ファルダーガー

  第3章・1部 記憶喪失の届け屋 in ラプテフ王国ショルド都内エンガル区  

 サガは大怪我をしていた。
 ロマが大爆発をした時、あたしをかばったせいだ。
 すこしの間、全然気がつかなかったあたし。
 最低だね。
 で、今は一緒に住んでいる。
 …気が付いたら一ヶ月ぐらいたってた…。
 …!?
 ってここって新宿か?
 って感じの街にサガは一人暮らしをしていた。
 おぉ、金持ち(しかも一軒家。周りに森もある)。
 始めて来た時は全然気が付かなかったあたし。
 ……結構、おばかさんかも。
 結果的にはショルドはほとんど東京と一緒なのであたしは迷うことはありませんでした。
 ん…そういえばあたし…何か忘れてます。
 いったい何をしようとしていたんだ…?
「こら、ミラノ。掃除しろ!」
 あ、掃除でした。
「…サガ…平気なの?」
「何が?」
 何がって…怪我。
「もう平気?じゃないよね」
「大丈夫だよ…」
 そうサガはあたしを安心させるように言う。
 …この会話、何度も続けて今日にいたってるあたしとサガの関係は、微妙になっている。
 何が微妙なのかって言われると困るけど…ともかくお互いがお互いにもろく崩れるものを持っていた。
 サガは怪我。
 そして、あたしは………。
「ミラノ?」
「大丈夫だよ」
「……ふ………」
 …サガの声を聞くと…反射的に『大丈夫』と言ってしまうあたしがそこにいた。
 あたしの崩れそうな部分。
 それは、衝動的・反射的に誰かを…………。
 という、恐怖。
 ある意味サガのそれよりもろく崩れそうな自分がそこにいるのだ。
「大丈夫だよってお前今日何回目だ」
「さぁ…何回目かなぁ」
 笑いながら言うサガの言葉を軽くかえす。
「今日一日10回はまず言ってるぞ」
「本当?」
 と聞くとサガは大きく頷く。
 んー、サガは数えているのか?
「…大丈夫だよミラノ」
 そう、サガは言いながらあたしの頭をポンとたたく。
 …サガにすべてを言ってしまった時は…すっきりした…。
 これ、正直な気持ち…。
 もっと冷静になれたらいいのに…。
 そう…思った。

「ミラノ、ちょっと出掛けてくる」
 と言ってサガが出かける。
 うわぁい、今日、あたし一人だ!!
 なんか久々に一人って感じ。
「んー!」
 近所の並木道を歩いている時、あたしの目の前に立ちジッとあたしを見るかっこいい男A。
「えーっと、ミラノ・フォリア・ウォールス?」
 写真(たぶん)を、みながら呟く。
「あのぉ、どちら様ですか?」
 思わず、声をかける。
「あ、オレ?オレは、これを届けにきたの」
 と、一つのメダルを渡される。
 こ…これは…何?
 どっかで見た事あるけど…。
「サガ・カミュー・ルマイラっていう男知ってるよね」
 え…サガ?
 まぁね。
「良かったぁ…オレ、顔知らないんだよね。あんたの写真は渡されたんだけど…」
 ふぇ?
「オレさぁ、届け屋な訳ね。で、頼まれた相手からあんたの写真は渡されたんだけど、サガって言うやつの写真はないんだよね」
 ふーん。
「じゃあ、どうせだったらサガに会えた方が良いわけだよね」
「まぁ、そうだね」
 あたしの言葉に男は頷く。
「じゃあ、うちに来てよ。どうせサガすぐに帰ってくると思うから。ね、運び屋さん」
「あのなぁ、オレは運び屋じゃないの。届け屋!とどけや!!」
 届け屋?
「そう、物を運ぶんじゃなくって、贈り物を届けるの」
 ふーん。
 どう違うんだろう。
 という疑問を残しつつ届け屋さんをうちに連れて来た。
 そ・う・い・え・ば、あたしこの人の名前、知らないぞー!
