あこがれの地ではあるけれど見知らぬ土地で、人目を引く銀髪の俺様に。
「う、わ、わ、わ、わ、わ、やーーー!!」
「なにやってんだよ。お前!!」
倒れそうになった所を誰かに支えられる。
あたしは会議の間、ローデリヒさんの音楽室(ここはオーディオルームじゃなくってあえて言おう、音楽室であると!!)でピアノを弾かせてもらうことになった。
うん、結局の所、暇つぶしだ。
ピアノだけじゃなく、CDもあるので一応退屈はしないはず。
ソファもあるから眠くなったら眠っちゃっても大丈夫だろうし(あまりに屋敷が広いから使わせてもらってる部屋に戻れない)。
本当は菊さんにゲームを貸してもらおうと思ってたんだ。
多分きっと持ってきてるって思ってたから。
そしたら落ちゲーじゃないって。
普通そこは落ちゲーでしょ?
菊さんに日本なのに、おかしいよ、日本!
「これでチャットなんてしてたら…助けてくれっクリアできないって」
そう言って菊さんが出した携帯ゲームは某S○NYから出てるヤツでやってたのは例の狩りゲー。
ある意味、歪みないよ。
諦めて結局、音楽室で戯れることになったわけ。
楽譜が大量にあるローデリヒさんの音楽室。
ドイツ語と格闘しつつ、弾きたい(この場合弾ける)作曲家の楽譜集を探して適当に弾いてたんだ。
手持ちぶさたになるとやっちゃわない?
あれ。
ピアノの椅子の後ろ脚だけで支えてピアノつかんでゆらゆら〜って。
なんか重心とるの楽しいんだよね。
やると怒られるんだけど。
ピアノの椅子が駄目になるって。
うん。
家でやってました。
だから……つい癖というか……他人の家でやっちゃった訳で。
その一瞬のすきで倒れそうになったあたしを助けた人がいたと……。
そう言うわけです。
「あ、ありがとうございます」
顔みて礼を言おうとする前に
「ケセセセセ、ローデリヒにばれても知んねぇぞ」
声+台詞聞いただけで分ったあたしは偉いと思う!!
プロイセンだ。
じゃなかった、ギルベルトさんだ。
っていうか、一応お礼言わなきゃ。
「助けてくれてありがとうございます。それよりなんでココにいるんですか?」
「俺様?俺様はピアノが聞こえたからな。この家でピアノ弾くっつったらローデリヒのヤツしか居ねえからな。どんなヤツが弾いてるのかと思って見に来ただけだ」
ぎゃー、聞かれた!!
「き、綺麗に忘れてください!!きかなかったことにして!!!」
人に聞かれるの好きじゃないんだよ〜〜。
上手じゃないし。
そりゃ、小さい頃はいろんな夢あったけどさ。
「そんなに悪くなかったけどな」
お世辞でも嬉しいです、ありがとうございます。
「それより、お前ひまなのか?暇だったら俺様に付き合え」
は?
「俺様は親切だからな、何処かに連れて行ってやっても良いぜ!」
マジですか?
ウィーン観光あり?
「行ってみたいところがあるんですけど………………」
どうしよう、どうしよう、ウィーン観光あり?
「どこに行きたいんだ?」
「……モーツァルト像とか、シュトラウス像とかベートーベン像とか!!!」
見たい!!!
「銅像ばっかじゃねえか」
「あ、あと。シュテファン大聖堂とか。忘れちゃ行けないシェーンブルン宮殿」
世界遺産!!
ハプスブルグ家!!!
「っっ、っ」
「あそこには日本の間があるんですよね〜〜。古伊万里だっけ?や〜〜ん。」
「……………」
「そうそうハプスブルグ家で忘れちゃ行けないのは、アウグスティーナ教会も。テレジア様が結婚式挙げた教会!!」
楽しみだ〜〜〜。
ふとギルベルトさんを見ればなんか顔が引きつってる。
……まずかったかな?
