいつがまともな物を作ると思うか?いつもいつも訳の分からない物ばかり作ってくる」
「訳が分からなくはないだろう?あのイクシフォスラーだって天上に攻めていくのには必要なものだ。ハロルドが突発的に作る爆弾や、武器だって充分役立っているじゃないか」
「…それは、お前がそれを利用しているだけだろう?」
「まぁ、そうとも言うね。でもね、ディムロス。利用以上にハロルドの発明は事実作戦に役立っているし、使えるだろう?」
「その辺は否定しない。だが、あいつの性格をなんとかしろ!!あいつの面倒を見るのはお前の役目だろう?」
ディムロスは怒り心頭の表情で私に詰め寄る。
「まぁ、ディムロスの気持ちも分からないでもないけどね。私は兄としてあの子には自由にやらせたいと思っているんだ。まぁ、軍師としては多少なりとも考えないとは思うけれど…。まぁ、その辺は私がフォローにまわれば良いことだし、特に問題はないんだよ」
「フォロー…ね」
「まわっているだろう?君に対するフォローに」
そう言った私にディムロスは頭を抱え確かにな、とつぶやきうなだれた。