under the sky

  2話・知り合いの追手  

「シェリー。一つ聞いていいか?」
「何?ゼン」
 隣で気まずそうにしているゼンがあたしに問いかける。
「…何で、オレとおまえの部屋が一緒なんだよ!!普通、別々にしないか?」
 宿屋に入って、あたしはゼン(シュウ)と同じ部屋にした。
 理由は…お金、もったいないじゃない!!
「師匠が言ったの。お金は大切にって」
「誰だよ、その師匠!!」
「ゴルドバにすんでいる、エルフ」
「エルフ……ですか」
 目が覚めたのかシュウがゼンの代わりに出てくる。
「名前、なんて言うんですか?」
「クゼル・ライエン」
 名前を言ったとたん黙る、シュウ。
「どうしたの?」
「私は、寝ます」
 ちょっちょっとぉ!!
 聞いたっきり答えない訳ぇ?
 もうっ訳わかんない!!
「シェリー、おまえも寝ろよ。オレも寝るっっ」
 そう言ってゼンまで眠ってしまった。
 しょうがない…あたしも、寝るか。
 ……クゼル師匠。
 あたしにとんでもないこと教えてくれたのかもしれない。

 少年、ディルは自分のパートナーである少女、ヒリカをつれて、ファーレンの魔道士協会本部を出た。
「ねぇ、いいの?あの依頼、簡単に受けちゃって」
「とりあえずは…だけどな。仕方ないだろ?ハンターギルドを仕切ってる奴が、オレたちに回してきたんだから。あいつだって、面倒な依頼だって思ってるよ」
「それにしても、依頼料、聞いた瞬間、驚き通り越してあきれたんだけど」
「その方が、楽だろ、これから。エルフ神族がすむラルドエードに行く情報だって集められるし、光と闇の七ツ石を集める軍資金だよ」
 ディルは、トレジャーハンターだったら、誰もが食いつくであろう話を持ち出した。
「やっぱり、そっちが目的だったのね。さすが生粋のトレジャーハンター」
「任せろっ」
 ヒリカの言葉にディルは胸を張る。
 ディルとヒリカ。
 二人はシスアードでは名の知れたトレジャーハンターである。
 シスアードで生まれ、ハンターギルドで育った彼らは、スイーパー業を習う傍ら、トレジャーハンティングに精を出す。
 今では、トレジャーハンターとしての方が有名である。
 彼ら(特にディル)が狙っているのは、幻、どこにあるのかも不明と言われるエルフ神族の王国『ラルドエード』の至宝『聖剣シャインフェザー』。
 そして、魔族や、神族が作り上げたと言われる『光と闇の七ツ石』である。
「さて、依頼料も振り込まれている頃だろうし、確認したら二人を探しに行こうぜ」
「とりあえずは探すのね」
「まぁな、理由って奴を捜さなきゃならないしな」
 ディルの言葉にヒリカはうつむく。
「こんな風に…再会するなんてね」
「あぁ……。でもな、考えてる暇はないんだぜ。ともかく、始まらないんだからな」
「うん。じゃあ、手始めに、森をすぐ越えた所にあるモユルリの村の宿屋に行ってみよう」
「あぁ」
 ディルはヒリカの言葉にそううなずいた。

「……で、これからどうするの??」
 あたしと、ゼン(シュウ)はモユルリの村の宿屋を出て、その先の街、クシキカの街までやってきた。
 理由は、追手から逃れるため。
 モユルリの宿屋にいたら速攻で掴まってしまうために、大きな街でもあるクシキカの街に避難という形。
 ファーレンと、商業都市シスアード、そしてその先のマルデュース王国を結ぶ街道の中継点の一つでもある。
 ここから南に行くとあたしが修行していた神託都市ゴルドバがあったりするんだけど。
 で、前来た時おいしかったレストランにあたしとゼンはお昼ご飯を求めて入る事にした。
「これから?」
「そう、どう考えてるのかなぁ?と思って」
「そうだなぁ……。特には考えてないんだけど」
「ホントに、何も考えてないの?」
 あたしの言葉にゼンは大きくうなずく。
「シュウも、何も考えてないの?」
 もう一度あたしの言葉にゼンは大きくうなずいた。
 二人っきりの時や人が少ない時、移動している時でないとシュウは出てこない(出てきて、シュウとゼンとの会話を他人が聞いたら大事になる)ので、ゼンが代りに通訳をしている。
「じゃあ、この後どうするの?」
「どうしたい?」
 あたしに意見求められても困るぅ。
 だいたい、あたしはゼン(シュウ)が「一緒に来ない?」って言ったから着いてきたわけだしぃ。
「選択肢は二つあるよな。一つは、商業都市シスアード方面に向かう。もう一つは神託都市ゴルドバに向かう」
「うん」
「けど…ゴルドバにはなぁ」
「何?」
 ゼンが何かイヤそうな顔をしている。
 何でだろう?
