「トーニックに命ずる」
侍マスターがそう言った。
「えっと、何持ってけばいいの?」
「別にたいそうな物はいらないじゃないの?必要だったら買えばいいし」
「そっか」
某国に行く準備。
これまで要人警護などでラプテフより外に出ることはあっても、長いことラプテフから出ると言うことはなかった。
長期任務。
突然俺たちの目の前に現れた女の子の護衛だ。
女の子と言ったら彼女は怒るか、それともふてくされるか、逆に喜ぶか。
ラプテフを救うきっかけを作ってくれた勇者様の護衛だ。
やんでいたこの国を、彼女は救うために奔走してくれた。
ゼルやマリウスを連れてきたり、ラテスに列島結界を解かせたり。
俺たちだけじゃどうあがいても無理だった。
海の神ラテスという人は、彼女はどう思っているかどうか分からないけれど、「そこにあるがままに」と事態を静観している傍観者だ。
自分からどうこうしてくれる人じゃない。
神様というものがそう言うものだと言ってしまえばそうかも知れないけれど。
それでも『神様』という存在にすがりたくなってしまうのが人なのかも知れないけれど。
「とりあえずさぁ、準備はそれほどしなくたって平気だよ〜」
なんてトーニックの控え室でお茶を飲んでる人にすがりつきたくない。
「ラテス様、邪魔なんですが」
打ち合わせの最中にズズズとお茶を飲んでるラテスにセンターがスッパリという。
「えぇ、トーニックまでオレの事邪魔扱い?ワール・ワーズってば、カイサリー島に戻って来るなりスタジオこもっちゃってさぁ、構ってくれないんだよ?」
「構う構わないって問題じゃないと思うけど」
そう小さく呟いたウォンの声にラテスは気づいてないのか、それとも気づいてないふりをしているのか、気にせずお茶を飲む。
「ミラノちゃんはミラノちゃんで、ワール・ワーズの収録についてっちゃったし、つまんないんだよねぇ」
彼女はおもちゃにされそうだったから逃げたに違いない。
全員でそう思う。
「ともかくさ、別に問題ないでしょ?トーニックの証である正武器持ってるんだから。それさえあればどうにでもなるんだよ」
そうラテスは言う。
その言葉に俺たちは自分達の腰に下がっている刀を見る。
正武器。
通常の刀とは違う魔力を帯びた刀だ。
「ね。というわけで、会議終了〜」
「いや、だからあんたが勝手に終わらせるなよ」
ラテスの所行に思わずため息が出る。
彼の言うことにはもちろん、説得力がある。
ある意味正しいだろう。
トーニックという名の力は諸外国に知れ渡っている、善であれ、悪であれ。
どうとでもなるというのは正しい。
でも、一応打ち合わせという物も必要だと、思うんだけどなぁ…。
どうしようと考えてるセンターの顔と脳天気にお茶をつぎ足しているラテスを見て思わずため息が出てしまった。
一応、リラン語り。