ハート姫がトランプ王国に着いて2週間。
準備がすべて整い、婚礼の儀式が執り行われることになった。
巨大な大聖堂に神父の声が鳴り響く。
「トランプ王国の第一王子スペイド、汝はブリッジ公国の第2王女ハート姫をその唯一の妻と認め、永遠の忠実と絶対の信頼を持ち富めるときも病めるときも数多の困難に遭おうともその愛を貫くことを誓うか?」
「ハイ、誓います」
王子の言葉が大聖堂内に響く。
「ブリッジ公国の第2王女ハート姫、汝はトランプ王国の第一王子スペイドをその唯一の夫と認め、永遠の忠実と絶対の信頼を持ち富めるときも病めるときも数多の困難に遭おうともその愛を貫くことを誓うか?」
ハート姫の決意に満ちた声が響く。
「ハイ……誓います」
その刹那。
爆発が大聖堂内に起ったのである。
あたりは煙に包まれ、ハート姫は背後に忍び寄る影に気がつかなかった。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
青き助手のクィンが煙を消したとき姫は羽交い締めにされナイフを突きつけられていた。
「動かないで……」
ハート姫を羽交い締めにしている人物……ハート姫の姉ダイヤ姫だった。
「ダイヤ…姉様」
「悪いわね、ハート姫。でも、私の願いをかなえるためにはこうするしか他ないの」
「な、何を……」
「かわいい妹姫。………でも、一番憎らしい妹。私は貴女が嫌いよ」
「何を言ってるの?ダイヤ姉様」
「もう私はダイヤ姫では無いわ。私は帝国に仕える黒き魔女ダイヤよ。もうブリッジ公国の姫でも貴女の姉でもないわ」
「ダイヤ……」
あたりにいた人は呆然としている。
「ダイヤ姫、ハート姫を離すんだ」
「動かないでって言ってるでしょう。父様、母様、私は自分の思いにしたがって動くことにしたの。たった一人愛する男を手に入れるの為にね」
そう言ってダイヤ姫はスペイド王子を見つめる。
「……」
ダイヤが合図をすると同時にあたりに煙が充満する。
「きゃあぁぁぁぁっ………………………」
煙が消えたと同時にハート姫の姿は消えてしまった。
「ダイヤ姫、あなた何をしたの?」
エリー王妃がダイヤに問う。
「……単純なことよ。ただ、ハート姫を帝国に渡しただけ」
「ダイヤ姫、自分がなにやってるのか分ってるのか??」
「分ってる。分ってやっているの」
モーリス王が聞いてもダイヤは顔色一つ変えない。
「何故……」
「何故……かしら。私が魔道の力をもって生まれてきたせいね。そして妹姫と同じ人を愛してしまったせいよ。スペイド王子」
ダイヤはまっすぐにスペイド王子を見つめる。
「……ダイヤ姫。私は貴女の気持ちに応えることは出来ない。失礼」
「どこへ行くんだ?」
「父上。ハート姫を取り戻しに行きます」
トランプ王国の国王クラブ王の言葉にそう答え、スペイドは大聖堂から出ていく。
その後をフラッシュとクローバーが追いかける。
「ダイヤを…ダイヤの身柄を拘束しろ」
モーリス王は苦しげに言う。
無理もない自分の娘をとらえなくてはならないのだから。
「お待ち下さい。モーリス王。ここは、この白き魔法使いと青き助手にお任せ下さい」
そう言ってエースはクィンとダイヤと共に姿を消した。
「エースの言葉を待ちましょう。彼は有能な魔法使いですから、ご安心下さい」
と意気消沈したモーリス王とエリー王妃にクラブ王の妃ストレイト王妃は声を掛けた。
「私には黒い血が流れているの。スペイドを手にいれるためならどんなことでも出来るしどんなことでもするわ」
季節外れの雪が舞う中ダイヤはそう言った。
「何故?」
「……何故……そうね。貴方になら言ってもいいわね白き魔法使い」
ダイヤはエースの言葉に淡々と語り始める。
「気がついたのはいつだったかしら。幼いころはハート姫とスペイドそして私の三人でよく遊んでいたわ。でも、ある日気がついてしまった。私には違うものがある。……いえ、妹や父母とは違うものを持っていると。……それが魔道の力だった。母方の先祖に強力な魔道の力を持った人がいたらしいの……いわゆる隔世遺伝ね……。その時からよ、あの娘が疎ましく見え始めたのは…。魔道の力がそうさせたのかしら……あの娘の周りは明るい光があたっていて……私には闇の光が煌々と照らしている感じだった。気がついたときには私はあの娘の闇になっていた。スペイドは…闇…私を見ないで…光…あの娘を見ていた。スペイドが消えてくれたときは正直安心したわ。……悲しかったけれど……。でもあの娘の影でなくなったのに安心してしまったのよ、私は」
そう言って、ダイヤは一息つく。
「でも、愛していた。あの人なら分かってくれると思ってた無駄だってすぐに気がついたけどね……」
ダイヤはそう言って自嘲気味に笑う。
「…………悲しい人だね」
「バカにしてるの?それとも同情かしら」
クィンの言葉にダイヤは静かに反論する。
「……同情じゃないですよ、美しいお嬢さん。クィンは思ったことは正直に話しますから。クィン言ってあげて」
「いいの?エース」
不安げにエースを見るクィンにエースはいつもの調子で微笑む。
「あのね、エースって本当は王子の影なの」
「影?」
訝しげにダイヤはクィンを見る。
「うん、生まれたとき、生まれた時間、生まれた場所。すべて一緒。エースと王子は生まれる前に天界にて分かたれた魂。それを知っているからエースは王子の影でいる。影でいることを選んだんだよ」
「それでも、貴方は平気なの?エース」
「大丈夫です。私は王子の影であることを選択したので……」
「貴方は……光のそばにいるのね。影であるにもかかわらず」
「……光が私を認めて下さってますから……」
エースの言葉にダイヤは俯く。
そして長い沈黙の後、ダイヤはつぶやく。
「………私は彼を愛していたのよ」
「知っています。あなたが王子を愛していたことを。王子はあなたが王子を愛していたように、ハート姫を愛していた。始めてあったときから。何人たりとも彼等二人を分かつことが出来ない。権力や……魔法、そして、時間さえも」
「……それでも、私の方を見て欲しかった。私のものにしたかった。すべてを使ってでも…………。私は黒き魔女になってしまったけれど、あなたのように光のそばにいることを許してもらえるのかしら……」
その言葉に、エースはモノクル(片眼鏡)を外す。
その姿は彼女が愛する人に似ていた。
「…………スペイド?………エース、貴方は一体……」
「……貴方が今見ているものは幻にしかすぎません。貴方が光に変わるか闇のままかそれはあなた次第ですよ」
モノクル(片眼鏡)をつけエースは言う。
そんなエースの事に驚きながらダイヤは静かに言う。
「そうね………白き魔法使い、王子に伝えて。帝国に向かう前に、東の森にいる紅き魔女を訪ねてって…彼女なら帝国に入る術を知っているわ」
「……ダイヤ姫どこかに行くの?死んじゃダメだよ」
「……死なないわ。でも、この国を離れる。もう王子のそばにはいることが出来ないもの……それに、祖国を裏切り、帝国も裏切った私がここにいるわけには行かない。今はまだ、ハート姫の顔を見ることは出来ないもの」
そう言って、ダイヤは二人の前から消えていった。
「クィン!行くぞ」
「ウン………」