 なんかゴルドバにあるのかなぁ。
「オレじゃなくって、シュウが行きたくないって」
「何でぇ??」
「知らねぇよっ。ともかく、ゴルドバには行きたくないんだと」
 と、ゼンはシュウの気持ちを代弁する。
 ゴルドバにはあたしの友達いるんだよ。
 ミアとか、ロシュオールとか、ラン元気かなぁ?
「クゼル師匠も、ゴルドバにいるんだよね」
「ますます行きたくないって」
 ハァ。
 もう、師匠にあったことあるの??
「知らねぇ」
 そう言ってゼンは口を紡ぐ。
「ねぇ、ゼン、あたしに言ってないことあるでしょ」
「さぁ?」
 ムーーーーーーーーますます気になるぅ。
 師匠の名前言った途端、黙りこくっちゃうのも。
 魔王…って言うのも。
 やっぱり、おばさんがゼン…まぁ、シュウのことだけど…、魔王って言ったのも気になるんだよね。
「シェリー、話は、お昼ご飯を食べてからでも問題ないでしょう?」
 シュウが小声で言う。
「分かったわよ。それより、決めてよね、行き先」
「分かってますよ」
 あたしの言葉にシュウは静かにうなずいた。
 食事も進み、食後のデザートでも食べようかという時だった。
「シェリー?」
 聞き慣れた声が、隣から聞こえてくる。
 隣を見てみると
「ディル、ヒリカっ。あれ?何でこんなところにいるの?」
 ディル・マクマードとヒリカ・シュルズベリーがいた。
 修行してた時、ゴルドバで出会ったトレジャーハンター。
「ん?まぁ、ね。よっゼン」
「シェリーの質問に答えろよ。オレだって気になってんだから」
「ん?まぁ。とりあえずさ、オレ腹減ってんだよな。オバチャーン、オレにもご飯っ」
「あたしもねっ」
 そう言って、ディルとヒリカは、あたし達のテーブルの空いていた席に座る。
「ところで、ディルとヒリカってゼンと知り合いなの?」
「まぁね。ちょっとしたことでね。あのときはお世話になりました」
 と、ヒリカ。
 あのとき???
 もしかして…。
 トレジャーハント?
「お世話ってなぁ、オレがどれだけ苦労したと思ってんだよ。シェリー、お前が、修行している間に、オレも魔法剣士(って言うか、剣士)の修行してたのは知ってたよな」
 うん、知ってるわよ。
「その最中に、こいつ等にトレジャーハントにつきあわされたんだよ。しかも、ガセネタ」
 ゼンのセリフを聞いたディルとヒリカは苦笑い。
 それは、大変だねぇ。
「そう言う、お前は?やっぱ、トレジャーハント?」
「うん、あたしの場合は師匠にね、修行と称してトレジャーハンティングをさせられた時、一緒について来てもらったって言うか」
「…修行にトレジャーハントねぇ…」
 ……怒ってるわよ。
 ゼン…じゃなくってシュウ!!!
 何があったのよぉ、師匠とっっ。
「まぁ、ともかくそんな感じ?あのときはお世話になりました」
「イヤイヤ、クゼル=ライエンの情報網には助かったよ」
「まぁ、エルフの情報網使ったんだって師匠は言ってたんだけどねぇ」
 エルフの情報網、師匠の話だと、結構詳しいんだよね。
「で、いきなりどうしたんだよ。ここら辺でなんかめぼしいものの情報でも見つかったのか?」
 ゼンの質問にディルは一枚の紙を取り出す。
「まぁ、仕事。えっと、シェリー・ヒルカライト」
「ハイ?」
 いきなり、ディルにフルネームで呼ばれる。
 何?
