「今日で7件目」
お台場。
一大観光スポットであるそのお台場にある一角にその場所はあった。
「2週間で7件はちょっと多いですね」
「連続で同じ人物とここまで分かってるのに、どうして、捕まらないかな〜?」
そう言って、黒髪の小柄な女性は机の上に突っ伏した。
湾岸署。
新しく、出来た地域に新しく作られた警察署、湾岸署。
設立当初は空き地署と言われ犯罪も少なかった管内も、お台場が一大観光スポットになるにつれ、東京都内で1,2位を争うほどのめまぐるしい署となっていた。
「すみれさん、大丈夫?」
黒髪で小柄な女性『恩田すみれ』に話しかけたのは彼女の背後に座っている『青島俊作』。
「だいじょーぶじゃな〜〜い」
「かなり、参ってるみたいだねぇ〜」
「そんなねぇ、人ごとみたいに、言わないでよ。いいわよね、今、強行犯係は大きな事件なくって〜」
そのすみれの言葉に青島は苦笑いを浮かべる。
すみれがいる盗犯係で今、追っている事件。
台場のある港区管内でおこっている連続窃盗事件。
7件中、6件が台場でおこっているのだ。
そして、7件目が湾岸署の他の管内でおきたのだ。
「で、7件目はどこで起こったの?」
「場所?今度、青島くんがおごってくれる、『キャビア』のお店の近所よ」
「っ、すみれさん」
「えぇ、いいなぁ、すみれさん、青島さんに『キャビア』おごってもらえるんですか?」
「そう、いいでしょう」
すみれが強行犯係の『柏木雪乃』の言葉を受けて答える。
「げっ」
青島がとまる。
「いいなぁ、すみれさん。あの雑誌で特集組まれていたあの、キャビアがおいしいお店ですよね」
「そうなの。見た時から一度、行って見たかったのよねぇ」
すみれと雪乃の間でどんどん進んでいく会話。
「ちょっと、すみれさん!」
「何?青島くん」
「キャビア食べに言ったのこの前だよ?」
すみれの言葉に青島が抗議する。
「青島くん、キャビア食べに行ったのいつだったか覚えている?」
「2月…だったかな?すみれさんの復帰祝いも兼ねてたよね」
「じゃあ、今は何月?」
すみれの言葉に青島の笑顔が固まり、
「…6…月?かな?」
おそるおそる答える。
「ふ〜ん、青島くんには4ヶ月前でもこの前なんだ、ふ〜ん」
「す、すみれさん?」
「そうなんだ、ふ〜ん」
「すみれさん、怒ってる?」
「べーつーに〜」
「……あぁ!もう、分かりましたよ。お姫様の、気の向くまま、どちらへでも参りましょう」
「ホント?青島くん」
「仰せのままに」
「よろしい」
「ありがとうございます」
「ふぅ、やっぱり、愛してるわ」
「オレも愛してるよ」
背中越しに交わした言葉に周囲は固まる。
「……青島さん?すみれさん、今の……って。……愛してる……って…??」
やっとの思いで言葉を繰り出した雪乃の言葉に、青島とすみれの二人は顔を見合わせ周囲を見渡し
「仕事」
と、同時に示し合わせたように答えた。
「仕事って…」
あっけにとられた周囲を横に、二人は出かける準備を始める。
「この前の事件の裏付けに行って来まーす」
「聞き込み行ってきま〜す」
青島は、以前に起こった事件の裏付け捜査に、すみれは盗難事件の聞き込みに出かける。
「……一体、どうなってるの?」
署内に混乱を残したまま。