たとえば、『星の我が儘』で世界がかたどられていたとしても。
自分の願いはそこにしかないのだから。
たとえ、それが抜け出せない輪の中にいることだとしても。
「ハーシャ国王、ソール24世暗殺」
世界は、終わらない。
「…………ロシュオール」
剣をおろしたたずむロシュオールに、ラティアはなんと声をかけていいのかわからなかった。
「あなたが悪い訳じゃない」
そしてラティアが投げかけた言葉はあまりにもありきたりすぎて、ロシュオールはもとより自分の心の中にも響くことはなかった。
斬首王と呼ばれたこの国の王はもういない。
暗殺という形で死に、魔法葬という形で姿形すら存在しない(後に死体の乱用を避けるため、身分の高い人間はそうすることが多い)。
玉座の間は何の血痕もなく、彼のいた後すら存在していない。
「ラティア、これでよかったんだろうか…」
ポツリ、ロシュオールはつぶやく。
「誰もがそれでよかったと認めると思う…」
「俺は……わからねえよ」
そういっておろしていた剣を腰に下げている鞘にしまう。
「マスター」
玉座の間に入ってきた少女にロシュオールとラティアは視線を向ける。
「アリナ、終わったのか?」
「こちらは完了しました。ライス宰相もご無事です。今、カイン将軍とゼオルが付き添ってこちらに向かってます」
アリナと呼ばれた少女はそう報告する。
「わかった」
うなずいて、視線を玉座に向ける。
そこには文字通り空白の椅子。
この国はどうなるかもまだ誰の目にもわからない。
ただ、今までよりはましになるだろう…そう願ってやまない。
玉座の間に人が来る。
「ご苦労だった、ロシュオール」
「ライス宰相、ご無事で何よりです」
ロシュオールにそう声をかけたのはライス宰相。
カイン将軍とアリナと同じ年頃の少年ゼオルに付き添われこの間に入ってきた。
彼は斬首王に異を唱えたためにこの城の地下牢にとらわれていた。
「お加減はどうですか?」
「あまり悪くはない。それにそう泣き言も言ってられんだろう。この国を再建しなくてはならない」
ライス宰相の言葉に一同はうなずく。
ロシュオール以外。
「ロシュオール、どうしたんだ?」
その様子をいぶかしがるカイン将軍はロシュオールに声をかけた。
「……俺は国を出ようと思っている」
「ロシュオール、本気か?」
カイン将軍の言葉にロシュオールはゆっくりとうなずく。
「マスター、本気で言ってるんすか?」
ゼオルの言葉にもロシュオールはうなずく。
「………なんでまた」
「英雄って言われてるおまえだというのに。国民はそれ以上にお前を国王にって思ってるのに。いいのかロシュオール」
ロシュオールが国を出ることを周囲は納得していない。
「なぜって…俺は国王になるべき人間じゃない。この国を元に戻すという名目でたくさんの人間を手にかけた。中には友もいたんだ…」
そういいながら、ロシュオールは玉座を見やる。
「俺には資格ないよ。いや、資格というよりも許されるはずがない」
「でも…。国王で手を汚してないという人はいないんじゃ…」
「だからだよ。だからこそ、国の内外にこの国は平和になるんだとわかってもらえる。手を汚した人間が玉座に着いちゃいけないんだ、この国は平和になるわけなんてない」
「でも…」
顔をゆがませながら言葉を紡ぐロシュオールにそれでもとゼオルは止めるがロシュオールの決意は堅かった。
「ごめんな、ゼオル。ラティア…道を示してくれないか」
ロシュオールがしゃべっている間、ずっと俯いていたラティアにロシュオールは話し掛けた。
ラティアは巫女。
巫女は未来を示すことが出来る。
「…ゴルドバへ…。新たな道がロシュオールあなたを待っている」
そういってラティアはまっすぐに東を指す。
その方角にはゴルドバの地が。
「ラティア、おまえも止めろよ」
ゼオルは止めないラティアを責める。
それでも、ラティアは言葉を紡ぐ事をやめられない。
「ごめん、ゼオル。でも、ロシュオールに新たな道が見えているのは本当なの」
涙をこらえながらラティアは言う。
「わかった。ゴルドバだな。船使いたいけどまだ当分無理だろう。危険だけど陸路で行くよ」
ロシュオールはそういって玉座の間から見えるスクードの森を眺める。
「気を付けて」
「あぁ」
アリナの言葉にロシュオールはうなずく。
「あわただしいな」
「そう、ですね。でも今出発したい気分なんで。カイン将軍ライス宰相。おせわになりました」
カインとライスにそうつげロシュオールは玉座の間を出る。
「スクードの森…か」
そうつぶやいて、歩き出す。
『あなただけが信じる道を進んで』
どこかに聞こえる誰かの声。
気がついてるはずなのに、気がつかないでロシュオールは城を出て行った。
話も書きたいなぁ。