I'm waiting for you look into my eyes
〜きれいな小石と輝く水面と〜Iron Chain認識あとがき

 おれの名前は『はっとりへーじ』
 年は6歳。
 いわゆるよーちえんじやっ。
 オレには幼なじみがおる。
 隣の家に住んどる『とーやまかずは』(かずはって言えるようになったんやでっ)。
 オレのアネキ(分)やっ。
「へーじ。きょうはなにしてあそぶん?」
 そーいって和葉は家にやって来た。
 オレの家の周りはごーてーばっかでガキがおるのはオレんちと和葉んちぐらいしかない。
 せやからよーちえんが無いときはオレは和葉とあそんどった。
「かずは、きょうはやねうらにはいってみーひんか?」
「やねうらって?」
 そう言って和葉は首をかしげる。
「やねうらっちゅうたらおれのいえのやねうらべやや」
「そんなもんあったんや。せやけど、えーの?おばちゃんにおこられんとちがう?」
「オカンはおらへんからへーきやっ。それにかえってくるまでにやねうらからでればばれるしんぱいないやろ?」
 オレの言葉に和葉は何故かちゅーちょする。
「なんや、こわいんか?やねうらにはいるのが」
「そんなんとちがうっ」
 そーいってむくれる和葉はやっぱりこわそーやった。
 こわりゃ怖いって素直に言えばえぇのに。
 って言うたら張り倒されそうやったので言うのを止めた。
「ほな、かずはいくで」
 そう言ってオレは和葉を促し屋根裏部屋へ行く為に階段を上る。
「へーじ、へーじはこわないん?」
「へーきや、オカンとなんどもはいっとる」
 そう言ってオレは和葉が屋根裏部屋へと行く扉のの前に来るのを見計らって扉を開けた。
 薄暗い階段がオレと和葉の前に現れる。
 この屋根裏部屋の中は代々服部家が受け継いでるもんや、オヤジの剣道の胴着、オレのこどもの日の鎧兜、そしてなぜか和葉のお雛さまもある。
 和葉の家にももちろんある(それはいわゆる7段飾りっちゅう奴や)。
 せやけど、オカンも和葉のお祝いしとうてて自分の物を捜しだしたらしいんや。
 ホンマ、オカンは和葉のこと可愛がりすぎやで。
「へーじ、ほんまはいるの?」
「あたりまえや、いくでかずは」
「もーわかったわ」
 そう言って和葉はオレの後をしぶしぶついてきた。
 階段の電気をつけ、屋根裏部屋の電気もつける。 
「わぁ、ホンマいろんなもんがあるんやなぁ」
「ほんまやなぁ」
 和葉の言葉にオレは頷く。
 つい最近オカンは掃除したのか屋根裏部屋の中は綺麗に整理整頓がされとった。
「ホンマやなぁってへーじ、アンタやねうらべやんなかはいったことあらへんの?」
「めったにはいられへんねんでしゃーないやろ」
「ふーん」
 そう言って和葉はオレの後ろに隠れる。
「なにしとんねん」
「なんでもあらへんって」
 そう言って和葉はおれから離れる。
 なっなんやねんっ!!!!!
「ん?へーじてじょうっ」
 そう言って和葉はオレに手錠を見せる。
 少しだけ錆びとる。
「なんでてじょうがこんなところにあるん?」
「おやじのやろ」
 オレは和葉からオヤジの手錠を受け取る。
 ん…おもろいこと思いついたで。
「かずは、けーじごっこしようやっ」
「けーじごっこ?いややぁ、どうせへーじがけーじやるんやろ?アタシかてけーじやりたい」
「ほんならオレのあとにかずはがけーじなっ。それならえぇやろ?」
 そう言うオレの言葉に和葉はしぶしぶ頷いた。
「ほんなら、けーじごっこやっ。とーやまかずはえっとたいほするっ」
 そう言ってオレは和葉の腕に手錠をかけた。
 そして自分の腕にもう片方をかける。
「なんで、へいじもてじょうかけたん?」
「こうするとはんにんがにげられへんからや」
「ふーん。へーじ、つぎアタシのばんやで。はよ、てじょうはずして」
「えぇで」
 …………?
 そう言えば…手錠ってどないして外すんや?
 どないすればはずれんのやろ。
 オレ…知らんど…。
「へーじ、どないしたん?」
 手錠を外そうとしないオレを和葉が不思議そうに見る。
「アカン、かずは。てじょうはずされへん」
「はーーーーなにいうてんの?へーじそれほんま?」
 驚いて和葉はオレの顔を見る。
「ホンマや…ウソやない。うわぁーどないしよー」
「どないしよーってへーじはずしてやっ」
「アホ、はずせるもんやったらとっくにはずしとるわ!!!はずされへんからなやんどんのやろ」
「あーんやっぱりけーじごっこやなんてやるんやなかったっ。もーへーじのせいやでっどないするんよっ」
「どないするっていうたかてしゃーないやんかっ。おまえもやる言うたんやでっ」
 泣きそうな和葉にそう言ってオレは考え始めた。
 手錠をよくよく見るとちっさいカギ穴がある。
「かずは、かぎやかぎっ。このてじょうのかぎさがすでっ」
「どっから?」
「このへやしか…あらへんやろ」
「やっぱりぃ…」
 そう言って和葉はしゃがんで捜し始める。
「へーじもしゃがんで。しゃがまんとうでがつかれる。んーほこりっぽい……あーようふくがよごれたぁ」
「ごちゃごちゃいわんとさがすで」
「いわれんでもわかってるっ」
 オレと和葉は無言でそこら辺を捜し始めた。
 重点的に捜すのはやっぱり手錠があったところやな。
「かずは、てじょうはどこにあったんや?」
「このひきだしのなかやねんけど…かぎみたいのはあらへんねん。へーじ…かぎってあるんかなぁ?」
「そんなんうたごうててもしゃーないやろ。捜すで」
 そう言ってオレは鍵を捜すのを再開する。
 せやけど、いくら捜してもみつからへんかった。
「へーじ…どないしよう」
「……ホンマやどないするか?」
 屋根裏部屋の床に座り込んで途方にくれる。
 その時やった。
「平次っ和葉ちゃんっどこにおるん?おやつこうてきたで」
 オカンの声が聞こえる。
「おっおかんやっ」
「どないするん?おばちゃんおこるで」
「そんなんいうなやっ。いつまでもここにおったってしゃーないやろ。かずはいくでっ」
「もーへーじのせいやでっ」
 和葉の文句を後ろで聞きながらオレ達はオカンがいるところへ恐る恐る、向かう。
「平次、遅かったなぁ、どこ行っとったん?和葉ちゃんのこと泣かしたら……なっなんでそんなんよごれとんのっ」
  陽の当たる明るいところで見るオレと和葉の格好は真っ黒やった。
「どうすればそんなんなるんよ」
 そう言いながらオカンはオレと和葉に近付いてくる。
 ちょっとまて、オカンそれ以上来るなやっ。
 口には出されへんからオレと和葉は少しずつ後ろへ下がる。
 もちろん、手錠が繋がっている手は背中に隠しとる。
「なして逃げるん。平次、和葉ちゃん、後ろに何隠しとるん?」
 オカンが逃げ場ののうなったオレと和葉に向かって言う。
 もう、オレと和葉の背には壁がある。
『ジャラ』
 …………。
 手錠の音がした。
 オカンにばれたっ。
 どないしようっ。
「平次、アンタ、屋根裏部屋に上ったね。あれほど上ったらアカンっていうたやろっ」
 そう言ってオカンはオレの隠してる腕を持ち上げる。
「なっなんでこないなことになっとんのっ」
 そう言ってオレの腕に引かれるようにやって来た和葉の腕を見てオカンは呆気になっとった。
 
