「じゃあ、名前と、階級、所属を言って」
「え、でもぉ」
「でもじゃないっ、さっさとしなさいっ」
「は、はい。ピエール・ド・シャルティエ。階級は大尉。所属は第一師団。分隊長を務めています」
「よろしい」
私の言葉にいわゆるおぼっちゃんカットの、金髪碧眼の少年兵がふぅっと息を吐く。
ソーディアン計画を発表した後、私は、HRXを完璧にし、ソーディアンの人選を始めた。
なかなか、一般兵からなかなか良い人材は見つからないのがまるで、今の地上軍の状況を現しているみたいだった。
で、目の前の少年。
周りから生意気とかひねくれ者とか言われているおぼっちゃん。
昔からの知り合い。
実験台&おもちゃのシャルティエ。
「あんたいくつだったんだっけ」
「はい、二十歳です」
は?
「二十歳ぃ!!!?うそぉ」
もっと下だと思ってたのにぃ!!!!
嘘でしょぉ。
「ハロルドさん、昔も驚いてませんでしたか?」
「気にしない気にしない。でも、ひねくれ者のあんたが大尉なんてねぇ」
「ひねくれ者は余計です。そう言えば、ディムロス大佐も、二十歳の頃、大尉だったんですよね。僕、大佐みたいになりたいんですっ」
目をキラキラ〜ンと輝かせて、シャルティエは言う。
「まぁ、良いわ。とりあえず、シャルティエあなたを今から検査します」
「検査…何をするんですか?」
「いいから、いいから。だ〜いじょうぶよぉ、痛くしないから。ん?ちょっと待って?」
私とシャルティエがいる広場から少し離れた所に素敵な女医さんの姿が見える。
手に持っているのは多分、頼んだ資料。
「ア・ト・ワ・イ・トっ」
「っ?!」
聞こえなかったのか、アトワイトはそのままラディスロウに向かおうとする。
「アトワイトっ。聞こえてるんでしょ?」
「な、何?ハロルド」
「その手に持っている資料、今ちょうだい。どうせ、私の部屋に持っていこうとしたんでしょ?」
「そうだけど、今、忙しいでしょ?どうせ、ディムロスの所にも用が合ったからついでだから持っていくわ」
と、この場から立ち去ろうとする。
はぁ、逃げたいって言うのが見え見え。
「アトワイト、ディムロスは今自室にいないわよ。兄貴の居場所聞かれたから。って、あんたも、ディムロスが聞いたその時いたじゃない」
「…それに」
「手伝って。どうせ、減るものじゃないでしょ?」
「あのねぇ、私、あなたの実験を手伝ってどんなに大変な目に遭ったか忘れた訳じゃないでしょう?」
「それ昔の話でしょ?それにアトワイトも楽しそうにやってたじゃない?」
「それは……そうだけど…」
「はい、決定。別に、実験手伝えって言ってる訳じゃないの。その資料に関して2.3聞きたいことが合ったら困るじゃない」
「分かったわよぉ」
そう言ってアトワイトは渋々、私達の方までやってきた。
「さて、アトワイトも来たことだし始めますか。じゃあ、シャルティエ、説明するわね。ただ単純にこのロボットHRXと戦闘をしてもらうだけよ。ただし、晶霊術は使用不可ね。こいつ、晶霊術の耐性は出来てないの(レンズが入ってるから唱えられるけど)。結構強いから油断しないようにね。じゃあ、初めっ」
HRXとシャルティエの簡単な模擬戦が始まる。
いろんな人に内緒にしてるけど、このロボットの戦闘モデルは兄貴とディムロス。
だからなのかな?
