ファルダーガー

  第5章 ・1部 古代神の神官  

「ラテス、あんたは一体何者なんだよ。海の神って言うのも本当か?」
 カーシュがラテスにいきなり突っかかる。
 今、あたし達は議事庁に戻ってきて、前庭でこれからラプテフどうなるんだろうな〜って言う事についてのんびり話していた。
 ラプテフはゼルやマリウスが侍マスターと共にいろいろと調整中で、何も出来ないって言うか、することの無くなったあたし達は、とりあえずは暇だ。
 これからどうするかって言う話になろうって言う時にカーシュの言葉だ。
 国王を救出してからラテスはいとも簡単に国王夫妻と話す。
 その様子を一番と訝しげに見ていたのはカーシュだった。
 あたしは一度面識あるし。
 そう言えば…その時もラテスが居たなぁ。
 今、思えば。
 海の神っていうの本当のような気がしたから。
 ファイザ様とも会えてるしね。
「ラプテフの侍マスターに命令できる。しかも国王にすら簡単に謁見できる。三聖人にもそうだ。あんた、一体何者だ?」
「……知って、どうする?」
 ケンカ腰のカーシュにラテスは挑戦的に見返す。
「ラテス、あたしもカーシュの気持ちわかるよ。海の神って言うのも信じてもいいと思う。でも、どうしてあたしの事助けて欲しい時に、ラテスは来てくれるの?」
「海の神って言うのわかってて、俺に聞くの?」
「……わかんないんだもん」
 カーシュの言いたい事わかる。
 でも…。
 って言うの、やっぱりあたしにもあるんだ…。
 ラテスは自分が海の神だって言う事以外、何も言わない。
 全てを知っているかのように、見ている。
 海の神だって言う事だから?
 なんで助けてくれるのかもわかんない。
「わかったよ。まぁ、いろいろと言おうと思ってたしね」
 ラテスはあたし達を見渡す。
「さて、カーシュ、ファナ、サガ。君たち3人にはある方に逢ってもらいたい。もちろんミラノも同席して」
 いきなり何??
「ラテス様っ」
 不意に、ラテスを呼ぶ声と共に女の子がやって来た。
 深栗色の髪に、同系色の瞳、エルフ独特のとがった耳を持つ彼女。
「シェラ、どうしたんだい?」
「ラテス様、ラテス様からも言ってください。マレイグに耳つまむのヤメロって」
「それは〜俺が言ってもしょうがないでしょう?」
「逢うたびに耳つまむんですよっっ。あたしの耳はマレイグのおもちゃじゃないのにっっ」
 そう言って彼女は顔を真っ赤にして怒る。
「まぁまぁ。で、準備は?」
「はい、みなさま方全員揃いました。後は…えっと…」
 そう言って彼女はあたし達の方を見る。
「そうか…。紹介するよ、シェラ、勇者ミラノ御一行」
「初めまして、勇者様方。私は、海の神ラテス様の神官、シェラ・キスティス・ウィスムでございます。それでは参りましょう」
 へ?
「神官とその神のみが使える、神殿への直通呪文」
 って事は。
「我が名と我が仕えし神の名において、開け扉よ。ラテス・トール・シェラ・ミィル」
 周囲に風が起り、水柱が立つ。
「通じよ、神殿への道を!!」
 その水柱の水に飲み込まれるように、つつまれる。
「では、ご案内いたします。カイサリー島の海中にある、ラテス様の神殿へ」
 えええええええええええええええええ???

 一瞬という訳じゃなかったけれど、気が付いたら、あたし達は神殿と思われる内部にいた。
 ともかくなんだか、怒濤の様な展開が一度に起ったような気がする。
 思わず、あたりをきょろきょろと見回してみた。
 周囲は水に覆われて、窓らしき所からは魚がたくさん見える。
 熱帯魚ばっかり??