「ゼン・ウィード」
「あぁ?」
 そして、ゼンもフルネーム。
「これより、ファーレンにシェリー・ヒルカライトを強制送還します」
 強制?送還!!
「ちょっと、ディル、どういう事よっっ」
「やべぇ、シェリー、捕まれっっ」
 とっさに、ゼンが、あたしの腕をとる。
 その間にも、ディルとヒリカは呪文の詠唱に入っている。
「遠きところにつながる扉よ」
「シェリー、私と来て、後悔しませんね?」
「いきなり何よっっ」
 突然、シュウが問いかける。
「いいから、答えろよっ」
「行くわよっ。あなたの事ほっとけるわけないでしょっっ」
 あたしの言葉にゼンはうなずき、
「シュウっ」
「ゲートよっ今、我が命に答え、そして開け」
 シュウが短い呪文を唱える。
 その瞬間、あたしとゼンは、その食堂から一気に、転移したのだ。

「…っっ!!やだ、強制転移、向こうの方がレベル上じゃないっっ」
 シェリー達との会話の間に書いていた転移の魔法陣を壊されたヒリカは反動で尻餅を着く。
「ゼンはあんなの使えたか?」
「そんなの知るわけないわよっ。どうするの?ディルっ」
「ヒリカ…あいつの、魔力、追えるか?」
 ディルが、床に壊された転移の魔法陣のを見ながら言う。
「手伝ってくれるなら」
「当然だろ?」
「オーケー。彼らが進みゆく道をしるせ。彼らが使いし力を」
 ヒリカが呪文を唱えると魔法陣が修復されていく。
「今ココにしめさん。そして、風よ、我らを汝等の元に導きたまえ」
 そして、ディルがそれを続けると、彼らは現れた風によってその場から消え去った。

 たどり着いたのは、森の中。
 どこの森かは今ひとつ分からないんだけど、木々が鬱そうと生い茂っていて、なにやら不気味だった。
「とりあえず、まけたのかな?」
「それはどうでしょうね…」
 シュウが疑問視する。
「何で?」
「あの二人は…特殊な呪文が使えるんですよ」
 特殊な呪文?
「えぇ、いわゆる探索呪文と言いましょうか…」
 探索呪文…ねぇ。
「シェリー?」
「何?」
 シュウが…不意に言葉を止める。
「どうしたの?」
「ココまで来たら、もう後戻り出来ませんよ。ファーレンに戻ることは出来ません。それでも、あなたは…」
「オレに着いてくる?」
 シュウが…ゼンがあたしに問いかける。
「だから、言ったでしょう?あたしはねぇっ」
 そのときだった、突然、強い風が吹いたかと思うとゼン(シュウ)があたしを背後にかばう。
「なっ?何?」
「やっぱり、まけなかったか」
 へ??
「あの二人は、探索呪文及び、追走呪文を持ってるんですよ」
 追走?
 追っかける?呪文?
「その通り!!!。ゼン、お前に見せたっけ?オレとヒリカの呪文」
 そう言ってディルとヒリカが現れた。
「見せただろ?はっきりおぼえてるよ。賞金稼ぎもやってるくせに、よく言うぜ」
「賞金稼ぎは、小遣い稼ぎ。トレジャーハントには金がかかってね」
 そう言ってディルは近寄ってくる。
「お前等の目的は、シェリーの連れ戻しと、オレを殺すことだろ?依頼人はオヤジってところか?スイーパーでもないお前が、珍しいじゃねぇか」
 ゼンを殺す??
 じゃあ、ディルとヒリカはファーレンの魔法協会が依頼した追手なの?
「あたしと、ディルは元々スイーパーの出よ。ただやりたくないから、やらないだけ」
「じゃあ、オレは見逃してくれるってわけだ?」
 ゼンを殺す。
 おじさんは本気なの???
 魔法協会の幹部のゼンのお父さん。
 本気でゼンを殺すつもりなの?
