その世界の、中央大陸から南に行ったところに、古来より約束の地と呼ばれた場所がある。
その昔には国家法人、ルモイ・カミシホロがあり魔道士だけが住む王国だったトゥルーラがあった大陸、トエルブス大陸。
その中央には広大な森が広がっており、その森のどこかにデミ・ヒューマンの王、神族とも呼ばれたエルフ神族が住む森がある。
その森の名前は知られていない。
だが王国の名前は有名だった。
ラルドエード。
それが王国の名前。
「ジェス、リリーを知らない?」
紺色の髪を肩で内側に巻いている少女は茶色の髪の少年に問い掛ける。
エルフと言えば、金色の髪に青い瞳と思いがちだが、エルフ神族に限ってはそれではない。
王族に繋がる者はエルフの姿を体現しているが。
「ユリアさん、リリーの奴また居ないの?」
「またって、いつもお前も一緒にいなくなるだろう?」
ユリアの隣にいた濃い青緑の髪の少年がため息をつきながら言う。
「…き、キラさんまで」
青緑の少年…キラの言葉にジェスは返す言葉がない。
「お願いだから、ジェス、探してきて?」
「わ、分かったよ」
ユリアの言葉に渋々頷いてジェスはリリーを捜し始める。
リリーはジェスが城に上がってから知り合った。
エルフ神族の子供はある一定の年齢になったら城に行儀見習いのために通うことになる。
そこでエルフ神族とはと言うことも学ぶのだが、リリーはジェスより1年先に来ていた。
1年という開きがあるためなかなか接点がなかった二人だったが、ひょんな事から話すようになる。
魔法の講義。
ジェスとリリーはたまたま同じクラスになったのだ。
その時から意気投合。
もっとも、二人の間柄は友人という和やかさではなく喧嘩友達という面の方が強いのだが。
思い当たる場所をジェスは迷いもせずに向かう。
リリーがいる場所はそこしかない。
王城から伸びる高台。
そこからはラルドエードが一望することができ、天気が良ければ遠くにある海も見える。
そこにいた。
薄紫の長い髪を涼やかな風に流し彼女は遠くを眺めていた。
「リリー」
「何?ジェス」
振り向くこともせずにリリーはジェスの呼びかけに答える。
「キラさんとユリアさんが探してたぜ?」
「知ってる」
探査とばしてたから。
付け加えるように言った言葉にジェスはため息をつく。
「知ってたなら、オレが聞かれる前に戻ってくればいいだろう?」
「別にいいじゃない。ジェスがどのみち探しに来るって言うのも分かってたし」
「予言者きどりかよ」
「未来予知は趣味」
「趣味でやるなよ。趣味ついでに教えろよ」
「いやよ。ジェスが聞きたいことは分かってるから答えない」
「あのなぁ」
ジェスが反論しようとしたときだった。
「ジェスが考えてることは間違ってる。あたし達はこの国を守らなくちゃならない。この国は勝たなくちゃならない。それは決定事項なのよ」
振り向いてリリーは叫ぶようにジェスの言葉を遮った。
「……」
ジェスはリリーの言葉に何も言えない。
彼女の言ってることは間違っていない。
でも、もしと言うことをジェスは考えてしまったのだ。
「キラと、ユリアが探しに行くわ」
「……………」
「一月で帰ってこなかったら行くのはあたし達。草の根分けても探し出さなくちゃならない」
リリーの言葉の意味をジェスは理解して頷く。
「あぁ。さっさと行って。とっつかまえようぜ?」
「キラとユリアが先に見つけるかもね」
「かもな」
そう言い合って笑い合う。
リリーが空を見上げる。
つられたようにジェスも空を見上げれば、雲一つない真っ青な空に白い月が浮かんでいた。
クゼル王の側近、アルマ・レコリュナの特殊部隊の面々。ジェス・アケージアとリリー・ラクロスの話。(ジェスは矢尾さん、リリーは松井菜桜子さん)