「あの……まずいんだったら諦めますけど………」
「…………お、俺様は心広くて優しいからな。じゃあまずはここから近いシュテファン教会だな」
「…でも……本当にいいんですか?」
「行きたくないのかよ。まぁ、全部は無理(っつーか行きたくない)だけどよ。銅像ぐらいだったら」
「行きたいです。見たいです。連れて行っていただけたら嬉しいです」
「よし、行くぞ!!!」
というわけで、あたしとギルベルトさんのウィーン観光が始まった
簡単にいくよ〜〜〜。
最初がブルク庭園のモーツァルト像。
花壇には花がト音記号の形に植えられてて綺麗なのです。
何の花だろう。
実は一番見たかった銅像。
天才と呼ばれていたけど……晩年の曲を弾くときは時々苦しくなるんだよね……。
シュテファン大聖堂。
モーツァルトがコンスタンツェと結婚式を挙げた場所としても結構有名。
来たかった所の一つ。
少し離れたところの市立公園。
ここにはヨハン・シュトラウスの金ぴかの銅像が。
あぁ、ベートーベンのおうちとかも行ってみたい〜。
「そんなに銅像とか見てどうすんだ?」
「音楽家の銅像だから見たいんです」
一応、下手だけどピアノやってたわけだし、曲がりなりにもクラシックというものをかじってたわけですから、興味ないわけじゃないし。
というわけで、市立公園内にあるシュトラウス2世像、バイオリンで弾いているところなのかな?
わぁ、でも本当に金ぴかだ〜〜〜。
単なる作曲家…といえば聞こえは良くないけど、それなのに銅像になるって言うのはそれだけウィーンの人に愛されているんだなぁ〜〜と思う。
ワルツ王、ヨハン・シュトラウス2世。
……ワルツかぁ。
「そう言えば、ギルベルトさんって踊れるんですか?」
素朴な疑問。
エリザやローデリヒさんは踊れそうだけど。
「あ?何がだ?」
聞いてなかったのか、この人は!!!
ってほとんどあたしがうろうろしてギルベルトさんはそんなあたしの監視役って言うか?そんな状況だから聞いてないのも無理ないか。
「ワルツですよ」
彼を促して次の目的地へと向かう。
案内役はギルベルトさんだから、その後をついて行くだけなんだけど。
「まぁ、やらされたから踊れなくはねぇけどな。俺様の踊りは華麗だぜ」
いや、聞いてないし。
って言うか、やっぱりこっちの人ってみんな踊れるんだ。
「凄いですね。踊れるなんて」
「お前、踊れないのか?」
「一般的日本人は普通踊れません」
ワルツ踊る環境すらない。
踊れるって言ったら社交ダンスする人かセレブ?ぐらいだよね。
「そう言えば、菊も踊れなかったな。知らねえ間に踊れるようになってたけど」
いわゆる鹿鳴館時代ってヤツ?
そうか…菊さんも踊れるのか……。
「踊れないんだったら、俺様が教えてやっても良いぜ」
へ?
この人すっごく楽しそうに言ってるんだけど。
本気かな?
「俺様は上手だからな、ルッツに教えてやったのも俺様だ!!」
はぁ。
まぁ、断るのも何だし、冗談だろうし、ここは
「じゃあ、まぁ、その時はお願いします」
なんて社交辞令でお願いしてみた。
多分、向こうもそうだ。
「俺様に任せておけ」
よね?やる気満々ぽいけど、気のせいと思ってみよう。
はぁ。
というわけで、シェーンブルン宮殿(駆足すぎる)!!
広い!!!
夏の宮殿。
そしてあたしはお腹がすいた。
ぐ〜〜〜。
「なんだ、腹が減ったのか?しゃあねぇなぁ。この中にカフェがあったからそこに行くか」
「お願いしますっっ」
うっうっまさかお腹なったところ聞かれるとは思わなかったよ〜〜。
「そんなに泣くとこか?かなりウケたけどな」
だからやなんだよ〜。
恥ずかしい。
「勝手に頼んで良いよな」
「お願いします」
あたしに、何を食べるかの権限はない。
ちゃんと考えてくれたのか(量的に)スイーツ(パンケーキなのだそうだ)とメランシュ(濃いめのコーヒーに同量のミルクを加えたもの)でし。
「いただきます」
ザッハトルテがおいしかったんだけど甘かったことを思い出し。
このパンケーキも甘いんだろうなぁと思って、砂糖はこの際入れずに。
あぁ、やっぱり甘いけど、おいしー。
メランシュが濃いめのコーヒーだからちょうど良い。
あぁ、幸せっ。
「ギルベルトさんありがとうございます。観光に連れきてくれて」
おいしい食事に思いがけないウィーン観光だもんね。
「お、おぉ。ローデリヒやエリザベータ程じゃねえけどな、まぁ俺様もそれなりに知ってるし」
「嬉しいです」
しかも、今幸せ。
「そうか、なら俺様のことはギルベルト様って呼んで良いぜ。っつーか、た」
「それは善処します」
なんで様づけしなきゃならないのさ。
「っくっ、だったら、ギルベルトで良いぜ。特別に許してやる」
へ?
