「私は、歌いたいの。ただ、ただそれだけなのよ」
彼女の声が誰もいなくなったライブハウスに響いた。
ミツコ。
彼女の名前を聞いたとき僕は思い出した。
キネと久しぶりに再会したときに出会った彼女。
柔らかな微笑みで僕の歌を聴いてくれた。
あの当時、僕の歌を聴いてくれるのはキネとミツコしか居なかったから。
「ミッコちゃんは今組織が経営するライブハウスにいるんだ」
テツも彼女とは昔からの知り合いで、彼女も僕と同じシンガーの能力を持つというのはテツから聞いた。
だから組織の経営するライブハウスにいると。
彼女は歌を歌えるのならドコでも構わないという。
でも……僕は僕の歌を誰かに利用されるのはお断りだ。
「3人そろって私の目の前に現れるなんて思わなかったわ」
ミツコはそう昔と変わらない笑みを僕達に見せる。
「組織を裏切ったそうね……。だからこっそり?」
テツの能力で侵入してきた僕達に彼女は呆れ気味だ。
「貴方たちが立ち寄りそうな所はドコだ、って私の所にもカイバラがやってきたわ。わざわざ御大が現れるとは思ってみなかったけれど」
「ミッコちゃん、ボク達の話を聞いてくれる?」
テツがいつにないまじめな表情でミツコに話しかける。
「やだぁ、どうしたのテッちゃん。そんなまじめな顔テッちゃんらしくないな」
「……ボク達は組織を裏切った。そして組織を破壊しようと考えた」
テッちゃんの声は誰もいないライブハウスに響く。
この建物の中にはボク達以外居ない。
それは既にキネの能力で分かっていた。
いざとなれば僕が歌って何とかすることも出来る。
それだと逆に見つかる可能性も無いとも限らないけど。
「組織を破壊……そんなこと出来っこない」
ミツコはそう否定する。
誰よりも組織のことを知っているから。
生まれてからずっと彼女はココにいるから。
「ミッコちゃん、外で歌いたいと思わない?自由に、好きなときに、好きな歌を、好きなだけ」
テツはミツコにそう言う。
「ボク達は願ったよ。自由に、好きなときに、好きな歌を、好きなだけ、歌えるように。ボクとキネは作れるように、ウツは歌えるように。願ったんだ」
ソレは組織を抜けようと、組織を壊そうと3人で初めて誓ったときに願った事だ。
「ミッコちゃん」
「…外に……出るの?」
彼女は外を知らない。
「外は凄いよ。この前は夜中にビルの屋上で歌を歌ったんだ。普通はこんなこと出来ない。でもやったんだ。組織の目なんてドコにもない。ミッコちゃん聞こえなかった?僕の歌が。みんなに届くように歌ったつもりだったんだけど」
あの時の感動は今も忘れない。
初めて外で歌った。
誰にも邪魔されないで、誰にも文句言われないで。
「夢、見なかった?テッちゃんが作った歌詞でウツが歌った歌だから甘々でキザかも知れないけれど」
キネが茶化しながら言う。
「……あれはあの時のあの夢は……貴方たちだったのね」
ミツコの言葉にボク達はうなずく。
「あたしの望みはただ1つ。歌うことだけよ」
静かに彼女の声がライブハウス内に響いた。
それが、彼女の一番奥の望み。
「で、あたしはどうすればいいの?どうせ何か頼みに来たんでしょう?」
そう言うミツコに僕達は苦笑した。
事実その通りなのだから。
いや多分どころじゃなくその通りで。
ようやく、ミッコちゃん登場!!!