来日したリエ・A・クラインの表情は訪れた平和への安堵の表情を見せていた。
『ドラマ「天使の歌〜共和国を救った歌姫〜」とは実際にあった話を元に構成された話で、今回来日されたプラント共和国クライン大統領夫人のリエ・A・クラインさん、20年前は秋元理恵さんというアイドルでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね』
芸能ニュースの一角でドラマの制作発表がされる。
二つの国の戦争が終わった後のドラマ発表の話。
プラントから貸し出された『天使の歌』と言う宝飾品がとある怪盗に狙われるのだが、それはまた別の話………。
現在
「ハイ、冴羽商事です」
昼間の何気ない時間。
依頼がないと落ち込んで帰ってきた今日。
そろそろ欲しい依頼にあたしはビラ配りを考える。
救いの電話?となりうるかなんてそんな事があり得るはずもなく。
あたしは電話に出る。
『槇村香さんですか?』
艶やかな低めの声の男の人。
………が、なんであたしの名前を?
「は、そうですけど」
警戒しながら答える。
暇を持て余していた撩もあたしの口調が変わったのが気になるのかソファに寝転がりながらではあるがでこちらの気配を伺っている。
『不躾ながら突然のお電話申し訳ありません。私はアレックス・ディノと申します。シティーハンターの交渉窓口は槇村香さん、あなただとお聞きしたのですが。間違いありませんか?』
…って事は、依頼って事よね。
「……そうですけど。ご用件をお伺いします」
『ボディーガードをお願いしたいのです』
ボディーガード?。
男の依頼、しかもボディーガード。
『男の依頼は受けない』と常日ごろ断言している男が受けるとは思えない…。
『ガードする相手は、カガリと言う女性。依頼料はそちらの言い値でお支払いいたします。受けていただけますね』
が、彼が言った対象は女性。
女性のボディーガードか…ますます厄介だわ。
あぁ、もうっ。
撩が女性にもっこりを迫っている所がありありと見えるようで思わずため息をつきそうになる。
とはいえ、依頼料をこちらの言い値で支払ってくれるっていうのは、魅力的だわ。
「あなたとその方のご関係は?」
聞いた理由は単純明快。
恋人同士ならばそれを理由に撩のもっこりを止められるもの。
『私は、彼女の秘書をしています』
アレックスはあたしの問いに疑いもなく答えた。
秘書………か。
恋人同士っていえないから『秘書』と呼んでいるのか、それとも本当に秘書なのか。
見極めが難しいわね。
それよりも、秘書を持つような女性『カガリ』とは何者なんだろう。
「詳しい話をお聞きしたいのですが。依頼を受けるのはそれからでも構いませんか?」
『構いません。ですが、これだけは分かっていただきたい。『カガリ』と言う女性は生命を狙われているという事を。では帝国ホテルのロビーでお待ちしています』
そう言ってアレックス・ディノと名乗る青年は電話を切る。
「なんだって?」
「一応仕事」
「はぁ?」
「いいから支度してよ。出かけるわよ」
「どこにだよ」
「帝国ホテル」
「………誰が待ちかまえてるんだ?」
「アレックス・ディノっていう人。仕事内容はボディーガード。ガードするのは彼の上司、『カガリ』さんという女性。分かった?」
「…アレックス・ディノ…カガリ………ん〜〜〜」
「どうしたの?いつもだったら女性の依頼って聞けば大喜びのあんたが」
「受けるお前も珍しいがな」
「………そろそろピンチになるの。言い値で払ってくれるっていうんだもん。受けない事はないでしょう?」
「へいへい」
「で、どうしたの?」
「ん〜〜いや、ただ『カガリ』っていう名前は珍しいなと」
「………海外の人だもんあり得るんじゃないの?」
聞いた事ないわよね、カガリなんて名前。
何気なしに返したあたしの言葉に撩はなにも答えずに黙ったままで。
あたしはそんな撩を別に気に留めもしなかった。
帝国ホテルのロビーに入るとあたし達に近寄ってくる影があった。
「冴羽撩様と槇村香様ですね」
電話と同じ低い声に流暢な日本語。
彼がアレックス・ディノと言う事が分かった。
年のころは、20前後の少年から抜けきらない青年。
そんな感じ。
紺色の髪に、エメラルドグリーンの瞳が印象的だった。
「私はアレックス・ディノ。お二人をお待ちしておりました」
そう言ってにこやかに微笑む。
その笑顔に思わず照れてしまったわ。
それに気付いた撩がなんだか機嫌悪そうにしてたけど。
これって撩にいう権利ないわよ?