「ねぇ、名前なんて言うの?」
「ハリア・メン・アムネシア」
 ……やけに英語的な名前。
「多分…オレの本当の名前じゃない」
 え…って事は。
「記憶喪失?」
「…ま、そんなとこかな?意味は記憶喪失の早く行く男ってとこらしいよ」
 …………。
「驚いた?ま、当然だろうね。オレ自身、記憶ないし。実際のオレの記憶ってここ一ヶ月ぐらいなんだよ」
 まじぃ?
「うん。ま、生きていくぶんでは困らないから別に平気なんだけどね」
 なんか、悲しい。
「そう?そんな事ないけどね」
 まぁ、凄く楽観的。
「後ろ向きに生きててしょうがないっしょ」
 と、彼は楽観してる。
「ねぇ、運び屋さん」
「運び屋じゃないって言ってるだろぉ!」
 う…。
 ごめん…。
「そ、分ればいいんだよ」
 と、ハリアはそう言って笑う。
 でも、このメダルなんだろう。
 どっかで見た事ある紋章が掘ってあるんだけどなぁ…。
「ただいま」
 そんな時サガが帰って来た。
「………リ…?」
 え?
 サガがハリヤの顔を見て何か言った。
「あ、あんたがサガ?これ、人に頼まれて届けに来たんだ」
 そう言ってハリアがサガにメダルを渡す。
「これは…オレの…どうして」
「詳しくはオレも知らないけど…。マリウス・クロード・ジルベールって言う人からだって」
「マリウス…」
 サガは感慨深気にそのメダルを見つめる。
「なんなの、このメダル。マリウスからって…」
「カバネルのファラスナイトのメダル」
 ファラスナイトのメダル?
「あぁ」
「取りあえず、オレは帰るわ。もう、用は終ったし。あ、何かあったら呼んでくれる?」
 そう言ってハリアは帰ろうとする。
「ちょっとまて…」
 帰ろうとするハリアをサガが呼び止める。
「何?」
「………名前はなんて言うんだ?」
「ハリア・メン・アムネシア」
 サガはハリアの言葉に驚く。
「……本当にそうなのか?」
「記憶喪失なんで本当のは知らないけど」
 そう言って不思議なサガの言葉に首をかしげながら、ハリアは出て行く。
「どうしたの?」
 サガの態度にあたしは質問をぶつける。
「…。ファラスナイトのメダルは…カバネルの特権の一部を使えるようになるんだ」
 サガは急にファラスナイトのメダルについて説明する。
「ちょっと、サガ。あたしの質問に答えてないわよ」
「…ミラノ。この国の問題に関わるかも知れない問題に入ってくるんだ」
 はぁ?
 なんで、そこまで飛躍するの?
 あたしは記憶喪失のハリアに本当にそうなのかって言ったサガの態度に疑問を持ったのに、どうしてラプテフの問題に発展するのよ!
「……ごめん…今混乱してる…」
 そう言ってサガはあたしに秘密を残した。
 …なんて大袈裟だけど、凄く気になるよぉ。
「ミラノ…後でオデッサに行こう」
「何で」
「……ちょっとね…」
 そう言ってサガは黙り込む。
 そんな様子にあたしはこれから起る何かを感じ取っていた。

 あれからあたしは運び屋もとい、届け屋のハリアと仲良くなった。
 ハリアと仲良くなると同時にサガはどこかに出かける事が多くなった。
「ふーん。サガよく出かけるねぇ」
 うん…。
 多いんだよね…なんか。
「心配?」
「わかんない」
「あ…オレ、ちょっと仕事なんだ」
「お仕事?」
「そ」
 そう言ってハリアは行ってしまった。
 家の中にいてもつまらないのであたしは出かける事にした。
 どこ行こうかな…。
 ぼうっとして歩いていると、突然人にぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
 咄嗟に謝ると相手は静かに言った。
「私は大丈夫です。あなたこそお怪我はございませんか?」
 と、気づかわれる。
「大丈夫、全然大丈夫です」
「それは良かった。……もしかして、ミラノ・フォリア・ウォールス様?」
 突然、フルネームを言われ戸惑う。
「私、ミリア・マリス・ギルフォードと申します。あなたの事はいろいろお聞きしてますわ」
 と、ぶつかった人…着物を着ていた彼女はにっこり笑う。
 ショルド警察キガナイの屯所
 ミリアと言う着物の女性につれられて来たここはキガナイの屯所と言い、ショルド都内の警視庁みたいな所だった。
 でも、なーんか一般宅って感じ。
「いらっしゃい、ミリア。待っていたのよ、私もサガも」
 一部屋に案内されあたしは驚いた。
 なぜなら、そこには畳の間でサガが正座してお茶をすすっていたからだ。
「み、ミラノ。どうしてここに…。しかも姉様…いや、ミリアと一緒にいるんだ」
 あたしの姿を認めたサガも驚く。
「な、何。私、全然はなしが見えないんだけど…」
「アエロマ、彼女はミラノ・フォリア・ウォールス。前にサガが捜していた勇者様よ」
 ん?
