1話・家出
久しぶりの我が家。
大切な幼なじみと両親が住むファーレンの町に帰ってくる。
あたしは、シェリー・ヒルカライト。
魔法使いの修行の為に1年ほど家を出ていたんだけど、修行も終わり(というか基礎の修行で本当の修行はこれから。これからは実践の修行ってやつよ)ようやく家に帰るというわけ。
ちなみに実家の家業は占い師。
両親とも名だたる占い師らしい。
らしいって言い方ないよね。
占い師協会の会長だったような気がするんだけど…。
あたし、魔法使いだし。
あんま関係ないんだよね。
関係あるとすれば幼なじみの両親。
魔道士協会幹部で、あたしの修行の手助けもしてくれたんだよね。
まぁ、ともかく、昼間は家にいない両親は無視して、幼なじみ&幼なじみの両親に先に挨拶に行こうっと。
「おばさん(幼なじみの母親)、ただいまっ」
勝手しったる幼なじみの家。
そう、声かけて家の中にあがる。
昼間の家でもあるし…。
でもなんか人気ないような気がするんだけど…。
玄関の鍵あいてたのになんでおばさんいないんだろう(おじさん(幼なじみの父親)は仕事)。
「おばさん?…」
そう言えば…幼なじみもいない…よね。
何でだろう。
「シェリーちゃん?」
えっ?!
不意に声をかけられ振り向くと幼なじみのお母さんがそこにたっていた。
「おばさん、ただいま。修行の旅から今日帰ってきました」
「………お帰りなさい……」
おばさんはどこかうろたえながらあたしの帰りを出迎えた。
「おばさん、どうしたの?そう言えば…ゼンは?あたし、ゼンに今日帰るって連絡したんだけど……」
『ゼン』と言う言葉におばさんはびくっと反応してあたしの肩をつかんでまくし立てた。
「シェリーちゃん、いい子だから今日は帰ってね。御両親もシェリーちゃんの帰りを待ってると思うの」
「うちの親なんてどうせそう簡単に帰ってこないんだから、心配しなくても大丈夫。それより、ゼンは?剣の修行中?ゼン、魔法剣士になるって意気込んでいたけど」
そうあたしはおばさんに聞く。
ゼン・ウィード。
あたしの幼なじみの事なんだけど…。
「ねぇ…ゼンに何か合ったの?」
「シェリーちゃん、…いい子だから、今日は帰って。ね?そして、ゼン・ウィードという子の事は忘れて。ね」
は?
今、おばさんゼンの事忘れろって言ったよね…。
「おばさん、冗談でしょ?ゼンの事忘れろって…。ゼンに…何があったの?ゼン…まさか修行中事故にあって……なんて言わないよね」
あたしの言葉におばさんは視線を合わせない。
「おばさん、言ってくれなくちゃわからないよ?」
何が合ったのか頭のなかでぐるぐるいろんな事が回っているなか小さく、おばさんはつぶやいた……。
「あの子には…魔王がとりついているのよ…」
魔王????????????
「だから、逢わない方がいいわ。シェリーちゃんが魔王に操られちゃうから」
「…だからって魔王に操られないことだってあるんだよね。ともかくあたし、ゼンに逢うから」
そう言ってあたしはゼンがいる部屋へと向かった。
「ゼン?いる?…」
あたしは扉を開け、中にいるであろう、ゼンに声をかける。
その間考えてたことはただ一つ。
ゼンに魔王はとりついていないって事。
そうして、もう一人の存在がばれたって事…。
「シェリー?」
「うん、そうだよ。今日帰るって連絡したじゃない。ただいま、ゼン」
「…そうだったよな…。お帰り…」
ゼンは窓際に寄りかかっていた。
「………おばさん、ちょっとあたしとゼンだけにしてくれる?」
「でも……」
「大丈夫だから」
「根拠は?魔王がいるのよっ…」
無理にでも食い下がるおばさんを強引に部屋の外に追いやり、扉を閉め、ゼンのそばに向かう。
「………ばれたよ…」
外にいるおばさんに気づかれないようにゼンはつぶやく。
「まぁ、良く今までばれなかったと思うけどな」
「そうだね…それは…シュウが、あたしの前にしかでなかったからでしょ?」
「まぁな」
「で、シュウは?」
「まだねてる」
ゼンはそう言って目を閉じる。
シュウ。
もう一人のゼン。
気づいたら、ゼンの中にはシュウと言う人物が入っていた。
案外おばさんが言っている『魔王』というのは当たっているかもしれない。
一人の人間の中に二人の人格が入っているのだから。
二重人格じゃない。
同一空間に存在し、ゼンとシュウは会話すらする。
ゼンと全く正反対の性格。
ゼンは正義感&熱血漢の固まり。
シュウはクールで冷静沈着で自信家で。
……二人とも自信家ってところは同じか。