 それからが最悪やった。
 オレはオカンに怒られる。
 和葉のオカンにも怒られる。
 鍵の在りかをしっとるはずのオヤジは夜にならんと帰られへんらしかった。
 そして手錠を外せるはずの和葉のオトンもオヤジと一緒で夜にならんと帰られへんらしかった。
 そのために便所も風呂も和葉と一緒に入る羽目になった。
 便所に入るときは和葉はわーわーと叫ぶ。
「そんなんいうたかてしゃーないやろっ」
 って言うても和葉は入るたんびに文句を言う。
 …どないせいっちゅーねんっ。
「平次、和葉ちゃん、そんな汚れとんのやから風呂入らんとアカンな」
 そう言ってオカンははさみを持ってきた。
「なにするきや?」
「着とるもんをを切るに決まっとるやろ。切らんと脱げれへんやないの」
 そう言ってオカンはオレが着とるタンクトップの肩のところを切った。
「おばちゃん…ほんまきらんとあかんの?」
 和葉ははさみと自分が着とるワンピースを見比べる。
「それ、和葉ちゃんのおきにいりなん?」
「うん」
 その言葉にオカンはニッコリと微笑む。
「ほんなら、またきれいに縫い合わせれば着られるにおばちゃんがしたるな。そんならえぇ?」
 オカンの言葉に和葉はニッコリと微笑んだ。
「もーホンマへーじのせいやでっ」
「そんなんしゃーないやんかっ」
 結局、フロの中に入っても一緒やった。
 一緒でも言うことは手錠のことやった。
「てじょうはずされへんかったら、へーじのせいやかんなっ。せきにんとってや」
「なんでオレがせきにんとらなあかんねん。だいいちさいしょにてじょうをみつけたんはかずはやろっ。おまえこそせきにんとれや」
「なんでアタシのせいになるんよ、たしかにてじょうをみつけたんはあたしやけどへーじがけーじごっこやろうやなんていいださなければこうならへんでもすんだんとちゃう?」
「おまえかてやるいうたやないかっ」
「へーじがやりたいっていうたんやろっ」
「もうっえぇ加減にしなさいっ」
 口げんかの最中にオカンが乱入してきた。
「もう、アンタらなぁ、少しは仲よくできひんの?そんなんやったらデザートあげられへんで」
 オカンの言葉にオレと和葉は黙り、その後すぐに風呂から出てデザートを食べたのやった。