「ダメよっ、ゼンは殺させないから」
「シェリー。お前が、オレ達の言うとおりファーレンに戻ってくれたら、ゼンは殺さない。でも、戻らないと言うのなら。オレ達はゼンを殺さなくちゃならない。もちろん、一筋縄ではいかないかもしれないけど、それが依頼だからな」
 ディルは冷たくあたしに言い放つ。
「本気で…言ってるの?ディル」
「…悪いけど、あたしたちは本気よ、シェリー」
 そんなのって…あたしが戻れば…ゼンは死ななくてすむ??
 死なせたくないけど、ほっとけないのよっっ。
 どうしたらいいの?
「……おい、この森、どこだ?適当に転移してきたから、わかんねぇんだけど…」
「……ゴルドバとクシキカの間にあるフラナガンの森だ…。ハァ」
 と、ゼンとディル。
 ディルの隣でヒリカが身構えている。
 …ん?
 今、フラナガンの森って言わなかった?
 …ってなんか周りに殺気を感じるんだけど。
「シェリー、おせぇよ。さっきっから、取り囲んでたんだぜ。お前、ホントに修行したのか?」
「したわよっ」
 そうこうしている内に、わらわらと出てくる。
 山賊とか、その山賊が連れているモンスターとか。
 フラナガンの森。
 クシキカとゴルドバのちょうど中央にある森をフラナガンの森と呼ぶ。
 二つの街を結ぶ街道沿いにはないんだけれども、近道で、この近道を通ってた人が何人も、この森にいる山賊の被害に遭っている。
 盗みなんてかわいいもので、中には口に出すのもおぞましい事まであった人もいる。
 幸いにもあたしは遭わなかったけれど。
 まぁ、行きはゴルドバ修行支援の会の人(有能な魔法剣士や魔法使いがいる)に送ってもらい、帰りは師匠に送ってもらったからねぇ。
「この森でけんかなんていい度胸じゃねぇか」
 山賊の頭領らしき人が、あたし達に話しかける。
 後ろにも山賊とモンスターだらけ…。
 絶体絶命のピンチって奴?
「ちょうどいいっ。賞金稼がせてもらうぜっ。行けっヒリカっ」
「適当なこと言わないでよぉっ。もうっ。力と闇を支配する強大な炎よダークブラスター!!!」
 呪文を唱えるヒリカ。
 炎の暗黒呪文。
 弱い。
 威嚇程度。
 のはずがっっ。
「う…嘘っ」
 ヒリカの手から放たれたそれは、ものすごい光線となってモンスターを焼きはなった。
「嘘…なんでこんなに強力なの?この呪文っ」
 どういう意味?
「シュウ、どういう意味?」
 魔法に、詳しい(昔からいろいろ教えてくれたのよねぇ)シュウに問いかけると何か考え込んでいる。
「こっちからも行くぞっ」
 そう言って、山賊、モンスターとの闘いが始まる。
 それでも、半数近くがヒリカの呪文で消えたので、最初よりは楽だろうとは思うけど。
 あたし、一人の実践は間違いなく初めて何だけどぉっ。
「シェリー」
 ゼンがあたしに話しかける。
「何よっ、ゼン」
「母さんがさぁ…、オレに魔王が憑いてるって言ったのあながち間違いでもないんだよな」
 ゼン?
「シェリー」
 シュウがあたしに話しかける。
「何?シュウ」
「私が何者かと言うことを知っても、あなたは私とともに来てくれますか?」
 シュウがゼンがひどくまじめにあたしに問いかける。
「シュウ、ゼン、言ったよね。あたしは、あなたを放っておくことが出来ないって。一緒に行くに決まってるでしょう?でも…」
 ディルとヒリカは…あなたを…。
 あたしの不安を見透かしたように彼は穏やかに微笑む。
「では、覚悟してください。本当の事を、今まで黙っていたことを、あなたに教えることになるのだから」
 シュウがそういった時だった。
「こちらからも行くぞっ。力と闇を支配する強大な炎よダークブラスター!!!」
 山賊の一人が呪文を唱えた。
 けれど手から放たれた闇色の光線はあたし達に届く前に、消滅した。
 どういう事…。
「愚かですね」
 シュウが、そうつぶやく。
「ご存じですか?その呪文が、誰の力を源にしているのかを…」
 力と闇の支配者?