二人の見分け方は表情にも現れる。
ゼンは見てれば喜怒哀楽が激しいし、シュウは滅多に感情を表に出さずいつもクールに微笑んでる。
だからゼンとシュウは見てればはっきりとわかる。
「あ、起きたみたいだ…。シュウ、シェリーが帰ってきた」
ふっと表情が変わる。
「シェリー…今日帰ってくるって言ってましたね。お帰りなさい」
「ただいま、シュウ。……どうするの?これから…」
「聞いたんですか?」
シュウの言葉にあたしはうなずく。
「おばさん達誤解してるんだよ。シュウのこと。話せばわかってもらえる」
「無理ですよ」
「それでも……」
「シェリー、私がゼンの中にいるのは紛れもない事実何です。それの何をわかってもらうつもりですか?」
シュウの言葉にあたしはうつむく。
おばさん達の気持ちを変えることは難しい。
そんなことわかってる。
ゼン(シュウ)をココに閉じこめた時点でゼンはシュウのことをおばさん達に言ってるだろう。
それでも、おばさん達は納得せずにゼン(シュウ)を閉じこめた。
あのおばさんの様子じゃろくに話しも聞いていないかもしれない。
「シュウ…あたしもう少し早く帰ってくれば良かったのかな」
「なぜです?」
「そうすれば…シュウのことあたしゼンと一緒に守ってあげられたんだよ」
そう言ったあたしにシュウは一つため息をつく。
「なんでそこでため息つくのよ」
「無理だからですよ…」
無理?
「えぇ。それは、不可能なんです。あなたがいても私の存在を隠し通すのは不可能でしょう」
「どういう事?」
そう聞いたあたしにシュウはにっこりと微笑んでごまかした。
全く訳がわからない。
「シェリーちゃん、そろそろ出ていらっしゃい」
おばさんが扉の外から悲痛な声であたしを呼ぶ。
「えっ。おばさん、後ちょっとだけ…」
「ダメよ。ゼンは魔王がとりついているのよ」
「おばさんっっ」
ダメだ…。
全然取り合ってくれない。
「大丈夫ですよ…。あなたには黙っていましたが、前々から考えていたことがあるんです」
「何?」
首を傾げたあたしにシュウは顔を近づけ耳元でささやく。
「…シェリー、オレと一緒に来ない?」
ゼン?
そしておもむろにゼン(シュウ)は扉を開けておばさんに向かって言う。
「母さん、オレ、旅に出るよ」
「なっ何を言ってるの。ゼン、ダメよ、そんなの絶対に許さないわよ」
「けどさ…ココにいたら迷惑だろ?」
その言葉におばさんはハッと息を飲み絶句する。
「だから出てくよ」
そう言ってゼンは身支度を始めてしまった。
「…おばさん…帰る…ね」
あっけにとられ立ちつくしているおばさんをおいてあたしはゼンの家をでて自分の家に戻った。
「シェリー…ゼン君のところに行ってたの?」
待っていたお母さんの言葉にあたしは静かにうなずく。
「ゼン…出てくって…言ってた」
そう言ってあたしは自分の部屋に行く。
…あたしはどうしたらいい?
あたしにとってゼン(シュウ)は…大切な存在。
ほっとける訳ないよ。
夜になり外が騒がしい事に不意に気づいた。
部屋を出るとお父さんがたっていた。
「お父さん、どうしたの?」
「シェリー、家から一歩も出るんじゃない。いいな」
「待ってよどういう事?」
「話している暇はないんだ」
そう言ってお母さんと一緒に外に出ていった。
どういう事?
訳がわかんないよ。
分かった……ゼンが出ってたんだ。
…で…ゼンを追いかけるの?
外を見ると人が集まっていた。
このファーレンの町の魔法協会につとめている人たちばっかりだ。
…その中心にいるのは…ゼンのお父さんっっ。
ゼンのお父さんは魔法協会の幹部。
間違いない、ゼンの事追いかけるんだ。
どうしよう。
ゼン…捕まったらもう逢えなくなるよね。
おばさんが
「ゼン・ウィードという人間がいたこと忘れて」
って言ってるんだもん。
どうにかされちゃう。
あたしにとってゼンも、シュウも大切な幼なじみなのよ。
ほっとく事なんてできっこない。
あたしは旅支度をし家を出る。
…もうこの家には戻ってこれないな。
これって家出だよね。
ためたお金も(修行していた時には使わなかった)あたしの必須アイテムももった。
旅支度してた時に突然の思い出したあたしの修業先の師匠の言葉。
「旅にお金は重要」
これをあたしの修行の終了の言葉にするかなー?。
それより………ってゼン(シュウ)どこにいるの????
探さなくちゃならないじゃない。
家出したのはいいけれどっ。
「一緒に行かない?」
って言ったあの(2)人がいなくちゃ意味ないじゃないのよぉ!!!!