あたしがこうカッコいい男の子に見ほれるのと、撩が美人みつけて鼻の下伸ばしてるのとどっちが多いっていったら、絶対撩の方何だからっっ。
「では、カガリ様の元へお二人をご案内します」
そう言って彼はエレベーターへと向かった。
「さっきっから何口開けっぱなしなんだよ」
アレックスの後ろを歩きながら撩はあたしに問いかける。
歩きながら帝国ホテル内の豪華な装飾品にあたしは思わず目を向けずにはいられなかった。
ついでに、依頼人も気になってるしね。
「だって、帝国ホテルなんて来るような所じゃないじゃない。依頼人どんな人よ」
「……場所によるな」
「心当たりあるの?」
「香、お前ちゃんとニュース見てる?」
「見てるわよ」
「カガリって名前に心当たりなかったらお前、見てないのと一緒」
えっ???
そんなのありなの?
「どうぞ、このエレベーターで16階まで向かいます」
アレックスはそう言って16階まで直通らしいエレベーターに乗り込むように言う。
「詳しい話をお聞きしたいのなら、この中でどうぞ」
アレックスに促されるままあたし達はエレベーターに乗り込む。
「冴羽様の心当たり方『カガリ』とは」
「……オーブ公国の王女カガリ・ユラ・アスハ。ぐらいだろう?インペリアルスイートに泊まる人間なんざ」
撩の言葉にアレックスは苦笑いを浮かべた。
オーブって東南アジアの小国でつい最近まで、ヨーロッパの小国プラントと戦争してた所じゃない。
その王女様な訳???
「その通りです。お二人もご存知の通り、我がオーブは2年ほど前までプラントと戦争を行っていました」
オーブとプラントの戦争の理由。
それはオーブの側にプラント領があって、そのプラント領の側のオーブ領で希少金属がとれるらしい。
その希少金属の鉱脈をめぐって二つの国は戦争になった。
プラント領と言ってもその場所はすでに独立していて。
最も、プラント軍は駐留していたけれど。
始めはその国とオーブの戦争(勝手に仕掛けられた戦争)だった訳だけれど。
最後はプラントとオーブの血で血を争う戦争にまで発展していた。
そこで終結に動いたのがオーブの王女とプラントの歌姫(その人の話ではないけれど、実はドラマにもなった)で。
彼女達二人のおかげで二つの国は平和条約を締結する事になった。
それが、2年前。
「彼女が狙われるのは当然ならば、どうして日本へ連れてきた?」
「……彼女が日本に来たいと言ったからです」
「秘書なら止めるべきじゃねぇのか?」
撩の視線にアレックスは俯く。
「そう…だと思います」
それっきり彼は黙ったままだだった。
16階に着きアレックスはカードキーを通し、中に入る。
インペリアルスイートの最上部屋。
その部屋の司書机で金髪の少女にも見える彼女が書類と格闘していた。
「……あぁ、終わらないじゃないか」
「カガリ様」
「ン?アスラン、邪魔するんだったら手伝ってくれ」
アスラン?