「まぁ、そうなの?それならそうと、サガ、言ってくれればいいのに…。初めまして、ミラノ。私はゼルの双児の姉アエロマ・トルカ・キングストンよ。ゼルからいろいろと聞いてるわ」
 ……え?
 えーーーーーーーーーーーーーーー、ゼルと双児?
 そー言えばどことなくーーーーーーーーーってあの筋肉ゴリラと双児?
「……どうして驚くの?」
 ゼルのお姉さん、アエロマさんはきょとんとした様子であたし、サガ、ミリアさんを交互に見る。
「…でも…筋肉ゴリラ…ねぇ」
 アエロマさんはあたしの言葉に微笑する。
「アエロマ様、ミリア姉様、サガが来ていると言うのは本当ですか?」
 走って来た足音と声と共に女の人が入って来た。
「ティナ!!」
「どうしてかえって来たんだ」
 彼女…!忍びの者って言う感じの彼女。
「ティナ…無事でよかった」
「無事ぃ?あなた、本気で言ってるつもり?冗談じゃないわよ」
 彼女は物凄く怒っている。
「……ティナ、落ち着いて」
 ミリアさんの声に彼女はすこし落ち着く。
「ミラノさん、彼女はティナ・アリス・ミッシーナ。私の友人です」
 ミリアさんの言葉に彼女は不服そうながらも挨拶をする。
「どうも、ミラノ・フォリア・ウォールスです」
「へぇ、あなたが」
 へ?
 ティナの言葉にとげがある。
「あなたが…。あなたがのこのこでてきたおかげでみんな迷惑してんの分かってるの?あんたなんて足手まといにしかならないのよ」
 そうティナは言い放つ。
「ティナ、なんてこと言うの?彼女に失礼だわ」
 ミリアさんの言葉にティナは反抗する。
「…だとしても…私は納得行かない。サガ、あなたが『トーニック』を出たせいでこの国がどうなったか知らない癖に…。『トーニック』が…あの人が…」
 そう言い残してティナは出て言った。
「ミラノ、ティナの言う事は気にしないで。あの娘にはあの娘なりの事情があるの」
 と、アエロマさんの言葉にあたしは頷く。
 一体、彼女に何があったんだろう…。
 そう思いながらサガを見ると、サガは俯いている。
 サガ…?
「ミラノさん…」
「はい?」
「先にお帰りなさい」
 ミリアさんはそう言う。
 多分、ミリアさんは気づかったんだと思う。
 あたしに対して。
 でも、あたしは周りが思う程落ち込んでない。
 だって、全部ホントのことだもん。
 分かってる事を言われてるだけ。
 でも…あたしより、サガの方が効いてるような気がする…。
「じゃあ、帰ります」
 サガの方を見るが俯いている。
 何考えているんだろう…。
 も、もしかすると…あたしに特訓させようと言うんじゃあ…。
 そんなの嫌ぁ。
 ともかくあたしはキガナイの屯所を後にした。
 と、そこで疑問が一つ。
『トーニック』って何?
 ティナはさっき言ってた。
『あなたが『トーニック』を出たせいでどうなったか知らない癖に』
 って。
 あたしの全然知らない言葉。
『トーニック』ってなんだろう。
「ちょっと、あんた。何してるんだい?」
 いきなり、おばちゃんに声を掛けられる。
 何って…。
「早くお逃げ。こんな所にいると『トーニック』に襲われるよ」
『トーニック』に襲われる?
『トーニック』ってやばいの?