 次の日、目が覚めるとアタシと平次の手をつなげていた手錠が消えていた。
 お風呂から出て夕飯を食べた後、アタシと平次は疲れて眠ってしまった。
 布団は当然のことながら同じ布団。
 風呂や便所はいややったけど…おんなじ布団でねるんは初めてやないから…別に嫌でも何でもなかった。
 ちなみにアタシが目を覚めたのは平次の家。
 手錠はずれたんだから自分の部屋でも良かったんだろうけど。
 まぁ、それは置いておいて、アタシはちょっと欲しいものがあった。
「おはよう、おばちゃん」
「おはよう和葉ちゃん。良う眠れた?」
「なんとかねむれたで。おばちゃん、きのうはごめんなさい」
 おばちゃんに挨拶をして昨日のことを謝る。
「えぇんよ、平次がわるいねんから」
 おばちゃんの言葉にアタシは笑いながら頷く。
「そうや、おばちゃん。昨日の手錠どないしたん?」
「一応危険物って事で捨てたで」
 その言葉にアタシは慌てる。
 昨日、デザートを食べているときぼーっと考えていたことがあったからだ。
「えっホンマに?」
「まだ一応家にはあるけどな。どないするん?」
「くさりのかけら…ほしいねん」
「かけら?」
 アタシの言葉におばちゃんは不思議そうに首をかしげる。
「手錠の鎖のかけらなんてどないするん?」
「おまもりりにしたいねん」
 アタシの言葉におばちゃんはますます首をかしげる。
「きのうてじょうつながれとるときめっちゃいややってん…。あれもってたらいやなことのうなるようなきがしたんよ」
「一コでえぇ?」
 おばちゃんは手錠が入ってるビニール袋をとりだした。
 昨日、アタシと平次をつないでいた手錠は鎖のところとわっかのところがきちんと切れていた。
「おばちゃん、1コやのうて2コほしいんやけど…。おまもり2つつくりたいんよ」
「2コ?1コは和葉ちゃんの分やとして…もう1コは?まさか…」
 おばちゃんがいやそうな顔になる。
「せかいじゅうで2コしかないおまもりやから…もう1コはあげたいんよ…?」
「和葉ちゃんがくれるんやろ?それやったらうれしそうな顔するで」
 そう言っておばちゃんはニッコリと笑った。

 それから2日後。
 和葉がにこにこ顔でオレの部屋にやって来た。
「どないしたんや、かずは」
「へーじ、これあげる」
 そう言って和葉がオレに渡したのは長い紐がついている御守りみたいなもんやった。
「なんやねん、これ」
「おまもりやっ。へーじ、これどこいくときももってって。ぜったいやで」
「なんでやねん」
「おまもりやからっ」
「わけわからんで」
 そう言ったオレに和葉は言う。
「わからんでもえぇのっ。せやからぜったいずっともっといてやっ。アタシももってんねんから」
 そう言って和葉は首にかけていた御守りを取りだす。
「おそろいやねんから、なくしたらアカンで。えぇなっ」
 そう言って和葉は自分の家に帰ってった。
 ……なんやねん……。
 わけ…わからんで。

 それはそれは大事な大事な御守り。
 世界で2つしかない。




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