「カガリ様」
「は?あっっすまないアレックス。お客か」
「あなたが希望した二人です。CITY HUNTERですよ」
アレックスの言葉に彼女は立ち上がりこちらに来る。
「…やっぱ、2年たってもガキはガキか…」
つまらなそうに、撩は呟く。
「それ、すっごく失礼だからやめなさいバカ」
「耳つまむな耳を」
「そっちょくな感想としてだなぁ〜〜」
「サイテー」
「お前、黙って聞いてたら最低だな」
金髪の彼女が撩の顔をにらんで言っている。
「これでも、私は20だ、子供扱いするなっ」
そう彼女は言う。
言動は女性というよりも、どことなく男っぽい。
男勝りって言う言葉が似合う感じ。
「香の昔見てるみたいだ」
って小さな声で言った事、聞き逃してないわよっ撩!!!
「げ、か、香ちゃ〜ん、ごめんなさ〜い」
「謝ったって知るか!!!」
あぁ、久しぶりの依頼なのに、こんなんで大丈夫なの?
あたしだけじゃなくアレックスもそう思ったらしく(って言うか思うのは当然)
「本当にいいのか?カガリ。この二人で」
「構わない。お前は少し、日本で羽を伸ばせ。その為に私はこの国に来たんだ」
カガリはそう言ってアレックスの言葉に柔らかく微笑んだ。
「えっと、カガリさん?」
「そんな固くならなくて構わない。カガリで構わない」
そうふんわりと微笑む様子は男っぽく見せてはいても年相応の女の子に見える(20だって言うのにその女の子は失礼かな?そんな事ないよね)。
「で、あたし達を選んだのはあなたなの?」
「そうだ。正直、アレックスも私も日本には不案内。良い二人がいるととある筋からの情報で決めさせてもらった。不愉快かも知れないが。私のボディーガードを頼まれてくれないだろうか」
「………本来のボディーガードを休ませてか?」
そう言って撩はカガリさんに銃を向ける。
ってなにしてるのよっ撩!!!
「サエバ!なにをする」
突然銃を構えた撩にアレックスも銃を構え抗議する。
「お前は、彼女のボディーガードだろ?」
「だから何だって言うんだ」
「決まってるだろう?ボディーガードがいるのにどうして新たに雇う必要がある」
「彼女は俺の話を聞かない」
「と言ってるが?」
そう言った撩の見透かす様な視線をまっすぐにカガリさんは受け止める。
「…事実だ。と言うよりも、その通りだ。アレックスは私のボディーガードだ。ついでに優秀な秘書でもある。いつも未熟な私の相手で苦労させているから、羽を伸ばさせてやりたい。そう思うのは上司としては重要な事だと思わないか?ついでにいわせてもらえば…アレックスは過保護すぎるからな…出来れば、任せたいと思っているんだ…」
何かをどこかに隠しているようであり、でも本当の事を言っているようであり、カガリはさりげなく撩の問いに答えた。
「ま。別にいいけどな」
興味なさそうに撩は呟き銃をしまう。
「どうして、気が付いた?」
「アレックス、お前の雰囲気だ。気配を探さないよう見せながら、いつも殺気を探している。生命を狙われている人間のくせって奴さ」
「よくお分かりで。やっぱり、裏社会No,1の実力は伊達じゃないって事か」
自嘲気味にアレックスは答えながら、彼も銃をしまう。
「サエバ!!!」
な、何?
突然、カガリは大声で撩の事を呼ぶ。
「な、なんだよ」
「依頼は受けてもらえるのだろうか。調べて分かった事なんだが……。そ、その美女の依頼しか受けないって言うが……本当か?」
カガリが不安そうになりながら答える。
……このもっこりバカの噂は海外まで飛び火してるのか……。
アメリカだけじゃなく、東南アジアまで。
こうなったらヨーロッパも危ういわ。
これじゃあ海外からの人からの依頼がない可能性だってあるわけじゃない。
それは大問題よ!!!