敬語じゃなくても良いって事かな?
「それが嫌だったらギルベルト様ってよ」
あぁ、もーだから何で様付けなのよ。
「分かりました、ギルベルトで」
「お前…やっぱり菊に似てるな」
「そうですか?」
よく分からないけどね。
まぁこれでも日本人ですし。
『トゥルルルルルルル』
誰かのケータイがなってる。
「あ、俺のか?んルッツじゃねえか」
そう言えば、ルッツって誰だろう?
「あぁ、ルートヴィヒって言えば分かるか?」
ルッツってドイツのルートヴィヒさんのあだ名か。
兄弟だっけ?
「なんだよ、ルッツ会議中じゃねえのか」
『今、どこにいるんだ?兄さん』
そう言えば、今…何時なんだろう。
大体お腹すくと11時半から12時ぐらいだから。
当たりを見回すと時計発見!!
ちょうど12時半。
「あ?とウィーン観光中」
『兄さん!!!どれだけこっちが大騒ぎになってるのか分かってるのか、兄さん!!』
ものすごい声がギルベルトの携帯から聞こえてきた。
「ど、どうしたの?」
「わかんね。ど、どうしたんだよ。ルッツ」
『の様子を、なんだ。ローデリヒ』
『少し、変わりなさい。あなたは興奮しすぎですよ、この御馬鹿さんが』
「げっ。ローデリヒ」
『げとは何事です。御下品ですよ、ギルベルト。全くあなたがを連れ出したおかげでこちらは大騒ぎですよ。菊は顔を真っ青にしてるし、リザとロヴィーノは殺気立ってるし、普段は温厚なフェリシアーノまで怒ってるんですからね。帰ってきたら命はないと思った方が良いですよ。全く』
「あのなぁ、それは」
『出かけるのは結構。一本こちらに連絡するって事を考えてなかったのですか?』
「仕事中の相手に連絡出来るわけねえだろうが」
『全く、あなたはお馬鹿さんですね、メールという手段があるでしょうに。使えないわけないでしょう』
「………忘れてた……」
『はぁ……バカみたいに浮かれてるあなたは久方ぶりに見ました。菊が替われと言っているので替わります』
「ちょっと待てローデリヒっっ」
何が起ってるんだろうか。
「ギルベルト、大丈夫?」
なんか、顔真っ青だよ。
『ギルベルトさん、に替わっていただいてもよろしいでしょうか』
「……菊、ちょっとお前声が怖いんだけどよ…」
『ギルベルトさん、もう一度言います。と替わってください』
「は、はい」
菊さんと会話していたのかギルベルトはあたしにケータイをよこす。
「何?」
「菊がお前と替われって」
「?分かった。もしもし、菊さん?」
なんだろう?
会議終わったのかな?
それともさっきのものすごいドイツ声が何か……。
『さん、無事ですか?』
「どうしたんですか?菊さん。無事って……」
何があったんだ!!
『先ほど会議の休憩にあなたの様子を確認しようと思いましてローデリヒさんに頼んでお宅へ連絡を入れていただきました。そしたらあなたがギルベルトさんに連れ出されたようだと言うことになって……』
そう言えば……菊さんに連絡しなかったかも。
しようかなって思ったけど、ギルベルトが一緒だからいいかって言うのと。
「ウィーン観光に浮かれて連絡なんて考えても見なかった……ごめんなさい。やっぱりすれば良かったですよね」
『大丈夫ですよ。あなたが無事だと言うことが分かったのですから。ギルベルトさんと一緒だろうと聞いたときは大丈夫だと思っていたのですけどね』
心配掛けちゃったみたい。
あたしも軽率すぎたし、後でちゃんと謝ろう。
『ウィーン観光は楽しいですか?』
「はい。楽しいです。ホーフブルグ宮殿とかアウグスティーナ教会は行ってないんですけど。すぐ近くまで行ったのに、ギルベルトが行きたくないって言い出して、仕方なくモーツァルト像見て、シュテファン大聖堂行って、シュトラウス像見て、今はシェーンブルン宮殿でランチ中です」
と言ってる間に菊さんの後ろがものすごい騒ぎになってる気がする。
『皆さん、ちょっと静かにしてください。そうですか…ランチですか』
「菊さんはまだお昼じゃないんですか?」
『いえ、こちらはもうすでに済ませました。もうすぐ会議の再開です。後は共同声明文をどうするかだけですから』
結構まだかかりそう。
「時間、まだかかりそうですね」
『そんなことないですよ。すぐに、終わらせて見せます』
なんか、すっごく決意かかってる。
「無理しないでくださいね」
『はい。では、ギルベルトさんに替わってください』
「はい。ギルベルト、菊さんが」
ケータイをギルベルトに返す。
ものすごい騒ぎが再びケータイから聞こえてくるけど…なんでだい?
