自分だけの世界の中からでて、外を見る。
それはまるで生まれたての子供のように新鮮で。
世界の有り様に再び気づくのだ。
「菊ー」
外から声がする。
「フェリシアーノ君ですね。くるんと髪の毛が飛び出てた兄弟がいたでしょう。弟の方ですよ。彼はどこか分りますか?」
菊さんはあたしを試すように聞いてくる。
あぁ、もう全部分ってるのにどうしてこの人はそう言うことをするんだ?
「イタリア・ヴェネチアーノ……でしょ?」
思わず敬語を抜いてしまった。
「はい、正解です。他の方々には『自分たちが国である』という事をさんに知らせたと言うことにしましょう。私はともかくとして他の方々からすれば信じられないことですから」
そのようにお願いします。
って言うか、それ以上にあたしも信じられないです。
結局、日本である菊さんには完璧にばれちゃったわけで。
それでもまぁいいかと思ってしまうのは、やっぱり順応性が高い日本人だからなんだろうかと思ってしまう。
「あれー?まだ着替えてなかったの?」
「駄目よ、フェリシアちゃん」
制止の声も聞かずに扉を開けたフェリシアーノ。
着替える?
何にですか?
あたしを見てそう言ったフェリシアーノの言葉にあたしは首を傾げる。
「菊、言わなかったのかよ」
遠慮なしに入ってきたロヴィーノは菊さんがテーブルの下に置いたブランドのショップバッグをテーブルの上に再び置く。
目の前には高級ブランド品。
学校を卒業して無事就職して働くようになったあたしからしたらあこがれのブランド品。
それが今目の前にあるよ……。
いや、何であるの?
「これと、これと、これと」
「これの方がに似合うよ兄ちゃん」
「ふざけんな。こっちの方がには似合う」
目の前に置いた紙袋の中から服をとりだし言い合うくるん兄弟。
あぁ、一度引っ張ってみたいあのくるん……。
いや、待って……何でいきなり名前呼びされてるの?
あたし、名前言ったっけ?
「フェリシアちゃん、ロヴィちゃん、二人とも、ちゃんが困ってるわ」
とエリザベータさんが二人を止めてくれる。
「あたしはこれがかわいいと思うんだけど」
そう言ってあっけにとられてしまって居るあたしにエリザベータさんは取り出したワンピースをあてる。
「………き、菊さん?どういう事?」
「実はですね……この後会食がありまして……。それにさんもっと言うことになりまして……。ユニ○ロじゃさすがに〜身内のような方だけの会食とは言え、一応オーストリアの宮廷料理フルコースですし、ドレスコードとかありますし…。最初はさんもお疲れでしょうからとお断りをしたんですが……。仲良くなりたいとおっしゃって……」
と菊さんは楽しそうに服を選んでる3人を見る。
おなかすいてるのは事実だ。
なんどお腹がなりそうだったか。
菊さんの話を聞いてる間になったら空気よめ〜って自分のお腹に叫びそうだったので必死に我慢した(手首をつかむとならないって言うからそれをしてみた)
オーストリアの宮廷料理フルコースっていうのも興味ある。
ユニ○ロじゃさすがにっていうのもドレスコードも理解してる。
それと、目の前でブランドモノ広げて楽しんでる3人の様子が分らない。
「で、フェリシアーノ君とロヴィーノ君が……服をプレゼントするって言い出して……」
はぁ?
「その格好じゃ日本に帰るのも恥ずかしいと思うけど?」
ロヴィーノがあたしの格好を見て言う。
「そ…それはそうですけど」
あくまでも部屋着な訳で。
これで外に出られなくはないけれど(ワンピタイプだし)。
でも足下のフェラガモの靴とアンバランスなのは否めない。
むー。
「オレ達、菊には結構世話になってんだ。迷惑かけちゃったりもしたことあるし。だからもらってくれると嬉しい。これ結構いっぱい選んだんだよね。全部捨てちゃうの勿体ないよ」
え?高級ブランドモノ捨てる気だったのか?