 魚の宝庫だなんて思わず思いそうなそこは、海中にある神殿なんだと思わされる。
 明るさはどちらかと言えば、ダイビング中の昼間の海。
 もっとも、ダイビングなんてした事無いけど。
「え、えっと…ラテス…様?」
 カーシュがおずおずとラテスに声をかける。
「ようやく俺が海の神って信じたわけだ」
「んな事言ったって仕方ねぇじゃないでしょうが」
 どうして良いのかわからなくって言葉遣いがおかしいカーシュ。
「ラテス、これから何をするんだ?」
 ラテスの事を唯一知っていた(って言うには語弊がある)サガは平然とラテスに声をかける。
「まぁ、いいから。俺の後に着いてきて」
 と言ってラテスは先に行く。
「サガは…」
「何?」
「……なんて言って良いのかわかんないんだけど…」
 思わず考える。
 何を言えばいいんだろう。
 ラテスの事について。
 サガはラプテフのサムライでついでにトーニックだったんだから、知っててって言うかなんて言うかこうカーシュとかファナとかあたしみたいに混乱しないで当然って言うか…。
「海の神ラテスって言うのは…ほとんど忘れられたって言うか、ラプテフにしか話が伝わっていないって言うか…他の国にはラテスの存在は隠されていたって言うか…そう言う感じだから…」
 少しだけ、寂しそうにか、複雑な表情を見せながらサガは言う。
 …そう言えば、前にラテスは言ってた。
「オレは知られる必要のない神だと思っているし、オレがやらなくてはならないものがたくさんあるから、大勢の人に知ってもらう必要がないさ」
 って…。
「何で?」
「さぁ?俺も、そこまでは知らない」
 そう言ったっきり、サガは黙ってしまった。
「俺が、ラテスの事を知っているのはトーニックって言う事もあるけれど、…一応あの人の関係だから…」
 とサガはカーシュとファナが少し離れた時に言った。
 あの人の関係…。
 あぁ、ガイア様の事か。
 そっか…ガイア様の孫で、小さい頃はオデッサ大地の神殿に居たんだから、知っててもおかしくないわけ…か。
「さ、ここに入って」
 重厚な作りの扉の前にラテスは立ち、あたし達に言う。
「ここに何があるの?」
「今から、だよ」
「?」
「この前、言ったよな。ラプテフの一件が終わってから話したい事があるって。それが今からだと思ってくれていい」
 ラテスはそう言って扉を開ける。
 何が起るのかわからないあたし達は互いに顔を見合わせる。
 サガにも事情はわかっていないらしい。
 扉の先には天から日差しがあるのか、明るい。
 見上げてみれば、高い所に明かりを取るための窓?があるらしい。
 そして、見知った顔がそこかしこにあった。
「ここは、古代神裁きの神ニスクの神殿とつなぐ通路だよ」
 と、マレイグ。
 改めて、見てみれば、ここにはワール・ワーズとカーラ。
「オルト、パラもどうしてここに」
 ファナのお姉さんのオルトさんとパラさん。
「この方が勇者ですか?」
 という落ち着いた褐色肌の女の人とその足下には線の細い中学生ぐらいの女の子。
 が居た。
「お待たせ。ワール・ワーズ、手間かけて悪かったね」
「悪かったなんてこれっぽっちも思ってないくせにか?」
「マレイグ、一応、僕達のスポンサーなんだから」
「そうやってクロンはすぐにいい顔をするっ」
「クロンの言う事は一応正論だよ」
「わかってるよっ」
 ラテスとワール・ワーズの会話を聞きながらこれから何が起るのかまだわからないで居る。
「一体、何だって言うんだですよっ」
 怒鳴ったのは良いけれど、やっぱり言葉遣いがおかしくなるカーシュ。
「ともかく、全員、位置について。サガはマレイグとモルの間。カーシュはオルトの隣でファナはカーラの隣。ミラノちゃんはおいで」
 ラテスの言葉に位置に着く。
 チェスター、オルトさん、カーシュ、ファナ、カーラ、クロンメル、エイリアさん、モルちゃん、サガ、マレイグ、メタさんと円を描くようになり、中心から少し離れた所に、あたしとラテスとシェラさんが居る。
「じゃあ、今から始める」
「何を?」
「古代神召喚」
 ……、今ラテスなんて言った?
「ら、ラテス、古代神召喚なんて可能なのか?」
 サガがあたしのビックリが収まる前にラテスに聞く。
「だから、ここでやる。古代神裁きの神ニスクの神殿と直結しているここなら可能だよ。力不足にならない。そのための、古代神神官達だしね」
「古代神神官?」
「どういう事ですよっっ。だああ、もぉ、ラテス、どういう事だ!!!」
 変な言葉遣いはやめたらしいカーシュ。
 敬語使って良いか、それともどうなのか悩んだ結果があの変な言葉遣いだったんだけど、面白いからそのままにしてたんだけど、とうとう諦めたみたい。
「そのままの意味だよ。ここに揃っているのは古代神の神官。一人ずつ、誰がどの神官だって言うのは後で説明する。今は召喚が先。じゃあ、チェスター始めてくれ」
 ラテスはチェスターに促す。
「ボクは、先に言った方が言いと思うんだけど…」
「何か言ったか?」
「別に。では、」
 そう言ってチェスターは鏡を取り出す。
 って…あの鏡、フラウ様の鏡!!!????
