「いやいや、久しぶりだよね」
「何がだ?」
「まぁ、いろいろ、こっちの話。さて『ファーレン』は今は小さな街の名前だけど、その昔は大きな国家だったんだよ」
「私たちの世界の国々のほとんどはそうだったと聞くが?」
カリィは当然だと言わんばかりにアシュレイの言葉に言い返す。
「まぁ、そうなんだけどね。その国で今は絶滅した竜……カルパードラゴンを守り養う一族があったんだよ。今回はその話」
「ドナウアー王国?」
思い出すかのようにカリィは国の名を呟く。
「知ってる?」
問い掛けたアシュレイにカリィは何も言わずただ視線を空に這わせた。
出会ってはいけなかった。
誰もがそう言う。
彼女を救ったことが罪なのか?
オレはそう思いたくなかった。
彼女とオレの出会いは運命といういたずらに翻弄されるような形だった。
バウアー王国とドナウアー王国。
決して友好ではない国家間。
それでも会談という政治に父王と彼の国の王が出会った。
だが父は殺され、彼の王も殺された。
暗殺されたという言葉が正しい。
その為に、バウアー王国とドナウアー王国の関係は非常に険悪な状態を迎えてしまった。
その時の戦力はバウアー王国の方が勝っていた。
ドナウアー王国は敵国に向かうわけではないと考え大した人数では行っていなかったのだ。
襲いかかるバウアー王国軍に逃げまどうドナウアー王国の面々。
逃げる我々の行く先に倒れていた女性。
それがエルナだった……。
記憶喪失だった彼女を保護し、王国へと連れ帰った。
だが、記憶を取り戻した彼女はバウアー王国の王女だと言うことが分かってしまった。
その為に彼女は幽閉状態にある。
彼女を救ってはいけなかったのか。
自分と王女は恋仲になった。
時間はさほどいらなかった。
短い時間で想いを寄せ合った。
彼女は国を裏切ることはしない。
だが……このドナウアー王国に刃を向けることも出来ない。
だからこそこうしておとなしくしている。
と側近の目を盗んで向かった地下牢で彼女はそう言った。
ふがいなかった。
彼女を救えない自分が。
どうしたら彼女と共にいられるのかと手段が見つからない自分が。
大手を振って日の光の下で彼女と共にあれる事が見つからない自分が。
ドナウアー王国とバウアー王国の争いは既に始まっている。
止められない。
止めたくてももう始まっている。
オレの出来ることは少しでもこの争いを早く終結させ、父王を殺した犯人を見つけることだ。
父王と彼の王だけがいた部屋で死んでいた二人。
父王は争いを好まない人だった。
だからこそ友好関係にないバウアー王国と会談する気になったのだろう。
彼の王もそうだと思う。
エルナがそう言っている。
彼女はひいき目なしに見ても聡明な女性だ。
悪いことだと認識すればそれをすぐさまただせることの出来る。
その彼女が父親をそんな人間ではないと言う。
ならば簡単だ。
第三者に父王達は殺されたのだ。
そのものを探すためにオレは戦うことを決めた。
参戦することは正しいことなのかそれはわからない。
それでも………心は急いて仕方がない。
彼女と出会わなければこのような想いをしなくてもすんだのだろうか。
そんなことはない。
どんな形であれオレは彼女と出会うだろう。
そう思う。
「……クラウス王子……こうなっては止められることが出来るのはあなただけなのかも知れません。何の力にもなれない私を許してください」
「エルナ王女、あなたが居てくれればそれでいい。いつかあなたの国と我が国が有効な関係を築き、あなたと居ることが許されるのであるならば……」
彼女の手を取りオレは言う。
陽溜まりのような笑顔を持っていた彼女は今は笑顔にかげりがある。
「あなたに婚姻を申し込みたい」
オレはそう言って地下牢を辞す。
彼女と出会ってはならなかった。
そう言う人間が居てもオレは耳を貸さない。
もしも彼女でなければ、こう愛していただろうか。
愛せていただろうか。
その答えはもうとっくに出ている。
彼女と共にあれるように……オレは前に進む以外にないだろう……。
「最期の竜騎士」
「なんか言ったかい?」
カリィの言葉に聞こえていたはずなのにアシュレイは聞こえないふりをする。
「何でもない。話を聞かせてくれ」
「畏まりました。カリィ姫」
「姫は……余計だ」
カリィのそう照れた笑顔にアシュレイは柔らかい笑みを浮かべた。
ファーレンの何処かに竜騎士の一族はいました。
ファーレンが崩壊した後、カルパードラゴンを守るために王国を築きました。
それがドナウアー王国。短命ではあったようですが。
クラウスの名前:クラウス・リューベック・ドナウアー
エルナの名前:エルナ・リウ・バール。