「……ゼン?お前、何言ってるんだよ」
 ディルが、ゼンの突然の豹変に驚く。
「誰って、決まってんだろ?魔王ゼオドニール・ピエヌ・シャハガールに」
 と山賊。
 魔王ゼオドニール・ピエヌ・シャハガール。
 400年ほど前まで荒らし回っていた魔王。
「違うわ、ゼオドニール・ピエヌ・シャハガールじゃない…。今は…魔王シオドニール・シュバイク…」
 ヒリカが山賊の言葉を訂正してシュウの方を見る。
 魔王シオドニール・シュバイク。
 その魔王ゼオドニール・ピエヌ・シャハガールを滅ぼしその力を吸収した魔王。
「その通りですよ、ヒリカ。私に、ゼオドニールと魔王シオドニール・シュバイクの力は通用しません。理由はおわかりですよね」
「…お前まさか…」
「シオドニール・シュバイク…」
 誰かがそうつぶやく。
 そうなんだ…。
 何となく、納得出来た。
 だから、おばさんは魔王って言ったんだ。
 だからシュウは、「私が何者かと言うことを知っても、あなたは私とともに来てくれますか?」ってあたしに聞いてきたんだ。
「そうですよ。私の事を覚えていてくださったお礼に、力を少々お見せしましょう。ただ何分、コードを唱えないとならないんですけどね」
「ふざけろっ。シオドニール・シュバイクは200年前に滅んでるじゃねえか、今更、出てきても何でもねぇよっ」
 山賊がそう叫んで呪文を唱える。
「無駄だと言っているのが分からないんですか?」
 シュウの眼前でその山賊が唱えた呪文は消滅する。
 違う、消滅したんじゃない。
 吸収されてるんだ。
「では、本来の力をお見せしましょうか。とは言ってもあまりやりすぎるのもどうかと思いますのでね。シェリー」
「な…なに?」
 突然、シュウがあたしの名前を呼ぶ。
「一つお聞きしますが、あなた何の魔法が使えるんですか?詳しく聞いていないんで分からないんですが。」
「いろいろ、何だけどね。あたしの魔法って特殊なの。攻撃から回復から何でも出来るんだよ」
「では、魔法防御は?」
「もちろんっ」
「ならば、早速あなたの修行の成果を見せて頂きましょう。魔法防御をしていただけませんか?次で決着つけたいので」
「うん、分かった」
 あたしはシュウの言葉にうなずき、ディルとヒリカを近くに来させる。
 四方にまだいるモンスターや山賊を倒すためにはオールレンジの魔法で攻撃するのでその巻き添えに遭わないようにするためだ。
「では、いきますよ。エンファーゼ・フォルツァンド・イヤキボ、ザダヘ ピニナダ ピザダペギウ ノベザエラヂ ヤサゾア、ジトニラ、ピツグオド… …」
 シュウが呪文を唱えていく。
 それに併せてあたしも呪文を唱える。
 今まで出さなかったタロットカードを取り出す。
「トップ・1、ラスト・8、センター・ヒエロファント」
 すると、あたし達の正面で78枚のタロットカードが円を描くように並べられていく。
 円の最上点にタロットカードの1のカードである「マジシャン(魔術師)」が配置され、最下点にタロットカードの8のカードである「パワー(力)」が配置される。
 そして、円の中央にカードナンバー5の「ヒエロファント(法皇)」のカードが配置された。
「オールフルカード、発動!!」
 そして、その78枚のカードが円を描くように回転していく。
「シルヌ・デオト!では、お見せしましょう。我が命に従い、我が手に集え。シャインスパーク!!!!」
 魔法シールドが回転しているタロットカードから発せられている時シュウの呪文が終わり、彼の手から強大な光の珠が発せられそれを投げつける。
 そして、モンスターに当たったかと思うと轟音を立て爆発した。
「…シャインスパーク。これもこんな威力だったの?」
「まだこれは弱い方ですよ」
 ヒリカの言葉に悠然とシュウは応える。
 爆発の振動とそれに併せて巻き起こった煙が消えた時にはモンスター、山賊共に全滅していた。
 ただ、山賊の方は息しているのが見えるから生きてるみたいだけれど。
「これで、ようやく終わりましたね」
 ヒリカが倒した山賊をバウンティギルドに強制送還した後シュウはほっとしたようにつぶやく。
「…シェリー…すみません。あなたに教えていなくて…」
「…魔王シオドニール・シュバイク…って事?」
 聞くとシュウは静かにうなずく。
「あなたを困惑させたくなかったんです…」
「後さ…嫌われたくなかったんだよ…」
 ゼンがシュウの後をついで言う。
「だから…さ…なんつーか…。なんて言っていいんだ?」
「私に聞かないでください」
 ゼンとシュウの会話。
 ヒリカとディルの方を見ると少し驚いてる。
「…嫌うはずないでしょ?別にシオドニール・シュバイク何ですなんて言われたって、あぁ、そうなのかなぁ?って思ったくらいだもん。それよりっ、ディル、ヒリカ。ホントにシュウのこと殺すつもりなの?」
 そうよ、あたしが戻らなかったらシュウ(ゼン)は殺されちゃうっ。
 そっちの方が問題!!