 どう言う事?
「どう言う事…ってそんな事言ってる暇ないんだよ」
 そう言っておばちゃんはどこかに行ってしまった。
『トーニック』に襲われるって?
「何やってるのよ、こんな所で」
 と、ティナに声を掛けられる。
 何やってるんだ…って言われても。
「早くしないと、『トーニック』に殺されてもいいの?」
 って言われても訳わかんないのよ!
「あなたには関係ない事よ」
「じゃあ、理解できないわよ。『トーニック』に襲われるとか、『トーニック』に殺されるとか、説明してよ」
「……」
 あたしの言葉にティナは黙り込む。
 その時だった。
「よぉ、久しぶりだな。ティナ」
 と、声がかかる。
「……センター。ミラノ、これがサガが抜けたせいでおこった事よ。しっかり見なさい」
 って言われたって分らないわよ。
「クックック。なんにも知らねぇ見たいだなぁ。そっちの姉ちゃんは」
「センター少し落ち着いて」
 と、すこしクール目な男の人がセンターに言うけど彼はまったく効く耳を持たない。
「ティナ…逃げよぉ」
「無理ね」
 えー。
 ティナの言葉はショックだった。
 ティナの悲観的な様子から好転させるにはただ一つ。
「サザード・サザード・キアル・セアラ・フィーヌ・タクラ 反する力よ今我が手より放たれよ! デュアルボール」
 と、呪文を唱えた。
 実は、この呪文はあたしの今のレベルじゃちょっと無理かなって言う呪文なんだけど、取りあえず、水蒸気爆発してくれ!!
 あたしの願いは届いたのか水の玉と火の玉は相打ちの様にぶつかり爆発をおこした。
「うわぁー!」
「ティナ、今のうちに」
 あたしの言葉にティナは驚きながら頷く。
 デュアルボールのおかげであたりは霧に包まれあたし達は難無く逃げ押せる事ができた。
「ありがとう………。さっきはごめんなさい」
「さっきって…」
「あなたなんて足手まといって言った事よ。なんか誤解してたみたい。ごめんなさい」
 あたしが気にしていると思ったのかティナは謝ってくれる。
 あたしは全然気にしてないんだけどね。
「ティナ、あたしは全然気にしてないよ。だって足手纏いって言うの分かってるから。さっきのだって偶然の産物みたいなもんだし」
 言っててなんか悲しくなって来たけど…ホントの事だし…。
「…取りあえず、謝らせて。そうじゃないとあたしの気が済まないの。もしかして、あなたよりダメージを受けてるのはサガの方?」
 ティナの言葉にあたしは笑いながら頷いた。
「ま、取りあえず、あなたの事をサガの所まで送るわ。いろいろまだここは危険だから地下道を通って行きましょ。それにあなたもいろいろ聞きたいだろうしね」
 と、ティナにつれられショルドの地下にはり巡らされている地下通路へとやって来ました。
 ティナの話だとこの通路は国王のお庭番の人たち『アースガルズ』っいう人たちの専用地下通路なんだって。
 で、ギルフォード家とキングストン家で代々後を継いでるんだって。
 ミリアさんかアエロマさんがその頭領になるらしい。
 お庭番って言うのは一種の忍者さんみたいなものね。
「やっぱり一番聞きたいのは『トーニック』の事よね」
 ティナの言葉に頷く。
「『トーニック』と言うのはラプテフの侍の中でもっとも優秀な人材を集めたエリート部隊。メンバーはたったの五人。その五人に与えられた任務は侍マスターの命令によって多岐に渡る。その多くは特殊事件の捜査。特殊事件って言うのは危険な事が多いから彼等は常に帯刀及び抜刀が可能なのよ」
 帯刀と抜刀って?
「帯刀は常に刀を所持する事、抜刀は刀を抜く事。ラプテフの町中で常に帯刀している人なんて誰一人いないわよ。町外れとか山の中ならともかくね」
 そう言えば…サガも『大地の剣』は隠していたな…。
「海外から来た人もそうでしょう。刀は町中では抜けないようにする。これがラプテフに入国する時の条件よ。武器は統べてって言う方が正しいわね」
 じゃあ、ショルド駅で見かけた二人って『トーニック』だったって事?