この人は。
「オレ達がちゃんの為に選んだんだもん。全部ちゃんのだよ」
無邪気な笑顔でフェリシアーノは言う。
その笑顔、やめてもらえませんか。
本気で照れるんですけど。
助けを求めに菊さんを見れば苦笑しながらもニヨニヨ笑ってるし〜〜。
「き、菊さんどうしたら良いですか?」
「イタリアに視察してきてください」
は?
イタリア視察?
「はい。1週間ぐらい。その間、二人の我が儘…失礼、リクエストを聞くというのはどうですか?あまりムチャなリクエストでしたら許し難いですが」
「それって…」
それでも、結局得するのあたし何じゃ……(行きたい国No1のイタリアだ!)
「じゃあ、ちゃん独占していいの?」
「バカフェリ、俺もいるんだからな。、オレ達の国に来いよ。その時、それを着てくればいい」
「良いんですか?」
「もちろんだよ。大歓迎するよ。で、兄ちゃんといろんな所にひっぱり回してあげるからさ」
引っ張り回される?
それは……ちょっと考えさせて……。
「はい、お願いします」
き、菊さん!!!
「じゃあ、エリザベータさんあとはよろしくお願いします」
そう言って菊さんとくるん兄弟は部屋を出て行く。
あ、お礼言ってない!!!
「フェリシアーノさん、ロヴィーノさん。……ありがとうございました。すごく嬉しいです。イタリアに行ったときはよろしくお願いします」
よし、言った。
「待った」
ん?
「何ですか?」
「かしこまるのなし〜だよ。俺の事はフェリシアーノって呼んで」
「菊もそうだよな?日本人ってみんなそうなのか?」
「そう言うわけではないですよ。私のはすでに癖ですから。さん、彼らは他人行儀の敬語で呼んで欲しくないそうですよ」
って言われていきなりは厳しいですよ。
菊さん。
「俺はロヴィーノって呼べよな」
「ね」
この兄弟に迫られると頷かずには居られませんよ……。
おびえてるわけじゃないけど、根本的に顔が近いんだよ〜〜。
「じゃあ、またねCiao」
そう言って兄弟+菊さんは部屋を出て行く。
はぁ、なんか一気に疲れた。
「慣れたら楽しいわよ。私はエリザって呼んで」
テーブルの所で洋服を選んでるエリザさんは言う。
「あの子達の言うとおり、かしこまらないで欲しいな。せっかく友達になったんだもの。菊さんから聞いた?私達のこと。私たちが国って事話すって言ってたけど…」
エリザさんの言葉にあたしは頷く。
「そっか。でね女の子の友達、私基本的に少ないの。だから友達になってくれるとうれしいな。ね」
彼女はすっごく綺麗にほほえむ。
ドナウの真珠、ハンガリーの首都ブダペストがそう言われていることを思い出した。
「……あ、あたしで良ければお願いします」
正直、心強いかも、ハンガリーさんが友達になるの。
「じゃあ、改めて。私はエリザベータ・ヘーデルヴァーリ。ハンガリーよ」
「あたしは、。よろしく」
「困ったことがあったら言って。菊さんには頼れないこと、あたしに言ってきてもいいわ。ちょっと、日本とハンガリーじゃ遠いけどね」
エリザの言葉にあたしは大きく頷いた。
頼れる人が菊さんの他にもいるって言うの良いな。
そしてあたしはエリザとキャーキャー言いながら服を選んで、食事会の行われる食堂へと向かった。
食事は本当に楽しかった。
みんなに気を遣ってもらったって言うのもあるかもしれないけど。
会食のメニューはオーストリアの宮廷料理。
初めて食べた日本ではなじみの薄いオーストリア料理はとても美味で、デザートのザッハトルテ(本場、本場)には幸せを覚えましたよ。
フェリシアーノが
「やっぱり、ちゃんって菊と同じだねぇ」