今まで、まだこのHRXに勝った人間がいないのは。
「ハロルド、これで何するつもりなの?」
資料を見ている私にアトワイトが聞いてくる。
「クレメンテのじいさんから聞いた?会議の内容。別に口止めするような事じゃないから、言ってるかも知れないけど」
「…ソーディアン?定期検査の時に意気揚々と話してくださったけど…」
ハハハ。
じいさんの楽しそうに話す姿が目に浮かぶ…。
「それの使用者捜しよ。最終兵器を持ってる人間がもしもの場合に急に具合が悪くなったじゃしゃれになんないでしょ?」
「それで全兵士の健康状態を知りたいって言い出したのね」
「ま、そう言うこと。この模擬戦もね、その一つ。戦闘能力及び突発的事故に対する判断力の高さを計算するのよ」
そう、アトワイトに説明する。
そしてHRXの方に目を向ける。
あら、シャルティエ、なかなか善戦してるじゃない?
ディムロスと兄貴がモデルなのに。
思考レベルが、単純に設定してあるから?
まぁ、後々複雑レベルEまであげれば良いわけだし、今は、実験…いやいや、検査段階だもんねぇ。
「ハロルド。楽しそうね」
「わっかるう?」
「えぇ、すごく」
アトワイトはそう言ってため息をついた。
「……」
雑音に混じり、誰かがノックしている音が聞こえた。
「どうぞ」
「カーレル、今、平気か?」
扉を開けたのはディムロス。
「問題ない」
と告げ、部屋へと招き入れる。
そうしながら、音を消すのも忘れない。
「なんだい、ディムロス」
「…今何を聞いていた?」
私の手元にある機械に目を向けながらディムロスは問い掛ける。
「ただの、ラジオだよ。情報部の人間が趣味でやっている、放送」
物言いは不自然だったか。
ディムロスの訝しげなか表情を見て心の中で舌打ちする。
「いや、ただ、お前がラジオなんて珍しいと思ったまでだ」
椅子に座りながらディムロスは言う。
「で、何の用だい?ディムロス。言いたいことがある。そう言う顔をしているが?」
ま、どうせハロルドの事だろうけどね。
そう付け加えるのも忘れない。
ディムロスが、部屋にやってくる時は大抵ハロルドに対してのことだ。
「分かっていて、何故聞くんだ」
「違うと良いなと言う希望が入ってるからだよ」
ディムロスはハロルドにとって見ればからかいやすい人間らしい。
もっとも、ディムロスからすればとんでもないことだが。
「分かっているなら、話が早い!!!何だあのロボットは!!!一歩間違えればオレは大けがする所だったんだぞ」
「へぇ、それはスゴいじゃないか。君は大けがの一歩手前で助かったんだろう?さすがはハロルドだな、そこで止めることが出来たんだから。それに君もさすがだな、怪我しなくて済んだのだろう?」
「感心している場合か!!!!」
HRXの出来映えに感心しているとディムロスが怒り出す。
「あのまま放っておくつもりか?このままじゃ、怪我人が出るぞっ」
「ディムロス。ハロルドは、君の実力を考えてあのHRXの力を設定しているはずだ。君なら大丈夫だ。そうハロルドは確信したんじゃないのか?」
「そのせいで、オレは大けがしそうになってるんだ。もう少し、そこら辺も考えて欲しいな」
ディムロスはむすっとしたままそう言った。
「…カーレル中将」
インターフォンから声が聞こえる。
「イクティノス少将?どうしたんですか?」
「今、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ、構いませんよ」
私の言葉にイクティノス少将は部屋に入ってくる。
ディムロスの姿を認めた彼は一瞬、驚いたが、構わず話をしてもらう。
「現在の状況などを知らせに来ました」
「…まぁ、分かっているつもりですよ」
「…分かっているのなら話は早い。例の会議が原因で状況はかなり悪化しています。どうするつもりですか?」
「…どうするも、しばらくは静観するつもりです。まだ動くべき時じゃない。私はそう判断しています。相手側には『切り札』となるべきものが存在しますからね。あれをどう動かすか、それ次第で動き方が変わってくる。そう思いませんか?」