「我は我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名は暁を呼ぶ巫女。フラウ」
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は月の守護者エルフ女王、ミディア」
 カーラはミディアビュートを出す。
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は、水の王アーシャ」
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は、幻火の女王セリア」
 オルトさんが杯を取り出しクロンメルが杖を取りだす。
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は、美しき歌の女王エイリア」
 パラさんが小さなのハープを取り出す。
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は、金色の王ルシファー」
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は、闇を纏いし王エラン」
 メタが鍵を取り出し、モルが杖を取り出す。
「我は、我が仕えし神の名を呼ぶ。我が主の名前は、絶対なる王と母なる神を受け継ぐ子 ニスク」
 そう言ってマレイグが天秤を取り出す。
「我らは汝らの神官、新たなる神官の誕生に汝らの力を借り、彼らの来迎を望む」
 すると光がニスクの神殿の方からゆっくりと降りてくる。
 力が、増えていく感じが、何故かして。
 怖い感じじゃなくて、むしろどこか安心させられる力の様な気がした。
「やあ、ラテス、久しぶりだね」
 人なつっこい笑顔と、茶色の髪に黄褐色の瞳をした…ついでにめがねしている男の人が現れた。
「…久しぶりって程じゃないと思うけど。で、どう責任取るわけ?」
「いやあ〜あんまり考えてなかったりして。僕より、兄さんや、義姉さんに聞いてよ」
「……いつから義姉さんって呼ぶようになったんだよ」
「ついね」
「自分の娘の癖して」
「それ言っちゃ、お終いでしょ?」
「ともかく、後の二人召喚するために力貸して」
「大丈夫、もう来るよ」
 とめがねの男の人が言う通り、また大きな力が現れる。
 今度はふたつ。
「待たせてごめんなさいね」
 茶色の髪にラピスラズリのような瞳。
 どことなく、めがねの人に似てる。
 ラテスが娘って言うのは本当らしい。
 そして、
「ラテスの言うとおりどうするつもりだ?」
「やあ、兄さん」
 全てが洗練されている男の人が現れた。
 金色の髪に、銀の瞳。
 …この人、キアヌフの神社(って言うとやっぱりなんだか変だなぁ)で見たっっ。
 ラテスと会話してた人っっ。
 しかも、ラテス唯一の敬語の人。
 …誰??
「サガ、ファナ、カーシュ。唐突だけど、お前達は古代神の神官に決定した。カーシュはともかくとして、ファナとサガは会ってるだろう?彼らに」
 ファナとサガは互いに顔を見合わせて、ついでにカーシュは不満げな顔して。
「……この気配。一瞬、炎の剣からする気配に似ている。あんたか?」
「さすが。カバネル『スリーナイト』随いつの魔法剣士だけはあるね」
「…だ、誰だよっ」
 めがねの人からする気配に萎縮するカーシュ。
 何だろう、他の人達(事情を知っている、ワール・ワーズとか)からする気配がなんだかすっごく心配そうなんだけどっ。
「カーシュ、創造神ドルーア様に向かってその態度は無いと思うけど?」
「…へっ?」
 へ?
 創造神…ドルーア様???
「って事は、あなた……は……大地の女神オリア様?」
「氷の剣以来ね?」
 にっこりと、オリア様らしき人は微笑む。
「……あなたが、絶対神トルーア様?」
 サガの言葉に、トルーア様らしき人はうなずく。
「もう少し、聡いと思っていたが、案外鈍感なのだな。言いたい事はいろいろあるが、まぁ、今は言わないでおこう」
 そう言って、トルーア様は優雅に微笑まれる。
「ど、どういう事ッ??」
「まぁ、そう言う事」
「だからっ」
「まぁね、古代神の神官の欠員を埋めるため誰にしようかって思ってたら、ちょうど良いのが居たって」
 そう言う問題??