なんて言い出して、思わずどういう意味だろうって思ってたら
「食べるのスキだよね」
って。
まぁ、否定しないけどね。
あとおいしいモノに出会えたのが幸せって言うのもある。
「うん、菊も幸せそうに食べてるよね」
隣の菊さんを見れば本当に、食べてて幸せそうだった。
あたしもこんな感じだったのかななんてね。
小鳥の鳴き声。
ふかふかの布団。
朝日が目にはいってまぶしくって。
目を開けて天井見てしばし眺めてた。
……………ここどこだろうって一瞬思ったのは、ここだけの秘密だ。
ぼーっと見えるあたしの部屋ではとうていあり得ないような天井が昨日の事、あたしの身に起ったことを映し出していた。
寝て起きたら昨日起ったことは全部夢でしたなんてちょっとだけ思ったんだけどそういう夢オチはなかったようで。
今のところまだあたしはヘタリアの世界の中にいる。
……って言う方は正しいかどうか分らないけど。
あたしはこの後どうなるのかななんて、今更考え始めてる。
昨日の夜は眠くなる直前までエリザと話してて。
本当に楽しかったから、そのまま眠れた。
っていうか今日会議がある事を知ってあたしから切り上げたんだけど。
話し相手になってくれるエリザに申し訳ないし。
目が覚めてこの気分はなんなんだろう。
戻れていない絶望なのか、よく分らないよ。
菊さんはあたしが『首都機能』だって言ってた。
厳密に法律上では、現在日本では『首都』という設定がなされてないんだって。
ある意味曖昧、な気がする。
今世の中に存在しないプロイセンのようだ………。
あの人より不憫なのかあたしは……。
夕食時に目の前に座っていた人を思い出す。
目を引く人なんだけど(結構みんなそう)性格に残念さが漂うって言うか。
そんなことより、あたしは戻るのかそれともずっとこの世界にいることになるのか、本気で分らないよ………。
『コンコン』
ノック音が聞こえる。
「さん、起きてますか?」
ノックの主は菊さんだった。
「き、菊さんおはようございます。起きたって言うか、目は醒めてました!!!えっと、ちょっと待ってもらって良いですか〜」
着替えてないんです〜〜。
ベッドの中でごろごろしてました〜〜〜。
「焦らなくても大丈夫ですよ。起きておられるのか確認しに来ただけなので」
「えっと、10分、10分待ってもらえますか。顔洗って、歯を磨いて着替えます!!」
「はい、ではまた10分後来ます」
「す、すみませーん」
菊さんになんか笑われた感が……あぁ、もう10分で支度しないと。
時間わかんないけど!!!
服は昨日もらってしまった服のなかから。
スカートとブラウスとカーディガン。
ブランドは一応統一した。
って言うかワンピ、ブラウス、スカート、カーディガン・タイツ・靴×各ブランド。
な状態でもらってた。
普段案外適当だから凄い戸惑った昨日。
と、そんなこと考えてるひまもなく、身支度終了。
そんな中再びノック音。
「さん、私です」
「はいお待たせしました」
菊さんの声にあたしはためらいもせず扉を開ける。
「さん……鍵は掛けなかったのですか?」
……鍵?
「部屋の鍵ですよ」
取っ手を見れば鍵が……たった今あることに気がつきました。
「一応、他の方もいらっしゃいますし…何かあると言うことはないと思いますが鍵は用心の為に掛けてくださいね。知り合いの家とはいえ外国です。見知らぬ方もいらっしゃる可能性もこう大きな家ですからね、否定はできませんよ」
………用心しろとはよく言われます。
「ちょっと、心配です。まぁ、では食堂に参りましょうか。今日の予定も話したいですし」
反省しつつ、菊さんの言葉にあたしは頷いた。