「…賢明な判断だと思います」
静かにイクティノス少将は答える。
「ありがとう、イクティノス少将。あなたは、味方してくれるですか?」
「…そうとってもらっても構いません。どちらかと言えばやりやすいというのが事実ですから。では自分は失礼します。くれぐれも、お気をつけて」
そう言ってイクティノス少将は部屋から出ていく。
「…カーレル」
今の会話を聞いていたディムロスが少しだけ呆然としている。
「どうしたんだい?ディムロス」
「何なんだ、今のお前と、イクティノス少将の話はっ」
「…知りたいかい?正直、この事は隠密にすませたいと思っているんだけどね。君の性格から考えるとそうも行かないだろうな」
「当たり前だっ。動くって言うのはなんだっっ。カーレル、何かやらかすつもりか?」
躍りかかるように話すディムロスを落ち着くようにとさとし、スイッチを入れた。
『相変わらず、生意気な双子ですな』
『兄貴はともかくとして妹をどうにかしたいのですが』
『天上軍を手引きしましょうか』
『まぁ、まて、それはあまりにも危険すぎる』
『あれでも、あの娘は天才ですぞ。このまま黙っているわけにも行かないのではっ』
そこで、音を消す。
「……なんだ、これは」
「ハロルド=ベルセリオスの暗殺計画、とでも言っておこうか」
私の言葉にディムロスは目を丸くする。
「あの性格だからね。自分が気にくわなければ、どんな手を使ってでも、自分のわがままを通す。もっとも、それは私にも原因があるけれど。ただ、それが、連中にはお気に召さないらしい。それとね、奴等はどうやら私が邪魔な存在らしい。私がいなければ、地上軍の作戦のほとんどは自分達の手で作ることが出来る。好きなように参謀部を操れるというわけだ。だが、今の段階ではそれが出来ない。理由が分かるかい?」
「…いや?」
「私の作戦が、現在の地上軍に有利に働いているからだよ。だから、ハロルドを使って落そうとしている。ついでに邪魔なハロルドも消すことが出来る。一石二鳥と言うわけだ」
「それで、平気なのか?」
「今のところはね。事前に手を打てるように盗聴器を仕掛けさせてもらってるし。ハロルドにも警戒させてはいるが…天上軍のが彼女を狙っているというのも事実だし…。さすがに、この事をハロルドには伝えてはいないんだ。何をし出すか、正直分からないからね」
「オレに、手伝えることは?」
「今のところはないよ。正直な所、彼等には思う存分泳いでいて欲しいんだ。自分達が網の中で泳いでいるとは想像出来ないぐらいにね。まだ食べ頃じゃないんだよ。頃合いって言うだろう?その方が面倒にならなくてすむ」
ディムロスの申し出は正直いってありがたかった。
この状況をひっくり返すのなら、ディムロスの力をおいてないだろう。
彼等の操縦しにくい『切り札』を考えると。
「カーレル……ハロルドは…知っているのか?」
「多分ね」
ディムロスの言葉に私はそう答える。
あの子は勘がいいから。
気付かなくてもいいことまで気付いて、そうして隠している。
隠していることを気付かなくてはならないのが側にいる人間の双子の兄としての役目だ。
「…カーレル。もう一つ聞いて良いか?」
「なんだい、ディムロス」
「…いつの間に、お前は盗聴器を仕掛けたんだ?」
私の手元の機械と顔を交互に見ながらディムロスは問い掛ける。
「それはそうだな、ハロルドを守るための企業秘密とさせてくれ」
「な、何を考えているんだ、お前はっっ」
私の言葉に何故かディムロスは呆然とし言葉を吐く。
何か…問題のある発言でもしただろうか。
考えてみても思い当たる節はない。
「ディムロス、何を考えているって…別に私は…」
「お前、今ハロルドを守るためと言ったじゃないか」
「あぁ、言ったねぇ。でも、それは当然だろう。最愛の妹を守るために兄として必要不可欠じゃないか。ディムロス」
私の言葉に今度こそ、あっけにとられたのか、何も言葉を発さなかった。