「古代神の神官って言うのは特殊な位置でね、古代神の力を行使するための布石を造るのが神官って言うか、彼らが封印されているのは前話しただろう?そのために、手足となって動く者が必要だった。有事の際にね。ここが現代神の神官との決定的な違い。現代神の神官は手足って言うよりも、身の回りの世話係って言う方が大きいね」
「ラテス様のお世話は大変なんですよ」
 シェラが本当に大変そうに言う。
「で、俺達に神官になれと?」
 サガの言葉にドルーア様がうなずく。
「その通りだよ。これからの事については正直どうなるか僕達でもわからない。と言うと語弊があるんだけど予測が付かないんだよ。イレギュラーが紛れ込んでいるからね。このイレギュラーがどういう動きをするかが読めないから、僕達は勇者の側にも神官が必要だと思った。ちょうど、僕やトルーア、オリアには神官をつけていなかったからね」
 ドルーア様の言うイレギュラーって言うのが…龍太郎の事…だよね…。
 忘れてるかも知れないけど、私の幼なじみ!!!だからね!!!
「不服か?」
 トルーア様が憮然としているサガに問いかける。
「別にそう言う問題じゃ…ありません」
「でも、私に、オリア様の神官がつとまるのでしょうか?」
「その心配は無いわ、あなた達には、修行をしてもらうから」
 ???
 どういう事?
 ラテスの方を見たら苦笑してる。
「修行と…いうと…」
「修行は修行。ファナの心配ももっともだからね。神官は僕達の手足となるわけだから、それなりに僕達の力が使えるようになってもらわないと行けない。そのための修行を僕達の元でしてもらう。カーシュ君は僕の所。ファナはオリアの所、サガはトルーアの所だけどね」
 うわ〜なんだかどんどんスゴい事になってる。
 サガ達が神官だなんてすごいな〜。
 って言うか、その間、あたし一人〜〜〜。
 うそぉ…。
 今まで一人って無かったような気がするんだけど…。
「が、がんばります」
「って何ミラノちゃんが言ってるの?」
「だって、私今から一人なんでしょう?コレも修行だと思って」
 あたしの言葉にラテスはあきれ顔を見せる。
「そうだ、ラテス、ミラノを一人にさせるつもりか?」
「って言うか、すっげ〜心配なんだけど」
「私も、同じ」
 サガ達3人はものすご〜く焦ってるけど、って言うか、3人ってば気が付かなかったのかな?
 あたしが一人旅〜になるって事。
「ミラノちゃんを一人にするわけには行かないでしょう? 危なくって仕方ないよ。ミラノちゃんはやってもらう事があるから大丈夫」
 危なくってしかたないってどういう事〜。
 って言うか、危ないってあたしも思うけど。
 一人旅、してみたかったのにっ。
「じゃあ、勇者の事は頼んだよ。カーシュ君は僕が連れて行くね」
 さわやかそうな笑顔で、ドルーア様は強引にカーシュを連れて消えてしまった。
「ドルーアってばせっかちなんだから。カーシュ君が心配だわ」
 とカーシュを心配してくださる、オリア様。
「一応加減を理解しているヤツだ。問題はないだろう?」
 一応って何ですか、トルーア様っ。
「じゃあ、…ラテス、私も行くわね?トルーアも、また会いましょう?」
 オリア様の言葉にトルーア様はうなずく。
 なんか、仲いいっ。
「ミラノ、気を付けてね。オリア様の神殿はセアラ様の神殿と同じ所だから。カーシュ、何も言わなかったけどカーシュが居るのはドルーア様の神殿だからタクラ様と同じ所よ。問題は…サガの所なんだけど。ともかく、気を付けて?」
「大丈夫だよ、ファナ。次に逢う時まで成長してるようにするからね」
「だったら良いけど。何かあった時は強気で行きなさいね」
 そう言ってファナはオリア様と一緒に行ってしまった。
「…トルーア様、神殿は廃都リラで良いんですか?」
「一応は、そこになるな」
 サガの言葉にトルーア様は応える。
「廃都リラ…行っただろう?トルーア様の神殿は、廃都リラだから…。場所、把握してれば不安じゃないだろう?カーシュは分かってないで行ったけどな。お前は、お前の出来る事をしろよ」
「うん。次に逢う時までは、サガに成長したなって言ってもらえるように頑張る」
「俺は、マリウスの様に熱血バカじゃないから、成長して無くたっておこらないよ」
「…なんかその台詞嬉しくない」
「…確かにな。じゃあ、行ってくる」
「うん」
 トルーア様と共にサガも消える。
 …で、あたしはどうしよう。
「ミラノちゃんはこれからワール・ワーズとある国へと行ってもらうから」
 とラテスの言葉。
 ある国って…どこだろう。
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