「可能性は高いわね。でも、鉄道警察って事もあるわ。列車にモンスターが張り付いている場合があるから」
 ほぇー。
「でも…本当の『トーニック』の存在理由は違うわ。マスターから命を受けた特殊事件捜査なんてとって付けたものよ」
 どう言う事、ティナ?
「本当の『トーニック』は各国の要人を殺害する為の暗殺集団よ」
 暗殺…集団。
「えぇ、そうよ」
 ティナの言葉に、あたしは驚いた。
 ラプテフに…暗殺集団があったなんて。
「…さっきの『トーニック』は近い姿かもね…」
「ティナ…一つ聞いていい?サガは『トーニック』なの?」
「その、答えはサガに聞いて。あたしは、これ以上は言えないわ…。さ、着いたわよ。でも用心してね。『トーニック』の情報網は侮れなからあなたの事がばれてもおかしくないわ」
 ティナに促されてあたしは地下通路から外にティナと共に出る。
 目の前はサガの家。
 ティナと一緒に家の中に入った時サガは一人じゃなかった。
「お客さんなの?サガ」
「あぁ……ハリア……がきているんだ」
 ふぅん、あ、そうだ。
 ティナも一緒なんだ。
「ティナ、お前も来たのか…」
「来たのかはないんじゃないの?お客さんみたいね。あたしは帰るわ」
「いや、オレが帰るよ」
 そう言って奥にいたハリアが出て来た。
「……リラン……」
 ティナの言葉に驚くハリア。
「……オレはリランって言う名前なのか?」
「そうよ、あなたはリラン。リラン・イエナ・ザルツギッター。『トーニック』のメンバーよ」
 ティナは未だに信じられない、と言うより記憶のないハリアに向けてそう言い放った。
「ティナ、それは今話す事じゃない。ミラノは何もしらないんだぞ」
「そう思っているのはサガ、あなただけよ。あたしはさっき、ミラノに『トーニック』について説明したわ。サガ、あなたミラノの事軽く見すぎているんじゃないの?彼女はあなたが思っている程弱くはないわ」
 ティナはそう言ってくれた。
「……分かった。全部、話そう。ハリア…いや、リラン。君も聞いていて欲しい。これは君にも関わる事なんだ…」
 そうして、サガは静かに話し始めたのだった。

「…じゃあ、何から話す?ミラノは『トーニック』の事は聞いたんだろう」
「うん…ティナから。サガ、サガは『トーニック』だったの?」
 そう聞くとサガは静かに答える。
「…三年ぐらい前はね。そうだゼルとマリウスも『トーニック』だったんだよ」
「本当に?」
「あぁ…」
 そこで、一つ疑問が湧いた。
「どうして、『トーニック』をやめてカバネルのファラスナイトになったの?」
 そう聞くとサガは俯き、話し始めた。
「オレが『トーニック』に入る前に侍マスターがマリウスの父親ギラン・ミフネ・ジルベールに変わって、それと同時にマリウスとゼルは『トーニック』に入りそれを追い掛けるようにオレも『トーニック』に入ったんだ。そして、マリウスは『トーニック』のナンバー1…リーダーになったんだ」
 へぇ…。
「『トーニック』って言うのは5人構成でね、一人が止めるとひとり入るって形なんだ。マリウスが『トーニック』のナンバー1になった時にはオレとゼルがいて、リラン、君とセンターが入って来たんだ」
 センターってさっきの人だ。
「さっきの?何かあったのか?」
「さっき、センターとライナスに襲われたのよ」
 ティナの言葉にサガは寂しそうに笑う。
「…続けよう。二人が入った後にマリウスは『トーニック』を抜け、上層部に入っ行った。そして、そのマリウスの抜けた所にショウ・シャーシ・ルーカンと言う『トーニック』では珍しい一般応募で合格した奴が入って来た。『トーニック』は基本的に実力世界だがその前に直系の先祖に『トーニック』がいないかぎりは入れないという世の中だ。彼は運に近い。その後当時ナンバー1だったゼルが抜けウォン・パノル・クワンセンが入った。その時のナンバー1はオレだったんだ」
 …ライナスは?