落ち込んでる場合じゃない、訂正させてもらわなきゃ。
「そんな訳ないでしょう。そう簡単に、美人の依頼が来てたまるもんですか。それはこいつの趣味。美人の依頼しか受けないっていうのは全然ないわよ」
「お前は女の依頼受けたがらないけどな」
「あんたは少し黙ってなさいっっ」
口を挟んだ撩を張り倒しといて、カガリに向かう。
「あたし達は依頼を受けるわ。あなたのボディーガード。それで問題はないのよね」
確認するようにあたしはカガリに問いかける。
「受けてくれるのか。本当に?それは良かった」
ほっと彼女は安心したのか笑顔を見せる。
「……カガリ、そのまま左に移動しろ」
撩が鋭く言う。
「え?」
「いいから」
そう言って撩は窓際に向かう。
そして手早くとカーテンを締めた。
「もしかして狙撃?」
「あぁ。さっさとここから退散した方がいい。このホテルの信用問題にも関わる」
帝国ホテルは、それほど高さのあるホテルじゃない。
官公庁が近くにあるといってもそうでないビルだってある。
そこから狙撃を受ければ、いくら何でもまずいだろう。
「でも、何処に行くんだ?」
カガリが不思議そうに聞いてくる。
………ってしたら、やっぱり家しかないわよね。
「あたし達のマンションかな。ボロいけど」
「日本の暮らし体験してみたかったんだ。ちょうどいい」
……ちょうど良かったのかな?
掃除したっけ?
「帰りに買い物寄ってっていったらまずい?」
「お前ねぇ」
だって、カガリとアレックス二人泊めるとは思っても見なかったから。
考えもしなかったんだよねぇ〜〜〜。
「別に私は構わない。日本のスーパーに行ってみたかったんだ」
と狙われている自覚があるのか、それともいつも狙われている立場である事がマヒさせていたのか、カガリ楽しそうに言った。
ため息ついたのは撩とアレックスだったけど。
「日本に来ると平和を実感できる。誰もが平穏に明日来るかも知れない死の恐怖を知らずに生きている。羨ましいな」
公園で子供たちが遊んでいるのを見てカガリは呟く。
脇には大量…とまでは行かないけれど買い物袋がある。
買い物は彼女にとって、随分とストレス解消になったようだ。
帰りがてらと言う訳ではなく、結局いったんマンションに戻りカガリとアレックスの荷物を置いてからと言う事になった。
そのかわり、撩とアレックスのふたりは疲れた様子を見せてるけど。
まぁ……無理もないかな。
いろいろ物珍しそうにいろいろな所に寄り道して歩く彼女は撩とアレックスの二人を連れまわした感じだ。
あたしは一緒になって買い物〜。
残念ながらウィンドウショッピングだけど。
ふたりは変装らしき変装はしていない。
でも周囲に溶け込むように今どきの日本人のファッション。
カガリはスカートは嫌だと言い張ってジーパンを履いている。
何となく撩が「昔のあたしに似てる」って言うのが分かった気がした。
昔のあたし、高校生の時はスカートなんて全然はかなかったし。
似合わないって思ってたぐらいだし?
露店でサンゴのアクセサリーを見つけた時、カガリは嬉しそうにアレックスと一緒に見てた。
二人とも本当に楽しそうでなんか、デートしてる感じ。
アレックスの様子を一歩退いた所から見ているとやっぱり彼はそれなりに訓練された人間なんだと言う事がよく分かる。
周囲をスッと確認しカガリの行く方向をさりげなくリードしていながら、彼女に危険が及ばないように、たとえ危険が迫ってきたとしてもすぐに対処できるようにしている。
アレックスはカガリの秘書でついでにボディーガード。
でも恋人どうし…そんな感じに見える。
あんな二人の様子が何となく羨ましくって。
アレックスがいるんだから大丈夫だなんて言いながらともすればナンパに走りそうな撩を捕まえているあたしは思わずため息をつきたくなった。
休憩の為の公園でカガリは楽しそうに歩く。
彼女の元気な様子にため息の気分も吹き飛ばされる。