「一つ、聞いていいか?シオドニール・シュバイクはゼン、お前の中にいるのか?」
「あぁ。今は、シュウって名乗っているけどな。会話出来るんだぜ」
 軽く笑ったゼンにディルはため息をつく。
「あぁ、やってらんねぇ。ゼン、お前のオヤジ知ってたのか?このこと」
「シュウがシオドニール・シュバイクだって事?」
「他にないだろうが」
 ディルの言葉にゼンはゆっくりとうなずく。
「ハァ、それで、スイーパーのオレたちを使ったのか?自分の身内の方がよっぽど太刀打ち出来るだろうが」
 じゃあ、大丈夫って事?
 あたし、戻らなくてもいいって事?
「魔王にケンカ売る主義じゃねぇもん」
「そうだね。あっでもどうするの?依頼料」
 依頼料?
 そんなもんもらってんの?
「あぁ、100万ダラー」
 ひゃ、100万ダラー???
「オヤジにそんなにたかったのか?」
「たかったって言うなよ。本気かどうか確かめるにはいい値段だろ?」
「って…100万ダラーはむちゃくちゃなんじゃ」
「あたしもね、100万ダラーは言い過ぎ何じゃないのって思ったんだけどね」
 ヒリカの言葉にディルは知らんぷり。
「お前等、この後どうするかって考えてたよな?」
 ディルは突然、当初の議題を聞いてくる。
「だったらさぁ、オレたちと行動するつもりない?」
「ディルたちと?」
 あたしの言葉にディルはうなずく。
「そっ、オレ、依頼料の100万ダラー返すつもりねぇし、かといってシェリーを強制送還かつゼン…まぁ、シュウだな?の殺しなんて絶対無理だろ?このまま分かれたってどうせクシキカでオレたちと接触してることぐらいは魔道士協会でも分かるだろう。依頼料返せなんて言われんのも癪だし、100万ダラーあれば旅の資金には不自由しないだろうし」
「それに、トレジャーハントにシュウの魔力も当てに出来ると言うわけか」
「げっ…、」
 ゼンの言葉にディルは焦る。
「宝を探すには便利でしょうね、私の魔力は」
 シュウの物言いにますますディルは言葉を詰まらせる。
 そんなディルの様子をおもしろそうに見ながらゼンはあたしに聞く。
「どうする?シェリー」
「あたしは、いいよ。旅の資金はあった方がいいって師匠も言ってたしね」
「また、クゼル・ライエンですか」
 つまらなそうにシュウがつぶやく。
 いったい、ホントにクゼル師匠と何があったんだろう。
「じゃ、決まりね。よろしくね」
 ヒリカがにっこりと微笑んだ、そのときだった。
「大量の魔法が放出されたのを気になって見にくれば…シェリー、お前であったのか?」
 ふと現れた人物。
 金髪の髪、透明感が強く引き込まれてしまうくらいに鮮やかなサファイアブルーの瞳のエルフ。
「師匠っ、クゼル師匠。何でこんなところにいるんですか?」
「それは、私のセリフだが?」
 そう言ったエルフはあたしの魔法の師匠、ゴルドバに住むクゼル・ライエンだった。

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