『に何かあったら許しませんから。覚悟してください』
「お、おう」
力なく返事した後、ギルベルトはようやくケータイを切った。
「えっと、ごめんなさい」
「…あぁ、まぁ、気にするな。連絡しなかったのは俺のミスだからな」
「でも、行きたいって言ったのはあたしだし……」
迷惑掛けちゃったよね……。
「俺様が気にするなって言ってるんだから気にするな。ウィーンに来たかったんだろ?だったら楽しんだ方が良いんじゃねえのか?」
「うん。そうだね。次はいつ来れるか分からないんだもんね」
よし、シェーンブルン宮殿を散策だ!!!
ちょうど、シェーンブルン宮殿を見終わった頃…(残念ながら観光用ショートコース)菊さんからの電話。
会議が終わったから迎えに来るって。
「あいつ、過保護になるかもな」
なんてぼそっと呟くギルベルトがなんか面白くって。
笑ってしまった。
なんで笑うんだって言うけど、なんで面白いのかも分からなくって。
「多分ね、今楽しいからだと思うんだ。気がついたら、ウィーンにいて、みんなに逢って……。ちょっとだけね、不思議な感じ。どうなるんだろうなって今朝も考えたんだけど、ウィーン観光してたら何とかなるかなって思った。ギルベルトのおかげかも」
「お、おぉ。俺様のおかげなら、もっと感謝しろ」
「してるってば。すっごく」
もう、どうしてそこで俺様発動するかわかんない。
……もしかして照れ屋なのか?それとも単に横暴なのか。
謎だ!!!
「だからね、ありがとう、ギルベルト」
彼がこっちに向いたから思いっきりの笑顔で言ってみた。
「……だから……それはっっ……だーっくっそー。どーすりゃいいんだ〜〜」
なんかものすごく悩んでるけど、放っておこう。
見てるだけで面白いしね。
なんてやってるとき、ものすごい勢いで何かが飛んできてギルベルトに当たる。
「ちょ、ギルベルト、大丈夫?」
当たって落ちたもの見たら……リアルにゆがんだフライパン。
投げた主もそこについている赤いものも気にしないでおこう。
「えっと、どうしよう」
「くっ。エリザベータのヤツっっ」
「ちゃん」
「きゃあああ!!!」
突然抱きしめられる。
「うわぁ〜〜〜ん、ちゃんだ〜〜」
「勝手に抱きついてんじゃねぇよ」
「落ち着け、フェリシアーノ。彼女を離してやれ」
離してもらえたかと思ったら前に向かされてもう一回抱きしめられる。
「ふぇ、フェリシアーノ?」
「そうだよっっ。心配したよ〜〜」
「バカっ。がビックリしてるだろう!!」
ちょまって〜なんで抱きしめられてるのよ〜〜。
「フェリシアーノ!!!!」
「あ、ゴメンよ〜。ちゃん、大丈夫?」
うん、うん。
ビックリしすぎて頷くことしか出来ません。
「さん、大丈夫ですか?」
横からすぐに菊さんの声。
見てみれば苦笑してるのがよく見える。
そのすぐ隣にはつぶれてるギルベルトと荒い息を吐いてるエリザとため息ついてるローデリヒさん。
「菊さん、会議お疲れ様でした」
「お待たせしました。ウィーン観光は楽しめましたか?」
「はい、楽しかったですよ」
「、ギルベルトに変なことされなかった?」
とエリザが聞いてくる。
ふぎゃって声が聞こえたけど気にしない方がいいのかな?
「されてないよ。エリザ、ギルベルト優しかったよ」
なんかものすごく心配してるけど、大丈夫だよ。
「ルートくん、やっぱり殺して良い?コイツ」
「………それだけは止めてくれ、エリザ」
「残念」
えっと、不穏すぎるんだけど。
「楽しかったんだったらそれで良いんですよ」
菊さん…ありがとう。
「エリザさん、ギルベルトさんには私が後で制裁を加えておきますから」
何処か黒い笑顔で言う菊さんが一番、不穏だから〜〜。
そんなこんなで、日本に帰る(行く?)事になりました。
うん、これからどうなるんだか、ちょっと不安だけどね。