『王女』って言うと可憐とかおしとやかって言うのが先に来ちゃうけど。
カガリの場合は『凛々しい』。
リンとしてまっすぐに目の前を見ている。
その視線はすごく力強い。
そう言ったら、彼女もそう思っているらしく、王女らしいのが苦手だと言った。
「私の母は私を産んですぐに亡くなった。だから私は父に育てられたんだ。父はオーブ建国の父でもある。知っているかも知れないが、民族としての歴史は長いがオーブは建国から20数年しかたってない。そのオーブの独立の為に尽力した父はオーブの獅子と呼ばれている。父は私の自慢だ。そして父は私の尊敬する人でもある」
その言葉はとても胸に響く。
カガリは父親に育てられた事をとても誇りに思っていて父親が自慢でそして尊敬する人。
…なんかいろいろ共通点があるかも。
あたしもアニキがあたしを育ててくれた事誇りに思ってる。
アニキは自慢のアニキで尊敬する人。
「父は上に立つ者としての事を教えてくれる。でも、周りのものは王女らしくしろって言うんだ。おしとやかにって。女性らしくって。そんな事私に似合わないって分かっていながら言うんだ。アレックスも含めてな」
ん〜。
なんかホント彼女の気持ち分かるなぁ。
立場は全然違うけど。
「まぁ、お前はそれでいいんじゃないの?」
「そう思うか?サエバっ。分かってくれる人間がいたぞ、アレックス。サエバとカオリの二人。それなのになんでお前は分かってくれないんだ」
「もう少し思慮深くなれと言ってるんだ。ウズミ様もそれを心配されておられる。元気なのは結構。だが思いつきで行動するのはやめろ。だから、王女らしくしろと言ってるんだ」
「それとこれとは関係ないだろう?」
「関係あるだろう。頼むからもう少し落ち着いて行動してくれ」
「知るかっっ」
アレックスの言葉に完全にカガリは怒ってしまって、取りつく島がない。
「まぁ、まぁ二人とも落ち着いて」
なんて言ってフォローしていいか分からないってばぁ〜。
あたし、カガリの気持ちものすっごく分かるんだよねぇ。
「アレックス、おれ、お前の気持ちすっごく分かるわ。香もなぁ〜もう少し大人しかったらなぁ〜」
「どういう意味よそれっっ」
「それだそれ殴るな、ハンマー出すな!!!!」
誰が悪いんだ誰が!!!!
「全く。カガリ、こんなバカ放って行きましょう」
「確かにそうだな。せっかく休暇の為の日本にまで来てアレックスに説教なんかされたくないからな」
あたしとカガリは結託して立ち上がる。
全くなんで不愉快になんなきゃならないのよっ。
ホント頭来ちゃう。
「っっ。二人とも、伏せろ」
「え?」
撩の言葉にあたしは反応してぼうっとしているカガリを守るように伏せる。
バシュッととすぐ側で音の後に銃声。
「狙撃?」
「香、カガリを連れてすぐに家にもどれ」
起き上がった撩はすでに銃をとり出している。
「撩、あんたはどうするの?」
起き上がりあたしは撩に問いかける。
「俺はアレックスと気配が合った方に向かう。気配をずっとみせてやがる」
………うそ。
気が付かなかった。
「香。いいなすぐに戻れよ」
俯いたあたしの頭に手を乗せながら言い聞かせる様に撩は言った。
「アレックスっ」
「カガリ様。お気を付けて」
「ふざけるなっ」
「御身がどのような身分であるかお忘れか?」
「っっ。………」
アレックスの言葉にカガリは俯いた。
「カオリさん、カガリ様をよろしくお願いします」
そう言ってアレックスは撩と一緒に気配のする方へと向かっていった。
「アレックス、気配が二つある。お前はそっちに迎え」
撩の言葉にアレックスは驚く。
「サエバさんっ」
「なんだ」
「いえ…何でもありません。じゃあ、俺はこっちに向かいます」
撩の言葉に応えずにアレックスはその方へと向かう。
自分たちを探る気配がある事には気付いていた。
が二つある事まではアレックスは気付かなかった。