ともかく、あたしは心当たりを探し出す…。
一応一番の心当たりは、家から少し離れた(歩いて5分ぐらいのところにある)公園へと向かう。
よく…小さい頃遊んだ場所。
途中、捜索している人に遭遇しそうになって素早く身を隠す。
あたしが魔法使いになったせいで魔法協会の人はあたしを良く知っている人が多い。
知らなくても顔は知ってる人もいる。
そんな人たちの前にあたしが出てったら間違いなく聞かれる。
「どこに行くのか?」
って〜〜〜〜〜〜〜〜。
で、直ちにお父さん達に連絡されちゃって…家に連れ戻されると。
それは困るっっ。
二度と家から出してもらえなくなるかも。
第一お父さんはあたしが魔法使いになること反対してたし。
占い師としてやり直させられそう。
そんなのいやぁっっ。
せっかく修行したのに、せっかく…師匠のいびり(ごめん、師匠)にも耐えたのにっっ!!
ともかく、見つかるわけには行かないし連れ戻される訳にもいかないのよっっ。
あたしは誰にも見つからないように公園へと急いだ。
街の人の憩いの場所にもなっているその公園周辺には木が植えられているため公園内の様子は中に入らないとわからないようになっている。
もちろん、この公園にも捜索の手は広げられていて…ゼンを探す余裕もない。
とは言っても、探さないとどうしようもないから捜索隊の人に見つからないように探す。
「シェリー」
声がする。
「上だよ」
その声に顔を上げると木の上にはなんとゼンがいた。
「ゼンっ」
「静かにっ。木の上これるか?」
あたしはゼンの言葉にうなずき木にそっと上る。
「大丈夫かぁ?」
「あのねぇ、登って来いって言ったのゼンだよ」
「わりぃっ。で、外の様子どう?」
木を登ったあたしを支えるように抱きかかえながらゼンは聞いてくる。
「わかってるのに言わないでよ。……捜索隊の人いっぱいいるわよ。どうするの?」
「どうすっかなぁ…考えてないんだよな」
とゼンはのんびり言う。
さいてー。
ゼンについてきたの…間違いだったかも。
「ちょっと、本気で言ってるの?」
あたしのにらみにゼンは肩をすくめる。
「まだ、いろいろと未定なんです。それより今は、この街から出ることが先ですからね」
表情がふっと代わり、シュウが出てくる。
「ねぇ、シュウ。じゃあ、どうやってここから出るの?。このまま朝まで待つ?」
「それは、やめた方がいいですね。朝の方が見つかる可能性が高い。夜の闇に紛れて移動した方がいいのですが…」
「シュウ?」
突然黙り込んだシュウの名前をあたしは呼ぶ。
「どうしたの?」
「シェリー、このまましっかり捕まっててください」
あたしを抱きかかえながらシュウはつぶやく。
ど…どうするの?
「強行突破か…」
「えぇ、それしかないですね。ゼン、シェリーのこと頼みます。まだ立ち直れてないので。シェリー、いいですね、しっかり捕まってるんですよ」
シュウの言葉にうなずく。
ゼン…強行突破って言ったよねっ。
何するつもりなの???
「レア・オム・ノルシュ・レガート」
シュウが呪文を唱えていく。
「この魔力はっ」
「シオドニール・シュバイク!!!」
あたりにいた人たちが声を上げる。
「いたぞ!!!」
「風よ、我が命に従い我らを遠来まで運べ!!」
見つかった瞬間に呪文の詠唱が終わる。
そして次の瞬間にはファーレンの周りを囲っている森まで到達した。
「シェリー?」
「………言ってくれれば転移の呪文ぐらいあるのにっ」
思わず憮然としてしまう。
あたしだって魔法使いなんだから、言ってくれれば転移の魔法の1つや2つ唱えられるのに。
「今日帰ってきたばかりのあなたに無理をさせるわけには行かないでしょう。っ」
そう言ったシュウが突然足から崩れ落ちる。
「シュウっ???ゼンっ大丈夫なの?」
あたしの声に彼は顔をあたしの方に向ける。
「…ゼン?」
「あぁ…。シュウはちょっと休むって。俺もつらいかも……」
そう言いながらゼンは肩で息をする。
「この森抜ければ隣町の宿屋に入れると思うよ。そこまで…いけそう?」
「そのつもりだけど?おまえに野宿させるわけにはいかねぇよ」
ゼンは立ち上がりながらも言う。
…………すみません。
わたし、野宿経験者です。
しかも……師匠に連れられて…。
なんて言うこと知ったらゼンとシュウ、驚くんだろうなぁ…。
なんて思いながらも、ゼンに肩を貸して隣町の入り口のすぐそこにある宿屋へと向かったのだ。