 それにサガの家柄って…。
「ライナスのはこれから。オレの方は後で話す。…ウォンが入ってきてオレも『トーニック』のリーダーと言う地位にだいぶなれて来た頃だった。オレは反マスター派に呼ばれた。そしてそこでこう言われたんだ。『昔の様に『トーニック』を戻したい』…と」
「昔の様って……」
「現在の『トーニック』は特殊捜査の任務、及びマスター、国王夫妻の国内の護衛(お庭番が表に出て来れないので)、と言えば分るかな?ティナ」
「……まさか…………」
「そのまさかさ。現在の『トーニック』は暗殺を本来の目的としない。ただ、マスターの命を受けて特殊捜査の任務、及びマスター、国王夫妻の国内の護衛だった。ところが反マスター派の考えは暗殺者『トーニック』としての力を出したいと言う事だ。それにこんな事も言われたよ。『機械の様に育て上げるのは可能か』と…。正直言って寒気が起きたよ。確かに、あらゆることに備えての訓練はしてある。でもまさか、反マスター派がこんな事考えているなんて…。そして、それを前後するかの様にマリウスとゼルがラプテフを抜け、カバネルの『スリーナイツ』に入った事をオレは聞いた。…そして、オレは『トーニック』に入るつもりのない男に全てを…『トーニック』のメンバーであるリラン、センター、ショウ、ウォンの事をまかせて、マリウスとゼルを頼ってカバネルに向った。そうじゃないと何もでないから。『スリーナイツ』になれば調査員としてラプテフに介入できるし、侍マスターも守れる」
 サガは苦しそうにそう言った。
「サガ…その一人の男って誰…」
「ライナス・クローソー・ギルフォード」
「そ、オレ」
 いつの間に来たのか、さっきセンターと一緒にいたライナスがいた。
「ライナス、何故ここが私達は秘密…」
「ティナ、君が秘密通路を通ったのは知ってたよ。オレだってアースガルドの人間なんだから」
「ミリアの弟なんだよ」
 サガが不思議そうにしているあたしに教えてくれる。
「…ライナス。あいつらはお前がここに来る事を知ってるのか?」
「…まぁね。でも、リランが記憶喪失でここに入り浸ってる事は知らないよ。サガ、あいつらは君の事を狙っている。ティナ、お前は急いで戻った方がいい。これから…ヤバい事になる。オレが言えるのは…これだけだ…」
「……ライナス……」
「姉さんとアエロマをよろしくな」
 ライナスの言葉に頷くとティナは地下通路に向って出ていった。
「ライナス…リランを…あいつらを頼む」
「分かってるよ、サガ」
 その時だった。
「やっと着いたぜ…。ライナス、足留め御苦労だったな」
 という声が聞こえ外に出てみるとセンター他二人がいた。
「『トーニック』!?」
 サガが驚く。
「あれぇ、リランじゃないのかな?」
「ウォン、あたりかもな案外。サガも…いる」
 他二人…ウォンとショウがリランを見ながらいう。
「久しぶりだな、お前達。悪いが、相手している暇はないんでね。ミラノ、逃げるぞ!」
 ふぇ、その瞬間サガはあたしの手を掴み家に入り裏口からまた外に出る。
「おうぞ!!」
 センターの声が聞こえる。
「ミラノ、頭を伏せていろ」
 頭をサガに押さえ付けられた瞬間、物凄い爆音と共に家が爆発し、爆風があたし達を襲った。
 ひぇーーーーーーーーーーーー。
「サガ、『トーニック』、家、平気な、あん、………」
「ミラノ、何言ってるかわかんないよ」
 ふぇーん、びっくりしたよぉ。
「家は、気にするな。『トーニック』も平気、あいつら伊達じゃないから」
「サガもでしょ」
「まあね、取りあえずガイアの所に行こう。都内じゃ危ないからね」
 そう言ってサガはあたしの手を引き歩き始めたのだ。
 後ろに、爆発で破壊された元、サガの家を見ながら…。
「…リランの様子は?」
「…さぁな、まだわからない」
 そうつぶやきが壊れた家の中であった事を知らずにあたし達は一路ガイア様がいるオデッサ大地へと向ったのだ。

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