「…よう、アレックス」
アレックスを待つように金髪の青年が彼を見る。
金色の髪が映える肌の色は浅黒い。
「……ディアッカ・エルスマン……。まさか、お前がここに来るとはな」
「本気でそう思ってたのか?」
「………何が言いたい」
アレックスの言葉にディアッカと呼ばれた青年は銃をとり出し、アレックスに照準を定める。
「……裏切り者」
「っ」
「言葉の意味が分からないほどのバカじゃないみたいで安心したぜ」
「……俺は」
「俺は裏切り者じゃない。ってか?ハンっ。冗談じゃないぜ?アレックス…いや、…ア…」
そう言ってディアッカは安全装置を外した。
「……ンは、無事なのだろうか」
カガリは一息ついたリビングでふと呟く。
「へ?」
「なんでもない」
そう言ってカガリは視線を組んだ手に落とす。
その手は強く握りしめられていて色が白くなっていた。
「カガリ、コーヒーでもどう?飲むと少し落ち着くと思う」
あたしの分と彼女の分。
テーブルに置く。
「寝る所だけれど、カガリは一応あたしと一緒ね。アレックスは……一応もう一個客間があるからそこで構わないかな?あんまり使ってない所なんだけどね」
「……大丈夫だが…カオリこそいいのか?サエバとは恋人同士なんだろう?」
「え?あ?は?う?あ?」
突然のカガリの言葉に動揺してしまう。
こ、恋人同士?
なんか、すっごい照れるんだけど……。
「カオリ?違うのか?情報ではそうなっていたんだが……」
「あー。うー。何て言うか、単純に恋人同士っていうんじゃないと思うのよね」
周りからは恋人同士って言う言葉を聞かなかった(っていうか、実は、隠していたりする。いろいろえっとそういう事とか。気持ちは伝えたよって事は一応報告してるけど)。
もう、それを通り越してるって感じだし。
「なんていうか…一番説明しやすいのは『パートナー』かな。ただの恋人同士って言う感じじゃないと思う。撩だってそれ否定すると思うわよ。あいつの場合それが顕著だと思う。恋人同士って言う言葉でくくれないって言う方が正しい気がする」
「…そうか…そうなのか…。そういう関係もうらやましいな…」
そう呟いてカガリはコーヒーに口を付ける。
「…カオリは心配じゃないのか?サエバが帰ってこなかったらと思った事はないのか?」
「カガリ?」
「すまない。こんな事を聞くべきじゃなかった」
…彼女はアレックスが心配なんだ。
自分の事以上にアレックスを心配している。
もしかして………。
「心配じゃないって言ったら嘘になるかな」
「カオリ…」
あたしはカガリの疑問に答える。
「心配よ。すごく。でも、信じるしかない。ちゃんと帰ってきてくれるって」
「……そうか……そう、だな……」
そう言って彼女は俯く。
ふとリビングの扉が開きリビングに撩とアレックスの二人が入ってきた。
「撩」
「無事なようだな」
あたしの声を聞いて撩はあたし達の無事を確認する。
「そっちも、大丈夫なようね」
「あぁ」
撩がうなずいたのを見てあたしはようやくホッとする。
「カガリ、撩もアレックスも大丈夫よ」
今まで俯いていた彼女は顔を上げてあたしを見てそれからアレックスを見る。
「アレックスっ顔っ怪我してるじゃないか」
そう叫んでカガリはアレックスに駆け寄る。
「これは擦っただけだ。心配するほどの物じゃない」
「だけど」
「カガリ。あなたは自分の心配だけをしていなさい」
「っっっ。そう簡単にできるかっっ。だいたい、かすっただけってなんだ。その後を見れば誰だって分かる。銃弾の後だって」
「そうだとしても、あなたには関係のない事だ」
「関係ないっていうな。アスランの馬鹿野郎!!!!心配したんだぞ」
「………すまない」
「頼むから、無茶だけはやめてくれ…本当に」
そう言って泣き出したカガリをアレックスは静かに抱き寄せた。
二人の様子にあたしと撩は顔を見合わせた。
…これって、やっぱり……。